MNU サモンライド・ラストコール   作:黒影時空

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第3話「どこからともなくSOS」

 全く先のことをオトノが想定してなかったことを表すのが現在の状況だ、今……自分が来ている場所は本来の常識が通用するかも怪しいような異世界、環境も生物も仮面ライダーの世界とは大きく違うこの場所で、オトノはこのクリスタルベースでの衣食住について全く考えてなかった。

 

 それに関して言えばウタもある意味そうなのだが、彼女の場合はこれまで『衣』と『食』は気にしなくてもいい環境でしばらく生きていた。

 オトノが調べて分かったが、ウタは人間の身体に戻っていた……これによって精神より肉体の方が異変に追いつかず、まるで数日間絶食したような異常事態になっていた。

 

 ここに来て初めてオトノの方も今日をどうやって過ごすか全く考えてなかったことに気付く。

 

「ほら……飲水はトレイナがいる水の世界で大体まかなえるし、ヒューキャニオンだったらちょっと歩けば食べられる果物くらいあると思って」

 

「ちょっと頭動かせば知らない物口に含めちゃいけないことくらい分かるよね!? バカなの!? バカだったよ! 私がそんな風にしたんだから!」

 

 しかし今現在どうこう言ってられない状況である、クリスタルベースの面々だって迂闊に助けられないのだ、見ず知らずの別世界の人間が同じものを食べたり出来るのか分からないのだから……しかし、貴重な戦力を失うことになる。

 

「仮面ライダーの力でなんとか食べ物出てきたりしないの!?」

 

「出てきたり……したらいいけどそんな都合いいものは……あった!! お姉ちゃんの手元にあった!」

 

 それはあの、コインのようなアイテム……それを倒れた状態でこっちに渡すようにウタが手を招いて、オトノの方も少し限界が見えてきたので手を差し出すと……オトの方もライドフィギュアを持っていた、それは仮面ライダーエグゼイドのフィギュアだ。

 

「それはキョウカライドチップ! ここの穴に対応するコイン入れたら仮面ライダーが強くなるから……とりあえず早く入れて……死ぬ、死ぬ」

 

「とりあえず入れるけどどうなっても知らないから!」

 

【サモンライド! エグゼイド!】

 

 言われた通りにサモンライドを行い、仮面ライダーエグゼイドを召喚したあとにキョウカライドチップを入れると……エグゼイドの姿が変わり、強化フォームに当たる【レベルアップ】が適応される、それはなんとも都合がいいことか、あるいは姉妹として息が合っていたのか。

 

 

 オトノが仮面ライダーエグゼイドのライドチップを持っており、ウタが本体であるライドフィギュアを持っていた……これによって、エグゼイドはレベル4の『バーガーアクションゲーマー』となり、無からエグゼイドがバーガーを作ってくれることで、どうにか飢えが凌げた。

 

「でもこれってエグゼイドを今後戦闘で使えなくない?」

 

「贅沢は敵だよお姉ちゃん」

 

 どうにか調子を取り戻したオトノとウタだが、まだ肝心なのは1日を過ごすための居住地点……クリスタルベースは広いが、戦闘員が一度攻めてきたことを考えると警戒が抜けきれない。

 ライドフィギュアだっていつまた使えるか分からないし、今のでエグゼイドが使えなくなってしまった。

 

「というかお姉ちゃん、私が見つけたものだから返してくれない? そっちは3つもあるんだから」

 

「その3つが全部使えないから困ってるところなんだけど……まあ、1個手に入れたばかりだけど」

 

 一通り食べて、エグゼイドが消滅する……やはり一番の課題はサモンライドの制限時間だ、使えるようになるまでならともかく、その長さに反して使えるエネルギーがこれっぽっちでは割に合わない……これで二人合わせてライドフィギュアは5種類だが、産毛が生えた程度のことしか出来ない……と、悩んでいるところにトレイナから連絡が入る……自前の端末から。

 

「えっ、どうしたの? よくこの番号わかったわね……」

 

「念能力を用いて、貴方が使用している通信端末にアクセスすることができました」

 

「ああ……そういえばクリスタルベースでも結構遠くに来てたっけ……どうかしたの?」

 

「あのライドフィギュアと呼ばれるものですが……私に何個か預けてくれませんか? 貴方が回収したクリスタルの欠片を使って……もっと力を引き出すことができるかもしれません」

 

「え!? あんたそんなことできるの!? ほしいほしいそういうの! じゃあ殆ど預けておくからしばらくお願い!」

 

「ええ……お姉ちゃんせっかくの戦力をさぁ……」

 

「あのねウタ! あたし達は戦闘員くらいなら軽くボコれるくらいにはならないとダメ! 仮面ライダーでしょ!」

 

