ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
ミッション報酬の500DP。
時給1DPの俺からしたら500時間分の給料と同額だ。
これで、ダンジョンを作り直す。
「よし、通路を伸ばす。まずは距離だ」
「はい!距離は正義です!」
ウィンドウを開く。
【支配域化:1m×100m×4m】
【必要DP:100】
「まとめてやる。とりあえず直線で100メートルだ」
「マスター、急に手際が良くなりましたね!」
「命がかかると成長するんだよ、人間って」
壁が消え、一本の通路が一気に奥へ延びた。
さすがに100メートルあれば、奥は真っ暗だ。
その暗さに心が少し落ち着く。
だが、直線一本ではだめだ、突っ込まれたらすぐ終わる。
「カーブ入れる。角度調整は一個ずつしか分からん」
「大丈夫です!マスター初心者ですから!」
「励まし方が雑だぞ」
直線通路の奥からは、一メートル単位で支配域化と通路形成を繰り返す。曲げて、曲げて、分岐をつくり、また曲げて。
「マスター!コア部屋は支配域の中なら自由に移動可能です!奥に移しましょう」
「なるほど、どんどん奥に移していけるんだな」
そうして、更に100DPほど、細かい整形に消えた。
【残DP:305】
コア部屋から入口までの距離は、もう200メートル近くある。
完全に姿の見えない奥の闇を見て、初めて肩の力が抜けた。
「これなら、少しはマシか」
「はい!侵入者さん、来るだけで疲れます!」
「表現はともかく、安心感はあるな」
一旦、作業を終えてコア部屋に戻る。
しばらくぶりに落ち着いた。
そのせいか、急に自分がどれだけ動き続けていたのかを自覚する。
「そういえば、腹が全然減らないな。普通ならそろそろ腹が減る頃だ」
ぼそりと呟くと、隣にいたぽんこが振り向いた。
「はい。減りませんよ」
「減りませんよってなんだ。減らない理由を言え」
「食事は不要だからです。ダンジョンマスターは再構築体なので、生存に必要な栄養はコアから供給されます」
「なるほどな。じゃあ、水もいらないのか」
「はい。水も不要です。経費削減です」
「じゃあ、トイレもいらないってことか」
「いりません。ダンジョンマスターに排泄機能はありません」
「なにその便利仕様」
「便利です。とても」
そういえば、ここに来てから大分時間は過ぎているが、喉も乾かず腹も減らず、トイレにも行っていない。
食事や水、トイレの確保が不要なのは単純に助かる。
しかし、落ち着いたからか、さきほどから強烈な眠気が襲ってきている。
「でも、寝る必要はありそうだな」
「はい。睡眠は必要です。そこは削れません」
「食事もトイレもいらないのに、睡眠はいるのか」
「必要です。ダンジョンマスターの精神処理領域を整理しないと、UIの反応が遅れたり、判断が鈍ったりします。これを専門用語でデフラグといいます」
「昭和か」
「ショウワ?」
「なんでもない」
デフラグは平成です!という突っ込みを期待していたのは秘密だ。
しかし睡眠ということは、問題が一つある。
「寝てる間って、迷宮の防御どうなってるんだ。自動で固くなるとか、そういうのないのか」
「ありません。マスターが寝ている間も迷宮はそのままです」
「完全に無防備じゃないか」
「ぽんこが起こしてあげますよ。よかったですね、ぽんこがいて」
「安心できるような不安になるような」
「ぽんこはマスターの睡眠監視を担当します」
「監視って言うな」
「では観察です。優しく見守ります」
「同じだろ」
ぽんこは気にしない。
こういう部分だけは妙にブレない。
とはいえ、寝てる間が完全に無防備というのは問題だ。
俺が寝ている間に侵入者が来たらどうしようもない。
「寝ないで済む方法はないのか」
「ありますよ。スキル『
「スキルか。そんなの買えるのか」
「買えますが買えません。とても高いです」
「だろうな」
ぽんこがUIを展開する。
【スキル一覧】
・不眠 200,000DP
・暗視 16,000DP
・念話 40,000DP
・魔力処理補助 60,000DP
「高いな。高いのしかない」
「高いです。スキルはダンジョン内外での生存力に直結しますので」
「不眠20万って、ぽんこを買った時の値段と同じじゃん」
「はい。ぽんこと同程度です」
UIを眺めながらため息をつく。
今のDPは305だ。
不眠には遠すぎるし、暗視だって無理だ。
「まあ、スキルのことは後回しにするしかないか、じゃあ次は……」
ぽんこが俺の横から顔色を測るように覗き込む。
「マスター。今日はここまでです」
「まだDPあるだろ、入口にもう少し」
「だめです。睡眠フラグMAXです。このまま続けると、マスターの判断力がフリーズします」
「フリーズって言うな……」
確かに、視界が少し揺れていた。
まだ行けると思っていたのに、急に泥みたいな眠気が襲ってきた。
「ぽんこが見張りますから。今日は寝ましょう」
「防御が。甘いままだぞ」
「甘いです。でも、今のマスターが作るともっと甘くて危険になります」
言い返せなかった。
「わかった。少し寝る」
コア部屋の端に座り込むと、もう抗えなかった。
目を閉じた瞬間、意識が沈んだ。
翌日。
「おはようございます、マスター!」
ぽんこが、やけに近い。
寝起きで顔面アップは刺激が強すぎる。
結局、朝まで寝てしまった。
さすがに疲れていたようだ。
「敵、来てないか?」
「来てません!来たら起こします!ぽんこアラームです」
ぽんこアラームは置いておくとして、無事だったのは確からしい。
「じゃあ。準備するか」
通路はできた。
だが、通路だけでは敵は倒せない。
待っているだけで勝てるなら、そもそも一度死んでいない。
「ぽんこ。今度は、ちゃんと迎え撃つ。何が要る」
ぽんこの瞳のリングが、くるりと回った。
「いい目です、マスター。では、戦力からいきましょう」
最初に手をつけたのは、モンスターだった。