そしてしばらく寝た後……オトノに待ち受けていたのはとてつもなく感じる体中が砕けるような感覚、ウタがベタベタと触りながらオトノに起きた状況を確認していくか……。
「うん、どう考えてもありふれた筋肉痛だよお姉ちゃん」
「嘘でしょ……そんなにしんどかったっけコレ……でもなんか実際立つこともままならない」
「なんか……最初に会ったときからは信じられないくらいの情けなさだな」
クリスタルワールドの面々からもこう言われても無理もないくらいの体たらくだが、だがその発言がオトノの妹の逆鱗に触れてメモルの首筋にどこから持ち出したのかも分からないライターを取り出して圧をかける。
「あの……貴方自分の立場わかってますか? こんなクズのお姉ちゃんに助けられてもらってる形であり、貴方はこれだけのトレーニングを積んでも戦力にならない羽虫はこの場でソテーにしてもいいんですよ」
「やめなさいバカ、あんたって開き直ってから本当にただの殺人鬼よね……」
「それを笑って済ませるお姉ちゃんも、中々に舐めた性格になってきてるんじゃない?」
「あたしは許したつもりなんてないわよ、いつでも地獄に落とせるようにしたい……けど」
オトノが一人作戦会議として考えているのか自分の持つ『サモンライド』と『デモンライド』の大きな違いだ。
トレイナの支援もあって以前のようにあっさり使い切ることはなくなり、一通り試験運用もしてみたが性質も大きく異なる、リミッターを外して怪人やダークライダーを解放するデモンライド……それを使うウタも見過ごすことが出来ない。
たとえば自分が持っている仮面ライダーガヴのライドフィギュア、これをサモンライドすればガヴが召喚されるが、デモンライドするとビダーガヴ軍団というガヴのクローンが召喚されるらしい。
そして色々実感して分かったのは、デモンライドの方が基本性能は遥かに上だ、ウタが持っているライドフィギュアをエグゼイド以外に渡そうとしないのもそれによるものだろう。
だがサモンライドがデモンライドの下位互換かというとそうでもない、サモンライドはキョウカライドチップなどを入れることで仮面ライダーの強化フォームに上書きすることが出来る上に、仲間を追加で呼び出すことが出来る『ナカマライド』という技が使える。
これができないから、わざわざエグゼイドをオトノに貸してくれたのだろう。
完全に割を食わない形とはいえ、この2つは大きく違うことを理解しなければ……万が一の時に自分がウタを止めなくてはならないのだから。
だが、クリスタルワールドに起きている事態は急変する……。
また別の日にヒューキャニオンに向かってみると、最初に会ったときのようにバグスターウイルスの反応が少ないし……仮面ライダー滅亡迅雷の姿が見えない。
戦闘員も以前と違うようなものばかり見えてくる、クリスタルハザードの影響によるものだろうか……?
機械化は停滞しているのか、進行しているのかも分からない。
「ねえ、これ何か妙じゃない?」
「妙……というより、お姉ちゃんが何か勘違いしているかもしらないけど、あっ、もしかして?」
ウタは何かを思いつき、オトノを引き連れて隠れるように……ヒューキャニオン全体を飛ぶように移動する。
この間までバグスターウイルスが居たところには、『仮面ライダードライブ』のロイミュード達が蔓延っている……滅亡迅雷の姿はないが、マギアがうろつくようになっている。
「やっぱり……」
「どういうこと? 説明しなさいよウタ」
「クリスタルから生まれた怪人や悪のライダー達は……全員私達の敵でもないって可能性……ほら、あれを見て」
ウタの指差した先の視界から飛び込んで来たのは……なんと、ロイミュードがマギアやバグスターウイルスを倒している姿だった。
同じ『怪人』でも理念や動機が違う、あのグラニュートも言っていたが、ここにいるバグスターウイルス、ロイミュード、そしてマギア……彼らが一同に手を組む理由などない、ともなれば……。
「潰し合い……?」
「うんそうだね……今の私たちが置かれている状況は、ありとあらゆる仮面ライダー世界の怪人勢力によるバトルロワイヤル、クリスタルワールドの領土を使った多重に入り乱れた陣地取り合戦」
「それがクリスタルハザードの真相だよ」
クリスタルワールドの3つの世界を陣地とした、怪人達の壮絶な争奪戦、その目的は不明だが各々が敵対している……と判断された。
仮面ライダー滅亡迅雷は別のところに向かい、バグスターの方はロイミュードと戦闘中、もしかすれば他の水と火の世界でも同じようなことが別の怪人達によって起きているかもしれない。
そして自分やフィギュアとして残った仮面ライダー達は完全に孤立無援ということになる、この戦いは迂闊に挑んでも無謀になるのはここまでの戦いで感じたのでともかくとして、闇雲に倒しても進展が見えてこないのではないのか?
