「あたしが音ノ小路響じゃない……何馬鹿なこと言ってるの!! あの映像に映っていた時のあたしと、ここにいるあたしで何が違うの!? 違う所があるとすれば……まあそれは……おおよそあんたが手を施したものでしょ!!」
「違う!! 性格面とかはともかくアイデンティティの話をしてる! 分からないの!? アレが全部作り物なら私達の経験そのものが全部間違いってことになるの! 同じ年数を歩んでないってズレはそこまで深刻なんだよ!」
想像してみる、自分達は本当にあの学園で卒業したのか? 成人した時点で響は奏に何らかの細工を加え入れてなかったか?
顔は同じ、名前も同じ、多分性格も多少のイレギュラーがあって現在に至るが……前歴と前提の異常性だけはどうしても無視できない。
困惑と崩壊しかけた人生観で歪む奏を笑うようにジークがまた現れる。
「ようやく気付いたか、俺もなんとなく知った形だけどこの通り! お前達は仮面ライダーのイレギュラーであると同時に……自分たちの世界において自分自身の役回りとしてもイレギュラーだった事実は」
「……なんかあなたに言われると無性に腹が立つのですが、人のこと煽れる立場なんですか?」
「おいおい、俺がそんな事気にするタマに見える~? それに俺の場合、どんな物語でゼッツちゃんやお前達の仲間が好き放題したとしても楽しくナイトメア共と派手に騒げたらそれでいいってわけ」
ジークの方はたとえどんなに自分がめちゃくちゃになっても構いはしないのだろう……自分を自分たらしめるものがない、必要とするだけで形を見せて暴れたいときに暴れる……まさに理想の、都合の良すぎる悪役の鑑だ。
悩んでいるウタの頬を……オトノが引っ叩く。
「こんなところでごちゃごちゃ悩んでる場合じゃな」
「痛てえだろ!!! どうせやるならもっと優しくしろ!!」
しかしこっちのウタはまだ元の世界と比べて余裕があるので逆ギレして殴り返すほどの余裕がある。
このまま喧嘩にでもなりそうな勢いで互いに掴み上げるが、オトノが殴られても怯まずウタに叫ぶ。
「今ここにいるあんたが『音ノ小路奏』かなんてあたしにはどうでもいい!! どんな奴だろうと……百歩譲って60人殺してきたイカれ殺人鬼だろうと! あんたはあたしの妹であたしはお姉ちゃん!! ずっとそうしてきたじゃないの」
「響は怖くないの!? 自分の人生が欺瞞かもしれないって可能性を示されるのが」
「そんなもん時空で生きてる奴はいくらでもそんなやついるでしょうが!! 何をウジウジ悩んでたと思ったら奏のくせにそんなくだらないことで悩んでたの!?」
「そっちが多いほうがダメだろうが馬鹿がよ!!!」
実際オトノが怯えてない理由は明確だ、こんな事例響に限らず山ほどある、響の仲間で言えばもちろん或人だってそうだし、ソウゴもそう、戦兎に翔太郎……ここまで例を挙げてみてウタもだんだん冷静になってくる。
「うわ本当だ……どうなっているの時空、とりあえず私が私として何の心配もないことは理解したよお姉ちゃん、時空全土が響並みのバカで助かった……」
「奏、もう片方のほっぺもひっぱたかれたいなら遠慮なく差し出しなさい、さっきより強くやるから」
この姉妹のある意味ではマイペースなような……そうやって前を見つめていると、ジークは立ち上がりそっぽを向ける。
「なんだよそりゃ、つまんない奴ら……いや、つまんねぇ話なのか? 俺の期待してるものは見れなさそうだし、ゼッツちゃんところに帰るよ、俺は」
「あら、そう? なんだかんだ嫌な奴ではあったけど、あたしが知る中では案外悪いやつには見えなかったわよおじさん」
「それは勘弁してくれよ〜、なるべく関わり合いになりたくない奴が残っちまったなぁ〜……仕方ない、もうちょっと妹ちゃん達におあつらえ向きなやつ呼んでやるよ!」
ぼやくように、厄介払いを自ら受け入れるかのようにジークがまた粒状の塵になって消え去る。
あの懲りたような様子ではもう二度と自分たちの前に姿を現そうとは思わないだろう。
