分岐点に残された物を立て直し、ゴミ掃除を行い……本格的に環境を整えていった。
クリスタルワールドという擬似的な舞台を一度作り直す上で撤廃してやり直そうとした結果、そこはまるで作りたてのセットのような立地になってしまった。
「なんか途端に小学生の工作みたいな景色になったね」
「しょうがないでしょ……一週間かけて掃除してコレなんだから褒めてもらいたいぐらいなんだけど」
二人て苦労して整え一息ついていた所に奏の持っていた時計のアラームが鳴る。
どうやらまた『時間』が来たようだ。
「お姉ちゃん、また時空議論始めるよ」
「ええ〜ちょっと早くない? ちょっと前にやったばかりじゃなかった?」
「そんな文句も言ってられないよ、待機しているキャラクター達だって仮面ライダー以外でもまだ山ほどいるし……というか、その人達だって消化しきれてないんだから」
「ああ〜もうしょうがないか……」
休みがしばらく来ないことに悪態をつきながら、響は背伸びしてまた恒例行事になった時空議論……というよりは、万が一覚えていたとしてたくっちスノーに手を貸すのをやめるかどうかというアンケートみたいになっている。
最初のうちにたくっちスノーが実際役に立っていたのかと、止まらない物語については話して……最後に、自分達が本当に楽しかったこととは? 結末を取り戻す事が自分達の目標だったのか? それを一同に再確認して、ここで気長に過ごしていくかを問いただす。
ちなみに最初に響達と議論した戦兎達に関してだが……はっきりとD世界線でも記憶保持したまま活動できる莫が、その一度きりだけ協力すると言ったことに関して以外は至ってスムーズな流れで決まった。
そう、それは——そのまま響や奏と共にこの世界を自由に作り変えて、自分好みの空間と住処を作り出し……満足するまで『日常』を過ごすというもの。
その後の議論も戦いに精神的に疲れてきたり、元々戦闘などに縁のない人々が即決したのだが、なんと今のところたくっちスノーと付き合いもそれなりに広かった者達までこの選択をした者がいる。
それ以外にしても『少し待ってほしい』と決断を保留しているものばかりで、やはり最終的にはこうなっている。
それだけ皆の記憶から無くなってリセットする以上に……この楽しかった出来事を共存していきたい気持ちが強かったようだ。
「可決! 可決! 可決!」
そうして今回の議論もD世界線でアテもなく力を失ったたくっちスノーと付き合うよりはここで満足いくまで過ごしたいということになった。
「何人かついてきたらなぁ……ぐらいだったけどこれくらいになるとはね」
「実際のABC世界線の映像を見せたら、それだけ巻き込まれたくないって思っちゃったのかな……何にしてもスムーズに進みそうでよかったじゃんお姉ちゃん」
「まあ、そうなんだけど……」
自分で決めておいて何だが、なんとも綺麗に話が進みすぎているような気がしないでもない。
しかしこれもこれで自分が選んだ楽しい結末、それを最後まで満喫してみよう……というところで少し休んでまた議論開始なことだけは文句も言いたいが仕方ない。
「お姉ちゃん、次」
「もう疲れた……奏代わってよ」
「いや、元はと言えばお姉ちゃんが決めたことなんだから……あれ?」
だるそうにする響を引っ張って議論場に連れて行くと……いつもと様子が違う、見慣れない謎の20人の存在が立っていた。
どこの誰とも見覚えがない……D世界線の人物にしては世界観がバラバラ、疑問を口にする前にそのうちの一人が口を開いた。
「私はムーンベーゼ、ここにいるみんなを含めてあいつ……たくっちスノーが作り出したマガイモノよ」
「え!? あんた達マガイモノなの!? 見たことないけど」
マガイモノといえば、たくっちスノー達が作り出すキャラクター達の設定を繋ぎ合わせて生まれる『眷属』だが、彼女達の姿には覚えがない。
それを聞いてムーンベーゼもため息を吐いて頭を掻きながら真相を話す。
「そりゃそうよね、色々事情は聞いたけど……私たちはD世界線、Soraの力で作られたマガイモノだもの」
なんとD世界線からの初めての客はたくっちスノーのマガイモノ、一体どんな縁によって……などと答えを聞く前にムーンベーゼが愚痴り出す
「向こうで私たちはあの仮想空間で生きていたんだ「けど……なんか突然仲間同士で殺し合いはするわ、変な遊園地のアトラクションを作らされるわ……問いただして口を割らせたら、自分が負けたから私たちを派遣して歪んだ物語を直させるとか言ってね……」
