MNU サモンライド・ラストコール   作:黒影時空

17 / 26
第17話「いつものやつさ、向こうじゃね」

 

『ゴミ捨て場』だとウタが吐き捨てたその荒涼たる境界線で、舞い散る『仮面ライダー サモンライド!』の表紙を見つめながら、オトノはただ立ち尽くしていた。

 

 この場所は表向きこそ、クリスタルワールドとしての体裁を辛うじて保っている。

 しかしその真実は、あの万悪の元凶カーレッジ・フレインに勝った先(A世界線)と、負けた先(D世界線)のどちらかに進むまでの、文字通りの境界線に過ぎなかった。そこに向かうまでに削ぎ落とされ、捨て去られた、この世全ての数え切れないほどの世界の「残骸」が一つに融け合ってできた澱(おり)──それが、今彼女たちの足元に広がる世界の正体だ。

 

 そして、オトノとウタの意識は、なぜか勝者の未来にも敗者の過去にも向かうことなく、この宙ぶらりんな「残骸の墓場」に残り続けていた。

 周囲を見渡せば、スクラップのように散り散りになりながらも、歪に結合された仮面ライダーたちの世界の要素が、あちこちで静かに明滅している。

 

「どうして……どうしてこんなことになっちゃったのよ……」

 

 オトノが頭を抱える傍らで、ウタは冷徹に、しかしどこか狂気を孕んだ目で周囲を観察していた。

 ウタの思考は加速する。新しく作られたとされる『D世界線』──それは、従来の並行世界や時空の性質とは、根本的に異なる別の概念として生まれているのではないか。

 だが、その仮説の答えを導き出すには、当事者に直接来てもらうしかない。

 いや、待て。ここがあらゆる世界の残骸が集まる「境界線のゴミ溜め」であるならば。

 

 何物にも遮られることなく、取り繕う必要もないこの場所なら……「彼」をそのまま呼び出すことができるのではないか? 

 ウタがそう考えて、オトノの手元にあるゼッツのライドフィギュアに目を向けた、その時だった。

 サモンライドのシステムも作動させていないのに、まばゆい光を放つこともなく群青の戦士──仮面ライダーゼッツが、ごく自然にそこに佇んでいた。

 

「えっと……今度は夢じゃなくて、現実(こっち)にセブンちゃんが来たのね?」

 

 オトノが戸惑いながら声をかけると、ゼッツ──コードナンバーセブンは、相変わらず感情の読めない声で応じた。

 

「そうなんだが……どうにもその呼び名は慣れないな。コードナンバーセブン、特務機関Codeに所属するエージェントだ。だが、気付けば俺も稀に、この場所に意識を引っ張られるようになったんだ」

 

「ああ、貴方が例の……」

 

 ウタが冷ややかな視線をゼッツに注ぐ。

 少し前からジークという男が現れては消え、オトノたちの素性を知る素振りを見せていた。ウタの疑問はそこにある、このゼッツ、あるいは彼が属する「Code」という組織は、以前からこの時空の異常や、繰り返される物語の再構築(リセット)を把握しているのではないだろうか。

 

 時空がどれだけ書き換えられても、記憶や体験を忘れることなく保持し続ける人間がごく稀に存在するし、響の仲間にも何人かいた。

 ましてやセブンは、ジークたちから「失敗した未来を予知夢ということにしてやり直したことがある」と聞かされている男だ。元より彼には、時空の改変に抗う特異な能力が備わっているに違いない。

 ウタは一歩前に出ると、ゼッツを値踏みするように睨みつけた。

 

「ちょっといいですか、セブンさん。それに貴方……お姉ちゃんが夢でしっかり聞いていた通りなら、我々やお姉ちゃんの仲間ががカーレッジに敗北した後の時空を『D世界線』って言いましたよね?」

 

「……ああ、言ったな」

 

「妙だと思いません? 世界線をアルファベット順で分けたとして、Aの次が、なぜ飛び越して『D』なんですか? まるで、その間に『B世界線』や『C世界線』が存在していたかのような言い方じゃないですか」

 

 ウタの指摘に、オトノもハッと息を呑んだ。

 それだけではない。A世界線が「勝った方」だという点にも違和感がある。オトノたちの知るカーレッジという男は、どれだけしぶとく、何度も倒されても決して終わらない最悪の存在だった。

 その決定的な最期となる「勝ちの未来」が、なぜ最初の分岐であるかのように先に来ているのか……基本的にゲーム的な例えになるが『最初』といえば基本的に『正史』扱いではないか。

 

