「うわっなにこれ!!」
真っ先に視界に飛び込んできたヒューキャニオンの光景は、少し前までに起きていた機械化とはまた別の形で、完全に変わり果てた姿になっていた。
空の上に浮いていた大陸は、元の形を維持できずに激しく崩壊し、かつてあった美しい道なりはどこにも見当たらない。
まるで無数の隕石が容赦なく降り注いだかのように、大地は無残に倒壊していた。
風の世界の住民は空を飛べる妖精たちなので、足場となる陸地が消失しても命に別条はないのかもしれない。しかし、以前までの神秘的な光景と比べると、本当に見る影もなくなっていた。
ウタの言っていた「風を利用して怪人の発生と支配を抑え込む」とは、大陸そのものを文字通り粉砕して奈落へ落とすことだったのだ。
これでは肝心なクリスタルを回収するどころではない──そうオトノが戦慄したのも束の間、隣にいたウタの手によって、オトノは果ての見えない虚空へと容赦なく突き落とされた。
「ギャーッ!!」
凄まじい風圧の中、オトノはなす術もなく真っ逆さまに落下していく。足元に踏みしめるものは何も無く、ただただ無限の空を漂い落ちる。
しかし、どれだけ下に落ちても地面らしき底は全く見えてこない。
恐怖に目を瞑りかけたその時、周囲から雨のように降り注ぐ無数のクリスタルが目に入った。
ウタが叩き落とした、怪人たちに回収されるはずだった輝きの破片だ。
それらと並んで落下していると、唐突に視界の下方に、見覚えのある崩壊した大陸が再び見えてきた。そしてそこには、涼しい顔で佇むウタの姿もある。
「えっ、まさかこれって──」
「じゃあもう一回行ってらっしゃい」
驚くオトノに考える暇など与えず、ウタは無慈悲に告げる。
再び大陸を通り過ぎ、オトノはそのまま同じように果てしない落下を繰り返す。
落ちていく最中、必死に手を伸ばして何個かのクリスタルを掴み取ることはできたが、勢いは止まらずまたしても急降下。どうやらこの空間は上下がループしているらしく、どれだけ落ち続けても死ぬわけではなさそうだが、精神的な恐怖は計り知れない。
ループの周期が巡り、再びウタのいる高度へと近づいた時、妹は姉の悲鳴をBGMにそっと背を向けた。
「じゃあ私、エンデルガスの方の様子を見に行くから頑張って帰ってね」
「お姉ちゃんをおもちゃにして帰るな!!」
三度目の通過の瞬間、オトノは執念でウタの服の胸元を鷲掴みにした。
「ぎゃああああ!!」
今度はウタを巻き込み、二人は揃って猛スピードで落下を開始する。
ウタの計算高い表情がさすがに驚きに歪むのを見て、オトノは少しだけすっとしたが、相変わらず空間をループする超高速の空中ダイブであることに変わりはない。
二人は落ち続ける奇妙な空間の中で、周囲のクリスタルをある程度回収しながら、何度も何度も空を巡る落下を繰り返した。
やはり、ヒューキャニオンの大陸の下へと落ちていくと、一定の周期でもう一度大陸の真上へと戻ってくる仕様のようだ。このまま大量に落ちていかなければ、空の上で永久に落下を繰り返すだけになってしまう。
しかし、戻ってきた先にある肝心の大陸は殆ど残っておらず、壊れ果て、崩れて……視界を埋め尽くすのは一緒に落ちていく瓦礫の破片ばかりだった。
自力での脱出が不可能なこの状況で、雑に、そして確実に役に立つのがあの男だった。
オトノは四の五の言っている場合ではないと判断し、自由落下の中で即座にサモンライドを敢行する。
「来て、ゼッツ!!」
『サモンライド! ゼッツ!』
召喚に応じ、仮面ライダーゼッツが虚空に現れる。
それと同時に、オトノたちが回収しきれずに真上に浮遊していたクリスタルが一つに融合し、禍々しい黒いガチャマシンのような形へと変化した。
ゼッツは落下の勢いを殺さぬまま、そのレバーを力強く回す。
ガコン、と重い音を立てて排出されたのは色が赤く不気味に変化しているものの、かつてリカバリーで使っていたものと同じ形状のカプセムだった。
ゼッツはそれを迷うことなく、自身の変身ベルトの中へと叩き込む。
「I'm on it(さあ、やろうか)……」
『Good morning! Rider! ZEZTZ! ZEZTZ! ZEZTZ! Wing!』
システム音声が轟くと同時に、ゼッツの黒いカラーリングはそのままに、その背中から巨大な漆黒の翼──いや、禍々しくも力強いマントのような翼が猛然と生い茂った。
ゼッツは鋭い風を切り裂きながら、落下していたオトノとウタの二人を両腕でがっしりと抱き留める。そのまま強大な翼で飛行へと移行し、ループ空間の重力を振り切って、安全な元の場所へと一気に舞い戻った。
窮地を脱し、これでひとまずヒューキャニオンの現状とクリスタルの回収は片付いた。
あとは同じく異変が起きているという炎の世界『エンデルガス』に向かうだけだ。
しかし、地面に着地し、ゼッツの背中を見つめるオトノの胸中には、クリスタルハザードとはまた別の奇妙な違和感が這い寄っていた。
(……これまで、サモンライドされた仮面ライダーが、自分の意志で言葉を発することなんてあったっけ……?)
