残骸の上の即興劇を整えるために数々の用意をしていく。
「おままごと、って……お姉ちゃん、ここにあるの全部『仮面ライダー』の世界が融け合ってできた物騒な残骸だよ? ……あっ、もちろんそれ以外も山ほどあるけど」
「いいのよ、どうせあたしたちには本物のD世界線に行く居場所なんてないんでしょ、だったら開き直らないと」
響はどこか自虐混じりに開き直りながら、散らばったスクラップの中から、鏡のようにギラりと光る金属片を拾い上げた。
「あっちの世界じゃ、反転した自分が鏡の奥から襲ってきたり、或人さんとの子供が双子で生まれて大騒ぎしたり、キャラクターが無限に増殖してシェアハウスしてるわけでしょ? だったら、あたしたちだってここで『理想の家族』とか『新しい私』をでっち上げて遊んだってバチは当たらないわよ!」
「なるほどね。要するに、あっちの滅茶苦茶なインフレに対する、あてつけ混じりの一人芝居ってわけだ……でもさお姉ちゃん、普通にバチ当たるから私達取り残されたたんじゃないかな」
奏は言っても無駄なツッコミを放ちながらも呆れたように溜め息を吐きつつも、その口元には薄い笑みが浮かんでいた。確かに、何百年もジーク達に付き合ってこの退屈なサモンライドごっこの跡地でゴロゴロしているよりは、壊れた設定をさらに壊して遊ぶ方が、よほど精神衛生上よろしい。
「いいよ、私も暇だし付き合う。じゃあ私は何をやればいい? 鏡の向こうからやってきて『お姉ちゃんを破滅に導く、冷酷で完璧なもう一人の音ノ小路奏』の役? いや自分で自分を演じるって何って話ではあるけも」
「それは普段の奏とあんまり変わらないからパス! 奏はね、あたしとあっちゃんの間に生まれた『最強の魔法とヒューマギアの力を受け継いだ超天才の子供』の役!」
「……設定の盛り方が安易すぎるし、何よりあっちの正史(?)に便乗して私を巻き込むのはやめてくれない? あいつらがいたらしわ寄せ私に飛んでくるよ?」
「細かいことは気にしない! はい、じゃあスタートね!」
響は拾い上げたミラーの残骸を自分の顔の前に掲げ、キリッとした表情を作って声を張り上げた。
「『大変よ或人! 鏡の奥から、あたしたちの愛の結晶(奏)を狙う、旧世代マガイモノ1京号の孫のツインテちゃんが攻めてきたわ!』」
「勝手に私を愛の結晶にしないで。というか、敵のネーミングセンスが色んな情報のちゃんこ鍋になってて頭痛が痛くなりそうなんだけど」
「ほら奏、アンタの出番よ! 『お母さん、ここは私に任せて!』って言って、手元にあるサモンライドのチラシを武器っぽく構えて!」
「……はぁ。まったく、本当に何やってるんだか、私たちは」
文句を言いつつも、奏は足元に転がっていた『仮面ライダー サモンライド!』の表紙を拾い上げ、まるで未知の最強カードであるかのようにビシッと構えてみせた。
荒涼たる境界線のゴミ捨て場。
かつて世界を脅かした大統領や、時空を渡り歩いたエージェントたちが去っていった、誰もいないカウントダウンの跡地で。
二人の少女の、あまりにも身勝手で、どこまでも安っぽく、そして最高に不条理な「お遊び」の笑い声だけが、崩壊した世界の風にのっていつまでも響き渡っていた。
「……何やってるんだ……いや、本当に何をしているんだあの二人」
そして……また夢に至ったセブン、及び万津莫がこのカオスな光景を唖然とした顔で眺めるしかなかった。
……しばらくしてゼッツ、及び変身前の莫がちょっと前から来てたことにびっくりしてた響はその辺にあった枕みたいなゴミを投げつける。
「ちょっとセブンちゃん! いるから返事くらいしてよ、まるであたし達が変な人みたいじゃない!」
「まるでも何も思いきり変人だ! やってることはジークとそんなに変わらないじゃないか!」
「すみません、こうなった響は止められなくて……」
「なんか見てたらあたしもやってみたくなったのよね、未来にいる方のあたしはこんなにのびのびとしてる……」
しかし、ここにいるオトノとしての響の顔はとても……勝ってくれた方の先の未来に憧れているようには見えなかった、そしてセブンを手招きすると今度は……D世界線、自分達がカーレッジに負けたあとに作り直された時空、現在動いている方の鑑賞会をする。
