「あいつも怪人なのか?」
「あれはあたしにも分かるわ、『バグスターウイルス』っていう恐ろしい病原体よ、ロボットが由来の見た目だから培養されてきたのね……だったらこっちは……サモンライド!!」
【サモンライド……ガッチャード!】
オトノはガッチャードのライドフィギュアを右腕の装置に取り付けると……ライドゲートが展開され、仮面ライダーガッチャードが召喚されて、遠くにいるガットンバグスターへと向かっていく、その間にもレーダーを辿りクリスタルを集めていくが……ライドフィギュアのように変化する兆しはない。
「あいつ以外にもこの世界を機械化させている原因がいるはずよ、問題はそいつを残りの……ゼッツとガヴでどれだけ戦えるかなのよね」
「そっか、オトノはそいつらのことを知らないってことは……どんな風に戦えるかもわからないってことか」
「そうそう、あのガヴとかいうやつもなんとか適当に出したら倒せたから良かったけど……だから、せめてもう少し知ってる奴を探すの!」
一度戦闘の方をガッチャードに任せ、オトノは最低限の戦闘に留めてクリスタルを集める、反撃は十分戦力が整ってからでもいいはずだが……厄介なことに、各地を怪人に支配されたというだけあって、あちこちからインベスやトリロバイトマギアといった雑魚級の戦闘員達が次々と現れるが……。
「あーもう! しつこいんだからとっとと離れなさいっての!!」
仮面ライダーだったのは伊達じゃない、生身で戦闘員枠ぐらいなら蹴散らして進んでいくと、ようやくレーダーが強い反応を示していたので……ちょうど都合よくクリスタルワールドに来てから持っていた石ノミで地道にこっそりと砕いていくが、この時も互いにヒマなのかオトノとメモルは世間話をする。
「ヒューキャニオンって元はどんな世界だったの?」
「すっごく気持ちいい風が吹いてる場所で、ボクみたいな妖精が住んでたところだよ、皆で風に乗って遊んだりで綺麗な場所だったんだけど」
「へえ……風都を自然豊かにした感じ、みたいなところかしら?」
「……そういえばあれって、オトノが住んでた世界によくにていたんだよね? いったいどんな場所なんだ?」
「え? う、うーん……異世界暮らしのあんた達に説明するのがちょっと難しいんだけど……うーん、あたしの基準で言えば普通の文明?」
「え? あれが普通なのか?」
「そう、そこそこに発達して、それなりに楽しくて……嫌なやつはどこにでもいる、どこも同じなのよね……なんかこう、特別な友達が沢山いるような、そんな世界」
「じゃあ、その世界の仮面ライダー……ゼロワンって、名前なんだっけ? そいつはどんなの?」
「そりゃもうなんというか、凄い人、その『友達』を守るために一生懸命になって、一人でどこまでも突っ走れて……ああそうそう! めっちゃ身体が丈夫だから雑に扱っても大丈夫……ではあるんだけどね」
「お笑い芸人目指してるってわりにはギャグがつまんないし、私生活は汚いし……ああ、あと仕事してるところそんなに見たことないし、体が丈夫だけど頻繁に怪我して帰ってくるし……」
ゼロワンという存在に対して長所も不満もいくらでも出てくるオトノ、おそらく彼女は仮面ライダーゼロワン……あるいはそれに関する人と深い縁があるようだが、そこまで深くは話してくれない、何故なら喋ってる途中、削ったクリスタルが輝いたかと思えば無数のコインのような形になり……フィギュアではないが、銘柄に仮面ライダーの顔が描かれている、どうやらクリスタルから作られるのはライドフィギュアだけではないようだが……ライドドライブを見るとこれくらいのサイズなら入りそうな穴がある……これも、想定されていたかのように
「不思議なのはその道具もだよなー、クリスタルワールドにあったんだよね?」
