女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!   作:人生変化論

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第3話 逸脱者たち

 

玲二と透が、ダンスレッスンを必死にこなしている頃。

時を同じくして、レッスンを欠席したしずくとエリオは、共にある建物を訪れていた。

 

「それで?レッスンを蹴ってまで私を連れて来た理由はなにかナ」

 

「エリオさんは、私と共にB級の異形と交戦していますから。当然でしょう」

 

「サボる口実にはなるから嬉しいけども」

 

内閣府異能事象対策室、日本支部。

彼女たちが向かっているのは、内閣府が管理する公的組織。異能者や異形を管理・研究する、公にはされていない秘密組織である。

 

______異能。

不可能を可能にするチカラ。願いを叶える超能力。非現実的な事象を引き起こす魔法。

人によって答えは異なり、その定義も時代ごとに変化する。

 

ただひとつ、異能に関わるすべての人が共通して持つ認識。

曰く、異形を打ち倒し生命を救う力である、と。

 

 

「......異能という概念は、平安時代から書物においてその存在が確認されています。神道における陰陽、或いは摩訶不思議な、合理的でない出来事。異能というカタチは与えられていないにしろ、超常現象としての概念は古くから存在していました」

 

「明確なカタチを得たのは、開国後十数年の間。既に諸国で体系化され、組織として管理されていた異能者たちは、日本にも異能の体系化を求めた、だったかナ」

 

そこで、日本の異能者たちを纏める組織として、異能事象対策室が設立された。

とは言え、当初の目的は現在と随分異なっていた。本来は、人知を超えた力を持つ異能者たちが、人々や社会に危害を与えないように監視し、相互にその存在を研究する、程度の集まり。

 

異能は、本来ヒトに備わることのない力である。故に、秘匿すべし。

異能を用いてヒトを害してはならない。暮らしを良くし、平和な日本の為だけに用いるべし。

 

異能というカタチを与えられても、日本人は謙虚に慎ましく暮らした。異能は、本来あるべきでないチカラ。異能者たちは極力存在を秘匿し、国の情勢も戦争も、ただ傍観するのみだった。

 

二十数年前、西暦2000年。世紀の歩みと共に、異形が表れるまでは。

 

 

「我々は未だ、異形という存在の解明に至っていません。無から現れるモノもいれば、ガラクタを素材として形成される異形もいる。できたのは精々、見た目や能力によって危険度を分類することくらい」

 

「いつの間にか現れて、民間人とか街をグチャグチャにして帰ってく傍迷惑な奴らだからネ。私はただ、アイドルやってたいだけなんだけどナ」

 

長い廊下を歩きながら、エリオは窓の外に広がる街を眺めた。

 

「......けど、分かってることもある。なんてったって、B級以上の異形は明らかに」

 

「人の恐怖を、復讐心を、好奇心を駆り立てる姿で現れる。それはまるで、誰かが造っているみたいに。______だからこそ、エリオさん。B級と交戦した貴方の情報が必要なんです」

 

少し前を歩くしずくが、振り返ってエリオを見つめる。

その美しい瞳の下には、強い意思が隠れていた。使命感か、又は別の何かか。年上であるエリオでさえ底冷えするようなその視線を浴びて、困ったように笑った。

 

「......異能も異形も、私の世界には要らないんだけどネ」

 

 

廊下を抜け、厳重に警備されたフロアを通り抜けると、ようやく日本支部の住処に辿り着く。

特異事象対策室にはいくつかの部署があり、しずくやエリオ、透が所属するのは『執行部』と呼ばれる組織だ。

 

執行部と書かれた札が掛かっている扉を開けると、中から喧しい声が飛んでくる。

 

「おー!よく来たのじゃ、しずく!おまけにエリオも!」

 

「……雀管理官。もう少し声を抑えてください」

 

「私をおまけ扱いするレディは貴女くらいですヨ」

 

仰々しい椅子でふんぞり返っていたのは、しずくよりも頭ひとつ分小さい少女だった。

朱色の髪をツインテールに分けて、やや大きめのスーツに身を包んでいる。顔立ちは整っているものの、ぴょんぴょんと跳ねる動作も相まって、美しさよりは可愛らしさに溢れていた。

 

幼く見えるこの少女こそ、しずくやエリオらが所属する執行部の長にして、組織でも上位の戦闘力を持つ女性。雀朱音(すずめあかね)管理官である。

 

「んお?見たところ透がいないようじゃが」

 

「透さんには、アイドル業の方に行ってもらっています」

 

「相変わらずじゃの、そなたら。執行部の顔、組織でも随一の戦力である二人は、普段はアイドルなんてな。今時創作物でも見ない光景じゃ」

 

やれやれと首を振りながら言う朱音だが、しずくは知っている。この女が密かに『idol trigger』を応援していて、その上推しが兄(仮)の玲二であることを。

 

「(この女、なにをぬけぬけとッ……!知ってるんですからね、私たちの知り合いってことをダシに兄さんと会おうとしてるの!!それに貴女の髪目立つんですよ!ライブにいてもすぐに分かるんですからねッ!)」

 

内心大荒れのしずくだったが、表情には一ミリも出さなかった。異能者なので。マネージャーなので。余計な闘争は避けなければならないので。

 

「さて。エリオも連れてきたのは、先日の異形騒ぎについて話すためじゃな?」

 

「……はい。執行部と現地エージェントにより、発生した異形は全て討伐されました。しかし、民間人への被害は避けられず」

 

「建物の倒壊と、民間人数名の死亡。異能者の被害も発生、か」

 