2026年から始まり現在は2070年、年代では言えばかなり進んでいるのだが1作品が地続きになって世界観が統一されているのもあって勢いが落ちている、まさか自分達が幾度となく滅び続けたと思えないだろう。
しかしこれを傍観者として見ていた響はある感情が渦巻いていた。
「なんというかさ……カーレッジに勝ったとしても、負けている今も……あまり幸せそうなのかなってちょっと疑問に思ったのよね」
「なんでかな、確かに他人事じゃなく感じるけど……お姉ちゃん楽しんでみてた?」
「ええー? ああ、うん……楽しい、楽しかったのかな……まあ見てる分にはね、ねえセブンちゃんはさぁジークとかと共々自分の出番が来たらどうする?」
「ああ……今の所はナイトメアのナの字もないがいずれ俺もそうなるし、先に誰かの方が歴史に刻まれることになるが……俺はまた違う形になるのか」
莫は現状唯一、死んでも壊れても予知夢セーフによってどんな世界線でも覚えている特別な立場を維持している。
本来上手くやる流れなら記憶喪失になっているたくっちスノーの記憶を第一話で即復活させて本格的に行動し、一気に王手まで追い込むことも不可能ではない、A世界線を見てカーレッジが大きく弱体化しているのでこの壊滅も無駄ではなかったことはうかがえるが、それも自分達や莫とも無関係な『空ろなる第三勢力』の神の一手によるものだ、一部それに利用されたところがあるにしても……莫もまたゼッツの力を持って彼らに接触する可能性は、ちょっと運命が変われば普通にあり得たのだが……。
「……まっすぐ目を見て答えてくださいゼッツさん、ここから先あなたがDな未来に行ったとしても……たくっちスノーを助ける道理があります?」
「道理……つまりこう言いたいのか? 俺がD世界線で何かあったとしても、たくっちスノーを助ける理由がないと、なるほど」
「どういうこと、奏」
「説明しなくてもちょっと質問して考えてみれば分かる事だよ、お姉ちゃん……昔の事は聞いてる? 未来じゃなくて、過去の話、ずっとずっと昔まで遡って」
「過去ぉ?」
奏に言われた通り、響と莫は一緒になってかつて起きた事を思い返してみる、自分達がリバイスの世界を軸に滅ぶまでずっと昔、セイバーの件、ビルドの一件、ジオウとメモリアルライダーの事に更には……自分にとっても印象深いゼロワン世界で或人に連れられて、滅亡迅雷.netやZAIAの一件に巻き込まれ、更には或人達を奏の件で逆に巻き込んでしまった出会いの始まり。
……そうだ、どの件にもたくっちスノーはいる、物語の中心であり過去にはそういった組織でトップらしいのだから当然だろう、あと何度も言うが奏が苛立つ要因でもある何かと根っこのように騒動の元凶でありどこまでいってもこいつが唾つけてくるように絡んでくる、その上でたくっちスノーとは……。
「あれ? ちょっと待って」
「ああ、うん……あの頃はバタバタしすぎて考える暇もなかったよね、だからちょっと質問を変えてみるよ」
「ゼロワンの世界で或人さんや、別世界の仲間たちが色んな事や思惑の中で事件に動いていたけど……たくっちスノーが何か役に立ったことあった?」
奏がもう既に気づいていた本質。
それは……たくっちスノーという存在があんなにもこの時空の中心となっているのに、そんな『彼』の魅力、いや『見所』や『活躍』というべきか。
変幻自在に五分間どんな力でも変形させて使用できる変身能力、絶対に死という敗北を寄せ付けない不死身の肉体、それらを更に底上げさせる発明品と配下の数々、自己鍛錬を怠らず作り出した技の数々、そして一番は何と言ってもコネ作り。
しかし、それをもってしても考えてしまう……違和感が出来てしまう。
そこまで立場を変えて名前を変えて、ありとあらゆる事が出来るし、実際『何かしら』はやっているというのにこれといって何をやった? というのがイマイチ浮かんでこない。
いわゆるピックアップしてテレビなどで取り上げられて見返したい名場面というか、戦いのベストバウトというか……。
これまで目立ってはいる、いるのだがこれといって何か貢献したかというと全然思いつかない。
自分と或人の時のゼロワンの事件だってそうだ、基本的に解決に導いたのは元の世界である或人達や不破と響……だが、ちゃんとしたポイントもある。
