ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第8話 死んでみよう

『再構築が完了しました』

 

 

白い天井。

 

目が開いている。

いつ開けたのか分からない。

 

コア部屋の天井だ。

先ほどまでと同じ天井。

 

体が動く。

……動くのか。

 

右手を持ち上げてみる、動く。

左手、動く。

足、動く。

 

さっきまで動かなかった。

指一本動かせなかった。

それが嘘みたいに動く。

傷がない、血もない、痛みもない。

 

起き上がろうとして手をついた。

支えられなかった。

腕が震えていて、自分の体を持ち上げられない。

 

そのまましばらく、床に手をついていた。

 

吐き気がこみ上げる。

何も出ない。

それでも喉の奥がせり上がって、収まるまでしばらくかかった。

 

コアが、元の位置にあった。

黒い球体。

 

探索者たちは、いない。

 

壁際にぽんこが立っていた。

瞳のリングが不規則に明滅している。

 

「ぽんこ」

 

声が掠れた。

 

光がゆっくり安定していく。

 

「……マスター。生体信号確認。再構築完了」

 

いつもの声だ、少しだけ硬い。

 

「俺は……どうなったんだ」

「死にました。死んで、再構築されました。チュートリアル中の安全補正機能です」

「安全補正……再構築。死んで、生き返った?」

 

「はい、チュートリアル中のマスターは一度だけ、死んでも復活します。ただし、安全補正は消費済みです。次はありません」

 

チュートリアル中だから、生き返った。

そして、もう生き返れない。

 

「……あいつらは」

「再構築に巻き込まれ、消滅しました」

 

その直後、視界にウィンドウが出た。

 

【チュートリアル隠しミッションを達成】

【隠しミッション『死んでみよう!』】

【ミッション達成報酬:500DP獲得】

 

場違いに軽い表示。

いつものUIと同じトーン。

 

「ふざけるな」

 

声が震えた。

 

「何が『死んでみよう』だ」

 

さっきまで死んでいた。

体を剣で裂かれ、血を流して、指一本動かせなくて。

 

それで、ミッション達成。

 

怒りなのか恐怖の残りなのか、自分でもよく分からない。

ただ、手が震えていて、止まらなかった。

 

ぽんこは笑わなかった。

 

「……申し訳ありません。システムの自動通知です」

「こっちは死んでるんだぞ。それを……気軽に生き返して、ミッションだと」

「……はい」

 

俺はぽんこを見た。

 

「大体、こんな数メートルの穴だけでどうしろっていうんだ」

「……間に合いませんでした。ぽんこの判断ミスです」

「間に合わなかった、で済むか」

 

「ダンジョンが出来てから数時間、さすがに早すぎました。通常は一カ月程度はかかるので」

 

ぽんこの声が震えていた。

怒りが収まったわけではない。

しかし、今目の前にいるのは歯を食いしばり、震えている少女。

 

……それ以上は、責められなかった。

 

「……全部説明してくれ」

「はい」

 

ぽんこがゆっくり顔を上げた。

その目には涙が浮かんでいた。

 

「彼らは探索者です、ダンジョンに入り、魔石やモンスターの素材を持ち帰ります」

「魔石、奴らも言っていたな」

「はい。通常、魔石はモンスターの体内から採取されます。あの人たちが言っていた黒魔石は、高濃度の魔石です。ダンジョンコアも、人間さんから見たら黒魔石です」

「持って帰ろうとしていた」

「はい。黒魔石は貴重です、高く売れますし、魔導具や儀式に使われます」

 

ダンジョンを見つけたから入った。

黒魔石を見つけたから持ち帰ろうとした。

不審な奴がいたから斬った。

探索者なら、普通の判断だったんだろう。

 

その普通の判断で、俺は死んだ。

 

「探索者はまた来るんだな」

「はい。ただし、探索者は通常ギルドに管理されています。ダンジョンもギルドに登録されて初めて探索者が来ます。彼らは偶然見つけて入ってきたのでしょう」

 

「イレギュラーか」

「はい、予想しておくべきでした。すみません」

 

なるほど、ゲームバランスが崩壊しているわけだ。

現実であれば、こういうこともあり得る。

 

「安全補正は、もうないんだな」

「はい。次に死んだら、終わりです」

 

500DP。

死んだ報酬。

表示はふざけているが、こういう事態への救済措置だと考えれば理解はできる。

使わなければ、次は本当に終わる。

 

「使うしかないな」

 

立ち上がったが、まだ膝が震えている。

 

「このDPで、ダンジョンを作る」

「はい」

「また同じことになったら、すぐに殺される。殺される前に、殺さないといけない」

「……はい」

「殺したいわけじゃない。でも、もう二度と死ぬのはごめんだ」

 

ぽんこは頷いた。

 

「ぽんこ」

「はい、マスター」

「500DP。使い方を考えるぞ」

「はい」

「今度は間に合わせてくれよ。ポンコツ」

「……はい」

 

「……くそっ、辛気臭い。もういい、お前のせいじゃないのはわかった。ポンコツ」

 

ぽんこの瞳のリングが、ゆっくり、安定した回転に戻った。

その目に涙をためたまま、ぽんこはにっと笑う。

 

「ポンコツじゃありません!ぽんこです!」

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