 そして、そんなA世界線の「その先の狂気」までを、予知夢として把握しているこのセブンという存在自体が、あまりにも不自然だった。

 セブンは静かにウタを見つめ返した後、仮面の奥から、己の過去を静かに語り始めた。

 

「……俺の世界だと、人間の起こしたものとは思えない超常的な事象は『ブラックケース』と呼ばれていた。その中でもCodeでさえ隠蔽しきれなかった世界最大規模のブラックケースがある。それが深刻なまでに一部の人間にだけ起こる『デジャブ(既視感)』だ」

 

 一度も経験したはずのない光景を、はっきりと覚えている感覚。

 同じ人生を、同じ戦いを、何度も何度も繰り返したような悍ましい錯覚。そして、それを単なる勘違いではなく、はっきりと「世界が繰り返された」と認識できる者は、さらに一握りに限られる。 

 それが、今のセブンの正体だった。

 

「言いたいことは分かる。お前たちの疑問は尤もだ。この空間は、これまでに──」

 

 セブンは一呼吸置き、この世界の最も深い傷跡を告げた。 

「13回だ。時空は13回も、あのカーレッジによって作り直されている」

 

「じゅ、13回……!? それってどれくらい!?」

 オトノが驚愕の声をあげる。

 

「勝った世界線と、負けた世界線。その狭間に転がっているこの残骸の山に、俺の意識が居座ることは初めてだが……。お前たちが不審に思うのも無理はない。AとDの間には、語られることすらなかった無数の『失敗作』が眠っているということだ」

 

 崩壊した世界の風が、三人の間を吹き抜けていく。仮面ライダーたちの戦いの記憶が混ざり合うゴミ溜めで、オトノたちは今、時空そのものが隠し続けてきたカウントダウンの真実に直面していた。

 

「奏……今の話本当だと思う?」

 

「4回失敗したのが私達の時空だから、計算上はB世界線とC世界線も同じ失敗をしていたならあり得るはずだけど……BとCはあのカーレッジの件とは違うんですか?」

 

「そうだ、奴はA世界線で死んだ後に時空全土の情報を発信するアカシックレコードのような装置を発信し、記憶をリセットしてやり直していた……そう、俺だけが夢を通して覚えていたんだ」

 

「嘘!? 結末を知る者以上に!? ……あんたちょっとズルくない?」

 

「俺もそう思う……」

 

「つまりBとCは分岐ではなく1からやり直したと……」

 

 A世界線で使っていたものが時空監理局で開発された多元観測空間物語作成装置、通称『kakiko』……しかし年季があったのかリアルワールド歴2026年4月下旬に機能停止したが密かに動いている、カーレッジの死後は結末を取り戻すためにはじまりの書を強奪して物語に100通りの結末を植え付けて強引に終わらせる『ハンドレッドライン計画』を遂行するテロ組織に堕ちてしまう、永遠に終わらず破滅を招く恐ろしい歴史だ。

 

 B世界線はたくっちスノーが開発した、『もしも』から生成AIを元にしてパラレルワールドを作成する変幻装置『g-rok』……しかし、物語の途中で時空そのものが完全に停止して生き地獄のようになった、これも危なすぎる。

 

 C世界線はB世界線をほぼ一致させたような形で……作り上げたのが『g-rok』のコピー品である複製装置『ジェミニハート』……ただしこちらは早い段階であまりにもカーレッジが出しゃばりすぎた、新型の多元観測空間物語作成装置である『Hameln』は彼らの行いがこの観測に不適切であると判断して封印する流れに至った。

 

 これまでのことを……時空も覚えて認識している。

 要するにアレもダメダメ今は出来ませんとはいはいここに合わせて従えばいいんでしょとばかりに形を変えて適応するように発展していき……最終的に『カーレッジに負けた後』を新たな可能性として試しているのが、メタ視点から見れるセブンの推測だ。

 

「貴方……やっばりズルくないですか? 実は貴方、ゼッツの皮を被ったたくっちスノーじゃないですか?」

 

「違う、それは断じて違う……そもそも俺はブラックケースとして聞いただけで結局あの生物と接触する機会は一度もなかったからな」

 

「そういえばあんなに世界を飛び回ったのに接点なしの人たちとか世界も山ほどあったわねー、時空の世界だってあんなにいっぱいあるのに」

 

「それにほら、実際近づいてみるまで周りに何の影響も無かったから……もしかして後から生えていたのかも……もう終わったものをあとから考察しても虚しいだけですが」

 

