時空の渦に吸い込まれたかと思えば、目の前の光景は目まぐるしく、そして唐突に切り替わった。
一度は仮面ライダーゼッツにその視界を阻まれたはずだったが、気付けば今度はまた別の空間へと放り出されている。そこでは、禍々しい人型の怪物たちが咆哮を上げ、激しい戦闘が繰り広げられていた。
「な、なによここ……!? さっきの男の人はどこ行ったのよ!」
慌てふためくオトノの視界に、次々と見覚えのある影が飛び込んでくる。それは、かつてオトノと共に戦い、苦難を乗り越えてきたとされる時空各地から集められた『仲間』たちの姿だった。
「みんな……!? どうしてここに……」
息を呑むオトノ。間違いなくここは時空の狭間──かつてカーレッジ・フレインが作り出した、決して結末の訪れない物語の世界……もしも、あのゼッツと何らかの形で出会うような歴史があったなら、こんな未来も存在し得たのかもしれない。
しかし、なぜ光の世界であるはずの『ギランガーデン』の中に、自分たちの記憶と直結するような戦場が広がっているのだろうか。
しかし、その疑問に答えが出るよりも早く、空間は再び不自然にねじ曲がっていく。まるで時空の渦そのものが意思を持ち、オトノたちを飲み込もうと迫ってくるかのように、急激に接近してきた。
──次に視界が弾けた先は、まったく毛色の異なる別世界。『仮面ライダーガヴ』の世界だった。
「お菓子……? えっ、あれってガヴ!?」
驚きに声を上げるオトノの視線の先では、ガヴやその仲間たちだけではない、見慣れない戦士たちが躍動していた。チョコレートやプリンを彷彿とさせる、あまりにもお菓子に特化した造形を持つ仮面ライダーたちが、天を衝くような巨大な炎の塊と死闘を繰り広げている。
「あのごついの何……!? ウタ、あれ何だか分かる!?」
「あれは私たちや彼らとも別世界の技術……まあ、時空って気軽に世界とか超えられるし、こういうこともあるよね」
ウタは至って冷静に、どこか他人事のように呟く。
世界を巡るように、次から次へと視界が強制的に切り替わっていく。
それはさながら、巨大なスクリーンで様々な映画の予告編を連続で見せられているかのようだった。数々のストーリーが展開され、交差し、消えていく。
もしも、あの日に時空が滅ぶようなことが無ければ、これらすべてがどこかの宇宙で現実になっていたかもしれない光景。しかし、それを眺めるウタの表情は、どこか退屈そうで、何なら明確にうんざりとした色を孕んでいた。
──
景色が激しくブレ、次に固定されたのは重々しい空気の流れる不穏な廃墟だった。
「エス……お前が創ろうとしてる『楽園』ってのは何なんだ?」
「……今見せてやる」
『エデン!』
「変身」
『プログライズ! アーク!』
そこは『仮面ライダーゼロワン』の世界だった。しかし、かつてオトノが見て来た、あるいは知っている歴史とは明らかに異なる展開が、恐ろしいほどのリアルタイム(REAL×TIME)で進行している。相変わらずそこにいるはずの『奴ら』の姿もあるというのに、今回の光景には決定的な、そして奇妙すぎる違和感があった。
「……ねえ、ちょっと待って。なんであたしがいないのよ? これ、あっちゃんの世界の出来事でしょ!?」
オトノが声を荒らげる。本来なら、ゼロワンの世界でこれほどの大規模な騒動が起きていれば、或人たちに合わせて彼女自身が助け舟を出しているはずだった。自分の知る世界でただならぬ事態が起きているにもかかわらず、どこをどう見回しても自分の姿が確認できないのは、不自然以外の何物でもない。
しかし、隣に立つウタは相変わらず妙に落ち着き払った様子でその光景を眺めていた。
「場合によってはあるんじゃないのかな……或人さんがお姉ちゃん……正確には私達と会っていない時空」
「会っていない時空って……そんなの──ああ……なんか考えてみれば、時空が滅びるのって聞きかじりだけど、これで4回目とかなんとか言ってたし」
ウタの淡々とした言葉に、オトノは言葉を詰まらせる。
自分たちのいた時空すらも滅んでしまった今となっては、もうそれを客観的に判別する術は無い。だが、実のところ、このような「世界の滅亡と再構成」は、オトノたちの認識も含めてすでに4回は繰り返されているらしいのだ。
つまり、今自分たちが必死に駆け巡っているこの『クリスタルワールド』そのもの、あるいはその先にある領域というのは、通算で「5回目」に再構築された物語の世界。そしてジークやボッカたちは、恐らくだがそれ以前の周回に存在していた物語の住人たちなのだ。
