MNU サモンライド・ラストコール   作:黒影時空

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第23話「覆す」

「なんだと……?」

 

 響の言葉に、莫は即座に反論できなかった。

 時空議論が強制中止となるほどの衝撃的な仮説。D世界線において、万津莫……『ゼッツ』が過去のたくっちスノーやカーレッジ・フレインと同じ「万能な救世主」という役割を担わされるのではないかという疑念。

 それは最初に思いついた響よりも、莫自身に深く、冷たい心当たりがあった。

 というのも、響が以前までクリスタルワールドでサモンライドの真似事に付き合わされて、少し召喚しただけで察せられるのだがゼッツは主形態ですらあまりにも出来ることが多すぎたのだ。

 

 基本的にゼッツが変身に使用するカプセムと、それに伴う形態は主に4系統に分類される。

 肉体や周囲の急速強化、あるいは変化を主軸とする『フィジカム』。

 環境変化への対応や、機械工学に優れる技巧系の『テクノロム』。

 対象の復元効果や強固なバリアを発生させる防御系の『エスプリム』。

 そして、超常現象を招き奇妙な力を呼び起こす『パラダイム』。

 

 使えるのは夢の中という限定的な環境下だけとはいえ、莫はこれらの力をカプセム1つ握るだけで、変身せずとも自在に発動することが出来る。

 それだけではない。この議論の場では一度も見せることのなかった高速軌道移動を可能とする『プラズマ』。

 本来むやみに使うべきではない禁忌の力『カタストロ厶』は、破壊衝動のみを意識しなければ己の肉体が崩壊する代償と引き換えに、常識離れした破壊力を与える。そして、その対となる『オルデルム』は、周囲の空間そのものを分析し、望む形へと再構築することすら出来る……。

 

(そして、仮面ライダー達においてのとっておき、頂点となる姿と能力も持っているが……この力は誰にも明かせない)

 

 総じて、出来ないことがほぼない万能すぎる力。

 莫がエージェント・コードナンバーセブンで居られるのは夢の中のみという制約はあるが、彼の生きる世界では悪夢(ナイトメア)が人間を蝕み、現実を改変していくという影響がある。

 それを考慮すれば、特定の空間でのみ絶大な力を持つ存在として、彼はあまりにも完成されすぎているのだ。

 仮面ライダー達が新たな世界で物語を始めるとなれば、当然1から能力を増やし、成長していかなくてはならない。それが物語の常理だ。

 

 だが、予知夢によるものとはいえこの強大な力を莫だけが最初からそのまま持ち込むことが出来る。この異常な補正を彼だけが受けられるという事実は、時空其の物の『寵愛』を深く感じさせた。

 これと全く同じものを、過去のカーレッジ・フレインとたくっちスノーは受けていたのではないか? 

 結果的に莫は、物語が始まれば即座に状況と歴史を一変させることができる力を持っている。だがそれは同時に、世界が新たな役割を莫に与え、不要となったたくっちスノーを切り捨てることを望んでいるようにも感じられる。

 

 そして、過去のたくっちスノーと違い、莫には間違いなく結果を残せるという確固たるポイントがあった。

 それは仮面ライダーゼッツにはこれまで肩を並べる味方がほぼいなかった事だ、いるにはいるが殆どをたった一人で世界の危機を解決し、孤独に戦い抜いてきたからこそ、過去のあらゆる問題や障害を自力でクリアできてしまうのだ。

 たくっちスノーに手を貸すか、見放すか。

 しかし、莫の心にあるのはそれ以上の恐怖だった。自分はこの世界で、どれだけ生き続けることになるのか? この作られた運命の中で、自分はどうなってしまうのか。

 

「わからない……」

 

 沈黙を破り、莫は絞り出すように呟いた。

「俺がそうだとして、簡単に決断してどうなるのか……。何回も同じ夢を見た、何度も覚えたまま経験した。Codeの闇を暴き、数々のナイトメアを倒し、多くのミッションを果たしてきた……」

