MNU サモンライド・ラストコール   作:黒影時空

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第16話「サモンライド小説をやりたかった」

 眩い光に満ちた天空の遺跡──ギランガーデンの清らかな空気の中で、オトノはゆっくりと目を覚ました。

 しかし、体を起こした彼女の視界に飛び込んできたのは、またしてもノイズと共に流れ込んでくる「別の並行時空」の凄絶な光景だった。

 そこでは今まさに、クリスタルワールドの命運をかけた最終決戦が繰り広げられていた。

 

「なにあれ……。もう、何が起きてるのよ……」

 

 オトノはただ、その光景を遠い特等席から眺めることしかできない。

 戦場の中心で不気味に蠢き、膨れ上がっていくのは、かつて仮面ライダーたちに敗れ去った怪人や悪の仮面ライダーたちの怨念、無念がどろどろに溶け合い、一体化した巨大な存在──『ギガスタル』。その中には、先ほどヨールダークの映像で見たスーパーアポロガイストたちの姿も混ざり合っているようだった。

 

 そして、その絶望的な巨悪に立ち向かっているのは、もう一人の自分──あちらの世界の「音ノ小路響」だった。

 あちらの彼女は、オトノたちの想像を絶するほどの数のライドフィギュアを集めていたらしい。

 サモンライドの光と共に、仮面ライダークウガから仮面ライダーセイバーに至るまで、平成から令和を駆け抜けた数多の伝説の仮面ライダーたちが次々と召喚されギガスタルへと容赦ない総攻撃を叩き込んでいく。

 

 その熾烈な戦いの中心、世界の裂け目に浮かんでいるのは、一冊の古びた本。

 すべてを書き換え、すべてを生み出す万能のアーティファクト──『はじまりの書』だった。

 

「そんなに凄い物なの……? あの本」

 

 オトノは思わず、虚空に向けてぽつりと呟いていた。

 

「あたし達の方にあるとして……運命を自在に操作出来るって、一体どんな実感なのかしら……」

 

「明晰夢のようなものだ。自分の理想を本を通して道筋に変えられる……まるで夢を見ているようにね」

 

「ひゃあっ!?」

 

 突然、すぐ隣から返ってきた静かな声に、オトノは飛び上がって振り返った。

 そこに立っていたのは、いつの間にか現れた群青の戦士──『仮面ライダーゼッツ』だった。

 ウタの能力でサモンライドされたわけでもなく、あちらの戦場から呼び出されたわけでもない。

 彼はただ、自らの意思でこのギランガーデンに佇み、オトノを見つめていた。

 ヨールダークやギランガーデンで嫌というほど見せつけられた、あの脳をかき乱す不快な幻影や過去の映像とは違う……このゼッツからは、確かな「本物」の気配と、どこか奇妙な信頼感が伝わってくる。

 

「ゼッツ……だったっけ? そういえば、変身してる人が誰なのか全然把握してなかったわ。ジークもあなたのこと『ゼッツちゃん』としか呼ばなかったし」

 

 緊張をほぐすように苦笑するオトノに対し、ゼッツは静かに首を振った。

 

「俺は……ここではコードナンバーセブンと呼んでくれたらいい。俺のことより、君にはもっと気になることがあるんじゃないか?」

 

「そんなこと言われたら、ありすぎるんだけど……」

 

 自分たちがすでに命を落としているという衝撃の事実、カーレッジやたくっちスノーに呪われたように収束していく時空の謎、そして目の前で繰り広げられているもう一人の自分の暴挙。

 聞きたいことは山ほどあったが、オトノは奏すらも「うるさい」と切り捨てて教えてくれなかった、一番直近の疑問を思い切ってぶつけることにした。

 

「……さっき、向こうのあたしが『ハンドレッドライン』がどうとか言ってたの。何か知らない? それって、あの『ハンドレッド』っていう悪の組織と何か関係があるの?」

 

「組織の方は、俺は知らないな」

 

 ゼッツ──コードナンバーセブンは淡々と答えた。

 

「だが……『ハンドレッドライン』なら知っている。それはA世界線で起きている問題だ」

 

「A世界線!?」

 

 オトノは目を見開いた。

 

「やっぱり今の時空って、いくつもに分かれちゃってるんだ……カーレッジのせいで」

 

「ああ、分かれていると言っても特殊な形だが……まずは簡潔な説明からしよう」

 

 セブンの説明は簡潔で、それゆえに冷酷だった。

 彼が語るには、目の前の映像に映る世界は、あの万悪の元凶『カーレッジ・フレインに勝利した後の時空』

 

 ──通称『A世界線』

 対して、今オトノやウタが泥沼に足を踏み入れているこの世界は、カーレッジに敗北し、世界そのものが都合よく造り替わってしまった後の時空──『D世界線』なのだという。

 勝てば官軍、めでたしめでたし──。

 