クリスタルワールドで復活した陣営たちは何を目的にこの世界を侵略したのか、怪人達も一枚岩に世界征服を狙っているわけでもないだろう。
ここから……どう動きを変えていくべきか?
少しずつこちらも均等に動いて戦力を削いでいくのか、このまま少しずつ勢力が乱れていくことを待ち続けるか……? だが、どちらにしても長考は不利を招くことになる、二人はは知っている。
ウタの方はどの世界にも属さず、全ての世界を支配することを目的とする、その特徴は全ての悪の仮面ライダーの力をベルトとして模倣している……突如名乗りを上げた時空規模の謎の組織『ハンドレッド』
オトノの方は……初の試みである様々な世界の技術を結集させて開発される、悪意を根絶するため作られた人工知能による仮面ライダー『ゼイン』
あらゆるライダーの力を掌握できるハンドレッドと、この世全ての悪意を根絶するゼイン……この2勢力か全ての元になっていることは目に見てわかる。
ワームの群れをたった一人で壊滅させていた……そのゼインが、すぐ近くにいる。
しかしゼインは……敵を片付けた後に白いクリスタルとなって姿が途切れるが、白いクリスタルを別の勢力が現れて回収していく。
怪人達はゼインが変化する白いクリスタルを集めようとしていることが分かり……このクリスタルを独占するためにも争い合いをしているのだろう。
となれば、オトノ達も立ち回って生き残る術は……というよりは、彼女達の方も本能がそれを求めているように。
白いクリスタルを手元に収めておく必要があるかもしれない……。
──
クリスタルワールドに広がる3つの世界を舞台とした怪人たちによる壮絶な陣地争奪戦。
その目的は未だ判然としないものの、彼らが決して手を組むことなく、互いを排斥し合っていることだけは確かだった。
仮面ライダー滅亡迅雷はすでに別の場所へと姿を消し、残されたヒューキャニオンではバグスターウイルスの群れがロイミュードと激しい交戦を続けている。この風の世界がそうであるように、おそらくはトレイナのいる水の世界や、ミヌークの火の世界でも、別の怪人勢力によって同じような血で血を洗う混沌が巻き起こっているに違いなかった。
それは同時にオトノとウタ、そしてライドフィギュアとして残された仮面ライダーたちが、この世界において完全に孤立無援であることを意味していた。
ここまでの苛烈な特訓や実戦を経てオトノは痛感している。この戦いに迂闊に飛び込むのは無謀の極みであり、何より、目の前の敵を闇雲に倒したところで事態の進展など見込めはしないのだ。
クリスタルワールドで復活した怪人の陣営たちは一体何を目的にこの世界を侵略しているのか。彼らは決して一枚岩ではなく、ただ単純な世界征服を狙っているわけでもない。
(ここから……どう動きを変えていくべきか?)