「あっ、本来はマガイモノ達を送り出して何とかする予定だったんだ……というか、今のたくっちスノーって本当に何も出来ないからそうしてればいいのに」
「私も同じことを思ったわ……だから私はその時は残ることにしたんだけど、それ以上にSoraの動向を確認したかったのよ」
「でも、Soraはなくなったと話の中で聞きましたけど」
「……そうして動向を確認しながらマガイモノ達の様子を見ているうちに私も悟ったのよ、貴方達で言うような終わりの見えない悪夢に付き合わされるんじゃないかって、大体その出陣の時だって何人かは事故ってどこかに消えたり、裏切った奴だって何人かいるわ」
「ダメじゃんそれ! 何を余計に敵を増やすようなまねをしてるの!!」
「……で、次に作り出したあいつと同等の力を与えてVTuberを元にしたやつが、全員を洗脳して世界を支配しようとしたところで私含めた色んなやつが悟ったのよ」
彼に付き合ってても何も変わらないし、何も面倒なことにしかならない。
遊園地のアトラクションを本拠地にすると言い出したり、様々なキャラクターを模索して限界なく作り出そうとしたり、作品規模のマガイモノを作るとか言い出したり……もしかしたら無自覚かもしれないが、奏が危惧していた時と同じ状況、短い電脳空間の中ですらキャラクターや表現を増やして無限にインフレしていく出来事が続いていたようだ、過去ですらそうのだから未来がこうならないわけがない。
「だから私、1回あいつに挨拶する前にSoraを潰してきたの……実は皆だってどの世界にも行ってないしね」
「え!? 潰してきた!? い、いやそれって大丈夫なの!?」
響もその発言には焦る、たくっちスノーは気に入らないところがあってもさすがに死んでほしいわけではない。
彼はSoraのみでしかちゃんとした肉体を意地できない、恐らく言い方からしてたくっちスノーも気付いていない。
「ああ、大丈夫よ壊したと言ってもマガイモノを作れなくしただけだから」
「だけで済まないでしょそれ! 完全にアイツのやれること無くなってただの凡人みたいになってるじゃない!」
「まあどっち道変わらないような気もするけど」
「……で、私たちもなんか、こんなことのために生まれてきたと思うのと、あっちで右も左も分からない頃に楽しく過ごしてたという話が羨ましくてね……私たち25人は一緒に暮らしてたけどつるむことも出来なかったのよ」
とまらないムーンベーゼの愚痴、言わずもがな可決であることは分かったので話はまとまるが、これまでとは想像しなかった未来の視点に冷や汗をかいて……聞くのが怖いので奏に言ってもらうように頼む。
「あ〜……お姉ちゃんがこう言ってほしいって、これで全員揃ってたくっちスノーを裏切ることになったけどそれはいいのか? って」
「え? ああ……確かにあいつの使命に背くことに「なっちゃったのね……でもほら、こうしてここに来て分かったわ、別に外の世界がどう滅んでしまっても私たちは気にならないし、なんか……彼に従う理由もないしね」
こうしてD世界線の現況も垣間見た二人だった。
たくっちスノーがめちゃくちゃ大ピンチっぽいことは分かったが彼ら抜きにしても何やら世界の危機とかになっているようには見えないので現住民達が相当頑張っているか戦力的には何かしらの影響も及んでいないのかもしれない。
ただし響は一言思った。
(なんかあいつ、びっくりするくらい人望って無いのね……)
Soraで生まれたマガイモノ達は完成度が高い、それ故に自己が強く彼に従うだけで済まなかった。
たくっちスノーは優秀なマガイモノを作り上げた、問題があるとするなら教育の手段と先を急ぎすぎたこと。
忠誠心を養うということが全く分かっていなかったからこそ、付き合いきれなかった。
「いつか……いつか、あいつもここに来るの? 諦めるようなことがあったら」
「それはまあ……あのたくっちスノーだっていつかは諦めるのかもしれないし、現にD世界線からそっちも来てるじゃないの」
「そりゃ私たちは覚えてる人間なんて早々いないし、たくっちスノーはSoraが作ったAI映像だけ見て私たちが本当にD世界線に行ったと思ってたぐらいだから……まあ、私の場合はほんの1回だけ顔見せたけど槍だけだし」
いつか——あっちの新しい未来でも100年、200年……もしかしたら一度人類が滅んで文明が作り直された後にでもようやく彼らは楽になれるのかもしれない。
しかし今は自分達がどう生きるか、これから何をしよう?
