元々たくっちスノー絡みというだけで嫌になってくるのにここまでの流れからしてどこまでもあいつから逃れられないということが分かって、だがその上で出来る事も何もないゲームオーバー……いいやそもそも始まってもいないという結果には慄くしかない。
なんともまあとんでもない結果、これには足をとめることしか出来ない。
このままD世界線に進むのを待つしかないのか? 変なパラレルワールドや新しい世界線が出来るのでも待つのか?
……それも期待できない、それが出来るならこんな暇潰しをしなくとも勝手に試しているかもしれない。
あるいは成功したとしてもここにある意識は抜け出せなくなった?
考える時間はあるが余裕がないようだ……というのも、自分はともかく響の方が限界が近そうな感じがした。
まあこれまでの衝撃展開連発というか、いってしまえば 投げやりな真実を孤独に伝えられてまともでいられるほうが不思議ではあるのだが……あとちょっとというところで折れてはないし壊れてもないが、歩く気力も無くしてしまった。
「奏……あたし達は何のために『オトノ』と『ウタ』って名乗らされたの? なんで最初から『音ノ小路響』と『音ノ小路奏』じゃいけなかったの?」
「それは……私にそんなこと言われても、そもそも私が『ウタ』って名乗ったのはお姉ちゃんが名乗れないなんかアレな状況だし、見たところたくっちスノーもいなかったからだし……」
そんな響の悲痛の悩みに応えたのか、ジークが自ら落ち込んだ響の顔を覗き込むようにして目を見開いて言葉を発する。
「これは俺達のお遊びとは関係なーいけどずっと言ってるだろぉ? お前はイレギュラー、A世界線じゃ見ていないからって好き放題出来た、だからゴミ溜めになってもA世界線だけなら存在していられる、でもねえ君等はや〜りすきだんだよ魔法使いちゃん、お前は或人ちゃんの世界に招かれた! ベルトまで手に入れたどころかそれで飽き足らず或人ちゃんの相棒ツラして恋仲にまでなろうとかさぁ、ウケるよね」
「な……何よ!! あたし達だって好きでそうなったわけじゃないし、あっちゃんと恋仲なんてそこまでの仲じゃ」
「そう思ってなかったとしてもそうなっちゃったの! 今や時空にとっての『音ノ小路響』といったらお前、そんな風に根付いて離れない……あの石動ちゃんのようにね、だが新しい時空ではそうもいかない! お前達は世界其の物含めてもD世界線に居場所なんてないんだよ!」
「居場所がない!? 勝手にそんなこと言わないでよ!」
「あー……もう、どこから説明すればいいのかなぁ? だってお前らは俺たちとはまた違う『特殊』なんだもん、別に魔法使いちゃん達に限った話じゃないぞ? 他にもそういうやつはいる、それがお前もそうってだけ……ってのが伝えにくいなぁ、もう!」
「その辺にしておけジーク……本当は彼女だってわかっているはずだ」
響と奏はもう、時空にはいられない……それはカーレッジがそう決めたのではない、そういう都合的なものでもない。
『そういう流れ』というか『最低限のアレ』に則る以上言われなくとも守らなくてはいけないライン、そこに引っ掛かるのが今の響と奏だ。
希望の月とか絶望の太陽とか、まあそういう事情もあるにはあるが……少なくとも、もう無理なのであるやっていくには。
それを認められないというか、忘れたくないと願ったことで生まれたのがある意味でこの場所でもあるので皮肉なものだが。
……と、ここまでごちゃごちゃ話してきても座り込んだ響としてはもうだからどうした、であるし奏もこの荒れ果てたものや、拾い集めたスクラップを集めながらため息を吐く、そろそろ本格的に自分の立場と今後について受け入れ始めていた。
「……それで、ボッカさん達は何がしたくて私達にこんな気色の悪いネタバレをしたんですか? お姉ちゃんのテンションがどん底なことを合わせても……何か意味があったようには感じられなかったように思えるのは……」