操り人形であるはずの召喚ライダーが放った、明確な意思のある呟き。その謎の深まりに、ウタは冷たい視線を向けたまま思考を巡らせるのだった。
(……仮面ライダーゼッツ、もしかすれば……)
──
「うわ」
そしてエンデルガスのほうもやはり惨状、いや……元々ウタのせいで液状化したクリスタルに溶岩も鉱山も工場も、何もかも溶かされて埋まった時点で酷い状態で何も見えなくなっていたのが……その液状化したものが全部、固まっている。
熱によるものではない……クリスタルでも液体でもなく、その全てが黄金に輝いておりカチカチに固まっている。
この惨状を見てオトノはウタの方を見る。
「ウタ……」
「何もかも私のせいにするのやめてくれるかな? 60%私がやったことでも40%が出来ない状態なの分からない?」
「出来ないだけでやらないって言い切ってくれないし、最近はもう開き直るのがタチ悪いのよ」
「まさか、ここにはお姉ちゃんしかいないから堂々と出来るんだよ、後1回捕まったり脳みそ弄くられたり経験すると楽になるし」
「被害者達が一回死んだら終わりなのにこいつを何回も死なせることにしたの選択が間違ってたんじゃないかって思えてきたわ……」
選択を間違えたという意味では完全に黄金に埋め尽くされたエンデルガス、ヒューキャニオンも含めて完全に修復不可能かもしれない段階まで行っているが……これは誰がやったのか見当がつくのが幸いだった。
──グリオン。
前のゼインのクリスタルでも映像でも白いクリスタルを錬金術で金色に変えていたことを考えると、錬金術がどれだけ万能なのかは知らないがこれだけのものを……というよりは世界そのものを黄金に変えたことを考えると相当な力だ。
「でもこれなら簡単に砕けて持ち運ぶことが出来るんじゃない?」
「お姉ちゃんあの部分のどこが溶岩でどこがクリスタルなのか判断できるの?」
「それをややこしくしたのはあんたでしょうが! というかこれくらい想定出来たんじゃないの!?」
「うるっさいなぁ!!! こっちだって機能不全の中出来る限り尽くしているんだろうが!! ベルトも無くして本格的に役立たずのお前は私の代わりに何が出来るんだよええ!?」
「言わないでよそれを! 言われたらなんであたしこんなところにいるんだろうっていつまでもこの話しないといけなくなるから!」
しかし姉妹で揉めている場合ではない、冷静にならなくても他所の異世界がこの始末なわけであり……ほぼ空を落ち続けることになるヒューキャニオン、世界全土が黄金に埋め尽くされたエンデルガス……これを、どうメモルとミヌークに説明するのか? まあどうせ、ウタのことだからそこまで深くは気にしていないのだろう。
だがここで本格的に動き始めたのがゼッツだった、黄金の海を歩くと……工場を破壊した時のような抜群のインパクトの力で拳を叩き込んで周囲を破壊し……クリスタルを取り出してまたあのガチャマシンを作り出す。
「え? もしかしてこれを回せって言ってるの? まあ、あのカプセルによく助けられたし別にいいけど……」
「……待って、それって本当に信用していい? ゼッツだけおかしいよ」
オトノのガチャマシンに伸びる手を強引に掴んでウタが止める……ライドフィギュアの中でもゼッツだけは奇妙なところが多くないか?