それを考えるだけでワクワクが止まらないが、まだそうもいられない。
「お姉ちゃん、時間」
「なんかこの瞬間だけは無視したい」
「大丈夫だよお姉ちゃん、もうそろそろクライマックスになりそうだから……ほら」
「え? う、うわあああ────っ!!」
見上げて歓喜の声を上げる事しか出来ない……待ちくたびれたかのようにあの船が、あの仲間が、あの思い出が……過去という概念がそのまま一気に流れ込んできた。
しかもこいつら皆が同じ道を選んだ、このまま……この場所で、新しいが進まない思い出を作り続けよう。
いつか、誰も認識できなくなる笛の音も聞きそびれるような裏方の世界で——。
……
終わりのない常夏の楽園が……ここにある。
大きな太陽が一面を熱く照らす、絶好の晴れ日和。
海に囲まれた孤島によって構成された楽園の一室で、音ノ小路響は勢いよく跳ね起きた。窓の外にはどこまでも青い海と、輝くような白い砂浜が広がっている。
かつてガラクタの山だったクリスタルワールドを一度作り直し、本格的に環境を整えていった結果がこれだ。
今日もまた新しくて楽しい生活が始まろうとしていた。その日何が起ころうとしているのかは誰にも分からないが、今日もまたハッピーに過ごせることを期待して、響は胸を弾ませる。
「あっそうだ、今日はあっちゃんとデートする約束したじゃない!」
思い出した途端、響は急いで身支度を整え始めた。
今日の主役は自分と、飛電或人。
あの時……終わりを待つ空間で「忘れないで」と願い、口づけを交わそうとした最愛の男だ。
もう重苦しい使命も、たくっちスノーの都合に振り回される因縁もない。今日は一日中、或人を連れ回して心の底から楽しむつもりだった。
いつもと違う、少し大人っぽいリゾートスタイルの服装に身を包み、気合を入れて待ち合わせ場所へと向かう。
そこには、もう既に待機している或人の姿があった。
「あっちゃん!」
嬉しそうに声を上げ、楽しそうに駆け寄る響。いつもとは違う自分の姿にどんな反応をしてくれるだろうか。「どこに行こうか?」と声をかけようとした、まさにその時。
背後から、不穏かつ非常に賑やかな、聞き覚えのある足音が近づいてきた。
「おっ姉ちゃーん♡あーるとさーん♡♡」
ぼよんぼよん。
そんな擬音がこれ以上ないほどぴったりな効果音を響かせながら、胸を上下左右に盛大に弾ませ、満面の笑みでスキップして近づいてくる女の姿──双子の妹、奏だった。
響の脳内で警戒アラートが最大音量で鳴り響く。響は電光石火の早業で奏の腕を掴むと、或人に気付かれないよう、一瞬で近くの木の陰へと引っ張り込んだ。
「奏、あんたブラジャーと恥と重力をどこに置いてきたの!?」
「だってお姉ちゃんが或人さんと一日過ごすっていうから、私だって気合を入れたくて」
悪びれもせず、むしろ誇らしげに胸を張る奏に、響はジト目を向けて声を潜める。
「だからってそんなやり方して……最低よ奏! あっちゃんに変なことする気じゃないでしょうね!」
「ええ? それってお姉ちゃんが言えた道理なのかな? 或人さんに何か企んだりしてるでしょ? 昨日の夜だって、ずーっとソワソワしてたじゃない」
「な……何言ってるのよ奏、そんなまさか、あたしに何が出来るって言うのよ!」
顔を真っ赤にして弁明する響。しかし、奏の鋭い視線は響の挙動不審な様子を見逃さなかった。ジィーっと響の足元から腰回りに視線を走らせたかと思うと、奏は突然、信じられない行動に出た。
「あっ!! やっぱり今日、いつものパンツじゃない!! 響、いつからそんな大人みたいな形の履くようになったの!?」
「きゃあああああああ!! 覗き込むんじゃないわよ! バカ!!」
大胆にもスカートの中をもの凄い姿勢で覗き込んできた奏を、響は必死になって押し返す。とんでもないハプニングだが、これら全ては或人に聞こえないように必死のローボイスで行われていた。
改めて、双子が互いに一人の男の取り合いになろうとしていることを理解すると、妙にこじれるような、けれどどこか変わらず仲が良いような、複雑な実感が湧いてくる。
「私がいない間に、抜け駆けして何か関係を進めようとするなんて……」