 

 その顔には、彼らしくない深い疲労と焦燥が浮かんでいた。

 

「それでも覚えてないんだ。その先にどうなったのか……どうしても『最後』だけ、思い出すことができないんだ……」

 

「最後を覚えていない?」

 

「ああ……君にも分かりやすく言うと悪意を乗り越えたゼロワンが……とか、漫画のような【終わり】みたいなものは結末の来ない時空であっても何かしら区切りのような物はあるだろう? 誰にでもあるはずだ、俺も経験していることは間違いない」

 

 

 なのに思い出せない、今回のD世界線ではそれが怖くてたまらなかった。

 一度死んで予知夢になった時だってこれが終わりだと思った所に訪れた力とチャンスだ。

 これが恐怖に代わるのが何度も繰り返した時だ。

 

「何回も死を経験すると……逆に不安になってくるんだ、今のやり方は正しいのか? 今回はどれだけ生きられるんだ? 俺がやっている事は正しいのか? というか……終わったとしてもちゃんと生きられるのか?」

 

 彼だってここまでの間に挫折や失敗があって今に至る、そこからD世界線でやるべきことをやっても……『人間として死ねるのか』という気持ちは消えない。

 たくっちスノーのように何度も使い回されて、ジークのように人間じゃない存在になるかもしれない……そうやってジークを見てるとおどけてみる。

 

「何よゼッツちゃん、お互い身体にナイトメア抱えてる時点でただの人間じゃないでしょ? 俺だってパニちゃん入れたのは後の方だけど付き合いとしては悪くなかったし慣れよ慣れ!」

 

「それで済めばいいが……」

 

 ゼッツとしてはどうすればいいのか、たくっちスノーを救うのか、時空の人柱になるのか。

 エージェントとして多くの人を救うことも辞めるのか? 

 他のライダー達も彼の覚悟に対して何も出来ない無念さに歯痒い思いしか出来ない。

 

「こいつを見届けるばかりじゃないだろ、俺たちだって時期が来たら一体どうなる? どんな歴史を歩む、そもそも一体時が来たらどうなっちまうんだ!?」

 

「更に言ったら……結局あのたくっちスノーが言うことが事実なら、響達はもう……」

 

「いえあの、心配されても困るといいますか……私達本来の世界だとどの道死ぬのでだからどうしたというか……」

 

「そうなりそうな元凶は黙ってなさい……はあ、しかもあたし達だって何も覚えてないというよりは、何もかもなかったことになっちゃうのよね……何もかも、全部……全部……」

 

 

 響はコナゴナでグチャグチャの空を眺め……考える。

 消える、何もかも消えてしまう、ゲームのセーブデータが壊れてしまうかのように全部やり直して、万が一復活したとしても今度はまた別の人生、変な無人島に巻き込まれて死ぬか生きるか、もしかしたら双子で離れ離れか、より最悪な展開になるのか……何にしても、もうあの頃の音ノ小路響ではないし、二度とこんな風にはなれない。

 

 自分達は生まれた時点でイレギュラーとして成ってしまったのだから……そう考えていると、響は昔のように子供っぽく泣いてしまう。

 

「やだっ……いやだぁ、そんなのいやよっ……忘れたくないっ……奏のことも、皆のことも……」

 

「お姉ちゃん……」

 

 思い出の品である音ノ小路ゼロディドライバーを抱きしめる、今となっては自分を自分たらしめるかけがえのない道具だ。

 これがあるからこそ今の自分はヒーローになって、時空を飛び越えて、数々の思い出を……。

 そう考えるだけで子供のように泣き出してしまう、響は昔からそうだったが……ずっと我慢していたように涙が漏れてくる。

 

「ううっ、あたし……あたしやっぱり決めらんないよっ……たくっちスノーを見捨てるか以前に、今後のことなんて……怖いよっ……」

 

「…………意気地なし、ずっとずっとそうやって泣きたくて我慢してさみしそうにしていたくせに、だから私だってこのクリスタルワールドでお姉ちゃんが不安にならないように色々説明してきたのに」