少しずつ各世界へ均等に介入して敵の戦力を削いでいくべきか、それとも、勢力の均衡が完全に崩れ、自滅していくのを静観し続けるべきか。だが、どちらを選択するにしても、時間をかける長考は致命的な不利を招くことになる。それは、数々の修羅場をくぐり抜けてきた姉妹だからこそ、肌で理解している事実だった。
その混沌の渦中において、異質な存在感を放つ2つの巨大な影があった。
ウタがその視線の先に見据えるのは、どの世界にも属さず、すべての世界を支配することを目的に掲げる勢力。あらゆる悪の仮面ライダーの力をベルトとして模倣し、突如として時空規模で名乗りを上げた謎の組織──『ハンドレッド』、噂によると黄金のディケイドと戦いを繰り広げているらしい。
対してオトノの脳裏をよぎるのは、初の試みとして様々な仮面ライダー世界の技術を結集させて開発された存在。この世のあらゆる悪意を根絶するために生み出された、人工知能の意志を宿す仮面ライダ──―『ゼイン』。
あらゆるライダーの力を掌握せんとするハンドレッドと、すべての悪意を無慈悲に根絶するゼイン。この世界のバランスを激しく揺るがす二大勢力が、現在の混乱の根底にあることは火を見るより明らかだった。
突如、ヒューキャニオンの一角で空間が裂け、凄まじい戦闘の余波が響き渡る。
そこには、地を埋め尽くさんばかりのワームの群れを、たった一人で完膚なきまでに壊滅させていく仮面ライダーゼインの姿があった。正義という名の圧倒的な暴威。その絶対的な力が、すぐ目の前で振るわれていた。
しかし、すべての敵を片付けた直後、ゼインの身体は不自然に発光し、その場に一塊の「白いクリスタル」を残して、霧のように姿を消してしまった。戦いが終われば存在が途切れる──その仕様を突くかのように、すぐさま別の怪人勢力が這い出り、残された白いクリスタルを回収して去っていく。
その光景を目撃したオトノとウタは、同時に息を呑んだ。
怪人たちが狂ったように潰し合いをしている理由。それは、ゼインが消失した後に変化する、あの『白いクリスタル』を集めるためだったのだ。あの結晶に秘められた強大な力を独占することこそが、この多重バトルロワイヤルの真の目的。
となれば、オトノたちがこの極限の状況を立ち回り、生き残るための術は一つしかなかった。いや、術というよりは、彼女たちの内にある仮面ライダーとしての本能が、激しくそれを求めていた。
「ねえ、ウタ……」
「わかってるよ、お姉ちゃん」
怪人たちに渡してはならない。あの禍々しくも絶対的な力を秘めた『白いクリスタル』を、自分たちの手元に収めなければならない。
生き残るため、そしてこの世界の結末を見届けるため、オトノたちの新たな戦いへの覚悟が、ヒューキャニオンの風の中で静かに燃え上がり始めていた。
──
「ホホ―……謎の真っ白なクリスタルか? ワシもよく分からんが、何やらトレジャーハンターの血が騒ぐ響きだホー」
「もしかしたらクリスタルワールドを救うカギになるかもしれないの、見つけたら調べてくれない?」
「それだったらボクがちょっとだけ持ってるよ」
白いクリスタルのことをミヌークに相談してみると、メモルが白いクリスタルのうちのほんのひとかけらを持っているという、オトノがゼッツの力で工場を木っ端微塵に破壊して、エネルギーを使い切って帰還する時に残骸から白いものが何個か混じっていた、この工場で何かしらに使われる予定だったのか……?
「トレイナに何個か預けてたよね?」
「ええ……これでしょうか?」
「よしよし、それはワシが鑑定してやるからよーく見てるホー」
ミヌークは2人から白いクリスタルを背負っているリュックに入れてもらうと目が光り……衝撃的な映像が人々の前に映し出される、そこにいたのは……最初にクリスタルベースに現れた『グラニュート』の大統領、ボッカ・ジャルダックが自分で作り出した部下に大きな白いクリスタルを運搬させている姿だった。
……どうやらグラニュートは自ら眷属を作り出す力があるようで、それらを何処かに運び出しているが、それは……クリスタルベースに類似している。
「クリスタルベースみたいなところが他にあって、あちつが占領している……みたいなところかしら」
「せめて声が聞こえるようになれば……ちょっと手を貸します」
物理的に手を突っ込んでオトがクリスタルの調整をすると……映し出される映像にノイズ混じりだが、喋り声が聞こえるくらいになってくる。
「よし、ペースをもう少し速めるんだ、ギガスタルを一刻でも早く復活させるためにもね」
「調子はどう? 大統領の旦那さ〜ん」
そして……ボッカのところには、如何にも禍々しいジャケットにサングラスの中年頃の男性とその隣に黄金のキューブを片手にして共に歩く謎の男。
