MNU サモンライド・ラストコール   作:黒影時空

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第12話「見る」

 どこまでも広がる水の世界『ゴボルレイク』。その奥深くへと泳ぎ進むにつれ、周囲の静寂はさらにその不気味さを増していった。

 聞こえてくるのは、自分たちが水をかくバシャバシャという音と、絶え間なく響く無機質な水の流れる音だけ。

 

 鳥の羽ばたきも、魚が跳ねる気配もない。

 おまけに、ただでさえ重い身体に鞭打って陸地に上がり、道すがらクリスタルを回収しようとしても、奥へ進めば進むほど自生している結晶の数が目に見えて減っていく。

 

「……本当に、冗談抜きでクリスタルがなくなってきてるじゃない」

 

 オトノは濡れた髪を払いながら、不安そうに周囲を見回した。これまでは過剰なほどに世界を埋め尽くしていた結晶体が、ここではまるで根こそぎ奪われたかのように、不自然な土壌を剥き出しにしている。

 

「やっぱり、誰かが意図的に消費してるとしか思えないよ。それも、かなりの規模で……」

 

 ウタが警戒を強めながら先を促す。

 周囲の景色が徐々に変化し、やがて二人は、これまでのゴボルレイクの美しき大自然とは明らかに雰囲気の異なる、開けた場所へと辿り着いた。

 そこにあったのは、奇妙な『集落』だった。

 

 しかしかつてこの世界に存在していたであろう精霊たちの歴史を感じさせる建造物ではない。まるでごく最近、突貫工事で建てられたかのような、新しく、そしてどこか異質な文明の匂いがする場所だった。

 

 さらに、二人は息を呑む。

 これまでの道中では生体反応すら皆無だったというのに、その集落には、明らかに『生活している生物の姿』が多数確認できたのだ。

 

「精霊……のわけ、ないわよね」

 

 響が声を潜めて呟く。その風貌は、お世辞にも清らかな水の精霊と呼べるものではなかった。

 彼らは人型をしてはいるものの、決定的な、そしておぞましい種族としての特徴を持っていた。──その腹部に、顔にあるものとは別の『もう一つの大きな口』が存在していたのだ。

 

 そして何より異常だったのは、彼らの食事風景だった。

 住人の一人が、地面から引き抜いたクリスタルをそのまま腹部の口へと放り込み、バリバリと凄まじい音を立てて咀嚼している。

 

「……あれはグラニュート。間違いない、奴らがあのバケモノの同族……!」

 

 ウタの冷徹な言葉が、最悪の事実を証明する。

 ヒューキャニオン、エンデルガス、そしてこのゴボルレイク。3つの世界を股にかけた怪人たちの凄惨な領土割戦、そのハザードを最終的に制し、略奪戦の勝者となったのは──この『グラニュート』たちだったのだ。

 

 彼らは自分たちの世界を越え、このクリスタルワールドを新たな居住区として完全に支配し喰い荒らし始めていた。

 

「ねえ、ウタ……見て。あいつら、何か運んでる」

 

 オトノの指差す先、数体のグラニュートが、赤い布状の物で厳重に巻かれたアクリル状の物体を大事そうに抱え、一際大きな建物へと向かっていくのが見えた。

 何かの資材だろうか。怪訝に思ったウタがふと足元を見ると、水面にひとつ、彼らが落としたらしきアクリル状の物体がぷかぷかと浮いているのが目に留まった。

 

 ウタがそれを拾い上げ、表面の汚れを拭い取る。アクリルの中には、まるでキャラクターグッズのように、精密な絵柄が描き出されていた。

 

「これ……」

 

 覗き込んだオトノが、驚愕に目を見開く。

 

「似てる……。メモルに、そっくりじゃない……?」

 

 それは、自分たちにクリスタルワールドの危機を訴えた案内人・メモルの面影を強く残す、小さな妖精の姿だった。

 

「まさかこれ……メモルがずっと探していた、ヒューキャニオンの原住民……!?」

 

 だとしたら、なぜ彼女らがこんな姿に?

