議論の幕が開くことを表すようにジークが一番高い席に座っている、まるで自分が裁判長であると見せつけているかのようだが、莫はいちいち意識していたらきりがないので円を囲うように用意された席の1つに立っている。
もちろん響と奏の二つ分の席もあるし、既に他の仮面ライダー達も受け入れるように席に座っているし、事の発端である響も目は澄んで覚悟したような顔つきで議論に臨む。
「響、言い出しっぺは確かにお前だが……無理に参加することも無いしいつでもこの議論は出来る」
「そういうわけにはいかないでしょ……奏がいるのよ、たくっちスノーが大嫌いなあいつを野放しにしたら不公平な議論になるでしょ、お姉ちゃんとして止めないと……」
「かといってそういうお姉ちゃんも、ヒーロー達を中心にして心の裏では否定して欲しいと期待してるんでしょ」
「……あたしは平気よ、ちゃんと公平にやるつもり、だからあっちゃんは呼ばないで。なんだか不思議と肩を持っちゃいそうになるから」
「そうだね、私もちゃんと公私混同は避けたいけど或人さんが来ちゃうとちょっと意識するかも……大事な話だもの」
普通に考えなくても場違いな双子、しかし仮面ライダー達と共に意見を戦わせる権利を与えられ、この分岐点となる廃墟で自分達並びに時空という存在の今後について真剣に語り合っていくことになる。
特に響と奏は仮面ライダー以外にも今後様々な存在を一時的に復活させて同じ議論を何度も繰り返す大事な役割を持つのだから。
何人か、準備が整ったところでジークがワンダーカプセムを取り出す、それを残っている最後の空き席へと投げて変身アイテムでもある剣をダーツのように飛ばすと……カプセムが砕ける。
「おい、こんな所でナイトメアなんて……」
「違う違う、それも面白そうだがここに呼ばれるのはナイトメアじゃない、今回の主役!」
砕けたカプセムは席一帯に煙をまき散らし……晴らされた先にあるのは、響にとって、一部にとって覚えのある存在。
頭は女、体は少年、そして『首はない』……実態も、本名も何もかも存在しない『最強無敵』の紛い物。
「なんかフワッとした後に何が……えええええ!? なんだこの組み合わせ!? なんで仮面ライダーで学級裁判!?」
「た、たた、たたた……たくっちスノー!!?」
たくっちスノーだ、こんな特徴的過ぎてある意味覚えにくいようなやつ、たくっちスノー以外にあり得ない。
それも自分達に滅茶苦茶なじみのあるあの姿で、たくっちスノーだけが現在の状況についていけない様子らしい……確かに、なんだか様子は違う。
知っているはずだし、間違いなくたくっちスノーで赤の他人ではなさそうだが別人……奏はその答えにすぐ気付く。
「ああ、もしかして別の世界線のたくっちスノーを連れてきたんですね……これまたなんでもありな力で」
「別の世界線!?」
「ワンダーカプセムがなければ出来なかったけどなぁ妹ちゃん、本人がいないところで不要論唱えるのも可哀想だろ? そこで連れてきたのが、なーんにも知らないけど話は分かる『B世界線のたくっちスノー』ってわけ」
「……何かよく分からないが、必要な議題だから自分が呼ばれたってことか? まあ時空はなんでもありだしそういうこともあるか」
ついさっきまで突然呼び出されて焦っていたとは思えないほど冷静に立て直し議題に参加する姿勢を見せる、身なりも整っているしこの並行世界の彼は少しは真面目なのかもしれない。
「それでヒーローが揃いも揃って何の議題?」
「今後の未来でたくっちスノーに手を貸すのをやめるかべきかっていう……」
「え? もしかして自分が聞くべきじゃなかった公開処刑始まろうとしてる?」
……
数分後、ある意味では別世界線の自分に協力するのをやめるか否か? という議題なはずだが驚くほどたくっちスノーは落ち着いて話に参加するつもりでいる、これにはセブンも様子をうかがってしまう。
「いいのか? そんなに余裕を見せるようなことをして」
「余裕っていうか実感がないんだよ……だって軽く聞いた話、そっちの出来事って相当未来だろ? 自分からすれば時空監理局が滅んだりあのバカとマジで仲違いするとか現実味がなさすぎるが……そっちだと本当にそうなったんだな?」
「ああ……あのたくっちスノーの感覚では昔すぎるからこそ、本人だけど忖度ない意見が出せると、ある意味彼には知ったことじゃないし」
「そうそう、こいつの世界線もある意味詰んでるみたいなものだしな」