「ん? ああ……さっさとギランガーデンに行ってほしかったから、それだけだよ……最初の予定だと一つの世界で5話の予定だったがね、ヒューキャニオンとエンデルガスはそれでいけたのだがゴボルレイクは張り切りすぎてイベントも欠けてね……クリスタルワールドの住民も行ってしまったし、それなら20話までの分をかけてでもギランガーデンの省略を……」
「いい加減にしろ!! 曲がりなりにもキャストとスタッフやるならそういう裏方の事情とかこっちに漏らしてんじゃねえってのがわからないのか!? 真面目にやる気あるの!?」
「真面目にやる気が少しでもあるなら、こうやってとっくに終わった残骸なんて拾い上げません……っての、それでもまあ妹ちゃんの言うことも最もだし、どうせ暇つぶしするならちゃんとやりきらないとっていうわけだ、はい撤収!」
ジーク達はやるたけやった後にまた消えてしまった、あれだけの人数が自分達の物語が始まるまでの暇潰しに過ぎないというのが、なんともとんでもない結果だろう。
そうして分岐点である世界の中心部に残ったのはセブンと、座り込んだ響と、奏だけ。
「……セブンさん、貴方も共犯ですよ、消えてくれません? 仮面ライダーゼッツとして頼れる味方役になって楽しかったですか」
「そうだな、そうかもしれないが……まさか2人は知ってた上で付き合ってたんじゃなかったのかって全然気付かなくて……ヒューキャニオンで落ちてた辺りとか」
「そんなことあったなら私はもっと手加減なしにやりたい放題しましたよ、あいつの手がかかってると思ったら全部壊さないと気がすみませんし……まあ、貴方に悪意は感じなさそうなので構いませんけど」
しかし自分はA世界線じゃないにしても過去でやってきた振る舞いが通用しなくなった上に居場所がないからここに放り出されたまま……というところまでは理解したとして、自分達は一生このままなのかあるいは消滅して何もかもなくなってしまうのかも分からないが……本当にどうすればいい?
しかしくよくよしていられない……ある意味では『響』らしくないヒーローとしての精神が立ち上あがらせた。
「ねえ、もしもお話をこのまま進めてギガスタルを倒した後どうなるかわかる?」
「分からない……元々サモンライドの内容だとギガスタルを倒したところで怪人が現れるのは変わらないって内容だったとはじまりの書に書いてあったから」
「ああ〜……倒したところでなんかハッピーエンドにならず永遠に続くタイプなんだ、結末のない物語だからそんなものとはいえ……あっ、もしかして本当にこれ繰り返して本当に歴史来るまで待つつもりなんじゃ……だったら嫌よ降りる、本当にクリスタルワールドの危機ならともかく茶番に付き合うつもりはないから」
「俺自身、ジークはともかく他の奴らと結託してふざけているとは思わなかった……そんなに暇だったのか彼らは……いや、俺としても昔を思い出すという意味で覚えがあるというか……」
「……本当に信じていいのねセブンちゃん、あんたは違うって、暇とかじゃないの?」
「暇とかそういう次元はとっくに過ぎたかな……こっちは同じ物語を4回繰り返してるし、同じ予知夢を4回見たし、20年かけてこのドライバーを作り直すところも何もかも何回もやった、長い時間を過ごすことに慣れすぎて感じることも少なくなった」
「全部覚えてるのも難儀なものですね……前提自体が間違っていた私達が言えたことじゃないですが……なら、ジークの言うことも事実ですか? 私達の世界がD世界線に行けないって」
「そうだな……二人にも分かるように例えると……ほら、逃走中とかよくやってた頃にたくっちスノーがよく頼りにしていた神様達が居たことを覚えているはずだ」
それは時に『魔神の力を宿し、様々な力(オーラ)を放つ戦士』だったり……あるいは『変幻自在の力(エフェクト)を展開して支援してくれる者』だったり、あるいは『たくっちスノーのようにマガイモノの力を得た外伝の者』だったり、響もよく見ていたし、下手すれば誰よりもたくっちスノーのそばにいたかもしれない、彼と同じく『物語を作り出せそうな力を持つ彼ら』……そんなやつがかつては、たくっちスノーのそばに沢山いた。
まさか彼らも……?