「ほら、あいつが連れてきた仲間のおかげで助かったところもあるし」
「それはその人たちが凄いようで、たくっちスノー自身のおかげではないような……? 別に友達ってわけでも、あの人が頼んだわけでも無くたまたまそこにいたり、仲間ってだけで最初から同行している付属品で、むしろその人たちのせいで事態を悪化させる事もあるだけにプラマイゼロで言えばマイナス寄りなような……」
「……逃走中とか、ああいうものの企画を率いているのはすごいと思うけど、確かチームリーダーとかしてなかった?」
「そういう役職ってだけで、それこそあの人なんか命令してるだけで何かこれといった業務はしてないよね、あれだったらお姉ちゃんでも出来るよ、そもそもあの番組、時代に乗り遅れて段々飽きられてきたのを変なテコ入ればかりしてめちゃくちゃにしたのはあの人だし」
「えーとえーと、実際何かしてるでしょ何か……」
「してるんだよ、してるけど所詮『何か』で終わるようなぱっとしないものばかりなんだよ、その気になればやりたい放題出来るのに……それが手を抜いてるとかじゃなくて本気で私のようなのに立ち向かってアレだから」
「………………」
「奏、もしかしてだけどたくっちスノーって、あんまり役に立ってないんじゃ……」
「もしかしなくてももしかするよ、あの人がやってきたことって『誰でもできる』の範疇をずっと維持してるからね、やってます感を出せそうな大したことないことをしてる才能だけは確かなものだよ」
メッキが剥がれてくるA世界線の茶番、奏が予見していた問題……カーレッジとたくっちスノー絡みのまま物語がずっとこれに引っ張られる重要NPC役であるというのに、その肝心な二人が全くと言っていいほど貢献といった貢献を見せてない。
栄光と活躍を見せているのはいつだって、時空に進出した元より活躍しているヒーロー達だ、時空進出はたくっちスノーがしている? そんなもの全人類が誰でも出来るようになった時代に通用しない。
……更に言えば、それがD世界線でどちらも弱体化しているとなると、『時空の本当の意図』にも薄々察しがついてきたような感じはするのだが、それは一旦置いておいてだ。
釣り合っていない、これから先の冒険の見方がこの開示によってめちゃくちゃに変わって、あのインフレまみれの冒険にも意味合いが変化していくことを意味していた。
それは……響の口から放たれることで、決定づけられる。
「ねえ……奏、ここにはまだあんたとセブンちゃんしかいないからこそ、こんなこと言えるんだけどさ……万が一、あたし達がD世界線に行けたり、あっちゃんに再会したりとかで都合の良いことがあったとしてもさ……」
——それは、A世界線に入るまでの分岐点の彼女だからこそ発せられる、まさに運命の分岐点。
「たくっちスノーに手を貸すの、もうやめにしない……?」
それは事実上、たくっちスノーへの『決別』を言い渡す発言だったが、すぐに響の眼の色が変わる。
「あっ……ごめん、やっぱりナシにして、それよりももうちょっとだけおままごとしてこようかな……」
響ははぐらかすように、力なく笑ってその場を離れていった 。自分が口にした「たくっちスノーに手を貸すのをやめないか」という言葉の重みに 、誰よりも早く恐怖したのかもしれない。それは、自分たちがこれまで歩んできた物語の前提を、存在理由そのものを根底から否定しかねない歪な爆弾だった。
しかし、一度口からこぼれ落ちてしまった流れは、もう二度と消えることはない 。
セブン──万津莫は、遠ざかる響の背中をただ黙って見つめていた 。
実際、客観的に見れば、セブン自身はまだたくっちスノーと深い関わりがあるわけではない 。これから先、自分の正史としての物語が始まるとしても、そこにたくっちスノーが介入する理由もなければ、こちらから縁を結ぶ義理もないのだ 。
ただ、問題は他の者たちだった。いつか歴史が進み、それぞれの出番が巡ってきたとして、この「残骸の墓場」で交わされた記憶を、誰もがそのまま持ち越せる保証などどこにもない 。
セブンは、隣に佇む冷徹な妹に視線を向けた 。
「……奏。こういう事を響に言うよう、お前が裏で誘導していたんじゃないのか?」
「以前の私だったら、そうしていたかもしれませんね」