 嫌な予感を胸に、二人は物体を運んでいったグラニュートたちの後を隠密に追った。辿り着いた先は、ヒューキャニオンで見かけたものよりもさらに一回り巨大な、禍々しい外観の『工場』だった。

 建物の隙間から内部を盗み見た二人は、言葉を失った。

 工場内では、ベルトコンベアに乗せられた大量のアクリル状の物体が、轟音を立てる巨大な機械の中へと次々に吸い込まれていく。そして機械の出口からは、ドロドロとした禍々しい色をした、四角い物体へと『加工』されて排出されていた。

 

 アクリルの中に閉じ込められていたのは、妖精だけではない。

 エンデルガスにいたはずの麗しい霊鳥、そしてこのゴボルレイクの精霊らしき姿までもが、無数に敷き詰められている。

 この世界に怪人も、元の住人も全く姿を見せなかった理由。それは、平和だからなどでは断じてなかった。

 すべて、この場所に『素材』として集められ、収穫されていたからなのだ。

 

「嘘でしょ……あの子たち、一体何にされているの……? 何を作っているっていうのよ!?」

 

 戦慄するオトノの疑問に答えるように、暗闇の奥から、低く、しかし酷く愉悦を孕んだ声が響いた。

 

「あれは**『闇菓子』**。かつてグラニュート界が『人間』という存在に目を付けて生まれた稀代の傑作にして、我らの幸福の象徴だ」

 

「──っ!?」

 二人が弾かれたように振り返る。

 いつの間に接近されていたのか。そこには、圧倒的な威圧感を放ちながら、しかしこちらへ敵対心を即座に見せる風でもなく、綽々と佇む巨大な影があった。

 2度目の対面。この世界を絶望へと叩き落とした、元凶の一角。

 

「グラニュート界大統領……ボッカ・ジャルダック……!」

 響が警戒の眼差しを向け、失われたドライバーの代わりにライドフィギュアを握りしめる。

 ボッカは、自身の腹部にある口をクツクツと歪めるようにして、傲然と微笑んだ。

 

「ごきげんよう、仮面ライダー。おっと……君は確か、オトノと呼ばれていたか」

 

 一歩、巨体が前に進み出るだけで、ゴボルレイクの水面がびりびりと震える。

 

「もてなす時間も準備もないが、よくぞ来てくれた。我らグラニュートの、新たなる居住区へ」

 

 武力によって権力の頂点に立ち、その圧倒的な力と思想によって、他の怪人たちを排してクリスタルハザードの総取り合戦さえも統治した存在。

 最高最悪の簒奪者を前に、制限された力しか持たない姉妹の、命がけの対峙が始まる。

 

 

「闇菓子……あれはグラニュートが食べるお菓子だっていうの?」

 

「ああ、ストマック社というところが作り上げたものでね……グラニュートの中でも結構な人気だ、どんな手段を使ってでも欲しくなるくらいにはね」

 

「どういうことよ……ウタ、グラニュートって石を食べる生き物なんじゃないの!?」

 

「それだけあの菓子が特別ということだよ、わざわざこうしてクリスタルワールドの人々を利用するくらいなら」

 

 ウタの冷静な考察にもボッカは答えを出すように話す。

 

「ああ、むしろあれこそが闇菓子に欠かせないスパイスになる……グラニュート達は彼らを拘束して闇菓子に変える、必ずしも必要ではないことはそうだが、我儘な裕福層の彼らはこの地でも闇菓子を欲して代替え品を作り出した」

 

「代替え品……クリスタルワールドの生き物たちを代わり扱い!?」

 

「……もともとは人間を使っていたんですね」

 

「そう、多幸感を感じた人間をそのままヒトプレスにしてスパイスに変換した時の味の爆発的変化は計り知れない……」

 

 つまるところ、闇菓子はお菓子という分類ではあるがほぼ違法薬物と言っても何も違わない。

 それどころか特定の層のエゴによって仲間達が明確に犠牲になろうとしている……ジークやグリオンともまた違う、巨悪の振る舞い……。

 

「……一つ、一つだけ質問させて」

 

「認めよう、君たちはここまで生き延びてきた……一つだけなら特別に聞く」

 

「貴方達は白いクリスタルからジークとグリオンというの……ほら、あのグラサンと錬金術師の二人、一応『餌』の人間なのにどうして手を組もうと思ったんですか? おつでもあんなふうに変えられるという余裕によるもの?」

 

「……なるほど、君は中々面白い観点を突いてくるね、もしかすればそうかもしれない、しかしそれ以上に私は興味があったのだよ……このクリスタルワールドに存在する『ギガスタル』に」

 

「じゃあやっぱりクリスタルハザードを起こしたのはその為に……ギガスタルも本気ね」

 

「仮面ライダーと戦うよりも私は集落を邪魔する敵を根絶やしにすることを優先した、元々我々グラニュートは武力で権力を決めてきたので些細なことだったよ……まず最初にスーパーアポロガイストと名乗るものを即座に鎮圧させ、他の種族も手にかける……ああもちろん、スパイスとして使えそうな怪人は手を付けたよ、味は微妙だったらしいが……」

 

 ボッカはさりげなく、もちろん騙す意図もないがどんどん工場から離していく。

 ……自分達が世界を進んでいる間にそんなことになってきたとは。

 ボッカは一瞬でまた二人を湖の上に連れていき、交渉でも始まるかのように重苦しい雰囲気が流れる。

 

