女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!   作:人生変化論

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曇らせ(4)

 

透と裸の付き合いをした翌日。

午前中でボイトレを終えた俺たちアイドル三人は、後から合流したしずくと共に会議室を訪れた。

 

「ユーチューバーになりましょう」

 

開口一番に何を言うかと思えば。

しずくさんご乱心です。俺たちがこき使い過ぎたせいだ、逮捕される時は一緒だよ。なっ、透?なっ、エリオ?

 

「あっ!商品紹介動画撮りたーいっ!トゥディズ透ポイント〜、とか言って採点しよっ」

 

多方面に怒られるからやめろ。悪さはやめなさい悪さは。

 

「ふふ、しずく嬢!私の日常に密着したいからって、貴女って人は強引だネ」

 

「あんまユーチューブでやる企画じゃないだろ、テレビとかである企画なそれ」

 

悪ノリする馬鹿どもを押さえつけながら、真剣な眼差しのしずくを見る。

しずくは冗談はそこまで言わないタイプだからな。なにか裏があるんだろう。

 

「それで?急に言い出したワケはなんだよ」

 

「事務所からのお達しです。我々『idol trigger』の認知拡大と、ファンの皆様へのコンテンツ提供の一環として、公式チャンネルを開設して活動しなさい、と」

 

俺たち『idol trigger』は、SNS社会を生きるアイドルにしては珍しく、インターネットでの活動を殆ど行っていない。

当然ファンコミュニティとして、ファンクラブは存在する。ただ、ライブチケットの先行抽選やオフショットの公開に留まっていたし、動画の提供なんてのは挑戦したことが無かった。

 

ここまでSNSに手を出さなかったのは、別にこだわりがあったとかそういう訳ではない。

単純に、動画撮影を行う時間が取れなかったのだ。

 

「やった!やーっとイマドキのアイドルっぽいことできる!」

 

「レッスンだの撮影だのばっかだったからなぁ」

 

芸能界からの叩き上げでここまで登ってきた俺たちだが、出身の畑は各々異なる。ダンス馬鹿、ボーカル馬鹿、ビジュアル馬鹿。アイドルに必要な協調性やら知識なんてのは当然無かったから、三人そろって「らしく」なるために必死だった。

 

「ねねっ!最初は何するの?!」

 

「無難なモノだと、自己紹介とかかナ」

 

「まあ、安定だな」

 

動画投稿のノウハウなんぞ当然皆無。偉大なる先人ユーチューバーたち、いただきます。

 

「......実は、既に会議で決まっていまして」

 

バツの悪そうな顔で話すしずく。

おいなんだその言い方。嫌な予感しかしない。

 

 

「一本目の動画は、覚醒ドッキリです」

 

 

・・・

 

 

覚醒ドッキリ。

有名なのはピアノだろうか。ストリートピアノで、明らかに初心者な演奏を見せるヤツが、急に覚醒してガチの演奏を披露するアレだ。

 

前世の世界でも一定の人気はあって、スポーツやゲーム、カラオケなど様々な分野に形を変えつつ、定期的にバズっている印象があった。

今回俺たちに課せられたミッションこそ、覚醒ドッキリの撮影だった。ふざけんな上層部。芸能事務所告発します、躊躇いはありません。

 

何故こんなにも嫌がっているのか。

ドッキリを行うからして、当然最初は道化を演じる必要があるワケで。

 

 

「それでは、お姉さんに合わせてステップを踏んでみよー!ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

ショッピングモールで行われている、ダンス初心者を対象とした体験イベント。

楽しげにステップを踏む子どもたちに混ざる性癖異常者がひとり。サングラスとバンダナを装備し、赤のチェックシャツを身に纏いつつ、よたよたとステップを踏む男。そう、俺です殺すぞ。

 

(後で覚えとけよ透、エリオッ......!)