「仮面ライダーをなんだと思ってるのっていうか、なんかマウント取られてるみたいでいつものことだけど久々なものでイラッとしてきた」

 

「最終的にはあっちゃんと同レベルになるまでトレーニングを開始する」

 

「ごめんお姉ちゃんあの人は人間の常識外だから参考にしちゃダメってああちょっと私本当に死んじゃうからやめて!!」

 

 こうしてウタは少し前のように強引な流れで半ば連れ込まれるようにヒューキャニオンへ再出発、オトノとウタのクリスタルワールド攻略の為の特訓が始まる……。

 

 ──結論から言おう。

 誰もが認める、妹もすでに理解している、オトノという人間の計画性のなさは、もはや一種の才能に近いレベルに達していた。

 

「あー、もう! 自前の身体を強くするって言っても、何から手をつけていいかさっぱり分かんないわよ!」

 

 ヒューキャニオンの強風が吹き荒れる中、オトノは頭を抱えて叫んでいた。

 ウタを半ば強引に連れ出したはいいものの、具体的なトレーニングメニューなど考えているはずもない。

 

「お姉ちゃんそれでも或人さんの相方なの……?」

 

「うるさいわね! 昔からあんたをしばくことしかやってなかったんだからしょうがないじゃないの?」

 

 仕方なく、周囲を手当たり次第砕いて手に入れたばかりのクリスタルの欠片をいくつか弄りながら、そこに刻まれた「仮面ライダーの歴史」を検索してみる。何か参考になる過去の事例はないか、と。

 そこで引き当ててしまったのが、すべての間違いの始まりだった。

 

「……あ、これなんてどう? 『スカイライダー』。必殺技が通用しない強敵に対抗するため、先輩である栄光の7人ライダーから直々の猛特訓を受けて見事にパワーアップを遂げたエピソード! うん、これよ! 困った時は先人の知恵を借りるに限るわ!」

 

 それが、昭和の仮面ライダーたちが遺した「最も苛烈で、最も倫理観を置き去りにした荒療治」であるとも知らずに。

 

 ……

 

「ギャアアアアアア!!! ちょっと待って! 死ぬ! 本当に死んじゃうから!!」

 

 数分も経たず岩肌が剥き出しになった崖の上で、オトノの悲鳴がこだました。

 脳裏に浮かび上がった再現映像は、まさに情け容赦ない正義のヒーローたちによる合法的なリンチそのものだった。

 変身すらしていない生身の成人男性(筑波洋)に向かって、すでに変身を完了している仮面ライダー1号からストロンガーまでの先輩たちが、よってたかって容赦のない打撃を叩き込み、崖から突き落とす映像が脳内に直接流れ込んでくる……ある意味とんでもない仮想体験だ。

 

 そして最悪なことにサモンライドのシステムは、そのシチュエーションを驚くほど忠実に、かつバリエーション豊かにオトノたちへと再現した。

 ドゴォォォン!!

 

「ふぐっ……!?」

 

 ウタの腹部に、ストロンガーが容赦なく振り回す鎖付きの巨大な鉄球が叩き込まれる。

 さらに、崖の上からは凄まじいエンジン音と共にバイクが突っ込んできて、避ける暇もなく二人は斜面を転がり落ちた。

 

 泥にまみれ、全身を強打しながら、オトノ達は四つん這いになって荒い息を吐く。

 

「さっき食べたハンバーガーが……逆流しそう……」

 

「ウタ……私、やっぱり一回死んだ方がマシな気がしてきたわ……」

 

 ウタが完全に白目を剥きかけている。

 言うまでもないが、スカイライダーこと筑波洋と彼女たちとでは、根本的なスペックが違いすぎた。

 彼女たちは確かにゼロワンの世界などで実戦(修羅場)をくぐり抜けてはいるが、本質的にはただの2×歳の乙女である。毎日過酷なトレーニングを積んでいた改造人間と、普通の人間(※ウタは人間に戻ったばかり)を同じメニューでシバけば、こうなるのは火を見るより明らかだった。

 むしろスカイライダーの方はよくコレでちゃんと結果が伴ったものである。

 

 だが、サモンライドによる「特訓モード」は一度起動すると止まらない。

 崖の上に立つ先輩ライダーたちの目が、夕日を浴びて不気味に輝く。本来なら変身した状態で受けるべき、恐怖の「ライダーキック」の構えに入ろうとしていた。

 

「嘘でしょ……? 生身であれ受けたら、肉体が分子レベルで崩壊するんじゃ……」

 

「さすがにそこまで……じゃないにしても、お姉ちゃんの首と頭が綺麗に吹っ飛ぶんじゃないかな……」

 