 

「君たちの言いたいことは自ずと察しがつく、取り返したいのかな? 彼らを」

 

「素直に応じてくれるわけでもないことは分かるけどね、求めるのはあたし達が集めたクリスタル? あいにくだけどちゃんとしたものはないわよ」

 

「いいやそれは必要ない、私はもう充分な量を集めて……新しい世界に向かう用意は出来ている」

 

「あ……新しい世界?」

 

 ギガスタルの復活のためにクリスタルを交渉に使ってくるものだと思っていたのであっけに取られるが……ボッカはこれまたオトノにとって衝撃的すぎる内容だった。

 

 

「あと2つ」

 

「え?」

 

「あと2つ、クリスタルワールドは『5つの世界』によって構築されていることをご存知かな? 光の世界『ギランガーデン』と闇の世界『ヨールダーク』……我々はこの世界から現れた」

 

「ギランガーデンとヨールダーク……そんな転送先のクリスタルあった?」

 

「あそこにはないよ、でも多分あっちにはある……ボッカ達がいた方のもう一つのクリスタルベース」

 

「うぐ……なんかこっちとしてはまだ続きがあるのかって気分になってくるけど、あたし達に何を持ちかけてくる気?」

 

「……やはり彼らはね、人間をスパイスにした闇菓子を求めているのよ」

 

「あたし達を食う気!? 嫌よここにきておやつになるのだけは」

 

「落ち着いてよお姉ちゃん、向こうの数に対してたかが2つの闇菓子なんてしょぼいことを言うわけないよ、代替え品としてクリスタルワールドの住民を根こそぎ奪い取ってるのもあって……」

 

 ウタが言うにはだ、グラニュートの最終的な目的はクリスタルワールドからの脱出、ギガスタルを降臨した後に何かしらの人間界に向かうことでまた人間を闇菓子にするということ。

 しかしそれはそれで人間の犠牲者を多く出すことになるがボッカは反論というよりは嗜めるように答える。

 

「心配することはない、我々としてもせっかくの材料を絶滅させてしまうような真似はしない……少々君たちの世界を我々が掌握し、常に最善の味を出せるように世界全土を牧場として開拓することを目的としている」

 

 世界征服……というよりは人間を資材のように使い潰そうとしている、つまりはクリスタルワールドから脱出して人間界に牙を剥く準備を整えたいが、それを止めたいのならクリスタルワールドを見捨てろといいたいわけである。

 しかもじっくり考える時間などない……今でも闇菓子という上に変えられている上に食われてしまったらこれで終わる、ボッカは食っているか分からないが闇菓子を食べるような層が数多く存在することになる。

 

「く……クリスタルは出せないわよ、ウタがエンデルガスのやつダメにしちゃってゴミとかに変えちゃったから!」

 

「今からでもお姉ちゃんをその内の一部に混ぜることだって出来るよ?」

 

「いいや、まだクリスタルはある……ギランガーデンとヨールダークは私たちもまだ回収しきれなかったからね、どうにも我々怪人では手を出しにくい」

 

「……それを回収すればクリスタルワールドの人々を解放するというの? 本気で?」

 

「ギガスタルを餌にすれば彼らも一度は押し黙るだろう、ただし注意したまえ……闇菓子の中毒性は私でもコントロール出来るか怪しいものだ、暴動になれば私は容赦なくクリスタルベースへと送り込む」

 

 ……一度準備を整えなくてはならないし、ここで反抗してもボッカに敵うかも怪しい。

 約束を守ってくれるかも分からないが今は2つの世界に行くしかない……?

 

「でもあたし達ここに来るまでにライドフィギュアとか置いてきてるのよね……?」

 

「それだったら私が転送するよ」

 

 ウタはデモンライドのゲートについているボタンを押すと、離れていたライドフィギュアが一瞬のうちに戻ってくるのでオトノはウタに絞め技をかける。

 

「そういうのあるならはじめから言いなさいよ!!」

 

「やめて! 私もついさっき変なボタンがあるなぁって思って気づいたものだから!」

 

 ……しかし何はともかく向かわなくてはならない、クリスタルワールドでこれ以上犠牲を出さないためにもギランガーデンとヨールダーク、どちらかの世界に向かわなくてはならない。

 怪人が来ていたほうのクリスタルベースに向かうことになるが、ぽつりとウタがボッカに向けて呟く。

 

「カーレッジ・フレインを知っていますか?」

 

「さて、どうだろうね」

 

 彼は知っているのだろうか? この空間全土を作り出した傍迷惑な……『最高にして完璧』を。

 

 ──

 

 もう1つのクリスタルベースは……本当に誰もいなくなった痕跡のように寂れているが、ボッカと……姉妹を待ち構えていたように待機してきたのがあの男。

 ジーク。

 