「そうね、あたしがこの世界に迷い込んだころにはもう既に右手についてたの、最初見たときは地味でかっこ悪いから後からデコったんだけど……そうだ、コレのことはあんた達のほうが知ってるんじゃないの?」
「さあ……? 少なくともボクは見たことないな」
しばらくして……光の粒がガッチャードのライドフィギュアになって戻ってくる、どうやら制限時間が過ぎたようであり、また遠くを覗いてみるとあのバグスターの反応がないので、しっかりやっつけてくれたようだ。
「よし、今度はあっちの方へと行くわよ、邪魔で通れなかったんだから」
「まだクリスタル探すの〜?」
「いいじゃないの! こっちだってライドフィギュアの方は集まってないんだから!」
一応戦闘員達をこまめに倒しながらクリスタル探しの繰り返し、ヒューキャニオンの奥まで進んでいくとどんどん風が強くなり……今度はまた違う景色が見えてくる。
それは……大きな工場だ、大自然を破壊し作り変えて環境を乱す煙を撒き散らし、戦闘員達がクリスタルをトロッコに乗せて中に詰め込んていく。
その様子をクリスタルベースから観察していたトレイナも言葉を失っていた。
「なんということを……あのような煙が各地に広がってしまったらどんなに恐ろしいことになるか……」
「他所の世界まで環境破壊なんてそんなことさせない……えっとガッチャード! ガヴ……嘘!? どっちも使えない!?」
オトノは知らなかった……どうやらライドフィギュアは制限時間だけでなく、使用した後の待ち時間まで掛かるようだ、あの戦闘員の群れを倒してから間もない上にガットンバグスターを撃退するのにガッチャードを使った為……今、この場で使用できるのは一番得体の知れない謎の仮面ライダーゼッツである。
正直なところオトノはゼッツに対してめちゃくちゃ怪しさを感じていた……ベルトが付いているべきなのに、それに当たる物が胸部に装着されている、まるでペースメーカーの役割を持っているかのように……それに万が一ゼッツが上手くいかずこの間に新しいライドフィギュアが手に入らなかったら八方ふさがり、それもこれも自分が変身できない不甲斐なさにある。
しかしこのまま自分の都合でクリスタルワールドに迫る危機を無視するわけにはいかない、今後の事はやってから考えようとライドフィギュアをセットする。
【サモンライド! ゼッツ!!】
そうして、ライドゲートから召喚された仮面ライダーゼッツは……工場を見るや否や身体中のラインが赤く輝いて筋肉が肥大化していき……かなりの『インパクト』のあるパワーでパンチを叩き込むと……その一撃だけで工場に亀裂が走り、粉々に破壊していく……少なくともこれで何かしらの生産は止まるだろう、跡地が次々とクリスタルになる中……なんとゼッツの方もパンチ一発だけで力を使い果たしてしまった。
これによって頼りのツテであったライドフィギュアは一通り、いつ使えるようになるのか分からない状態になってしまった。
つまり現在のオトノは壊れたベルトと変なデコった装置を腕につけているだけのただの2×歳の……。
「おいコラー!! 仮面ライダーならもうちょっとやる気だしなさいよ!! 何を1個工場を壊しただけで満足しているの!! これからもっと沢山の悪をぶっ壊すというのにこの程度でへばるなー!! ……っていうかちょっと待って?」
これまでのライドフィギュアの戦績を振り返る、最初に呼んだガヴは召喚した時の勢いで戦闘員を一気に倒したが、ボッカが来ている間に力を使い果たし、ガッチャードはそこまで強力かどうか分からないバグスター1体と戦っただけ……そしてゼッツに至っては工場をフルパワーで破壊して一気に枯渇。
……そう、この仮面ライダー達はオトノが思っていた以上に使用期間もエネルギーも限られている、その原因はオトノの力不足か、それとも彼女が持つライドフィギュアの力がまだ不充分なのか?