 

 奏はそんな響の姿に苛立ちはありつつも……止めようとしなかった。

 その理由だって分かってる。

 

「奏は全然泣かないわよね、昔はさ……あたしがよく虐めていたのもあるんだけど、結構おどおどして泣いてるような奴だったのに」

 

「うっ……本当に誰のせいだと思って」

 

「奏、聞いて」

 

 泣いていた響はシャツで涙を拭い……過去に滅亡迅雷と戦った時より真剣な眼差しを向けてくる。

 

「あたしは正直なところ……あんたのことが嫌いでもあった」

 

 子供の頃から天才的な才能があって、何をしても容易く上回るほどの腕前があった奏。

 何をしても勝てなくて……結局、初めて勝ったと呼べる頃には手遅れなころになっていた。

 負けるのが嫌で嫌で……20年間努力してきた、どれだけ苦しくなっても心が張り裂けそうになっても、負けたくない一心で頑張った、それでも奏はいつも簡単に上回った。

 

「だから……多分あたしはそれをずっと認めたくなくて、奏のことを虐めていた、そんなことでね」

 

 そうして響は或人に会うまで奏のことを酷い扱いわやしてきた、姉として愛しながらもコンプレックスを向けて相反する。

 

「ごめん、どこかで素直になっていればきっとこうはならなかった……あんたは音ノ小路奏、これまであたしに関わる60人をこの手で殺害してきた」

 

 奏の人生の積み重ねの中には自分の過ちを含んだものだってある。

 間違いなく奏のあの狂気性と末路を招いたのは自分の影響がある。

 

「それは……今更謝ったところでなんになるとしても、お姉ちゃんは間違っていたことを認めないといけない、ごめん」

 

「…………」

 

「まあその……奏はあたしのこと実際どう思ってるか結局分からないし、気に入らないところもあったでしょ」

 

「逆に聞くけど今まで私が何の不満抱えてないと思ったの? こんな、こんなところで急に、謝ってきたことも含めて!!」

 

 ボクサー並に鈍く重いストレートが響の顎にクリーンヒットしてそのまま馬乗りになる、今時の女の子とは思えないほどのガチの一方的な暴行が始まり……周りのライダー達も止めようとするが戦兎と莫が制止する。

 

 

「気に入らない事!? 私がどれだけ響に気を遣って我慢してきたことがあると思ってるんだ!! バンドだってそっちのやりたいようにしたし、言うことは全部従って、パンツだって成人してもキャラクター物履かせられた!! その上で……」

 

「お姉ちゃんの大好きな人を次々と殺して、私の言うことしか聞けないように追い込んでいった時のあの顔はとても最高だった、どんどんお姉ちゃんが私だけのモノになっていくと思うと最高の気分だったよ」

 

 奏は憎んでいる、それ以上に愛している。

 響を思い通りにして、弄んで、完全に『おもちゃ』にしたい。

 それだけのために20年の人生で人知れず、警察にも裏組織にも悟られず多くの人間を手にかけて響の精神を歪なものに変えてきた。

 そうして楽しんでいた、あと少しで完全に心を支配することだって出来た。

 ……そうして、二人の人生はぐちゃぐちゃに歪んだ形で死に至るかもしれなかった。

 

 

「でも私たちは変わったよ、飛電或人という奴のせいで全部台無しになった」

 

 ……その運命が変わるきっかけになったのが、或人との出会いだ。

 彼によってゼロワンの世界に招かれて色んな経験をして……響の心に大きな変化が訪れた。

 元々負けたくないと強く願う彼女の想いは或人の逆境と世界の荒波に惹かれて、響は子供っぽい要素は残しながらも調教が解かれて行って健気に変化した。

 

 響は成長した。

 幼いころの彼女は泣く事しか出来なかった。

 でも今の響きは心に周囲への怒りを宿している

 それは仮面ライダーという力を手に入れ奏に勝てるほど強くなったからだ。

 そして奏は……響が『本当の強さ』という本来必要ないものまで理解しようとしている事まで。

 