「おっ、大統領さんが面白い組み合わせだこと……結構早い再会だねぇ、もしかして俺を必要としちゃった?」

 

「出来れば会いたくなかったようなそうでもないような……どいてくれますか、喧嘩したくないので」

 

「え~? 響ちゃんはこれ欲しくないの?」

 

 ジークが見せびらかすように差し出したのは……オトノがずっと探していた『音ノ小路ゼロディドライバー』である。

 普通に考えてあのベルトを無くしたのはジークに出会った直前なのだからどこを探しても見つからないとなればジークが持っていたとしか思えないだろう。

 なにはともかく少しぶりにオトノはベルトを取り戻すことになる。

 ジークはベルトを返した後に他人事のように笑う。

 

「しかしまっさか、面白いことになってるとは思ったがなぁ……イレギュラーも極めたらこうなるってわけかねぇ」

 

「ベルトが帰ってきたのは嬉しいんだけどさ……おじさんは何がしたいの?」

 

「俺ぇ? 俺は別にゼッツの世界でもクリスタルワールドでも……もちろんそうじゃなくてもなぁぶっとんだ悪夢! 恐怖、絶望。大どんでん返し! こいつに勝るエンターテインメントじゃないぜ!!」

 

 この男の事は根底から理解できない、いやオトノのすぐ隣にそんな感じのクソやば妹が控えているのだがこの際気にしない事にする。

 ジークのすぐ後ろには……これまで見た事のない黄金と漆黒の2つのクリスタルが見える、おそらくここから別世界へ飛ぶことになるが……ジークたちは何故か近寄ろうともしない。

 

「ジーク君がいうにはギランガーデン達には君達のような人間や仮面ライダーを真っ先に連れて行きたかったと語っていてね……これがどうなるのか」

 

「うわぁ……それ、明らかにあたし達に対して何かする気じゃないの?」

 

「ああそりゃもう、何かする気も何も……このクリスタルはお前達を元にして作られたんだからな」

 

「え!? わかるの!? そんなの!?」

 

「Codeエージェント・コードナンバーワンとしての俺のカン! ……ただし滅茶苦茶当たるぞ? エージェントだもんで」

 

 そんな変な口ぶりの中で……怪しい雰囲気のなかで光と闇のクリスタルに近寄る。

 まるでクリスタル全体から……全ての光と闇が漏れ出しているかのように雰囲気が違う、恐らくこの先は本当に命がいくつあっても足りない、怪人とかは別として……。

 

「でもここからクリスタルを取ってこないと……」

 

 決心した二人は……いきなり闇に触れるほどの度胸もなかったので最初は光の世界『ギランガーデン』へと向かっていく……はずだった。

 クリスタルに触れて転移した先……そこには何もない、広大な宇宙空間のように無限に漂うものだけでオトノ達は宙に浮いてしまう。

 

「ぎゃっなにこれ!?」

 

「お姉ちゃん大丈夫!? もしかしなくても騙されてるよこれ!」

 

「なんとかしなさいよ奏!!」

 

 二人は騒ぎながら空間内を漂っていると、騙したのかあるいはリアクションのみを楽しんでいたのかジークが後から登場する。

 

「いや〜びっくりしただろ? 面白い?」

 

「しゅ……趣味悪っ、クリスタルどころか足場すらないんだけど、これがギランガーデン?」

 

「俺が下見に来たときにはこんな感じじゃなかったけどなぁ、そんなに不安ならもうちょっと奥に進んでみろよ」

 

「もうちょっと奥にって……そんな適当な」

 

 しかし文句を言っててもしょうがないため、このままギランガーデンらしき空間を奥に進んていく一同。

 そうして進むと……何やら無数の渦が見えてくる、それは二人にとっては馴染み深いものだ。

 

「時空の渦……? クリスタルワールドにもあんなのあるんだ……って時空の渦ぅ!!?」

 

 驚くのに多少のタイムラグが出てきた、時空の渦というのは簡潔に言ってしまうと別世界へと繋がるゲートのようなもの……ここを通れば他世界に行ける、そう……クリスタルワールドから抜けられるはずなのだ、本来なら。

 なのでもしかしたらここからまた別世界に行けるかもしれない……オトノ達は時空の渦に手を伸ばして新しい世界へ……!

 

 ──

 

 俺は万津莫、

 この世の悪を撲滅する特務機関Codeに所属するエージェント…… という夢を見ている、ごく普通の好青年だ。

 そんな俺は──

 

 

 オトノ達が迷い込んだのは……まるで普通の現代社会、しかし突然仮面ライダーゼッツが現れオトノの視界を塞いだ。

 

『Search for the truth among countless dreams』

 

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