「お姉ちゃんちゃんと覚えてる? ライドフィギュアの仮面ライダーの姿を変化させるには……」
「キョウカライドチップでしょ? さっきのリバイやガヴもそれで強くなったし……」
「うん、私が別途で管理してるけど……あのゼッツおかしくない? あのガチャマシンに入っているカプセルのようなものが変身アイテムだとして……ゼッツは『ライドフィギュア』なのに自分の意思で変身アイテムを付け替えて変身しなかった? 現に今にも……」
「それは……そこまで細かい変化じゃないから必要ないとか、あのガチャマシンに変わるのがライドチップ代わりになっているとか……?」
「だからといって自ら変身をするなんて仮面ライダーそのもののような……それに、私はしっかり聞いていたよ、あのゼッツが言葉発してたところ」
「それはあたしも聞いてたけど……賢くてあたし達とは別で動けるのならそれでよくない? 怪しいわけじゃないし……敵じゃないのよ? ほら、これでいいのね?」
マシンを回してカプセムを出すが、ゼッツはカプセムを見ても首を横に振る……どうやら求めていたものではないようだが、もっとカプセムを回すように催促してくるので更に回しているとどんどんカプセムが出てくる。
どうやらもっと使ってほしいというわけだが、またウタが止める。
「もう!! いい加減にしろよ!! その警戒心の無さはちょっと妹としても文句の一つも出るから!!」
「少なくとも奏は文句を言う筋合いがないでしょ!!」
「あっいや、それはそうだ……じゃなくて! いくらなんでもライドフィギュアの力にしては出来すぎてるから警戒……」
「これでいいのね?」
「話聞け!!」
複数出てきたカプセムの中から赤色のものをゼッツに渡すと使い慣れているような素振りでカプセムを握りしめて黄金に向けて叩きつける。
『Transform!』
すると黄金の形がみるみる変形していき、一直線に全部集まっていき……黄金を全部取り出して一つの玉に変えてしまう。
そしてようやくエネルギーが尽きたのかゼッツのライドフィギュアは元の姿に戻る。
残ったのは若干デカい黄金の球体だった。
「これどうする?」
「私に聞かないでお姉ちゃんめんどくさいことになるから、クリスタルベースに送ればいいんじゃない?」
──
一旦トレイナに連絡して黄金になったものを回収させる、あの後クリスタルとして使えるのか分からないがまあトレジャーハンターならミヌークも喜ぶだろう。
しかし、ウタがほっとけないからといってあの3体に会う機会も随分少なくなってしまった。
というより、ウタが直接対峙したら何をしでかすか分からないから関わらないほうがいいのだ、悲しいことに。
「これまでのエンデルガスのクリスタルとかその他諸々があそこにあるっていうのさ……結果的に良かったの? なんか凄く腑に落ちないけど」
「良かったんじゃないの? 私だって人の住めない地に変えるほど外道になったつもりはないし、凄いライダーのことで色々ありすぎて忘れてたけど……ギガスタルというものの復活を止められることに繋がるし」
「ケミストリー……」
だがもちろん忘れてはいない、クリスタルを『黄金』に変える映像』を前もって見ていたからこそだが……別次元のゲートのようないかにもといったものから現れた、全部黄金色のルービックキューブを持つ錬金術師……。
「私の芸術を持ち出したのはお前か?」
「一応そうだと言っておくけどおじさん、名前は把握してるから、確か……グリオン!」
「そうだ、私こそグリオン……この世界でようやく真理に至る道を辿れる準備が整ったが、まさか……」
「私は悪の組織の思想とか理念にはあまり関心がないタイプですが敢えて聞きます、貴方と組んでいる二人含めて何がしたくてクリスタルワールドに?」
「……知っているなら、説明も短縮的に済ませられて助かるところだが……私にとって奴らなど眼中にない、それはあのジークという男や、ボッカと名乗る未知の生命体も同じだろう、この世界を出て……私はエルドラドに向かわなくてはならない」
「エルドラド……どういう場所か知ってる?」
「伝承などで有名な黄金郷……錬金術師の聖地みたいな場所で全部黄金で出来ている空間……というか、お姉ちゃんの行きつけのあそこにもそこ由来の錬金術師いたでしょ」
「あれそうだったっけ……まあとにかくこの人はそこに向かおうとしていると、止めるべきよね、アレの仲間なら!」
「金色に染まれ」
グリオンが指輪を光らせると周囲の大地と手に持っているクリスタルを錬金させて……木人形と生物などが組み合わさった怪物……『マルガム』を作り出す。