 

バレない程度で良い、って言ったはずだろーが俺は。

ケラケラ笑いながら、クソダサ変装を施してきやがった馬鹿二人。今は少し離れた所からカメラを構えているが、爆笑してんの丸見えだからなおい。しずく、お前も笑い堪えられてないだろそれ。

 

流行りの音楽が流れる。

お姉さんがボックスステップ。俺ももたもたステップ。

 

場所が場所だからか、イベントに参加しているのは小学生くらいの子どもと、その親御さんが大半だ。俺のような異常者は珍しく、心なしか距離を置かれているような気がする。そりゃそうだよ。

 

「そこのお兄さん、緊張しなくて大丈夫だよー!はい、ワンツー、ワンツー!」

 

「わ、ワンツー」

 

孤独にもたつく俺を見かねてか、指導者のお姉さんが声をかけてくれる。

新進気鋭のアイドル(自称)が介護される図。これが新時代のアイドルです。

 

いちいち心を乱していたらキリがないので、無心になってステップを踏む。

 

......こうしていると、初心者の頃を思い出すな。

芸能界に入った時、強制的に始めさせられたダンス。前世から拗らせ二十数年の俺にとって、ダンスはイケてる人間の専有物だった。けれど、いざ初めてみればどうだ。

 

___楽しい。

音に乗る。腕が跳ねる。足が自在に動き、また音に乗る。

 

ただ感覚に身を任せ、音に乗るダンスというジャンルは、曇らせシュチュエーションに出会えず悶々としていた俺にとって、良いストレスの捌け口となっていた。

 

(お。来たな、いつもの曲)

 

次に流れ出したのは、俺自身最も馴染みのある曲だった。

『idol trigger』の代表曲、『LOVE DIG』。キャッチーなダンスとハイテンポな曲調がバズり、俺たちは知らないが曲は聞いたことがある、という人も多い流行りの楽曲だ。

 

「みんなの中で、お姉さんと一緒に前で踊ってくれる子はいるかなー?」

 

俺たちの曲が流れることも、ダンスのお姉さんがそう呼びかけるのも事前に確認済みだ。この場面でドッキリを行う手筈になっているため、俺は羞恥心から目を背け自信満々に手を挙げる。

 

「……ほ、ほかにいないかなー?じゃ、じゃあそこのお兄さん。前に出てきてください……」

 

明らかに嫌そうなお姉さん。

すみません、わかります。子供向けのこの場で、ヤバそうな格好した男が手を挙げてたら躊躇うわ。

俺は悪くない、この変装にしたエリオが悪い。あいつ殺そう。

 

罪をエリオに被せ、現実逃避しながらステージの上へ。

子供達のなんだこいつという視線が突き刺さる。ごめんて。

 

「それでは、教えたステップを自由に組み合わせてみよう!好きなように、楽しく踊りましょー!」

 

間も無くイントロが終わる。

ここからは覚醒パートだ。気持ちを一般男性からアイドルへ切り替えた。

 

代表曲である『LOVE DIG』は、最近の傾向であるK-pop的振り付け、耳に残りやすいフレーズを取り入れた楽曲だ。

ジャンルで言えばHIPHOP。音ハメ、踊り手のノリやすさを重視したダンス。ライブでもギリギリ生歌で成立する激しさ、色々な意味でも「丁度いい」曲であると言える。

 

俺が得意とするのはROCK、もっと言えばBreakin寄りであるが、アイドルとしてバズる上で、当然HIPHOPの文化や踊りも抑えていた。

 

(ウチは得意な分野がバラバラだからなぁ……突出しすぎるのも良くない)

 

ダンスに歌、ビジュアル。俺たち三人は特化した分野が異なるため、ひとりが特出して上手くとも、調和が取れずむしろ他が下がって見えてしまう。

ダンスの上手さはソロパートで見せれば十分。という考えの元、『idol trigger』の楽曲はキャッチーなものが多かった。

 