「人の歴史を笑いものにすんな!! いいからさっさとこの歴史の自分のためにも議論してくれよ!!」
と……役者は揃った。
響としてはやはりたくっちスノーがいると場の空気が一段と違うがお馴染みのような感じを受けて……時空全土を揺るがす話を始める。
——
……今回の参加者には、下手すれば自分よりたくっちスノーと縁のある左翔太郎や桐生戦兎もいる、たくっちスノーについての話題なら奏よりも詳しいだろう。
その一方で莫や……その目の前にいる本能寺タケルのような特別絡みのなかった人もいる、公平に知り合いも赤の他人も入り乱れて結論を偏らせないための工夫だろう。
まずたくっちスノーは戦兎達を見る。
「確認しておきたいんだが……まずお前らが、過去にそっちの自分と出会ってなんやかんやがあるんだな……いや、自分も覚えはあるか、あるんだが色々ありすぎて覚えてないな」
「ああ……なんというか俺目線で見るとやっぱこいつもたくっちスノーなんだなって感じはするが」
「時空監理局というと……まさに俺たちが初めて出会った時だからな」
しかし、しみじみと世間話を語っている暇などない……これは、時空に関係する大きなテーマなのだから。
手を叩いてジークが切り上げていく。
「はい! 時間は山ほどあるとはいえそろそろ本題に入らないとね! 議題していこう、今後仮面ライダー達は以前のようにたくっちスノーに手を貸すべきか否か!」
ジークに言われるがまま議論が始まる……まさか、こんな展開が来るとは彼も予想だにしなかったことだろう……。
——
とはいえ、たくっちスノーが必要か? という議題だけで話をするには方向性を定めなくてはならない、その点においてまず奏が速かった。
「まず根幹となるたくっちスノー不要論については……貴方にとっても関係ないことではないですよ?」
1. 『中心人物としての魅力・見所の欠如』という論点。
「うおっ!?」
別の世界線のたくっちスノーにとっても覚えがあるのか強く反応する、一番肝心な問題でもある『スペック上だけで言えば類まれなる、いやそれどころか殆ど最強格のような能力を持ち、ここまで数々の事件に出しゃばっていながら実際の解決には至らないし、目立った活躍もしていない』という物だ。
……過程はともかく出来ることはほぼ同じなら覚えがあるだろう、そんな顔をしている。
「じゃあこの件について……こういう時って意見を分けたいのよね、あたしは一応中立側ということにするけど否定派の人は……一旦挙手してくれない?」
そうして意見を分けさせるつもりだった、だが……。
響は仮面ライダーというものを少し期待していたのかもしれない、こういう時に手を差し伸べるものだと思っている、実際そういう人たちでもあるのだろう。
だがそれ以上に人としては正直なものだ。
(お……多いっ!? こんなにいるの!?)
最初の議題の時点でなんと結構な数に分かれた、もちろん彼の援護派・静観派もいないわけではないのだが圧倒的なことになっている。
その上でも驚いたのは否定派の中には……彼とよく行動を共にしていた翔太郎や戦兎もいるし、なんか……たくっちスノーまで自分で自分を否定している。
「あんたがそっちにいちゃダメでしょ!!」
「時空監理局は結果主義なんだ、こっちの自分が身分不相応だったって言うなら実際そうだったんだろ? ……自分だってあんま偉そうに言えるほど出来てなかった覚えもあるしな……」
たくっちスノーも別の並行世界の話とはいえ開き直るというよりは仕方ないみたいな態度を取っている。
こんな分かれた状態でスムーズに進むのか……? というところで奏が話を誘導する。
「では実際たくっちスノーがどれだけ無能だったのかみたいな語り口だと、ただのヘイトスピーチになってしまうので事件を顧みた上で実際それだけ手が及ばなかったのか? という観点で議論をしませんか?」
「なるほど、テスト用紙に答え合わせするみたいな感覚か」
という流れから……一度一つの事件に絞り。
・不死身の肉体、5分間限定の変身能力、強力な発明品や配下、そして数々のコネクション。これほど恵まれたスペックがありながら、これまでの大事件(ゼロワン世界など)を実際に解決に導いたのは、いつも元の世界のヒーローたち(或人や不破、響たち)だったという事実。
・「彼が連れてきた仲間が凄いだけで、本人の功績ではない」「むしろ事態を悪化させてマイナスになっている」という厳しい現実。