「おお、それが例の錬金術師……とやらか」
「そうそう、んじゃ段取りよろしく」
「金色に染まれ……」
キューブを持っていた男が呪文を唱え、指輪を光らせるとクリスタルが全て黄金の色合いに変化していき、ボッカとその眷属は全てをクリスタルベースに取り込ませて……。
「そういえばよ、ゼッツちゃんと例のガッチャなんとかを持ってるのは確かなわけ? そのお嬢さん」
「ああ、もちろん……」
映像が終わった。
「なんだ今のは!? 変な奴がクリスタルを金に変えてベースに取り込ませたぞ!」
「あの人たち……ちょっと地元で聞いたことありますね」
「並行世界規模の監獄のことを地元っていうのやめなさいウタ」
ウタによると、あのグラサンの男は『ジーク』……どんな手段を用いたのか全く不明だが、世界各地の富裕層の人間達を痕跡も残さず臨死させてきたことで懲役1000年の罪を架せられた恐ろしい犯罪者……ウタがほぼ同じようなものだが、悪夢を操る力というとんでもないものを持っているという。
キューブを持っている錬金術師と呼ばれた男はグリオン、黄金郷エルドラドを求めて世界を闇と金に染め上げ、錬金術の力で世界を理想郷に変えようとした男……いずれも、時空でも名の知れた危険人物である。
あの口ぶりからして……オトノが最初に持っていたライドフィギュアのガッチャード、ガヴ、ゼッツと何かしらの確執がある勢力が三人揃っていたようだ。
だがそれは後だ、メモル達にとって気になるのは……『ギガスタル』という謎の存在、他の怪人達も白いクリスタルを集めていることからして共通の目的としてギガスタルを復活させようとしているのだろう。
「ギガスタルって何か知ってる? 多分クリスタルハザードに関係していると思うけど」
「ギガスタル……? もしかすれば古い文献に何か情報が載っているかもしれせん……そうそう、ライドフィギュアの強化も終わっているので、少しは良くなったと思われますが」
「ありがとうトレイナ! まずはちょっとでも怪人を減らして陣取り合戦を止めないとね!」
「うん……ジークとグリオンがいるなら、ゼインとハンドレッドが絡んでいるというのも確かなことになるし」
ウタが言うにはグリオンとジークはそれぞれハンドレッドとゼインに深く関係するという。
グリオンに関しては……彼の出身である『ガッチャードの世界』において、ハンドレッドの存在と戦闘を確認している……あの場所でハンドレッドとガッチャードに何か確執はあったことは間違いない、おそらくグリオンとの関連性も……。
ゼインとジークに関しては、実はジークは特命機関、いわゆる秘密組織のエージェントとして雇われて夢を操る性質をもとに特異なデータを採取されているという、そして『ゼインプロジェクト』には彼によく似た人物も携わっているのを見たという。
……もしかすれば、顔が似ているだけの赤の他人かもしれないが。
「何はともかく! 余計に白いクリスタルをあいつらに渡しちゃいけないってことよね、だから……」
「そのゼインっていう仮面ライダーのところに行って、クリスタルを先に手に入れる!」
こうしてグダグダしたり特訓を繰り返したりしながら、ようやく大まかな目標が決まった。
ウタの持ち合わせている道具とミヌークの持っているお宝を手に入れるためのクリスタル探知機を組み合わせることで、白いクリスタル……及びゼインを先回りしてまとめて怪人を倒す。
……問題があるとすれば、ウタをゼインのところに連れて行くことぐらいだろうか。
ウタという人間は……形容しがたいことに、『悪意』を持たずに狂愛にして猟奇的な行為を出来る。
ヒューマギアはかつて『善意』だとか『悪意』だとか色々なことで揉めたりしたが……人間でも理解できない感情を向けられたら本格的におかしくなってしまう。
ましてやそれが……かつてはオトノに向けられて、飛電或人にまで牙を剥いたのだから。
「まあ一旦はヒューキャニオンを元に戻すためにどうするかよね、モタモタしてたらもっとダメになるから」
「んん? いや、ちょっと待つんだホー、まだ見れそうな映像が残っている!」
ミヌークがまだ何かクリスタルにある情報を読み取って映像に出力してくれたので、一旦それを見てからまた向かおうとなった矢先……映し出されたものは?
それはとあるアパート内の映像……クリスタルワールドのものではない、いや、それどころか映っているのは……オトノではないか。
もうこれが映し出された瞬間にオトノは逃げ出そうとしているが、ウタからは逃げられない。
「お姉ちゃん」
「いや……ウタ、今それに引っかかってる場合じゃないから……」
「お姉ちゃんが見るからに或人さんと同じところに住んで同棲しているように見えるのはどういうことか、説明して♡」