 普通ならそう思うところだが、事態はそう単純ではなかった。カーレッジという巨悪が消え去ったはずのA世界線は、彼の死後、むしろ手に負えないほど歪んで大変な事態に陥っているのだという。

 だからこそ、あちらの響たちは手段を選ばず、あらゆる作品世界を巡っては『はじまりの書』を強奪し続けている。

 

「えっ……待って? 強奪って……」

 

 オトノは血の気が引いていくのを感じた。

 

「それじゃあ、あっちのあたしやあっちゃん(或人)は……まるで周囲からしたら、ただの悪者みたいじゃない……!」

 

「俺も、なるべく彼女を悪く言うつもりはない。別次元の彼らがどんな悲痛な思いや大義を持ってそれをしているのか、その内情まではわからないからな」

 

 セブンは、感情を排した声のまま、しかし真っ直ぐにオトノを見つめた。

 

「しかし……客観的事実として言おう。A世界線の君は今、周囲から見れば正気の沙汰ではない行為を繰り返している。そして、その狂気の先に繋がっている計画こそが──『ハンドレッドライン計画』だ」

 

 ハンドレッドライン……それは特定のルートにおける分岐点の始まり。

 

「何かしらの漫画の例えになるが、東京から大阪に移動するとして……どんな乗り物を使おうが目的を果たすなら問題ないというのがなかったか?」

 

「ああ……なんか読んだことある気がする、それが何?」

 

「分岐点……ここさえ通っておけば例え穴を掘ろうがどんなに遠回りをしようが確実に最終的な所にたどり着ける、そこまでの間に何が起きても問題ない……そういう境界線を表している」

 

「ゲームのセーブポイントってこと?」

 

「そう……かもしれないな、そもそもハンドレッドラインを名付けたのはお前の関係者だ、カーレッジを倒す希望となった空ろな後継者……同名の作品世界から名付けたそうだ」

 

 その世界は……同じ道筋から始まって複数の結末、数え切れない運命、響達の世界と近縁だったらしいが通常と異なるその特徴は……およそ100通りのルートが存在してそれに応じて話の流れも変化していくことだ。

 

「ちょ……ちょっと待って!? 100個って多すぎない!?」

 

「多いだろう、だが……カーレッジが亡くなった後にも結末が訪れることが無かった彼らは、自分達の運命を『終わらせて』過去の物に変わろうと必死だった、そうして掴んだのがハンドレッドライン計画……」

 

 

 

「それは時空に存在するこの世全ての作品に対して分岐点となるハンドレッドラインを作り出すことで……各地点に100個の結末を作り出すことで消失させるという禁忌だった」

 

 奏はあちらの響を観た時に珍しく怯えた様子で「あってはならない支配」と一見するとどの面下げてと思うような発言をしていたが、セブンの言うことを考えると間違ってもないように感じる。

 ……カーレッジが死んだ後の並行世界の自分達は、自らの命運と時空を終わらせるためにはじまりの書を作り替えて、ありえない話を作り出している。

 

「じゃあ……あっちのギガスタルの戦いも?」

 

「そうだ、今でこそ正当に戦っているがそれもまた構築された『ルート』の1つに過ぎない……そしてそれが終われば途中まで帰り新しいやり方で結末を辿る、100種類になるまで繰り返されるんだ」

 

「……い、いやいや現実的じゃない、第一100個も違うことをするなんて、あたしそんな試行錯誤とか出来るタイプじゃないような……」

 

「ところがそうでもない、現実的ではないと感じるのは君の発想力の限界に過ぎない……元の百の結末でさえ裏切り、殺し合い、楽観的、悲劇、喜劇……どんな事でも出来る」

 

 これが……自分? カーレッジに勝ったとしてもこれが待っていた? それを負けて人でもなくなった歴史の自分に見せたかったあのオレンジ色のガッチャードはなんだったのか? 

 ……奏はあの時、『そういう方向性』といってなかったか? 

 

「も、もしかしてだけど……ハンドレッドラインってあたし達で言うD世界線にもあるんじゃ」

 

「……それはない、はずだ、そもそも今の時空を作ったのはカーレッジじゃないからな」

 

「え? あいつがあたし達を始末した後に作り直したんじゃないの?」

 

「それは本当にありえない……考えてもみろ、奴等にとって想定外の気に入らない行動を繰り返した俺達は……」

 

「ああそっか、それが4回目ともなれば痺れを切らして会いたくないってなるわよね……でもこうして5回目でもあたしやセブンちゃんは生きてると」

 

「セブンちゃん……何にしても、カーレッジが死んだ後にも面倒が起きている並行世界を含めて時空が独断で行動しているのが現在」

 