 ……手を放して、奏の方が泣いてしまう。

 

「なんで……或人さんさえいなければ、あんな思い出ごと消えてしまえばよっぽどよかったと思うのに、どうして私まで……」

 

 さっきまで殴られまくって痣だらけにも関わらず、そのまま奏を抱きしめて……覚悟を決める。

 これが自分達の旅路のような長い長い物語の分岐点にして最終地点なら……後悔のないように全部話しておこう。

 

「ねえお願い、覚悟を決めたから……あっちゃんと話をさせて」

 

 

「でも先に、奏から先でいいわ」

 

「えっ……お姉ちゃん何考えてるの? 私が或人さんに何かするとか考えないの?」

 

「たとえ妹がどんな風になったとしても、信じてるものよ」

 

「……まあ、別にそうしたいのだったら私から遠慮なく、或人さんに言いたいこと言うけど」

 

 ……二人の意見は可決された、話しやすい環境になるように莫が他のライダー達を一時的に退去させた後にクリスタルを置くと……それは二人にとってよく知る『飛電或人』の姿として現れる。

 

「あっちゃ……」

 

 響が思わず手を伸ばしたその時、奏が或人を抱きしめて耳元で囁く。

 

「これから私達が言う事に『はい』と言わないでください、否定もしないように、ただただ何の反応もしないで私達の言うことを聞き入れてください……まずは私から」

 

 奏は……或人に対してずっと隠してきた、あるいは言いそびれていたことを、遂に吐き出した。

 

「或人さん、私は会ったばかりの頃から貴方の事を相当憎んでいました」

 

 静まり返ったクリスタルワールドの空間で、奏の鈴を転がすような声だけが冷たく響く。

 莫によって他の仮面ライダーたちが一時退去させられ、目の前に再現された『飛電或人』の幻影のように大人しいく松造は、奏の事前の警告通り、肯定も否定もせず、ただじっと彼女たちを見つめていた。

 

 思えば早いうちから、奏から見た或人への気持ちは純然たる嫌悪だったのかもしれない。

 奏が20年という歳月をかけ、時に手を汚し、緻密に、狂気的に築き上げてきた『音ノ小路響の歪んだ精神』。

 それをこの男は、意図すらしない真っ直ぐな言葉と優しさと世界ごと巻き込んだ騒動の数々だけで、いとも簡単に塗りつぶしてしまったのだ。

 自分の中の響が、目の前で強引に奪い去られたような、言いようのない喪失感と怒り。

 

 だから、全部終わってから殺すつもりだった。

 ただ命を奪うのではない。許せなかったからこそ……これまで以上に凄惨な、どんな風に弄んで壊してしまおうかと、そればかりを考えていたくらいだった。

 

 しかし奏にとってさらに想定外だったのは、その目論みの途中で、生まれて初めて響に力で負けたことだった、しかしそれでも『仮面ライダーゼロゼロ』はかっこよかった。

 罪が露見しようが、人権を剥奪されようが、自身の命の権利を放棄させられようが、奏にとっては転落でも何でもなかった。響さえ自分の手の中に残れば、世界などどうでもよかったのだから。

 

「プフフ……そうして気がつけば私は時空犯罪者になっても死ぬことはなく、或人さんやお姉ちゃんとも長い付き合いになりましたね」

 

 結末の訪れない歪んだ歴史の狭間で、響や或人たちの歩む姿をずっと傍観していた奏だったが、その心を完全に諦めさせたわけではなかった。

 なぜならすぐに察しがついたからだ。

 響がだんだんと、或人に向けられる好意の意味合いを「先輩ヒーローへの憧れ」から「一人の男への愛」へと変質させつつあることに。

 

「だから私は、今度は響の全てを奪うために貴方を好きになりました」

 

 奏の瞳が、あの頃に赤く見上げたアークのように妖しく、ドロドロとした光を帯びる。

 