「ああ、それでそのたくっちスノーだがD世界線でもばっちり生きてるぞ」

 

「は? やっぱあいつなんか依怙贔屓されてません? ……というか、あいつなんかしぶとすぎません?」

 

「うん……なんかあいつが生き残ってるのは安易に想像できたけど……他には?」

 

「……残念ながらあいつだけらしい」

 

「ごめん奏、あたしもなんかちょっと不公平感じるようになってきたわ」

 

 見えないところで何があったのか知らないが、負けた後にもなんか一人だけ生き残ってるどっかのスマッシュのクロスオーバーなピンク玉の如く神の庇護を受けているなんかヤバい元犯罪者。

 しかしセブンが集めた情報によれば……そんな奴でもただでは済まなかったというか、あれだけの凄い能力者がほぼ満身創痍になるレベルの衝撃が走ったので、むしろそんなもの受けてそれ以外が生きられるはずもないってレベルのことが振りかかり……。

 

「たくっちスノーは肉体全損傷、たった一人生き残って電脳仮想空間『Sora』でしか生きられなくなった、しかしSoraも過度な使い方をしたせいで耐え切れなくなり消滅……以降は姿こそ確認されているが俺でも痕跡を辿れなくなった」

 

「……どうせ遊園地か秘密基地でも作りたいとか、仲間を作ろうとしたら裏切られたとか、いつも通り後先考えず風呂敷広げようとして想定外に失敗したなんてオチだったりしそうですが」

 

「その影響もあるが……これは口で話すより夢の中で作ったcodeの報告書を見たほうが早いだろう」

 

 ——

『旧世代マガイモノ1京号』

 通称:たくっちスノー調査報告書。

 

 コードナンバーセブンより報告、13回目の時空再構築を確認。

 たくっちスノーの状態:全能力喪失、一次的な記憶喪失の頻発、目撃例多数、偽名と擬装を幾度となく繰り返しており……。

 ——

 

 抜粋するとこのように、頻繁にたくっちスノーらしき存在が確認された痕跡とほぼ全ての力を失って……自身の住処となる場所がなくなっても尚、カーレッジに執着していることが記されている……奏しか読めなかったが。

 

「えーとつまり?」

 

「たくっちスノーはほぼ全部のアイデンティティ消失してもしふとく生き残ろうとしてる……この人そこまで出来るんだって尊敬みたいな感情が芽生えてくる、能力何も無くなって以前みたいに役に立てないのになんで生きてるの……」

 

「あんた本人がいないからってね……まあ確かに、変身能力とかあのめちゃくちゃな力とか何一つなくなった姿のたくっちスノーってあっちで何してるのか気になるところではあるけど……」

 

 味方は全滅、能力は消失、唯一の城も勝手に陥落。

 あの様子でD世界線に生き残ったとしてもまじでこの人何やってるんだろうという気持ちが本当に忘れられない。

 ……そういえば、セブンはどこから来たのか? 

 

「セブンちゃんって今はどこが主軸なの? BとCがダメになったのは分かるけどどこで暮らしてるのか……」

 

「俺か……俺は一応朝起きるときはA世界線でのびのびと過ごしてるが、ジークも同じところだな……でも今動いているのは『GPT』という装置で……それがD世界線に動いているから……主軸の可能性が高いのはD世界線だろう」

 

「そっか……あたし達せめてセブンちゃんの世界にでも行きたいけどどうにかならない? Aはちょっと……あれとしてもDまでならちょっと世話になりたいの、カーレッジは出来ればぶん殴りたいし」

 

「残念だがそれは出来ない、何故なら『仮面ライダーゼッツ』の物語はまだD世界線で始まっていないからだ」

 

「始まってない? なんでわかるの?」

 

「D世界線が特殊な形なことは私も把握してますが……ちょっとやり方を変えたとか? 少なくともAからCまでの世界が広がる形じゃないことは」

 

 響達にとって馴染み深い時空と呼ばれるものは、たとえるなら『仮面ライダークウガ』『仮面ライダーアギト』のように作品ごとに一つの世界があったものだ、そこで巡り合う度に何か厄介な事件と遭遇する、たくっちスノーある所に事件有り。

 だがここで奏は今更になって時空が肝心なところを見落としていたことを言う。

 ……どんなに世界があっても動かす脳みそが一つなら、まとめて数百以上も世界の歴史を動かせない、それを直すなら方法は一つ。

 

 ……最初から『一本道』に変えてしまえばいい。

 

「全世界を結合したんですね? 例えばそう、横並びから縦並びみたいに……年代が変われば会えなくなる関係があるように」

 