この2種類について掘り下げることになる。
——
開口一番口を開いたのはたくっちスノーだった。
「……で、実際君等はそんな自分というかそいつのことをどう見ている?」
目線を宝生永夢に向けて話すと、彼は否定派なことを考えなくてもその目線は若干冷たい、
「どう見ているか……と言われたらそれはもちろん良い印象は難しいですよ、僕らとして見れば努力や甲斐甲斐しさまで否定する資格はありませんが、こちらも慈善事業や人付き合いだけで済まない物である以上……足を引っ張るような形になるのはどうなのか? という考えですよ」
「それはゲーマー的な目線?」
「まあ……実際マルチプレイのゲームだとたまに地雷扱いされるのは、『チームに何の貢献も出来なかったお荷物』ですが、そこまで言うほどでは……というポイントが難しいところではあります」
厳しいことを言っているが永夢はこれでも客観的に見ようとしている、厄介なのは永夢の言う通りでお荷物……つまり居るだけで害を撒き散らすようなものではないということだ、100のうち50活躍して80分のマイナスがあるような、いかにもというもの。
否定派とはいうが、奏のように『嫌い』な人はいないのだろうきっと。
響は話の流れを作るために奏に用意してもらった資料を読む。
開いた途端参加者全員にも資料が転送されて共有されていき、ジークがそれを読み上げる。
「何々? 『仮面ライダーゼロワン世界』の一件……おお、魔法使いちゃん達がゼロワンちゃん達とコンタクトして、悪徳企業ZAIAと滅亡迅雷.netと戦ったお馴染みのアレ!」
資料を読みながら翔太郎が挙手し、持っていたペンを資料に書き加えると反映されていく。
「俺はその時、ちょうどこの世界に来ていた音ノ小路姉妹の関係者が失踪する事件を同時期に調査していた……結果的にそれが奏の罪を突き止めることになったのだが」
「え? 探偵とは聞いてるけどなんで翔太郎が別世界の二人の調査なんかしてるの?」
「この頃にはあいつらも時空規模で有名だったからな……」
そうして一通り情報を伝えた上で、たくっちスノーも響も、他の仮面ライダー達もこの出来事で起きた一連の出来事を確認する。
飛電或人と別世界で出会い様々なことがあったその後、ZAIAにTOBを持ちかけられて飛電インテリジェンスを乗っ取られる危機に……。
この危機でまず動いたのがたくっちスノーであり、本来の流れ……過去に起きた敗北の歴史を歩ませないように手を施したことが書いてある。
その点について挙手し、関係者である響や翔太郎、たくっちスノーに質問をしたのが響以外の唯一のライダーにおける中立派、城戸真司だった。
「えーとつまり? 本来だったらその社長さんってそこで負けそうだったからたくっちスノーが手助けして勝つようにしたってことでいいんだよな?」
「まあそうだな……自分でも同じ立場だったら、後々なんとかなるからここは負けてもいいなんて或人には言えないし、手を出して勝たせる流れにするか」
「……で、ここからどう話していくのかよね……前もって言っておくけど、どうしてそうしなかったとかこうしていればみたいなタラレバ論はキリがないから禁止よ、今更言ったところで何も変わらないし、こいつに言ったところでね」
響もしっかりと意見を出し、流れを組んだ上でしっかり参加できるようにしている……こういった会話のぶつけ合いなんて前に事件の中でそういった討論会に参加したぐらいの経験しかないはずだが今はすっかりオトナになったのもあり適応している。
そして……ゼロワン世界で起きた自分たちの命運を変えたあの事件を思い起こすように話が展開される。
「とりあえず自分……というか、たくっちスノーが或人に声をかけた、ネタバレみたいなことをした……んじゃ他に誰が参加してたわけ? その双子以外に」
たくっちスノーの呼びかけに反応したのは戦兎、翔太郎、ソウゴの三人。
響やたくっちスノーの仲間としてもほぼ、本格的に関わっていたのはこの三人くらいだろう、肝心な要である響達も思い出を振り返るように記憶を絞り出し……それぞれ何をやったのかを提示すると意見票みたいに貼られる。
「俺はずっと或人を支援する傍らで音ノ小路姉妹の事件に干渉して真実を突き止めたりで……危なかったが結果的に良かったのだろうか」
「俺は衛星ゼアの手も借りたが或人達のベルトや新しいプログライズキーを作ったな……それで言ったら設計図があったとはいえ音ノ小路ゼロディドライバーを作ったのも俺だし」
