ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第43話 外

「……全員集めるのは初めてか」

 

俺は支配域の境目に立って、支配域マップを確認した。

森の中、木々がここだけ生えていない円形の広場。

ここにぽんこが集合をかけている。

 

椅子はない。

俺はいい感じの根っこに腰をかけている。

 

最初に目に入ったのは、シルヴァさんだった。

 

木の根元に寄りかかっている。

 

寄りかかっている、というより、そこにそういう木が生えているみたいに馴染んでいる。

笑顔は穏やかで、手には湯気の立つ木の器。

何を淹れたんだろう、香草の匂いがする。

 

少し離れたところに、ラセツ。

腕を組んで、背中を太い幹に預けている。

目は森の奥を見ているが、前みたいに踏み込もうとはしない。

境界線を知っている目だ。

 

アニは、俺の少し右。

背筋がまっすぐで、堂々たる態度で地面に直接座っている。

その後ろには、オトとイモが控えている。

 

ぽんこは、俺の周りをふらふらしている。

 

今日は妙に機嫌がいい。

会議という言葉が好きなのか、単に全員が揃ったのが嬉しいのか、たぶん両方だ。

 

「マスター、幹部がほぼ揃いました!」

「ほぼってなんだ。誰が足りないんだ」

「いません!ほぼ、って言うと響きがいいので」

「意味がないだろ」

 

ぽんこが胸を張る。

ラセツが、鼻で笑った。

 

「相変わらず、うるせえな」

「うるさくありません!必要な情報を必要な速度で出しています!」

「速度の話じゃねえ。音量の話だ」

「音量調整機能はありません!旧式なので!」

「こいつ、どうにかしろよ」

 

俺が口を挟む前に、アニが小さく息を吐いた。

 

『……ラセツ、俺を見て言うな。マスターに言え』

「お前は反応が面白いからな」

『面白くない』

「面白い」

 

そう言いながら、ラセツはアニに一歩近づくでもなく、距離を保っている。

 

アニも張り合わない。

顔をしかめるだけで、視線は外さない。

 

張り合う気配はない。

あの日から、こいつは一段、別の場所に立つようになった。

 

シルヴァさんが、ふわっと笑った。

 

「あらあら。仲良しね」

「ちげえよ」

 

ラセツが即答する。

否定が速い。

速いのに、声に棘がない。

 

『仲良しだよ、シルヴァさん』

 

アニが気楽に答える。

 

そこにぽんこが間に割って入る。こういう時だけ妙に無邪気だ。

 

「仲良しです!」

「じゃあ、仲良しでいい。会議だ」

 

俺が言うと、空気がすっと変わった。

 

「全員、今の状況を共有する」

 

ぽんこが即座に補助に入る。

 

「現在、遠征二回目を終えて帰還済み。DPは追加で二十万。支援パックでコア位置表示が解放。幹部戦力は、守りがシルヴァさん、攻めがラセツさん、統率がアニさん。補給がイモ隊、隠密がオト隊。以上です!」

 

ぽんこは言い切って満足そうな顔をする。

 

俺は一度だけ深呼吸して、次の議題を出した。

 

「さて、次の遠征だ。往復十日。連戦が続いてる。こっちの留守中のリスクも増えてる」

 

オトが木陰で短く頷く。

イモはメモでも取っているのか、手元が動いた。

アニの指先が、計算するみたいに微かに動く。

ラセツは目を細めた。

シルヴァさんは、器を両手で包んだまま微笑んでいる。

 

俺は言葉を選ばずに言った。

 

「率直に言う。現地の空気を、俺が知らなさすぎる」

 

静かになった。

誰もすぐには口を開かなかった。

俺がダンジョンから出られない前提で動いてきたからだ。

俺は指示を出し、情報を受け取って、判断してきた。

全部、ここから。

安全な椅子に座ったまま。

 

アニが一番最初に反応した。視線が鋭くなる。

 

『……マスターが、現地に?』

 

ラセツも俺を見た、拒否ではない。

単純に、意外だという目だ。

 

オトが一歩、前に出た。

 

『危険です。撤退判断が遅れれば、全滅リスクが無視できません』

 

アニが難しい顔で口を挟む。

 