「屋内へ一時避難していた民間人の救護には成功しましたが、我々が到着する頃には、既に一部は手遅れでした。そして、何より」

 

「B級異形による高坂隊の壊滅的被害」

 

高坂隊は、他部隊が民間人を救護する間、異形の足止めを行う役割だった。

執行部でも歴が長い異能者が集まっており、時間稼ぎであれば十分に行えるというしずくの判断だったが……B級以上の異形は、予測できない部分も多い。

 

「エリオ。そなたは異形と対峙して、どう感じた?」

 

「……やはり、不快だネ。今回の異形は、石像の頭と人間らしき手足でチグハグだったけど。決して気分のいいものでもない」

 

「うむ。エリオが討伐した個体の手足。それらを鑑定した結果、被害者の民間人のものであると判明した」

 

「全く、悪趣味なことだネ」

 

朱音は目を伏せ、悲しむ様子を見せる。

異能者、特に執行部という組織に身を置いている彼女らにとって、人の死は案外身近だ。けれど何度経験したとて、慣れることなど決してない。

 

 

「一度整理しましょう。事案の発端は、C級・D級の異形の集団発生。これまでの傾向として、異形は人工密集地で発生する傾向があります。該当の地域は確か、自治体の夏祭りが行われていたはずです。そこを狙われた」

 

西暦2000年に発生し出した異形、原因には未だ辿り着けていない。それでも、幾度となく異能者と異形が対峙する内に、見えてくるものもある。

 

「異形は一部の民間人を殺害したのち、現地入りしたエージェントと戦闘。一部は撃破しましたが、殺害した民間人を素材として、B級の異形が二体、生成(・・)されました」

 

「生成、か。しずく、そなたも異形が、人間の仕業(・・・・・)だと考えるか」

 

「……はい」

 

獣や無機物の姿を形取る下級の異形に対し、B級以上の異形は、まるで人間の恐怖や復讐心を煽るかのような形をとる。

殺害した人間や破壊した物質を素材として造られる。これらの情報を踏まえると。

 

「思考ができ、人間の心を理解している存在。同じ人間が異形を生み出している、そうとしか思えません」

 

「はぁ。研究部の奴らの妄言に過ぎないと思っていたんじゃが。執行部最強の異能力者であるそなたが言うのだ、信じるほか無いじゃろう」

 

異形が発生してから二十余年。

しずくがこの世界に足を踏み入れて、十年も経っていない。けれど長く、途方もない戦いで。

やっと見えてきた異形の正体。けれど遠く、未だ謎の多いその存在に、しずくは奥歯を強く噛み締めた。

 

「異能を管理しなければならない我々からすれば、情けないことじゃ。だって______」

 

 

そんなことができるのは、同じ異能力者だろうから。

 

 

異形に関する情報共有を行い、その場は解散となった。

異形を生み出す異能に関しては、朱音が後日上層部の会議で議題に出すらしい。しずくやエリオは、組織でも上位の能力であるとはいえ、所属は執行部。有事の際の鉄砲玉であり、武力で組織の一端を担う役割であるため、以降の検証は他部門に委ねることとなった。

 

「帰りましょうかエリオさん。もしかしたら、まだ兄さんたちもスタジオにいるかも」

 

「ごめんネ、しずく嬢。私は朱音嬢に用があるから、先に帰っておくれ」

 

「……?そうですか、それではまた明日」

 

しずくの誘いを断ったエリオは、にこやかにひらひらと手を振り、彼女を見送った。

完全に姿が見えなくなったことを確認してから、執行部の部屋の扉へと向き直る。

 

音を立てないよう静かに扉を開き、

 

 

首に突きつけられる、鋭利なかんざし。

 

「なにを企んでおる?」

 

「……やだネ、人聞きの悪い」

 

真紅の花があしらわれたかんざしからは、ぱちぱちと火花が散っている。

首元に熱が集まるのを感じながらも、エリオはにこやかに言った。

 

「『消えろ』」

 

エリオが呟いた瞬間、かんざしに集まった熱が消失する。

と同時に、朱音はその場から飛び退いた。

 

「やはり、そなたの異能の出力は異常じゃな。『言霊』の異能はそう珍しくないが、自由に何でも叶えられるほど、便利なものでもあるまいに。……そなたの異能であれば、人を襲う化け物を造り出すことも、容易じゃろうな?」

 

「何でもかんでも叶えられるほど、私の異能は万能じゃないさ。それに。私の美貌で、魅力でお嬢様たちを虜にするから美しいんだ。異能で叶えた理想なんかに、どんな価値がある?」

 

相変わらずのナルシスト発言にげんなりしながらも、朱音は警戒体制を解いた。

 

「それで?こんなめんどくさい真似までしてるんじゃ、なにか情報でも掴んだんじゃろ。はよう言わんか」

 

「___裏が取れた。異形を造り出してるのは、やはり彼ら(・・)だネ」

 

「……はぁ。取れたか〜。裏、取れちゃったか〜」

 

朱音は脱力し、椅子に倒れ込む。

勿論それは、安堵ではない。組織が騒がしくなりそうだと憂う、一人の異能者の姿。

 

 

「はぐれもの。我々の管理下から外れた、異能者たち。……そなたの、古巣」

 

異能事象対策室という光があれば、当然闇も生まれる。

異能を利用し、異能者を利用し、異形を利用し。歴史の陰に潜んでいた、とある組織。

 

「______『逸脱者たち(アノマリー)』、か」

 

 

 

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