「そっちだって目を離した隙にどうなるか分からないでしょ! だからこっちも攻めよ攻めよで行くしかないのよ!!」
互いに一歩も引かず、ついに胸ぐらを掴み合って取っ組み合いの喧嘩に発展しそうになった、その時。
ふっと、奏の足元の地面の感覚が消えた。
「きゃっ!?」
「あ、危ないっ!」
作りかけの地面をすり抜けて落下しそうになった奏の手を、響が寸前のところでガシッと掴み取る。ぐっと力を込めて引き上げると、二人はそのまま砂浜に尻餅をついた。
「気をつけなさいよ……まだこの辺り作りかけで、細かい所で『形しか無い』所があるんだから」
「ふぅ……ありがと。もう、こういう細かいバグみたいなの早く直してくれないの、私嫌なんだけどな……」
奏は服についた砂を払いながら不満げにぼやく。
あの議論の結末から数日。たくっちスノーに手を貸すのをやめ、過去に消滅した人々やマガイモノ達が全部この場所に残ることを選んだ。そして各々が好きなように空間を作り直している最中なのだ。
幸いにも、ムーンベーゼをはじめとするマガイモノ達がかつて電脳空間で遊園地のアトラクションを作った技術があり、それを元にしているため、今では誰でも好きなように理想の空間を創造できるようになっている。
この常夏の楽園も、もう少し手が込めばもっと色んな人が集まってきて、ある意味では従来通りに賑やかになるのだろう。
けれど──それまではまだ、二人だけで。
響と奏は顔を見合わせ、小さく息を吐き出すと、同時に立ち上がった。この終わりのない楽園を、大好きな人たちと共に満喫するために、再び或人の元へと歩き出す。
しかし、一歩足を踏み出した瞬間から、すでに第二ラウンドは始まっていた。
「或人さんっ! 私、『90』もあるんですよ? なんの数字か分かりますか〜? プフフ……♡」
「ちょっと、あんまりあっちゃんにひっつかないでよ奏──っ!!」
青い空と海に、響の怒声と奏のからかうような笑い声、そして或人の困ったような笑い声が響き渡る。
終わりのない理想郷で、彼女たちの新しく、騒がしく、そして何よりも愛おしい日常が、確かに動き出していた。
——
しばらく歩いていると、いつもと違う正装のような普段着のような……セブンとしてではなく、万津莫としての彼と通りすがる。
「あっ、セブンちゃん」
「こっちだとセブンではないけど……まあいっか、そっちでしか会ってなかったんだし」
「その姿は?」
「あれから方向性が決まってからね……実際に俺の物語が始まるまで結構かかるんだよなぁと思っていたら夢を見ていないときでもここに来れるようになったんだ」
莫はこの空間に来てからD世界線で自分達の物語が始まるまで暇なのでCodeの拠点と同じ物を作り、夢を守るエージェントのようなことを存分に満喫している。
といっても、ここはほぼ平和なので大したことはしてないが息抜きにはちょうどいいらしい。
しかし響と奏が或人……? にべったり張り付いているところには苦笑いを浮かべる。
「でもあの……貴方達それはさ、ちょっとおおっぴらに見られたらまずいんじゃないのかな、いや……アイドルと社長の、というのもあるんだけど、他世界の住民同士の恋愛はちょっと戦争になるというか」
「何よいいじゃない! 物語の中でそういう恋愛はご法度なんて超大昔のローカルルールじゃない! というか、たくっちスノーがそれ守れないからなかったことにしたんでしょ!」
「い、いや……そんな昔のことよく知ってたなというか……いや、それで言えばそっちの飛電さんもそうなのか……」
莫は夢で色んな経験を見てきたが、この時空によくある名前と見た目だけが全く同じの偶像たちを見てたまに混乱することもある。
しかしここで生きていれば慣れていくのだろう。
「一応言っておくと、これからB世界線、C世界線もここに収束していくことになりそうだ、完成するまでどれだけかかるのか……」
「どれたけかかってもいいじゃない、あたし達はこれから時間もいっ〜ぱいあるし、まだまだやれることもやりたいことも沢山あるからそれを楽しんでいきましょ!」
「行こっ、あっちゃん!」