 昭和時代の特訓とはまさに圧倒的な恐怖と力を直接身体に叩き込み、限界を超えさせるという超・荒療治。

 確かにこれに耐えきれば、怪人軍団の雑魚くらいなら素手で引き裂けそうな気はするが、あまりにも強引がすぎる。

 

 絶体絶命の極限状態の中、オトノは泥を拭いながら、心の拠り所である「彼」の姿を思い浮かべていた。

 

「でも……あっちゃんだったら、これくらいの大怪我しても、ギャグ一発飛ばしてしばらくしたら普通に戦場に行ってそうな気がしてくるわね……」

 

 ウタは地面にしがみついたまま、弱々しく首を振った。

 

「あれは本当に……或人さんが飛び抜けておかしいだけのように思えるけど……実際どうなんだろう。あの人の身体、身体のネジの代わりにプログラミングでも詰まってるんじゃない?」

 

「でもあんた、そんなあいつを1回殺そうと試みたことがあったじゃない」

 

「……そんなことあったっけ?」

 

 

 走馬灯のように話を続けるしかなくなった中、凄まじい衝撃波が走り、特訓のホログラムが一時的に霧散する……インターバルだ。

 二人は大の字になって岩場に寝転がり、ゼーゼーと肺を鳴らした。

 血が滲んで痛む身体を起こしながら、オトノはこれまでの戦いを振り返る。

 エグゼイドのライドフィギュアから現れたバグスターウイルス。ガヴの背後にいるグラニュート。この世界に現れる怪人たちは、すべて仮面ライダーたちの歴史と地続きの存在だ。

 

 光があるところには、必ずそれを生み出した深い闇が存在する。

 だとしたら、自分が最も信頼し、焦がれている「仮面ライダーゼロワン」の戦いの歴史からも、最悪の『相反する存在』が生まれているはずだった。

 

 そして──その予感は、最悪のタイミングで現実となる。

 キィィィィィン……。

 

 突如、ヒューキャニオンの強風がピタリと止んだ。

 世界のバグのような、不快な電子音が空間を侵食していく。特訓による疲労とは明らかに違う、肌を刺すような濃厚な「悪意」が、オトノとウタの全身を硬直させた。

 

「な、に……これ……?」

 

 オトノが震える声で呟く。

 岩場の一角、空間がデジタルノイズのように激しく歪み、赤黒い光の粒子が集束していく。

 そこに現れたのは、本来ならこの世界に存在するはずのない、意志を持たないはずの『システム』。

 悪意のみをデータ化し、前代未聞の「中身のいない」変身者として悪を遂行する、最凶の存在。

 4つの滅亡の意志が混ざり合い、一つの形を成した仮面ライダー。

 

【滅亡迅雷.net】

 

 漆黒の装甲に、禍々しく発光する紫のライン。その目が妖しく輝いた瞬間、機械的な合成音声が、冷徹にクリスタルワールドの終わりを告げた。

 

「CRYSTAL WORLD will be extinct. (クリスタルワールドは滅亡する)」

 

 オトノ達の認識を遥かに超えた絶望の象徴──『仮面ライダー滅亡迅雷』が、その姿を現した。

 

 オトノは目の前に現れた仮面ライダーが……よく分からなかった、いや、正確には何故あんなものが現れたのか分からない。

 

 

「……あれって、もしかしなくても滅亡迅雷.netに関するやつ、よね?」

 

「私も初めて見るから断言できないけど……多分、そうだと、思う」

 

「でもおかしいでしょ……あたし達の記憶が確かなら、滅亡迅雷netは確か……」

 

「お姉ちゃん……あれみなよ、どう考えても私達の話が通用しないし、こうやって考えてる暇もなっ……」

 

 しかしウタが話している途中にも関わらず、容赦なく鋭い拳がウタの身体に襲いかかり、周囲のクリスタルをまとめて破壊しながら吹き飛ばされる。

 

「かっ……!? ウタ!!!」

 

「ああっ……くそっ、めっちゃくちゃ痛い……お姉ちゃん、これまずいよ、あの仮面ライダー本格的に私たちのこと殺そうとしている……無慈悲にね」

 

「んなこと分かってるわよ、逃げるわよウタ! ほらおんぶするから!」

 

「舐めんな!! 私だっていつまでもお姉ちゃんのご機嫌伺いも億劫になってきたところだし、私だって似たようなこと出来るんだから!」

 

 ウタは滅亡迅雷を前にしても怯まずに、オトノの物とよく似たタイプである左腕の装置を、エグゼイドとは別のライドフィギュアを取り出して構える……それは、鬼の力を宿し、音色で妖かしを清める『仮面ライダー響鬼』のものだった。

 