狂人ではあったがそれ以上に奇人すぎるものに慣れていたのが悪い。
そうして、まるでかわりばんこのようにオレンジ色の炎のような蝶が明かりとなって道を指し示す。
「こっちだ、ここにお前たちの求めてるものがある」
「ああやっと何か進展しそう……あたし達なんか色々変なの見せられてるけど、結局クリスタルを探すとかどうとか全然進展してなかったから助かるわ」
「ああ……なんだったんだろうこの茶番、というか結局なあなあにしてよかったんだろうかこの疑問……」
「まあ別にいいんじゃないの? その時のことはギガスタルとボッカを倒してからあの世界で考え直して結論を出すってことで、あたし達の世界の本来の形、受け入れられないってことでもないし」
「うーん……でもなんだか何か引っかかるところがあるような……でもそろそろクリスタル集めておかないと文句言われそうだし……」
何はともかく蝶が導く先……あそこに向かってみることにする、その先に何か話が進展するものがあることを信じて。
炎の蝶が渦に入っていくとたちまち燃え上がり、渦の雰囲気も中身も大きく変わっていくのが感じられる。
ここのところずっとこんなのばかり見ている気がするがもう突っ込むだけ無駄かもしれない。
だが、さすがに燃えている渦の中に入るのは勇気があった、ライオンじゃあるまいし。
しかしウタからすれば知ったことじゃないので蹴飛ばして中に突っ込んでいく。
——
「もう、クリスタルベースにまで……メモル、ミヌーク……二人は隙を見てここから逃げ出すのです」
「と……トレイナ……」
「ホッホ……ではお言葉に甘えて」
「ちょ、ちょっとミヌーク! まさか本当に自分だけ逃げる気じゃないだろうね!」
「まさか、こんな有様でワシだけ逃げたところで今更……」
——そこから見える空間は、これまた違和感がある。
辿り着いた先にあった映像はクリスタルベース、トレイナ達とそれを取り囲む戦闘員達の集団。
これは……オトノがクリスタルワールドに来たばかり、最初に見た光景ではないか。
もしやこの後起きることは……。
「そのクライマックス、ちょーっと待ったああああ!!」
やはりそうだ、この聞き覚えのある声色、上部に展開されていく魔法陣……そして、現れるヒーロー。
「貴方は一体?」
「話は後! 困ってるんでしょあんた達……良いものを見つけたから、それで助けてあげる! いくわよ……サモンライド!!」
【サモンライド! ゼッツ!】
……あの光景と同じ、突如世界の危機に響が現れて、すぐに右手に備え付けられていた道具からサモンライドによって仮面ライダーを召喚して一瞬のうちに戦闘員を蹴散らしていく……あの時の映像のままだ、絶妙に差異はあるが。
「あれ? 確かあたしってあの時召喚したの、ガヴだったような……」
「しかもこの時召喚しているのがあの胡散臭いゼッツ……」
オトノとウタがデジャブのように奇妙な光景を鑑賞し続ける、間違いなくあれは自分達にもあった、今まさに自分達が巻き込まれているクリスタルワールドの一件だが、何か様子がおかしい。
「あたしの名前は響! わけあってこの別世界……クリスタルワールドで魔法使いに目覚めちゃったの、あたしが召喚している彼らは分かりやすく言うと、あたしの世界の仲間みたいなもので……」
「……仮面ライダー、彼らはそう呼ばれていた、私たちの世界では!」
「仮面……ライダー?」
「貴方達は……異世界から来たのですか、あの怪人達と共に」
「私はスーパーアポロガイスト、この世界の住民にとって迷惑な存在なのだ……だが! 我々にとって何よりも迷惑なのが貴様だ!」
「は……はあ!?」
映像内の響とここにいるオトノの言葉がリンクしてしまった……あっちの自分の前に現れたのは『スーパーアポロガイスト』という謎の怪人であり、ボッカ・ジャルダックではなかった。
そういえばボッカはここに来てすぐにスーパーアポロガイストを倒したと言っていたのでこんな違いがあってもおかしくない……とはいえど、いきなりこんなこともあるのか?