「……じゃあ、この場所は……」
ボッカは言っていた。光と闇のクリスタルは、姉妹を元にして作られたのだと。
だとするならば、今自分たちが迷い込んでいるこの『ギランガーデン』の元になった記憶の主は──間違いなく、姉である『音ノ小路響』本人だった。
彼女がこれまで歩んできた戦いの軌跡、英雄として人々を救い、怪人と刃を交えてきた膨大な戦いの痕跡のすべてが、結晶の光となってこの場所に詰め込まれていたのだ。
数多の並行世界、あり得たはずの未来、そして失われた過去の映像が、オトノの心根を激しく揺さぶるように光の奔流となって渦巻いていた。
この場所では何らかの事情を感じるが延々と仮面ライダー達の戦いの記録があり、まるで映画を鑑賞するかのようにそれを眺める。
一応自分達の目的はギランガーデンの内部にあるクリスタルを回収することなのだが、これでは手も足も出ない。
「なんか右も左も見えないんだけど……これ中どうなってるの?」
「どうなってるも何も見た通りだよ、死んだことで結末の来ない世界にエラーのような形で終わりが来たからあり得たはずの歴史が強制的に……って、やっぱりあの体になるとサリーアン問題ガン無視な答えになって嫌になるけど、お姉ちゃんにも分かりやすく言うと時空規模の走馬灯がお姉ちゃんのクリスタルになってるんだよ、『午後の恐竜』ってやつ」
「走馬灯……改めてあたし達やっぱり死んでるのね、でもなんか……腑に落ちなくない? あたしがあっちゃんと一緒にいないの」
「まだ言うの? そもそもあの変な仮面ライダーといい……前にもあんなの見たけど私たちだってたまたま或人さんと会ったことで運命が……あっ」
ウタは何かに気付いたように指を近づけて何かを念じると時空の渦がまたゼッツの時のように近づいてくる。
自ら手を伸ばして渦の方へ飛び込んでいくと——今度は仮面ライダーとも違う、また未知の空間へ……。
そうして見えたのはまた別次元の世界観、大きな秘密基地の中のような立派で文明の進んでいるような、しなし表現するには人が少なすぎるそんな場所。
……今回は仮面ライダーと誰かしらの戦いではないようだが、相変わらずあの仲間の姿はあった。
「あっ、またたくっちスノーだ」
『たくっちスノー』……その名前を呼ばれたのも何十年以来だろうか、カーレッジ・フレインをこの時空という存在で絶対的な権限を持つ主人公とするならたくっちスノーこそ稀代の宿敵。
ただし時空から見ればカーレッジが我儘に世界を荒らして滅茶苦茶にしているとんでもない存在なので、必然的に現在のたくっちスノーは時空のヒーローであり、実のところオトノも飛電或人も彼の仲間……ということに現状はなっている。
しかしオトノが見て思うのは……こいつの顔、何回も見ているな? と飽き飽きするような感覚。
先程のゼロワンの話には自分もいない、見たこともないゼッツやガヴの話にだって、いない仲間はいれどたくっちスノーがいなかった時などそうそうない。
響として覚えがあることと言えば……カーレッジがリバイスの世界を軸にして時空を滅ぼしたとき、自分の最期となるあの瞬間ぐらいだ。
そんなたくっちスノーがまたあの空間で何か仕事のようなことをしている、見ていて面白くないものなのでウタを引っ張って歩こうとするがウタはそれを眺めるばかりだ。
「ねえ奏、仕事しているだけの映像なんて見てて何が楽しいの? そろそろクリスタル見つけないとまずいと思うんだけど」
「お姉ちゃん、もしかしてあれ『時空監理局』じゃない?」
「ええ? 時空監理局ぅ〜? 確かあいつとかカーレッジが昔作ってた組織でしょ? それがどうかしたのよ、あっちゃんがあいつと会ってた時点で無くなったでしょ?」
時空監理局というのはまあ言ってしまえば数多くある世界を管理するためにカーレッジがかつて別名を使っていたものだが……まあ、クリスタルワールドやオトノ達以外の者からすればどうでもいいことだろう。
オトノとしても或人が関わる前に滅んだ組織のことなどどうでもよかったのでさっさとウタを引っ張って別の空間に行こうと別の渦に手を伸ばす。
「……あ、あれ?」
——だが不思議なことに、もう一回時空の渦を抜けてもまた時空監理局に来てしまった。
たくっちスノーがいる上で5人メンバーなのは相変わらず、ただし1人だけメンバーが変わっているのだがそんかもの些細なことだ、すぐにまた引き返そうとするがウタが手をつかんで離さない。
「何よしつこいわね! こんなところ見たってしょうがないでしょ! あたし達から見て大昔のことなんだし!」