 ……セブンはここまで色んな事を話してくれたが、まだ疑問は多い……しかしここで今すぐに答えを聞くには時間が足りないようだ。

 彼の姿が見えなくなって……。

 

「夢でまた会おう、響」

 

 ——

 

「はっ!」

 

 こうしてまた夢から覚めたのか……すぐ隣ではウタの姿もあった。

 

「お姉ちゃん……よくあんな爆睡出来たね、私もうすごく目が冴えてきたけど」

 

「奏……? あっ、ウタ!! ゼッツのライドフィギュアってまだある!?」

 

「え? 普通にお姉ちゃんが持ってたでしょアレ……はい」

 

【サモンライド! ゼッツ!】

 

 ウタがオトノの服をまさぐり、ゼッツのライドフィギュアを取り出して言われずともサモンライドを行いゼッツを呼び出す。

 オトノはゼッツに対して大きく揺らして反応を確認するが何か大きな行動を起こすこともなく、夢の中のように喋ったこともない。

 

「……セブンちゃんこっちだと喋らないのね」

 

「セブンちゃんって……それ、夢の話だよね、でも何かあったみたいだし話してみてよ」

 

 オトノはウタに……あの夢の中で見た並行世界の続きの話の事、別れた時空の事、カーレッジに勝った世界線の方では認識されていないところでとんでもないことになっていたこと、ハンドレッドライン計画……とにかく色んな事を必死に説明してみた、信じてくれるかよりも……気に入らない時もあるが彼女は自分より賢い、もっと自分には予想だに出来ない答えを導いてくれるだろう。

 そう考えていたのだが……。

 

「オエエエエエエッ!! でろでろでろ!!」

 

 返ってきたのはまさかの嘔吐だったので驚いて蹴っ飛ばしてしまう。

 

「きったない!! 普通ここで吐くことある!?」

 

「ご……ごめん、なんか絶望的に間違った方向に空回りするお姉ちゃんと或人さんとかあまりにも解釈違いすぎて……ちゃんと話は聞いていたから」

 

 吐いたところから一旦離れて話し合うことにする。

 

「だから言ったよね、あのお姉ちゃんはカーレッジと変わらないって……」

 

「で、でもなんでそんなことになってるの? 確かりりすた革命団は無くなった結末を取り戻すために行動していて、カーレッジが死んでも終わらなくて……」

 

「そこまで大袈裟に考えなくてもいいよお姉ちゃん、私達目線で考えて……ほら、バンドしてた頃にスタッフさんとかよくいなくなったりしたよね」

 

「……あんたの仕業だけどね、何十人も手にかけて」

 

「過ぎた事は良いよ、それでいなくなった後には?」

 

「えっと……それはもちろん枠が開いたままに出来ないから、新しい人を……あっ!!」

 

「そう、カーレッジ・フレインの役……最初に彼が『傍迷惑で上から目線、何様のように周囲の関係者気取りをするキョロ充野郎』がたくっちスノーから約滑りした時のように『気に入らないからというだけで全世界皆殺しにして新しい自分好みの世界を作り直すラスボス』って役がその時抜け落ちた、その空いた枠にずるずる滑り込んだのがあっちのお姉ちゃんじゃないかな」

 

「奏、あんたそんな口悪かったっけ……いやなんか、これまで会ってきた中であの二人が嫌いなんだなっていうのはもううんざりするほどひしひしと伝わってきたけど、そんな事よりあたしが聞きたいのが……」

 

「今私達が体験している方にもハンドレッドラインみたいなものがあるんじゃないかって? あるよお姉ちゃん、これまで何度も経験してきたじゃん」

 

「え? で、でもあれはカーレッジが死んだあと、こっちで死んだのはあたし達で……」

 

「……AとかDとか名付けたのはそのセブンさんなんだよね、でもお姉ちゃん肝心な所が抜け落ちてるよ」

 

 

 

 

 

「……私達がいるクリスタルワールドって、カーレッジが私達を殺した後に作った時空と同義なの?」

 

「え?」

 

「ただの勘だけど……これまでのたくっちスノーとカーレッジの行動とか起きた行動振り返る余裕が私は昔からあったから……」

 

 やれたくっちスノーに存在した1京の兄弟達だの、やれ時空監理局の暴走や職員のどうのこうのだの、プロジェクトの協力者だの、たくっちスノーのライバルや後継機……更には3回目の時空から来た元祖革命団やたくっちスノーの分裂、『ティーの涙』なる超パワーを得られるエッセンスに……最終的にはパラレルワールドまで登場してしまった。

 こうしてみるとなんでもありだな……としみじみしてると、ホホを摘まんで真面目に考えろと言わんばかりに顔を向ける。

 