「……彼らもまた、B世界線以降には姿を見せなくなり、D世界線で復活する気配もなく、この場所にも来ていない」
「えっ……じゃあ本当にあたし達以外にもダメだった人っていたんだ、しかも結構身近なところで」
「たまにたくっちスノーを観察出来ることもあるが、本当に彼らに会えないことにショックを受けてそっくりさんを作ろうとしていたこともしていたな、上手くいくこともなかったし……本当に作ったらまずいものだったのかもしれないが」
それだけの力を持つ凄い奴らはどうなってしまったのか? この場所でも彼らの痕跡はない……そもそも、彼らは一体どんな世界から来ていた? 元々、何かスポーツとかテレビ番組とかで遊びに来ることは結構あっても彼らの危機が訪れても助けに向かうことはなかったあんまりな関係なので、元々『彼ら』がどこから来ているのかさっぱり分からない、それにしたって万が一返ってきたとしても便利枠として酷使される未来しか見えないために
しかしとりあえず、ここにいないことは確かであり、自分達もまた同じような分類なことはようやく理解した。
「はぁ……どうせならカーレッジに対して何かしらリベンジ出来たら胸がスッとするけど……あたし達は無理としてセブンちゃんどうするの?」
「どうする……どうすると言われてもなあ、結局A世界線はkakikoが反応しない今に大雑把に見る事は出来ても大胆に侵入は出来ないし、D世界線で待ちわびているのは俺も同じだからな……」
「というかそれで言ったら、あたし達もしかして皆いなくなるまでずーっと茶番に付き合わないといけないの? それはさあいくらあたしでも……」
そう、いくら響が普段やりたいことや趣味傾向が幼稚でも下手したら何百年もサモンライドごっこに付き合えるほど寛容でもないのでライドフィギュアも放棄して別の遊びに取り掛かろうとしていた。
この旅をしている間に昔に戻っていたような感覚であり……ゼッツの姿も薄くなる。
「あれ、セブンちゃん行っちゃうの?」
「俺は夢を見ている間しかここにいられない……はずだ、多分A世界線の俺の方が朝を迎えようとしている、今度来た時どうなっているか……あっまずいそろそろ本格的に起きそうっ待ってせめて最後くらいはカッコよくっ」
言葉を発する途中辺りで蝶の群れになって消えていくセブン、夢から覚めた後に彼はまたどうなるか……そんなこと彼女達には知る由も無いので今後どうするかだが……奏の手を握る。
「ねえ奏鬼ごっこしない?」
「こんな走るには最悪すぎる立地で!?」
——
数分後。
「飽きた」
「そりゃそうだよ!! 私とお姉ちゃんしかいないんだもん!!」
本格的にやることがなくなって、メモル達の事も連絡がなくなったのでゴロゴロすることの繰り返し。
そう、下手すればこんな光景がずっと繰り返されることになるのだが……響は背伸びしてガラクタを漁っているとまた数多くのボロボロになった本が出てくる。
「奏これ読める?」
「ええ? これ……ああ、これ使い物にならなくなった『はじまりの書』だよ、言っとくけど普通の人が読んだら情報量で頭破裂して死ぬよ」
「じゃあ奏は……今は人間だから無理か、でも何か使えない? 暇潰せそうじゃない?」
「お姉ちゃん……一応メイドウィンの証明書みたいなもので、オモチャじゃないんだから……うーんでも、使えること、使える事……あっ、そうだ」
「A世界線の鑑賞会なら出来るよ」
「あ○○んで流行ってるやつね!」
——
「ザギバスゲゲルやっと終わったよお姉ちゃん」
「ちょっと血みどろすぎてあたしには無理だったわ……宇宙進出して真っ先にやることがグロンギとの戦いってどうなの……」
この「残骸の墓場」に腰を落ち着けてからというもの、響と奏が時間(それがあるのかすら怪しいが)を潰すためにやり続けてきたこと、それは自分たちの手が絶対に届かない異なる未来──『A世界線』の様子を、壊れた「はじまりの書」を通じて鑑賞し続けることだった。
カーレッジを倒したはずのその未来を軸にしても、結局のところ『結末の来ない物語』は一向に解決の兆しを見せない。どんなに凄惨な、あるいは壮大な出来事が画面の向こうで進もうとも、こちらの澱んだ世界には何一つ変化が訪れないのだ。