「俺はそこまでかな、メモリアルライダー連れて滅亡迅雷と戦ったりはしたけど」
「あたしの場合はほぼあっちゃんの勝負を見届けて、はっきり言って邪魔だったと思われてるかも……あ、でもほら、あっちゃんが衛星アークと戦っている間にゼロゼロに変身してサウザーと戦ったわ」
少なからずこの四人がゼロワンの世界で各々行動している、飛電或人は主軸としてどれだけ活躍したのか言わずもかなだろう。
そうして話をじっくりと深堀すると……確かに奏の言った通りだ。
「彼の連れてきた仲間が凄いだけ……という点はまあともかくとして、彼や時空の関与がむしろ事態を悪化させてマイナスになっている結果について……お姉ちゃん知ってる? ゼロワンの本来の物語」
奏が証拠代わりにたくっちスノーに提示させたのはゼロワンの本来の流れ、そういうところもたくっちスノーだから知ってる。
どういうことなのか結論だけ話すと、天津亥にTOB持ち掛けられて社運の危機となる頃……本来なら滅亡迅雷netはこの時一度としているはずだったらしい。
更に言えばアークの復活なんて相当後で或人は全然新しいプログライズキーを開発出来てなかったのでライジングホッパーだけでラスボス格まで戦うことになるという、本来より追い込まれた状態でのスタートという誰も気付かなかった真実がある。
これもこいつのせいかどうかは定かではないが、あっちのたくっちスノーもこれを知っていたはずだ……。
だって紛れもなく「今後負ける」ってネタバレしたくらいだ、当然過去の流れも知っているしその分をカバーするように動いているべきだが、結果としてはプログライズキー開発という進展こそあったものの結果的に或人が率先してゼロツーを開発してようやく決定打になったぐらいなのだ。
たくっちスノーのやったことは言うならば極端に出来事を圧縮させた、或人も不破もレベルアップが余裕で間に合ってないくらい。
こんなことは或人に限らない、実は戦兎だってそんな流れでフォームは進化してないし唯一全部揃っているソウゴだって物語の全てを時空の関与無しに攻略した我関せずを通しきったドライな例外。
その可用性を見て……彼は。
「うーん……それはそうだけど、何にしてもその時はちゃんとアークも滅亡迅雷も倒して大団円なんだろ? 資料的に……じゃあ別にいいんじゃないのか? アークワンにもなってなかったし」
「は?」
「うわっ」
だがこの発言を見逃さないのが奏、耳を傾けたあとにジークの方を見る……まるで意見を求めるように。
「ジーク、あのたくっちスノーの意見は『同一のもの』として判断して構いませんか?」
「そりゃもちろん、未来が違えど昔だろうと性根は『たくっちスノー』であることにかわりはないからさ!」
「ありがとうございます、おかげで簡単に結論が出せそうですよ……貴方の性根の汚さについて」
「ド曲球に言い過ぎじゃないか!?」
これには城戸もツッコミを飛ばすが奏は気にすることなく話し続ける。
響も何かまずいことを言い出す前に止めなくては……と警戒する。
「結局貴方はそうだったんですね、貴方は役に立つとかそういう意識じゃなくて……大雑把だったんです、無事に終わってしまえばそれでよかったんでしょう? それぐらいの考えで手を貸している」
「終わりよければ全て良しだろ? それで解決してなんとかなっている、最終的にはそれが全てでそうして綺麗に勧善懲悪は回っている」
「……貴方の場合は『終わりよければどうでもいい』じゃないですか? 貴方はただ、上手くいった結果だけが決まっていてそこに導ければそれでよかったんじゃないですか? ……その為に!! お姉ちゃんが撃たれて死にかけたとしても!!」
「やめなさい奏!! それはただの逆恨みになるわ!! ……それでもねたくっちスノー、それがたくっちスノーとしての本心なら……あんた、目立ちすぎたのよ、やることもやれてないのに」
「僕としても……ただ美味しいところを総取りするだけのNPCなら、もう付き合いきれないという気持ちもあります……それに僕としても納得いくところがあります」
「どういうことなんだ? 永夢」
「…………彼の場合は事情が違います、『役に立たなくても、健気だから見過ごされる』とかそういうハードルの話じゃないんです、貴方も忘れたんですか? たくっちスノーは史上最悪の時空犯罪者ということを」