『でも、必要なことでもある。現地判断の精度は、ここにいる限り上がらない』

 

ラセツが面白そうにアニを見る。

 

「お前もそっち側か」

 

『賛成してるわけじゃない。ただ、理由は分かる』

 

短い沈黙。

危険だ。

だが、必要でもある。

その二つが、それぞれの中でぶつかり合っていた。

 

シルヴァさんが器を置き、言う。

 

「遠征中のダンジョンの守りもありますわ。最悪、私たちは全滅してもいい。でもダンジョンコアはマスターの命。これを危険に晒すのは許容できません」

「コアは……しょうがない。重荷かもしれないが、シルヴァさんなら大丈夫だと信じている」

「命に代えてもお守りしますわ。それでも、マスターがいる時に比べたら危険は桁違い……」

 

守りの要として、シルヴァさんの意志は固い。

だがこれは必要なことだ。

シルヴァさんの説得を続けようとした、その時。

 

ぽんこが、何の気なしに言う。

 

「持って行けばいいじゃないですか」

 

全員の視線が、一斉に集まる。

 

「……は?」

 

俺が間抜けな声を出した。

 

「コアは持ち運べます」

 

皆が唖然とする中、一足先に立ち直ったアニが尋ねる。

 

『確認だ。持ち運び中、ダンジョンの位置はどうなる』

 

ぽんこが即答する。

 

「ダンジョンの位置は動きません。入口は入口のまま。支配域もそのまま。コアだけが移動します」

 

イモが、興味深そうに近づいてくる。

 

『……管理上の問題は?』

 

「ありません。コアの管理は、コアがどこにあっても管理できます。マスターの権限も途切れません」

 

「ぽんこ……それ、もっと早く言え」

 

ぽんこが首を傾げる。

 

「聞かれなかったので」

 

その言葉にアニが応える。

 

『聞く前提がない』

 

俺も同意だ。

だが、ぽんこは聞かれなければ答えない。

だが、これは言え。

 

ラセツが、ふっと笑った。

 

「面白え。お前、外に出られるのか」

「面白がるな」

「面白えだろ。ずっと中で吠えてただけだったのに」

「吠えてない」

 

俺が言うと、ラセツは肩をすくめて黙った。

黙る時は素直だ。

 

シルヴァさんが、あらあら、と小さく笑う。

シルヴァさんも安心したようだ。

 

オトが俺のところに来て言う。

 

『護衛は僕の隊が付く。緊急時はマスターだけ連れて逃げる』

 

イモも頷く。

 

『補給班としては、軽量化と非常食の比率を上げます。撤退ルートは複数案を用意します』

 

アニが言った。

 

『見るだけなら問題ない。前に出ないなら、隊の動きは崩れない』

 

ラセツが鼻で笑う。

「足を引っ張るなよ」

 

俺は一瞬だけ言い返しそうになって、やめた。

ここで言い返すと、収拾がつかなくなる。

 

シルヴァさんが、俺を見た。

 

「ちゃんと帰ってきてね」

 

シルヴァさんの目が怖い。

声は優しいのに、圧が命令だと言っている。

 

俺は、全員を見た。

ぽんこの得意げな顔。

アニの落ち着かない目。

オトとイモの、動かない気配。

ラセツの試すような視線。

怖い目で微笑むシルヴァさん。

 

俺は息を吐いて、決めた言葉を口にした。

 

「次は、俺も行く」

 

ぽんこがぱっと明るくなる。

 

「はい!現地の空気、吸いましょう!」

「吸うだけで済めばいいけどな」

 

ラセツが、口角だけ上げた。

 

「やっと戦争っぽくなってきた」

 

アニが小さく頷いた。

 

『……了解。最初は俺が隊をまとめる。マスターは一旦後方で様子見で頼む。それでいいか?』

「余計なことをする予定はない」

『予定は信用しない』

「厳しいな」

『前線だからな』

 

誰も笑わなかった。

笑う場面じゃない。

だが、空気は重くなりすぎてもいない。

 

会議は終わった。

次の段取りは、もう動き始めている。

俺は自分のコアを、初めて「持って出る」ことになる。

 

中に籠もって指示を出すだけの俺は、ここで一度終わる。

 

次は、俺も現地に立つ。

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