「デモンライド……!!」

 

【デモンライド……響鬼・牛鬼】

 

 オトノとはまた違う形の黒いライトゲート……そこから呼び出されてきたものは、仮面ライダー響鬼ではなく……牛のように大きな角の生えた、響鬼たちと相対する魔化魍のようなおどろおどろしい怪物であり、滅亡迅雷とぶつかりあって時間稼ぎになる。

 

「コインに表と裏があるように……仮面ライダーと怪人達にもまた裏と表がある、私が偶然手に入れたデモンライドで召喚されたライダーは皆……力が反転された状態で顕現される、エグゼイドはゲンムになり、響鬼はあの通り魔化魍になる! ……これが私の力、デモンライド!」

 

「今回ばかりは助かったけどさ……あんま大っぴらに使わないでよその力、気持ち悪いから!」

 

 気象が荒れているヒューキャニオンを飛び越えながら、悲鳴を上げている身体を無視して戦闘員達を飛び越えて滅亡迅雷から逃げる。

 いくらなんでも強すぎる奴に生身で挑むほど考え知らずではないので急いでトレイナに連絡を入れる。

 

「やばいやばい! トレイナ! ヒューキャニオンにとんでもないのいる! 一旦撤退するから!」

 

「わ……わかりました! 直ぐに緊急転送します!」

 

 トレイナの作り出した魔法陣によって、オトノ達はすぐさまクリスタルベースへと帰還して……。

 改めて安全が確認されたことが分かってから体中が痛みを悲鳴を上げていることが感じてオトノ一人で悶えている、多分これだけの間に何回も元の世界でボッコボコにされたときぐらいのダメージが残っているが、メモル達からすればそれどころじゃない。

 

 

「どういうこと? なんで仮面ライダーがクリスタルワールドを襲っているんだよ!」

 

「仮面ライダーは単にベルトを持っただけの存在……その持ち主が悪なら悪ですし、力の使い方が違うだけで本質的にはどっちでもありませんよ、匙加減でどんな風にも立場は変わります、英雄でも破壊者でも……」

 

「う……ぐぐ、あんたが言ってると説得力半端ないわね……でもメモル、ちょっと今回のは様子が違うのよ、あれはあたし達の世界にいるゼロワン……の仮面ライダーのはずなんだけど、あたしが見る限りこれまでの戦いの中であんなやつ見たことないのよ」

 

 オトノ姉妹が見てきた仮面ライダーゼロワンの戦いに……【仮面ライダー滅亡迅雷】は出てこない。

 サウザーと戦った、衛星アークの暴走を食い止めて、アークゼロを倒したりはした。

 しかし……滅亡迅雷.netは彼女の知る限り、もう既に手出しが出来ないはずであり、ザイアが新兵器を作ったとしか考えられない……一次的なものとはいえ、平和が戻っていたはずだが。

 

「もしかして……」

 

 それでも彼女達には心当たりがある、自分達が知らないだけでどこまでも『歴史』が巡ることはあり得るだろう……結末が来なければ。

 

「ごめんメモル、当たり前すぎて失念していることがあったわ……『結末のない物語』のことを」

 

「結末のない物語? どういうことなんだ?」

 

「お姉ちゃんが向こうの敵や私と一度喧嘩した以降もずっと相対している、この時空全土の問題です……まあ、簡潔に言うとどんなに戦いを繰り返しても一向に平和が訪れず、結末がない物語のように永遠に続く事象を表しています」

 

「あたしもそういう成り行きで時空ヒーロー……及び仮面ライダーっていうのになったんだけど、これが中々厄介でね……このクリスタルワールドが仮面ライダーの全ての歴史が流れ着くなら、あたし達にとって未来の仮面ライダーがここに残ってもおかしくないわね……ってちょっと待って!?」

 

 その場合だと問題もある、自分がいないゼロワンの世界の方も後々面倒なことが起きてもおかしくないことがわかった、間接的な未来予知だ。

 これから先、飛電或人にとんでもない脅威が振りかかるかもしれないし……もう既に何か起きてるかもしれないと思うと……。

 だが今はクリスタルワールドのことだ、滅亡迅雷が現れている以上……ヒューキャニオンの機械化の首領は奴だろう。

 

 後はトレイナのクリスタルによるライドフィギュアの強化を持ちながら休もうというか、本格的に動けなくなってきたので即座に眠りにつく。

 ……ウタの方は、これまでしばらく睡眠というものも経験することがなかったので横になりながらこれからのことを考える。

 

 ただの勘だが、もしかしたら……ここから普通に帰れる気がしないような。

 だがそれでも構わない、これからもオトノと一緒にいられるなら。

 

 

 そう、思っていたのに。

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