「ドロドロに、醜く、悪意にまみれたように、貴方の中の貴方を汚し尽くして──響の愛する飛電或人をこの世から亡き者にしてやりたい。それが、新しい私の行動原理でした」

 

 これは紛れもない復讐だ。自分の中の響を奪った男から、今度はその人間性も、清廉さも、すべてを奪い取り、破壊してやる。

 だが、そこに一切の暴行や精神攻撃は用いない。音ノ小路奏が選んだのは、底無しの、手加減を一切知らない『愚愛』による侵食。

 すべては、その果てに絶望し、再び自分だけのものへと戻るお姉ちゃんの顔が見たいがため。

 

「好きですよ或人さん、お姉ちゃんよりもずっと」

 

 或人を自分の手駒にする。その前提を作るためなら、奏はどんな手段だって厭わない。

 誓いの指輪だって嵌めるし、望まれるなら子供だって産む。或人の障害となる人間がいるならば、裏でいくらでも始末してやる。

 

 響が相手なら、泥沼の三角関係も重婚すらも容易く許容できる。 

 そうやって、かつて響を自分に依存させたように、今度は或人を『調教』すればいいと考えていた。

 

「そうして手段を模索していく段階で、私は何より先に貴方の力其の物を手に入れました。皮肉な事に、貴方に宿るべきだった悪意が先に私に伝染し、形になったようです」

 

 奏は静かに、自らの衣服の奥から『それ』を取り出した。 

 ──アークドライバーワン。

 このクリスタルワールドの長い冒険と議論の間も、ずっと滅亡迅雷フォースライザーを使用して身体を酷使してまでずっと隠し通してきた奏の真の切り札にして、最悪の変身ベルト。

 時空のたくっちスノーたちの奇妙な介入によってゼロワンの世界は歪み、本来の歴史で飛電或人が悪意に染まることはなかった。その結果、行き場を失った悪意の器として、この『仮面ライダーアークワン』の力は、音ノ小路奏を選んだのだ。

 

「初めてアークワンに変身したときは、本当に絶頂にも等しい感覚がしました……。これが、何かしらの力を身体に受けた時以上に……運命が違えば飛電或人もこれだけの感情を宿し、乱れ狂う事を思えば、最高に陶酔した!!」

 

 響への狂おしいほどの『愛』。そして、アークを受け継いだ絶対的な『力』。

 これこそが、彼女が最後の最後まで牙を隠し、秘匿し続けてきた、この時空における『音ノ小路奏』の真実。

 しかし、或人の幻影を見つめる奏の表情に、微かな、だが致命的な歪みが生じる。

 

「……でもですね、或人さん……私にはまだ、分からない事があります」

 

 或人を抱きしめる腕に、さらにじわじわと力がこもる。その指先は震えていた。

 

「或人さんとお姉ちゃんへの愛の向け方は、全く異なって当然のはずなのに……。それが、どうして……一致しないことが、私は何故か……もどかしい……!!」

 

 或人を汚し尽くしたいという強烈な悪意と、彼を独占したいという狂愛。けれどその根底にあるのは、いつだって「響の特別でありたい」というあまりにも執着に満ちた姉への愛……その為ならなんでも出来る。

 二つの愛は、決して交わることのない別個のもののはずなのに、奏の心の中で奇妙に連動し、彼女の精神を内側から掻き毟る。

 無反応な或人の幻影の肩越しに、奏は、涙を溜めた目で自分を見つめる姉──音ノ小路響へと、狂気と戸惑いの混ざった視線を向けた。

 

「……何よ、そんなに難しく考えることじゃないでしょ」

 

 響は……姉としての顔を向けて諭すように簡潔に答えた。

 

 

「どんな事があったかあたしには分かんないけど、あたしだって奏のことは見てきたから分かるわよ、奏は……あっちゃんのこと好きなんでしょ? 理屈とか抜きに」

 

「え……?」

 

「代わりなさい、あたしがあっちゃんに話す番よ」

 

 

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