かつて耳にした、物語に100通りの結末を植え付けて強引に終わらせるという『ハンドレッドライン計画』とやらは、結局少しだけ実行された描写があったきりで、その後どうなったのかはさっぱり分からない。
それどころか、少し後には時空を突破して遂に銀河の果てにまで進出する始末。そこで始まった、今まで放送されていた仮面ライダークウガの物語にいたっては、スケールが大きくなりすぎて本来の警察と未確認生命体の攻防からとんでもなくめちゃくちゃな領域に突入していた。
途中までは自分たちも関わっていた、いわば乗り掛かった船のような時空なこともあって、最初は懐かしむ余裕もあったのだが、今やそれすらも序の口に過ぎない激動っぷりである。
「たくっちスノーが分裂して『タスキ』と『ツインテ』なんて名前に変わったのも驚いたけど……衝撃的だったのは、ページを何十ページも読み飛ばしたんじゃないかってくらい唐突に年代が飛んで、子世代が出てきたことね……」
「お姉ちゃんと或人さんの子供も双子だったね」
「ちょっと、あのおじさんの詭弁を真に受けないでよ! ……って言いたいけど、あっちの映像で本当にそうなってるんだから、もう何がなんだか……」
向こう側の世界線は、こちらの困惑を置き去りにしてぎゅんぎゅんと恐ろしいペースで話が進んでいく。
周囲の人間たちにしても、いつの間に結婚からその先まで発展していったのか首を傾げたくなるほどの速度で、次々と新たな世代が台頭してくるのだ。
さらには、パラレルワールドによる別の側面を持つ実質的な同一人物たちが、一つの大きなシェアハウスを組めるくらいにはゴロゴロと溢れ出てくる。
ダラダラと続く物語を終わらせるために、向こうの住人たちも幕を降ろす方法を必死に模索しているはずなのだが、皮肉なことにキャラクターたちが減っていく気配は微塵もなく、むしろ増える一方だった。
まるで場違いなビデオ店の展示棚のように、足元に無数の本──世界の残骸が並んでいる。
本来の仕様であれば、ただの人間には読むことすら許されない『はじまりの書』だが、今は機能停止した『kakiko』の残滓か、あるいはこのゴミ溜め特有のバグか、同じ目線から向こう側の出来事をスクリーンのように鑑賞できるようになっていた。
どういう順番で記録されているのかは分からないため、時系列は飛び飛びで脈絡もない。だが、少なくとも鑑賞するたびに「誰かしらが増えたり減ったりしている」「物語の規模がどんどんインフレしている」という違いだけははっきりと分かった、まあ昔からわりとそうだったし。
そうして今度は、おもむろに足元から『仮面ライダー龍騎』の要素が混ざり合ったはじまりの書を取り出し、また新しい映像の再生を始める。
「ねえ、また何かあたしが増えてない?」
「そりゃ龍騎の世界だもの、鏡越しの反転した誰かしらとかだったり、聞いたこともない未知のミラーモンスターも出てくるでしょ」
「もうやだぁ……あたしがおばさんになっても、あっちのあたしたちはまだこんな戦いをごちゃごちゃやってるのかな……。奏はいいわよね、そっち側の存在だと不老不死で年を取ることなんてないんだから」
「いや……ここまで来ると私もそろそろ、この物語やお姉ちゃんとの付き合い方を考えるべきだと思うけど……」
世界を巡り、戦いを繰り返し、その度に新しい道が開かれ、果てが見えなくなる。
カーレッジに勝った先の未来はとても明るいものなのかと言われれば、今こうして見ている限り、お世辞にも手放しで祝福できるような形ではなく、むしろ非常に強い疑問が残る歪な状態だった。
けれど。
こうして延々と退屈な特等席から様子を見せられていると、完全に蚊帳の外に置かれた敗者としては、ちょっとばかりその「めちゃくちゃさ」を真似して試してみたくなるのも、人の性分というものだった。
A世界線での仮面ライダー龍騎の世界の出来事が一通り画面の向こうで終わりを迎えたのを見届けると、響は「よっこらしょ」とだらしない声を上げながら立ち上がった。そして、周囲に転がっているスクラップや仮面ライダーの要素が明滅するガラクタを、両腕いっぱいにかき集め始める。
「奏、思いついたことがあるから手伝って」
「お姉ちゃん、今度は何して遊ぶつもりなの? 鬼ごっこはもう飽きたって言ったばかりだよ」
響は腕の中のガラクタを地面にドサリとぶちまけると、悪戯が成功した子供のような満面の笑みを浮かべて言い放った。
「おままごと!」