ここに来てウタもまた考え込むようになってしまう。
「そうか……もっと、もっと奥まで進んでみよう」
ウタが一歩近づくように進んでいくと目の前に映る記録は倍速されたかのように一気に移動して進んでいく。
自分がやったようにヒューキャニオンを突き進み、ライドフィギュアを集めて仮面ライダーを召喚できるようにして怪人を倒していく……流れとしてはまだ一緒だが気になるのは、一向にウタ、及び奏の姿が見えない。
「ねえ、そういえば奏ってどうやってあたしを見つけたの? そっちもいつの間にか来てたって感じなんでしょ?」
「ああ……それはね、私が……」
ウタが話すまもなく歩いているとどんどん映像は変わっていくが……ここに来て向こうの響に大きな変化が訪れてその場で立ち止まる。
まるでこれを待っていたか予期していたかのように。
「お姉ちゃん、私がヒューキャニオン辺りで言ってたこと覚えてる? ここで起きようとしたこと……」
「ああえっと……ハンドレッドがどうとかゼインがなんだとかね、今振り返ってみれば相当的外れな結果になったわけだけど、奏がそういうの外すのって珍しくない?」
「あれはきっと外したんじゃなくて……『そういう方向性』もあったんだよ、あれを見て」
映像の中の響は……なんとクリスタルを見つけてる途中で大きな本を回収した、まるでそれを目的としていたかのように嬉しそうに跳ねて内容を確認している、オトノ達も相手が自分自身にも関わらず必死に覗き込んだりしているのでウタに引っ張られる。
「やった! ここにもあったのね『はじまりの書』!」
「は……はじまりの書? なにそれ?」
「メイドウィン……世界全てを管理して好きなように話の流れを操作できる人が読める……まあ簡単に言うと説明書とか台本みたいなものだね」
「奏はなんでそんなの知ってるの?」
「私もああいうところ居ると噂だけは聞いたことあるから……なるほど、どうやらあっちの方のお姉ちゃんやその仲間は『はじまりの書』を集めてるみたいだね」
向こうの響ははじまりの書と呼ばれるその本を包みこんで小さくしてしまい、ポケットに詰め込む。
そうして人混みから隠れたところに行って見えないところでこっそり取り出し、本を開き直して何かを操作している。
「じゃあ聞くけど奏、そのはじまりの書っていうのを自由に使えたらどうなるの? 今向こうのあたしがやろうとしてるみたいだけど」
「え? ……何言ってるの、はじまりの書はメイドウィンの所有物だからごく普通の別世界人のお姉ちゃんに使えるわけが……え? ウソでしょ? それダメじゃない?」
ウタも今起きている状況にビビり始めたが……本当に信じられない光景が映し出された、指でなぞるように動かすとはじまりの書が輝き……クリスタルワールドの雰囲気や形状が変わっていく、これには常軌を逸した行動をこれまで自ら繰り返してきたウタですら青ざめてオトノの首根っこを絞める。
「おい!! ちょっと何してるの!! それはさすがにやりたい放題にも程があるから!! 止めろ!!」
「やめなさい奏!! あたしじゃないから! いや、あたしではあるんだけどあたしが止められない方だから!!」
「く……狂ってる、何があってそんなことになったのか分からないけど、あっちのお姉ちゃんは他世界のはじまりの書の内容を作り替えて、自分の理想通りの道筋に作り替えてる……まるで玩具みたいに……そんなふざけたこと許されるわけないよ!」
「…………あのさ奏、それをあんたが言うのって時空犯罪者なりのジョークのつもりなの?」
「私はお姉ちゃん以外にそんなことしないよ!」
「そもそもするんじゃない!! ……にしても、なんであの燃えてる蝶々はこんなの見せようとしたのかしら?」
「……この力こそ、世界を救う鍵になる未来の力た」
二人が軽く喧嘩になりかけているところで映像は炎の粒になり……蝶々から、また炎に変わった後人間……いや、仮面ライダーガッチャードに変わる。
ただしこちらも通常のガッチャードと異なりオレンジ色のカラーリングで炎の装飾が加えられている。
「俺は……別次元の2043年から来たガッチャードだ」
「2043年……えっと、どれくらい未来だっけ?」
「お姉ちゃん……時空だと未来はいつ? とかそういう概念ないよ、それにこの流れだと多分、私たちと同類だし」
「ああ……もしかしてあたしみたいにカーレッジに負けた方のガッチャードとか?」
「…………そういう認識で構わない、まだまだ長い旅になるが俺についてきてくれ」
「ええ……あたしちょっと長いのは困るんだけど、いい加減クリスタルを取りに行かないと仲間が……」
「それさえもなんとかなる方法があるとしたら?」
暁色のガッチャードは振り返ることもなく更に炎から時空の渦を作り出す……このままついていくべきだろうか?