「どういうことよ! 説明して奏!!」

 

「分かりやすくお姉ちゃんにとってショックな出来事として言うと、『仮面ライダーゼロワン』の時代が始まったとして100年以内に私達の世界の出来事が起きない場合向こうの或人さんに会う方はあり得ないってことだね」

 

「こうしてみるとDもDで無茶苦茶だろう……もういるんだろう、ボッカ・ジャルダック」

 

「ああ、何から何まで面白いショーだったよ君達」

 

 拍手と共に現れたのは……ボッカ大統領、それだけじゃない、ジーク、バグスターに武神鎧武、ジャマトにゼイン……数々のキャストのようにオトノとして相対した存在が幻影のようにうっすらとした形で並ぶ。

 この場所が取り残された跡地と考えると彼等の見方も変わってくる、言うならば彼らは自分達と……同じ? 

 

「ああその通りさ、我々はジーク君から事情を聞いている……D世界線から『我々の物語』が始まるまで今か今かと待ちわびているのだよ、我々はここでただ戯れているに過ぎない……時が経てばカーレッジ君とやらが用意した新しい箱庭で次のチャンスが待っているのだからね」

 

「ゼッツちゃんもさぁ、フィギュアごっこはやめて一緒に遊ぼうぜ? 俺達『仮面ライダー』の時代が来るのは結構先みたいだし、あの勢いだと一人決まるのも相当時間かかるみたいだからさぁ!」

 

 ジークは笑いながら今回のネタバラシのように楽しそうに笑っている……ずっと、ずっと自分達はこんなものに付き合わされていた? まさかそんなはずは……。

 

「何言ってるの!? あたし達含めて侵略者の分際で!! トレイナは、ミヌークは、メモルは!? クリスタルワールドのみんなはどう説明するのよ!!」

 

「おいおい察しが悪いなぁ魔法使いちゃんは、考えても見ろよ、俺のナイトメアやcode……その他大勢、これだけ集まっていれば出来ない事はない、だから『魔法使いちゃん』だって皆で丹精込めて作ったんだぞ? その道具!」

 

「サモンライドもあんたらなの!?」

 

「なんというか、謎が解決していくのに腑に落ちない感が残るくらいなら一生秘密のままで良かった気がするという感覚がしてきたような……」

 

 つまりは……ちょうどサモンライドのチラシが広がっているのがそのまま答え、自分達の物語が始まるまでどれだけの時間がかかるのかわからない、幸いにも資源と時間はいくらでもあるのでカーレッジ抜きでカーレッジみたいなことをやってみようということだという。

 トレイナ、ミヌーク、メモルはもういない……いや、いないというよりは今進行形で行ってしまったという。

 

「俺だって空気読んでちゃんとD世界線は意識してるんだぞゼッツちゃん、2068年に異世界に開通とかいうおもしろイベントが発生したから、んじゃあ仮面ライダー達でそういうのやってみない? とパーティしてたらマージで向こうもアレやってたわけ! 『サモンライド!』……ま、向こうじゃ仮面ライダーなんてまだ歴史に含まれてないからあるのはクリスタルワールドとあいつらぐらいなんだけどな」

 

「面白いことにカーレッジ君でも次に何の歴史が始まるのか分からないためにああいった事故もあるらしい、それを見物しても良かったのだが……」

 

 D世界線でカーレッジとたくっちスノーがまた名称を変えてクリスタルワールドに転移したところをHamelnに映してもよかったのだが、仮面ライダーもいない彼が一人で駄弁っているだけの物語を26エピソードもやるのはあまりにも苦痛すぎた、だからこっちも『やってみた』

 

 それだけの。

 

 たったそれだけの。

 

 

 あまりにも身勝手だがしぶとく死を乗り越えた世界の真実だった。

 

「……つまり、トレイナたちは最初から『いなかった』ってこと?」

 

「そう、まあこの場所目線で言えば出番が来たから消えたってことだね、ははっ! 魔法使いちゃん達も早くそうなるといいね~!」

 

 

 

「あっ……ははは!! ははははははははははは!!!! ふざけるなっ!! ふざけんな!!! ふざけんなあああっ!!!」

 

「うっ……『呆れて何も言えない』なんて言葉もあるけど、まさにそんな感想になると思わなかった」

 

 ウタからすれば、自分達の出来事や記憶が全て嘘と言われ、例えるならまるで自分達が53作も続いた名作ゲームの役として演じていただけの存在にすぎないとかカミングアウトされたときのような感覚だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告