それを見てオトノは手を伸ばしてサモンライドの構えを取り、ウタも手を伸ばす、滅亡迅雷フォースライザーを出せというつもりらしい。
「え!? ダメでしょ奏!! あんた忘れたの!? ゼッツをついさっき使ったばかりだからリカバリーは出来ないのよ!?」
「回復手段なんていくらでもある! そっちだってサモンライド出来るライドフィギュアはもう一つだけ……あのグリオンの宿敵のガッチャードだけじゃなかった!?」
「ベルトがなければライダーじゃないの!? キック出来れば誰でも仮面ライダーじゃないの!? その時のことは……その後考える! だから死ぬんじゃないわよ奏!!」
「いちいち口だけは達者なんだよ響は!! 大人しく私の言う事だけ聞いて、私に従っていればそれだけで充分だから……でも、今はそこそこ役立たずではないかもね!」
ウタに滅亡迅雷フォースライザーを投げ渡し、ガッチャードのライドフィギュアでサモンライドの準備を行い開戦。
『サモンライド……ガッチャード!』
『チャーミングラビット……breakdown!』
サモンライドされたガッチャードがグリオンとマルガムに突撃し、変身した奏がグリオンを即座に仕留めにかかるが……グリオンは指輪を光らせて地面を壁に作り替えるだけで攻撃を受け止める。
「なんだよもう!! ゼッツも大概なのに錬金術師もなんでもありか!? これだとガヴの方も何か疑っちゃうじゃないですか!!」
……ウタが危惧しているガッチャードの違和感もすぐに現実となる、マルガムを倒したあとにクリスタルを錬金術で作り替えて……カードに変えてオトノに渡す。
「え? これを使ってってこと? 別にいいけど……」
「また……また何かする気か!?」
奏が怪しいことをしようとしているガッチャードを止めたいが今はグリオンをなんとかしなくてはならない。
そんな雰囲気の中でオトノは言われるがままカードを受け取り……ガッチャードがマルガムを倒すと、中から謎の生命体がマルガムから外れるように飛び出して……ガッチャードはその生命体をカードに近づけるように動作する。
「分かった! あれを近づけたらいいのね!」
そうしてカードを生命体に近づけるが……だが、カードはかすることもなく離れて……生命体は消えていった。
想定外だったのか、マスクで顔は見えなくても素振りでガッチャードが驚いているようなのが分かる。
だが、グリオンはこれが何を表すのか分かっていたようにガッチャードを見下ろす。
「えっ何? そのカードに……入れたかったってことで、いいのよね?」
「青いな……まさかこれが、ケミーとでも思っていたのか? お前も私も現在はただの死人、歴史を追体験する偶像にすぎないことを理解しろ、そして……思い出すんだ、君の中にあった『結末』を」
「……は? 結末?」
グリオンから漏れたその言葉に顔がひきつりそうになる奏だが、それどころではない……。
グリオンがまた何かマルガムを作り出す……それを見てガッチャードの動きが変わった、というよりは動かなくなった。
「どうしたの!?」
まるでそのマルガムを見て……何かに反応しているかのようだ、そう……あのバッタのようなマルガムに。
「ホッ……パボ……ホッパ……」
そういえばあのクリスタルでガッチャードの映像はよく見えなかったが、あのバッタのような鳴き声は響いていた。
まさかとは思いたいが……あれは、ガッチャードにとって何かトラウマに等しい存在なのか?
そのままライドフィギュアに戻ってしまい、バッタのようなマルガムもグリオンの錬金術によってクリスタルに戻る。
「私のケミストリーをどこに渡した?」
「い……言うわけないでしょ、ギガスタルにするんでしょ? 全部一体化して不純物まみれだから使えないし」
「……それもそうか、あまり濁ったものを使用することは私の美学にも反する、完璧なる錬金でなくてはやり甲斐もない」
この流れの中、グリオンの理念として気に入らない事もあったのかやるだけやった後に……向こうの戦力も大したことないことも見た上で去ろうとする。
奏も追いかけようとするが……派手に攻めてまた血みどろになるよりはいいとベルトを外し、少し怪我をする……んな中で思い立ったように言葉を送る。
「まさかですが貴方……『カーレッジ・フレイン』を知ってますか?」
「……懐かしい名前を、聞いたな」
それだけ言い放ち、グリオンの姿は消えた。
「ああ……お前もかよ……神経が苛立つ……」