渦から渦へ行って更に渦へ進み……下手に進みすぎたらこのままギランガーデンから抜け出せないどころか二度とクリスタルワールドに戻ってくることも出来なくなるかもしれない。
オトノも選択に迷った時、ウタが手を握ってくれる。
「さっきも言ったよね響、これは物語の『そういう方向性』だよ」
「え……あのさぁ、あたし専門用語とか沢山あるゲーム苦手なんだけど結局何がしたいの?」
「うん、こればかりはしょうがないよね……あいつが悪いんだし、だからもう分かりやすいヒントを出してあげるよ」
ウタが手を伸ばして、叩きつける。
ひたすらオトノの顔を叩いて、叩いて、叩く叩く叩く砕く砕く割れる。
「うぎっ、かなでっ、やめっ、しぬぅ、死ぬからっ!!」
「うん、ごめんねお姉ちゃん1回死んでくれないかな……これが、答え合わせになるから」
そうしてウタはナイフを振り上げて……視界が光に包まれて何も見えなくなる、残ったのは全身から感じられる冷たい感触だけであった。
——それから間もなく目を開くと、クリスタルベースで倒れていた。
元々死人であり、クリスタルワールドに放流された仮面ライダーの歴史の一部とはいえ、死にかけたら痛いのだろうか。
悪気を感じなさそうな動きでウタがひょこひょこと来たので、咄嗟に足首を蹴って弁慶の泣き所に綺麗な一撃。
不死身の相手でも痛いものは痛いので、クリスタルワールドに行く前はこれをよくオシオキにしていた。
「いだあああああ!!! 出られたんだからいいじゃんお姉ちゃん!!」
「死んでやり直しとかゲームじゃないんだからやめてよ! ……ある意味ではゲームみたいなものだけど」
「はあ……ほらお姉ちゃんもちゃんと気付けたでしょ? この冒険とか戦いの仕組みも」
「ええ……まあそういうことよね」
音ノ小路姉妹はカーレッジ・フレインに敗れたことでこの世界に迷い込んだ、そしてギランガーデンの中で本来起きるはずの物語をまるでパラレルワールドのように何度も認識した、では今オトノ達がいる世界は?
……カーレッジ・フレインが生きている、つまり彼の好きなように出来ている。
どんなふうにもなれる。
「つまり私が言いたいのはね、カーレッジの好きなように……あの男が願えばこのクリスタルワールドの戦いも好きなように変化する、それはハンドレッドだったり、ジークだったりね」
「ああなるほど……あの頃はまだどんな風になるか分からなかったから当てずっぽうってこと? ならさ、もう一つのクリスタルワールドのあたしみたいにその……はじまりの書を作り替えてってできない?」
「出来るわけないよ、そもそもあっちだってお姉ちゃんがあんなこと出来ること自体天地がひっくり返って文明が誕生してもあっちゃいけないことなんだから…………そもそもあれ、相当まずい出来事じゃないかな」
「相当まずいって……たとえば?」
「……お姉ちゃんがカーレッジに負けたのがコレなら、ギランガーデンで当然推定されているのは……」
「カーレッジがあたし達に負けた後!? カーレッジはとっくに死んだのにあたし達は全然結末のない物語から出られてないパラレルワールドってこと!?」
「パラレルワールドなんて単語よく知ってたね……うん、それもかなり悪質な形で、世界を救うためにお姉ちゃんやその仲間がカーレッジと同等の事を平然とやって作り変えるということまで堕ちている、私だったらお姉ちゃん殺してるよ」
「あたしついさっきまさに奏に殺されたんだけど? ……しかしあの変な色のガッチャードはなんであんなもの見せようとしたの? まさかそれもカーレッジの……」
「誘導だろうね、あのガッチャードやお姉ちゃんは向こうからしたらのびのびとやれると思ったたら邪魔しようとしてくる死に損ないだし……」
「ええ……めんどくさ、こんな調子でどうやってギランガーデンのクリスタルを取りに行けば……」
「うん、まあ……実のところ私もどうすればいいか分かんなくなっちゃったよ、何をどうしても詰みというか、アイツの手が及び始めて死んでリセットとかゼッツみたいに出来ないかなと思ったけど……」
こんな時に他の仮面ライダー達はどうするのだろうか、或人は、ゼッツは、翔太郎は、あの仲間達はどんな行動をしていたのか? 響には分からない、仮面ライダーとして選ばれたのもたまたま残っていただけの彼女には到底……。
こんな時……飛電或人に会いたい、そろそろウタと二人きりでリードしてきたが限界が近い。
「あたし……あっちゃんに甘えたい、ちょっとだけでいいから、またあっちゃんに会いたいよぉ……」
「……お姉ちゃん、それならいい方法があるよ」
「うん」
「ヨールダークの方に……」
「もう全部、終わらせ」
「えいっ」
発言の途中で力強くビンタしてオトノの頭を震わせて……調子が下に戻る。
「あれ? あたし一体……」
「危ない……こういう時に便利だなリセット機能、調教が全部解けてなくてよかった……」
元々この作品生まれたきっかけが、ハーメルンでなんとか書けそうなノリにしたD世界線だと前みたいにあの姉妹出していちゃいちゃさせられないんだよな、じゃあキリを付けようという物なので。
最終的にそれ以外の色んなものまでキリつけちゃいましたけど