ま、とはいえ決して楽じゃないんだけどな。

 

サビに近づくにつれギアを上げる。

既に初心者レベルは超え、そこそこ上手い、くらいまで解放。サビは楽曲の中でも最も知られているフレーズ。そこで完全に手抜きを止め、変装も解く算段だった。

 

何かがおかしいことに気付いたのか、お姉さんもギョッとした表情でこちらを見ている。親御さんたちも察し始めたようで、こちらを驚いたように見つめていた。

 

(もうサビだ……完璧にハメて)

 

楽曲のボルテージが上がる。

冷静にエイトカウント。背後で流れる僅かなキック音を拾いながら、

 

ここ!

 

サビ入りの音と同タイミングで音ハメ。同時にカツラを投げ、変装を解く。その間も音を拾いつつ、完璧に合わせることを怠らない。

ダンスに集中しているせいで、目の前の光景は朧気だ。けれど、隣や前方から歓声が上がっていることはわかる。

 

___楽しい。

やはり、ダンスはいい。この時だけ、何十年も俺の思考領域を支配してきた、曇らせという性癖がどこかへと旅立っている。

前世では考えられなかったことだ。曇らせに生きて、欲望を満たせないまま死んだ俺にとって、ダンスという存在は異質に映っていた。

 

前世でもダンスに出会っていたら、俺の人生は少しでも違っていたのだろうか?

それとも、この世界がアイドル育成ゲームだからか。長刀玲二という男の思考が、少なからず俺へと影響を与えているのか。

 

ゲームの世界の転生した以上、正解がわかる日はきっと来ない。けれど今感じている、楽しいという感情には、きっと間違いがなくて。

 

夢中になってダンスを踊り、最後のフレーズを終える。

日頃のトレーニングの成果か、一曲程度では息が上がらない。伊達にライブをやっていないだけのことはある。

 

カツラのせいで乱れた髪を撫で付けながら、ステージの下を眺める。

 

 

「……は?」

 

誰も、いない。

先程まで一緒に踊っていた子供達や親も、隣のお姉さんまでも消えていた。

それどころか、ショッピングモールの客すらひとりもいない。さっきまで微かに聞こえていたエスカレーターの稼働音や、遠くの空調の唸りすら、まるで世界から切り離されたように一切聞こえない。

曲が終わってしまえば音が消え、不気味なまでに静かな空間になった。

 

「おい、しずく?」

 

先程までしずくたちが隠れていた方を見るも、同じく姿はない。

エリオも透もだ。ぐるりと辺りを見渡すも、人の気配は全くなかった。

 

「どうなってんだよ、これ」

 

おかしい。

ダンスに集中していたとは言え、大きな音も立てず大勢がこの場から消えることなんてできるか?

いいやできない。となれば、考えうる可能性はひとつ。

 

 

「___逆ドッキリだなァ?!」

 

やりやがったなあいつらァ〜〜!

いや疑問だったんだよ!覚醒ドッキリなんて使い古されたネタ今更やるの!

 

どーせ『ダンスしてる間に観客全員消えてみたww』とかなんとかの企画だったんだろう。エリオならやりそう。別に透だって悪ノリでやりそう。

 

クソが、まんまと嵌められてやんの俺。

あのお姉さんも子供も、揃ってエキストラだったのだろう。キメ顔でダンスしといて、ドッキリかけられてるのは俺の方じゃねぇか。

 

逆ドッキリなら、今もどこかに隠れてこの様子を撮っているのだろう。

未だネタばらしに来ないということは、企画が続いていることの証明。

 

なら、俺にできることは。

 

「そっちがその気なら乗ってやるよッ!荒らしてやらぁこの企画」

 

中途半端に踊ったせいでテンションが高くなってる。

こうなったら俺にできるのは、この動画を神回にすること。

 

お前らの台本なんぞぶち殺してやる!長刀玲二にドッキリをするとこうなるってなァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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