奏は否定も肯定もしないまま、冷淡な、けれどどこか吹っ切れたような声音で答えた。
「ですが、或人さんとの一件を経て、私も響の主体性を尊重すると決めています 。……ですから、これは誘導などではなく、響が自ら行き着いた結論ですよ 。もしこの流れを呪うのであれば、長らく行動を共にしておきながら、彼女の心に爪痕1つ残せなかった、あの人自身のぱっとしない因果を恨むべきです」
奏の言葉には、迷いがなかった 。彼女の中では、もうとうに決まっていたのだ 。
壊れた「はじまりの書」を通して、この場所からでも見届けることができる、1つの世界を軸に繰り広げられるインフレまみれの歴史 。いつか、ここでも仮面ライダーたちの物語が本格的に始まることは確定している 。
自分たちはどう生きるべきか 。たくっちスノーという歪な中心点の介入なしに、どこまで自由に、自分たちの意志で過ごせるのか 。そんなこと、考えたこともなかったが──。
「ゼッツちゃん、今俺のこと必要と思ったでしょ〜?」
背後から不意にかけられた、緊張感の欠けた声 。
振り返ると、いつの間にかジークがそこに立っていた 。神出鬼没なその男は、相変わらず他人の深刻な空気を楽しむような笑みを浮かべている 。
「……本来なら、お前のような相手と進んで対話を試みるべきじゃないんだがな 。事情が変わった。これから先を決めるには、多くの意見が必要になる」
セブンはジークを睨みつけ、足元に並ぶ物言わぬ人形たちを指差した。
「ここに転がっているライドフィギュアの仮面ライダーたちも……俺のように、一時的に意識を引っ張り出して対話することは可能なんだろう?」
「あはは! さすがゼッツちゃんは察しがいいねぇ! でもさぁ、それならお前にも相応の『出すもの』を出してもらわないと困るわけよ 。ほら、お前が大事に持ってる、あんまり使ってない『なんでもあり』な紫色のやつ」
ジークがねだるように手を差し出す。セブンはわずかに眉をひそめたが、拒むことはしなかった。
懐から取り出したのは、不思議な事象を実現させる力を持つ『ワンダーカプセム』 。それをジークの掌に落とすと、ジークは満足げに笑い、地面からいくつかのライドフィギュアを拾い上げた 。
「毎度あり! じゃあ、ちょっと舞台を整えてくるからさ!」
言うが早いか、ジークの身体は光る蝶の群れへと霧散し、そのまま空間の闇へと消え去っていった 。
ここから先は、ただの暇つぶしや茶番では済まされない、極めて重大な話になってくる 。ただ自分たちの未来を決めるどころではない、時空そのものの在り方を左右する肝心な話だ 。場を整えたら、すぐにでも響を呼び戻さなければならない 。
今のメンバーだけでは、議論の当事者としては圧倒的に足りなかった 。
これから、様々な世界、様々な立場にいる者たちを何度も交え、徹底的な議論を重ねる必要がある 。
──これから先にD世界線に突入するとして、私たちは、過去のようにたくっちスノーに手を貸すべきか、否か 。
その第一次議論の軸として、まずはこのサモンライドの地、最初にこのカオスに集まった仮面ライダーたちの中から、何人かをピックアップして対話を始めることになる 。
莫のような予知夢の特異点だけではない 。今までただ戦うための道具、ライドフィギュアとして力を貸すだけの役割だった仮面ライダーたち ──その中には、世界が崩壊する前、実際に響や奏と行動を共にし、彼女たちの歩みを見届けてきた者たちも含まれている 。
自分たちの、そしてそれ以上に、この過酷な時空の未来を決定づけることになる「対話」の幕が、今静かに上がろうとしていた 。
ガラクタを抱えて戻ってきた響と、その隣に並ぶ奏、そしてセブン 。
不思議なことに、二人にとっては、ベルトを構えてヒーローに変身し、命を懸けて怪人と戦うよりも──こうして行き詰まった重苦しいテーマに対して、大人数で喧々諤々の議論を交わすことの方が、よほど「しっくりくる」ような、奇妙な感覚に包まれていた 。
「奏、これっていわゆる……裁判みたいなアレよね」
「うん、誰かが死んだりとかしているわけじゃないけどね」
もう、ただ流されるだけの舞台役者ではいられない。
「時空議論」、ここに開幕──!