「大昔……本当にそうなのかな? 下手したら私たちより未来ってこともあるかもしれないよ」
「……どういうこと? さっきの間違い探しみたいな変化とも関係してるわけ?」
ウタ……奏は真実を知ってからずっと考えていたことがある、クリスタルワールドに来る『まで』にどれだけ時間が経っていたのだろうか? 滅んだにしても何にしても、時間感覚が掴めないので死んですぐにあの場所に来たようには思えなかったからだ。
そんな中、この仮面ライダー以外の歴史を見たことで思い浮かべた可能性……。
「あのねお姉ちゃん……確かに私たちって既に3回時空が滅んだ後に生まれたけど、今この場所が『5回目』って保証はあるのかな?」
「え……どういうこと?」
「いや、私も今回ばかりは確信はないけど……カーレッジ・フレインがこれまで後先知らずで、適当で、理想値が高すぎることは聞いてない? もしかして……このクリスタルワールドも含めて私達が死んでいた間に同じような過ちを何度も何度も繰り返して、その度に『たくっちスノーの物語』が生まれてもおかしくないなって……」
「……5回目どころか6回でも7回でも同じことを繰り返してるってこと?」
「うん、もしかしたら10回を越してもおかしくないか……でもそうなるとお姉ちゃんでも疑問に思うことはあるでしょ」
「……ああ、なんであたし達が5回目にしても何回目にしても今更になってクリスタルワールドで蘇ったのかってことね」
時空がどんな状況なのかは想像の範疇で考えるしかない、だがずっと残っている疑問は何故、何故よりによって『音ノ小路姉妹』だけが当時の記憶を保持したまま、突然この場所で概念のように蘇った? ということだ。
他に適役はいくらでもいそうだし、新たな疑問は……。
「その場合ってさ、前後の歴史のあたし達はどうなってるのかってことなんだけど……ジークから1回見せてもらったけど、2人揃ってデスゲームの処刑みたいに殺される未来もあったみたいだけど」
「へぇ……私が死ぬところ見たんだ、どんな感じ?」
「…………あんたの想像通りよ、でもそうなると」
気になる、自分を元にしたクリスタルなら何か鍵があるかもしれないがそれを探している暇はない。
なんとかギランガーデンのクリスタルを見つけなくてはと景色を抜けて駆け出していたその時……時空の渦の中でもひときわ異彩を放つものが存在していた。
……黄金色に渦が輝いている、こんなことがありえるのだろうか? いや、だが確かに現実に存在しているのがあれらの現象だ。
「お姉ちゃんアレに入る気!? 一周回って怪しくない!?」
「この際、怪しいやつにでも入っておかないと不安になるでしょうが!!」
意を決して2人はまた光の渦の中へ……その後ろ姿を、ず──っと気付かれずに観察していたジークも追いかけるように歩き出して……覗き込むように渦に顔を入れる。
「おっと、これだこれ……この先に感じる、クリスタルの反応だ!」
本当はクリスタルのことなんてどうでもいい、ただ悪夢のような体験を観察したい……悪趣味なものを美しさを感じる渦から察したジークは意気揚々と飛び込んで……。
——
その日、初めて音ノ小路響と奏は鏡のように映るまた別の自分と対峙することになる。
青い空が目立つ島の中……自分とは別の響と奏がいる、今すぐ隣にいる二人よりも少しだけ若い二人の姿があった。
だがそれは……オトノとウタとしての自分には全く覚えの無い未知の思い出だった。
渦の奥で展開されていたのは、仮面ライダーという存在が彼女たちの運命に関わるずっと前──響と奏がまだ高校生だった頃の世界だった。
青い空、白い雲、そして絶海の孤島。そこに集められたのは、見覚えのあるクラスメイトたち。彼らと共に、平和で希望に満ちた共同生活を送る……はずだった。
だが、物語は突如として血塗られた絶望へと変貌を遂げる。
島に潜伏していた謎のテロ組織の暗躍により、生徒たちは狂気の殺人計画に巻き込まれていく。次々と引き起こされる疑心暗鬼と、避けられない死の連鎖。
そこに、後に出会うはずの頼もしい仮面ライダーたちや、たくっちスノーをはじめとするかつて共に戦った仲間たちの姿はない。
クラスメイトたちは皆、響の記憶にある顔ぶれだったが、その関係性はこの『島』という一つの閉鎖された世界だけで完全に完結していた。
そんな、自分の全く知らない「自分たちの体験」を、オトノとウタはただ黙って見上げ続けるしかなかった。
(これは……あたし達が辿るはずだった運命?)