何にしても……。
「ちょ……ちょっと闇雲にこの世界救うって言っちゃったけど……ちょっと考える時間くれる……?」
──
クリスタルベースに帰還したオトノは、重い足取りで中央の作戦机に手をついた。
右腕の『ライドゲート・ドライブ』から取り外した3つのライドフィギュア──ガヴ、ガッチャード、ゼッツを机に並べるが、どれもエネルギーを喪失して灰色にくすんでいる。
「はぁ……まさか、一発ちょっと撃ち込んだだけで使い物にならなくなるなんてね」
オトノは頭を抱えた。
圧倒的なパワーで工場を粉砕したゼッツの戦いぶりは見事だったが燃費が最悪すぎる。
これでは、各地を支配する怪人の大軍勢を相手に連戦など到底不可能だ。サモンライドのシステムは、彼女が想像していた以上に制約が多く、そして繊細だった。
ヒューキャニオンを襲っていた機械化の波は、バグスターなどを退けたとはいえ、まだこの世界に蠢く異変のほんの前触れに過ぎない。
頼みの綱は自分とこのフィギュアたちだけだというのに、一歩進んで二歩下がるような現状に、胸の焦燥感ばかりが募っていく。
「道中で拾ったクリスタルも、これじゃあね……」
ポケットから取り出したいくつかの水晶の破片を転がす。どれも微かな光を放ってはいるが、ライドフィギュアへと変化するような強いエネルギーの波動(ポテンシャル)は感じられない。
それとは回収して別に手に入った、仮面ライダーの顔が刻まれた謎のコインのようなものも、使い道がさっぱり分からず、ただ机の隅に積み上げるしかなかった。
「オトノ、あんまり根を詰めちゃダメだよ。ボクたちのために頑張ってくれてるんだから……」
メモルが心配そうに羽をパタパタとさせて覗き込んできたが、オトノは無理に笑顔を作ることしかできなかった。
変身ベルトは壊れたまま、異世界のシステムは手探り。『飛電或人に会いたい』という、心の奥底にある、一番確実で信頼できるヒーローへの願いすら、今の不甲斐ない自分では届かないような気がしていた。
そんな、沈みかけた空気を切り裂くように、一羽の赤いフクロウが胸を張って前に出た。
「ホッホ! 悩んでいてもクリスタルは降ってこんホー! 困った時は、このワシに任せるがいいホー!」
「ミヌーク?」
メモルが目を丸くする。ミヌークは自慢げに、古びた革製の鞄を机の上にドサリと置いた。
「こう見えてもワシは、炎の世界『エンデルガス』では名の知れたトレジャーハンターだったのだホー! 極上品で、特別な力が宿ったクリスタルなら、いくつか隠し持っていたのを忘れておったホー!」
ガサゴソと鞄の底を漁り、ミヌークが取り出したのは、他のものとは明らかに一線を画す、禍々しくも神々しい輝きを放つ数個の大きなクリスタルだった。
その瞬間、オトノの腕のライドゲート・ドライブが「ピピッ」と高い電子音を立てて強く反応する。
「これ……すごいエネルギー。これならいけるかもしれないわ!」
オトノは弾かれたように立ち上がると、懐から石ノミを取り出し、慣れた手つきで慎重に、かつ大胆にクリスタルを削り始めた。
刃が結晶の芯に触れた瞬間、パァァァッとベース全体を眩いピンクとブルーの光が満たす。光が収まったオトノの手のひらには、新しく再構成された一体のライドフィギュアが握られていた。
恐竜の意匠を模した、スタイリッシュなピンクのマスク。
「これは……仮面ライダーリバイ……?」
フィギュアの冷たい質感に触れた瞬間。
ドクン、とオトノの心臓が大きく跳ねた。脳裏に、津波のように見覚えのない、いや、「忘れていた」光景がフラッシュバックする。
──悪魔と契約した仮面ライダー。
──お節介で、家族を何よりも大切にする、銭湯のせがれ。
「あたし……このライダーを知ってる。ううん、知っているどころじゃない……」
オトノは呆然と呟いた。
ガヴやガッチャードを見た時は、完全に未知の存在だと思った。だが、リバイのフィギュアから流れ込んでくる記憶の残滓は、あまりにも生々しい。
「多分だけど……あたし、この世界に来る直前まで、大事な何かを忘れているような気がする……」
ただの仮面ライダーとして次元を旅していただけではない。自分はつい最近、このリバイたちの世界に、あるいは彼らの戦いの渦中に、確かに存在していたのではないか?