「片っ端から風呂敷を広げに広げた上、前に私が言った通り結局はカーレッジとたくっちスノーだけでも完結するから実際は繋がりが狭い狭い……それを想ってジークに会った時点で若干察してたよ、私達がイレギュラーなのは」

 

「カーレッジとは全く関係のない存在があたし達だからってこと……?」

 

「より具体的には私たちの世界が、だね……話を戻すと、こうしてイレギュラーだった私達がクリスタルワールド……並行世界のクリスタルワールドとは役割が違うんじゃないかって」

 

「世界の役割が……違う?」

 

「お姉ちゃんが見たのはどこのなんでもない、ありふれた他の世界と同じ感覚のクリスタルワールド、多分それこそ正確なんだろうね」

 

 ……自分達のクリスタルワールドがそれに当てはまらない、というよりはこの世界そのモノがあまりにも特殊な形? 

 クリスタルワールドは本来、他の数多くの世界と同じく何の変哲もない障害に過ぎなかったのかもしれない。

 しかし自分達は違う……もしも、D世界線でもなかったら? だってそうじゃないか、これまでの傾向から見れば……。

 

 カーレッジに会っていないことがおかしい。

 

 ということはつまり自分達はまだ特殊なところにいるのではないのか? 

 

「お姉ちゃん、ギランガーデンのもうちょっと奥に行ってみよう……もしかしたら最奥部に行けば私の考察が当たっているかもしれない」

 

「考察ねえ……今のところクリスタルは回収できてるし、奥にいけばもっと集められるかもしれないしね」

 

 こういう時でも一応この2つの世界を行き来している目的は忘れてないなかで……ウタに引っ張られるように一目散に奥に駆け出していく。

 ここで様々な映像が流れそうになるが、ウタは目を閉じて全部認識しないようにしている、よほど大好きなお姉ちゃんが異なる未来であんなことになっているのが下手におかしくなったよりショックだったらしく……。

 

「……う“うっ!」

 

 今でも若干吐きそうになっている。

 

 そんな中でも次々とオトノの視界に魔の手が伸びているように様々な情報が飛んできそうになるがウタは強引に目潰しでオトノの視界を遮る。

 

「ギャーッ!! ちょっと、ちょっとあんたね!! もうちょっとマシな手段はなかったの!?」

 

「うるさいなそれどころじゃないの今は! ……それが嫌なら瞼が張り付くくらいに目を閉じて!!」

 

 何も見えない、なるべく聞かない状態でウタを追いかけるのは至難の業でありその手を離さないようにするのが精一杯だった、途中から何のために自分がここまで走ってるのか、一体何がしたいのか、何になるのか分からなくなってくるときもあるが……ようやく目的の場所へと辿り着いたのかウタの足が止まる。

 

「何? 辿り着いたの!?」

 

「……うん、そうだよ、お姉ちゃんが何もかも正解だった、目を空けていいよ」

 

「開けていいっていうかあんたの指で穴が空きそうになっ……て」

 

 目の調子を戻して視界を鮮明にした時に……周囲に広がる光景は、ギランガーデンとヨールダークの境界線。

 それだけじゃない、もしかしたらここからヒューキャニオンとゴボルレイクとエンデルガスにも向かえるかもしれないくらいには同じ景色が見える。

 ……クリスタルワールドなのか? それにしては、奇妙だ。

 

「お姉ちゃん、やっぱりここはD世界線とやらじゃないみたいだよ……」

 

「えっ、じゃあどこなの? ……まさか、カーレッジが死んだ方?」

 

「いや、どっちでもない……ほら、ゼッツさんの言葉を足りるなら……分岐点なんだよ」

 

「分岐点……じゃ、じゃあ本当にあったの!? ハンドレッドラインは」

 

「あったかどうかまでは分からないけど……これで確かなことは、カーレッジが勝つか負けるかで分岐しているとしても……ここは分岐した後の余った場所……」

 

 

「お姉ちゃん、ここはクリスタルワールドじゃない!! 時空が滅んだ後に何らかのルートに分岐する直前、壊れた物だけが残る後始末されてないゴミ捨て場だよ!」

 

 

「そして私達は生き残ってるんじゃなくて、たった2人だけこのゴミ溜めになっても時空から出られなくなってるだけなんだよ! ……これは話が変わっているとかじゃなくて、本当にこの事実が隠れていただけなんだ!」

 

 ウタの悲痛な真実がこだますると共に……崩れて荒れ果てた空間で1枚のチラシのような紙が宙を舞う。

 それは……はじまりの書だった物の表紙だった、その名前は『仮面ライダー サモンライド!』……。

 




ヒューキャニオンからヨールダークまで5話ずつの予定だったんですよ
びっくりするくらい尺引き伸ばせなくて
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