オトノは胸の内で疑問を反芻する。だが、もしこれが本来の歴史だというのなら、自分たちが成人するまで生きていたことと矛盾する……ジークが見せてきた『悪夢』とも少しだけ一致しない。
あちらの自分たちは、少なくとも絶海の孤島で高校生として死ぬような運命ではなかったはずだ。
映像の中の物語は残酷に進み、やがて『響』と『奏』がジークの悪夢通りに命を落とす凄惨な場面が映し出される。それでも、残された生徒たちによって物語は止まることなく綴られていく。
まるで傍観者のように他人の死を眺めているはずなのに自分自身の姿であるという事実が、オトノの中の違和感を不気味に増幅させていった。
あの空間に映し出されているのは、紛れもなく自分たちが生まれた何かしらの『作品』とも言える世界の出来事だ。所々の記憶や、クラスメイトの性格など、一致している部分も間違いなくある。
だが、どうしてこんなにも心の底から這い上がってくるような違和感を覚えるのか。
やがて物語が進むにつれ、映像の輪郭は徐々に薄れ、幻のように消え去っていった。
「…………」
アレは一体なんだったのか。物語の終盤はあまりにも複雑な設定や事実が飛び交い、オトノの頭では到底すべてを理解することはできなかった。
だが、隣に立つウタは違った。彼女は結末のすべてを正確に理解してしまったのか、決してオトノと目を合わせようとはしなかった。
「まさか、そんなことが……」
呆然と呟くウタに対し、オトノはジト目を向ける。
「何……こっちとしては、向こうの世界でも奏が変わらない事に引いてるほうなんだけど……下手したらあんた、あたしにもあっちと同じことしようとしてたのよね……」
映像の中で描かれていた『奏』の狂気は、こちらの世界のウタと何一つ変わっていなかった。むしろ、閉鎖空間という状況下でその異常性はより際立っており、オトノからすれば鳥肌が立つほどの光景だった。
事実ここのオトノも飛電或人がいなければ結構同じ末路を辿っていたところはある。
「出来ればあそこで物語が終わってくれたら私もここまで悩む必要が無かったけど……お姉ちゃんは多分途中から何言ってるか分からなくなってそうだから、もっとかいつまんで説明するね」
「その前に奏、あたしは向こうのあたしと違って結構手が出ること忘れてない?」
誤魔化すように話を進めようとするウタに、オトノは拳を握って凄んでみせる。ウタは怯えたように身をすくめたが、すぐに咳払いをし、その表情をかつてなく深刻なものに変えた。
あの映像の違和感、その正体をはっきりさせるため、ウタは慎重に言葉を紡ぎ出す。
物語の最初から姿を見せていた黒幕たる仮面の人物が、クライマックスで生き残った生徒たちに語った衝撃的なストーリーの真実。
それは──『新世界プログラム』。
簡潔に言ってしまえば、あの島そのものが『仮想現実』の世界だったということだ。
あの作品に登場していた響や奏を含め、参加者である彼らの大半が、本来の年齢や記憶を封印され、『高校生のアバター』としてあの疑似世界である島で過ごしていたという、あまりにも突拍子もない顛末だった。
「仮想現実……待って、それっておかしくない?」
オトノが思わず声を上げる。
「おかしいどころじゃないよ! まさに前提情報が全部ひっくり返ることになるんだから……つまり!」
ウタが切迫した声で続ける。
あの映像の結末が真実だとするならば。自分と同じ時間、同じ青春を過ごしたはずのクラスメイトたちは、現実世界においては高校生ですらないことになる。
あの島で起きた希望も絶望も、そして彼らと過ごした日常すらも、現実の肉体が体験した本物の出来事ではないのだ。
だが、それはオトノとウタの認識においては「あってはならない」ことだった。
何故なら、二人の記憶の中にある『あのクラスメイト達』と、『島に連れられて共に過ごした経験』は、仮想現実などではなく、紛れもなく彼女たちの現実に確かに存在している【本物の体験】だからだ。肉体を通して感じた風も、痛みも、すべてが現実だった。
しかし、このギランガーデンで見せられた『響たちの物語』は、あの仮想現実の設定を絶対的な前提として進んでいる。どんなに並行世界で話の形が変わろうとも、あの作品の根幹である「あれは仮想現実だった」という一点だけは、一致していることになってしまう。
だとしたら、生身で島を体験し、その後も大人になるまで現実として生きてきた自分たちの記憶は、一体何なのだ?
静まり返る光の空間の中、ウタは怯えるような、それでいてひどく冷たい瞳でオトノを見つめ、震える声で核心を突いた。
「お姉ちゃん、ちょっと考えない……? 私達って本当に『音ノ小路姉妹』なの?」
響達をゼロワンIFに出したいと思っていた頃って向こうのクライマックスがまだ作られて無かったころなのであの作品とメイドウィン小説版の設定が結果的に別物になったんですね
現行放映しているライダー達でIFやったらいつもこうなるんですがまさかこちらでもとは……