だとしたら、なぜ自分がこのクリスタルワールドに召喚されたのか。ライダーたちの戦いの歴史が結晶化するこの世界に、自分が呼ばれた「本当の理由」が、そこにあるはずだった。
いや、それだけじゃない。
忘れている、もっと根底的な、恐ろしい事実。
仮面ライダーと怪人は、常に表裏一体。
光があるところには、必ずそれを生み出した、あるいは対となる深い闇が存在する。それがライダー世界の絶対的な法則。
もし、自分が「仮面ライダーを呼び出す魔法使い役」として、五体満足でこの世界に現れたのだとしたら。
その対極に位置する存在もまた、同じようにこの世界に形を成しているはずなのだ。
「あっ……」
そこまで思考が至った時、首筋に冷たい粟が立った。
ヒューキャニオンへ旅立つ直前、ライドゲートの影からこちらを見ていた、あの不気味な視線。自分によく似た、真っ黒なフードの影。
背後の空間が、静かに歪む。
クリスタルベースの防衛障壁をあざ笑うかのように、歪な次元の裂け目が開き、そこから一人の少女が、音もなく床に降り立った。
「お姉ちゃん」
鈴を転がすような、だが、底冷えするほど冷徹な声が、静かなベースに響き渡る。
オトノは振り返らなかった。振り返らなくても、その声の主が、自分の血を分けた半身であることを、彼女の魂が理解していたからだ。
「……ちょうど、あんたのことを思い出していたところよ。──ウタ」
ゆっくりと振り向いたオトノの視線の先。
そこには、オトノと全く同じ容姿を持ちながら、漆黒の衣装に身を包み、冷酷な笑みを浮かべた双子の妹──ウタが佇んでいた。
仮面ライダーと怪人が表裏一体、必ず対象となる存在がどの世界にもいるとして、それはもちろんオトノ自身にも存在している。
こうして五体満足で自分が召喚されたなら、向こうも同じ立場でもおかしくない。
……特にそれが、双子の妹の場合なら。
「ウタ? もしかして私のこと言ってる?」
「そうよ、あんた一応ワケアリでどこで目をつけられてるかも分からないんだから、今更本名なんて出せないでしょ」
「ああ、だからお姉ちゃんも『オトノ』って名乗ってるのね……それで? 相変わらず無計画に突っ走って今になって後悔?」
「あんた本当にズケズケ言うようになったわね……昔だったらどうしてやろうかとも感じたけど、今はそれどころじゃない、その見た目……」
ウタの見た目は……自分を『魔法使い』とするなら、まるで呪術師、あるいは『吟遊詩人』……? だが、この世界に来る上で自分も同じ立場なことは間違いないだろう、何故ならウタにも左腕の方に自分と同じライドゲートドライブが装着されていたから。
……つまり敵? 味方? 確執が広がる雰囲気の中、メモル達もウタの方を観る。
「オトノって妹がいたんだ……確かによく似てるけど」
「はい、私は一応お姉ちゃんがそう名づけたので便宜上『ウタ』と名乗ります、本当はお姉ちゃんも私も別の名前があるのですが何か事情があるみたいですし」
「他人事みたいに言うんじゃないのよ……メモル、そいつにあまり近づかないほうがいいわよ、中身はあの怪人ともにも引けを取らない変態なんだから」
「言い方酷くない?」
「選んだ上でそれなのよ、姉としての情に感謝しながさい」
「……二人は姉妹同士、仲が良くないのか?」
「まさか、私はお姉ちゃんのことが大好きでしょうがないから、ちゃんとここまで追いかけたりもしたんですよ」
「語弊があるでしょ! あんたの場合好きなもの『あたし』嫌いなものも『あたし』! こういう年頃に伝えても説明難しいんだからそこはいいの! それよりも……ウタ!! あんたあっちゃん見てるでしょ!?」
肝心なのは……ウタもまたクリスタルワールドに来ているということ、自分は覚えていないが、彼女であれば覚えているかもしれない、よりによってこんなサイコクソヤバ妹に聞くのはマジで癪に触るし真剣に答えてくれるわけもないことは理解してる。
「……あっちゃんねえ、どのあっちゃんですか!!」
「飛電或人のことに決まってるでしょ!! あんたがあいつに連れられてどこかに行ったこと知ってるんだから!! あっちゃんじゃなくてもいいわよ! 戦兎は!? ソウゴも、あと翔太郎……飛羽真ってのもいて……門矢士にも会ってないの!?」
「う──ん……仮面ライダーには会ってないよ、ああでもね……昔の知り合いっぽい人だったら何人か見たかな」
「ええー……あいつならともかく昔の知り合いってここで会ってもしょうがないんだけど……じゃあ本格的にあたしとウタしか戦力が無いわけね……はあ、いい? 今回は非常事態だから、本当はあんたと組むなんて死んでも嫌だけど、世界の危機に立場や経歴は関係ないでしょ」
「お姉ちゃんってさあ、いつからそんな正義感とかで動くようになったの? というか何様……まあ、後ろから観察してみた感じ、お姉ちゃん本当にダメそうだったからちょっとは……うっ」
会話の途中だというのに、ウタ自身も気付かないくらいの様子の急変でぶっ倒れ、咄嗟にオトノが抱き抱える。
「ちょっとウタ、大丈夫なの!?」
「うっ……へ、変だよお姉ちゃん、私の体は一度特別な刑務所に入れられた際に不老不死の肉体になってなんらかの病気にかかることも絶対にならないはずなのに妙に体が重いのお姉ちゃん……」
「まるで誰かしらに説明しているかのような口ぶりどうも! そんなことよりどんな風に辛いのかちゃんと言ってみなさい!」
「お……お腹がスカスカになったような感じがして頭が回らなくて全身が干物になったような感覚……」
「うんありがとう!! それお腹空いてるだけよバカ!!」