女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!   作:人生変化論

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第6話 俺の知らないところでバトルするな

 

女性向けアイドル育成ゲーム、アイドリッシュトリガー。

チュートリアルの日常パートを終えたお姉様方は、これから始まるアイドル花道に胸を躍らせながら、第一章へと進む。

 

第一章は、ショッピングモールでの動画撮影。ここがアイドリッシュトリガーの真の始まりであり、鬱ゲーたる所以が牙を剥く第一歩。

数々のお姉様を、そのグロさと絶望で叩き落としたシナリオだ。

 

バッドエンド。『idol trigger』のリーダーかつ執行部の異能者(・・・・・・・)、長刀玲二の死亡。

 

 

□□□

 

 

「は?」

 

呆然とした様子で呟いたのは、誰だっただろうか。

『idol trigger』による動画撮影。リーダーの長刀玲二が、子供達に混ざって踊る姿を見守っている最中のことだった。

 

音も無く。

風も無く。

予兆も無く。

一切の気配無く、

 

ダンスに参加していた全員の心臓(・・・・・)が、抜き取られた(・・・・・・)

 

べちゃり。

次に聞こえたのは、数多の心臓が床に落ちる音。

悲鳴は無かった。当然だ、周囲にいる人間は皆、心臓のない肉塊へと変わっているのだから。

 

「……何が、起きたのかナ」

 

「ッ!しずくちゃん、玲二くんは?!」

 

普段は飄々とした態度のエリオも、今ばかりは状況を飲み込めずにいた。

透は、中心にいたはずの玲二の姿を遠目から必死に探す。彼は異能者ではない、僕らでさえ知覚できなかった攻撃だから、きっと無事ではいられないだろうと。

 

「……異形です。エリオさん、透さん。直ちに抗戦を開始、執行部に応援を呼んでください」

 

「しずく嬢。アナタにはアレが見えたかい?」

 

「……いえ。異能の行使が0.1秒遅れました。ですが、一瞬だけ姿が。心臓を抜き取ったのは、間違いなく異形ではない」

 

「やはり、事前の情報に間違いはなさそうだネ」

 

異能を行使し、周囲の状況を探って情報を得ながら、しずくは指示を続ける。

 

「現在、ショッピングモール内にB級が四体出現しています。幸い、他の一般人は心臓を抜き取られてはいないようですが……異形による被害は深刻です」

 

「ふむ。既に全員心臓とお別れしている、なんてのも可笑しく無かったケド……向こうさんにも限界ってのがあるようだ」

 

「ええ、恐らくは。けれど、油断はできません。異形の生成、心臓を抜き取る殺害方法、そしてこの結界……敵は三種類、少なくとも三人の異能者がいる」

 

「しずく嬢の異能では、場所を特定できないのかい?」

 

「無理ですね。一度結界が張られてしまえば、異能者と一般人を見分けることは不可能です」

 

淡々と会話を続けるしずくとエリオ。

不可解な状況にも焦りを見せない二人に、痺れを切らした透が叫んだ。

 

「あのぉ!玲二くんがいなくなったのにどーしてそんな冷静なのさ!ってか異能者が敵ってどーゆーこと?!異形の生成ってなにさっ!」

 

「落ち着いてください、兄さんは無事です。少なくとも、この結界が張られている限りは」

 

「結界?……確かに、さっきより暗い感じがする。これって、執行部がいつも張ってるやつと同じ、だよね」

 

結界。

外部と遮断する膜を生成する異能であり、最も発現しやすいと言われる力。

執行部が異形の対処に当たる際、最初に用いられるのがこの異能だ。人払い、認識阻害の効果を持ちながら、外部からの破壊は不可能であり、内部からの破壊にも一定以上の火力が求められるという優れた異能である。

 

「何故かは分かりませんが、兄さんはこの結界の外にいます。位相がズレているだけで、今もステージの中央に」

 

結界という異能を正しく表現するのであれば、『隔離された世界を創り出す異能』だ。

内部は、元いた世界と完全にズレる(・・・)。今も尚ステージに広がっている多数の死体は、ズレた結界の内部に存在している。結界外のステージには死体ひとつなければ、異形の姿ひとつない。

 

「そっか、しずくちゃんは結界外も探知できるから……」

 

「結界外に異形や異能者らしき人物がいる様子はありません。兄さんは、救援に来た執行部に保護されるでしょうし……それに」

 

 

「兄さんを害すような存在がいれば、結界を叩き割ってでも殺しに行きます」

 

「うん玲二くんは大丈夫だね要らない心配だったよ」

 

凄みのあるしずくの表情に圧倒され、高速でコクコクと頷く透。

執行部最強と呼ばれる異能のしずくからすれば、結界内外の詳細な探知すらも容易であった。

 

「……それで?生成だの敵の異能者だの、って話。そういうこと(・・・・・・)、でいいんだよね?」

 

「はい」

 

「はぁぁぁ……イヤーなことになったなぁ、まったく。これだから異能ってのはゴミだよね」

 

「おやおや透、珍しく同意見ですネ」

 

「玲二くんが羨ましいよ。僕はただ、三人で馬鹿みたいにアイドルやって、いっぱい歌って、たくさんチヤホヤされたいだけなのにぃ」

 

「後半が余計ですよ透さん。表ではそれ、絶対に言わないでください。絶対に」

 

「しずくママも大変だネ」

 

「誰がママですか」

 

有事とはいえ、いつもと変わらない掛け合いを見せる三人。ここに玲二さえいれば、馴染みのある『idol trigger』に戻る。その景色が、異能なんてない日常を、何よりも大切に思うからこそ。

 

______殺さなければならないものも、ある。

 

「二手に分かれましょう。前回のインシデントと同様、私とエリオさん、透さんが単独で動きます。第一目標は一般人の保護、異形の討伐です。敵対する異能者……逸脱者たち(アノマリー)は捜索するに留め、無理なら避けてください。敵の力や規模は未知数ですから」

 

「おっけー」

 

「……いや、ちょっと待った」

 

動き出そうとしたその時、エリオが二人を呼び止めた。

 

「敵が異形だけでなく、異能者でもあるなら……透の単独行動は危険だ。私が別行動をしよう。少なくとも対異能者なら、私の右に出る者はいないからネ」

 

「それは……いえ、了解しました。ですが慢心せずに、十分気をつけてください。行きましょう、透さん」

 

「エリオくん、チョーシ乗らないようにねーっ!」

 

突然の作戦変更に戸惑いつつも、エリオの異能が対異能者に向いていることもまた事実。しずくは、彼なりの考えがあってのことだろうと納得し、異形の元へと駆け出した。

 

 

・・・

 

 

しずくと透は、異形が発生した箇所へ辿り着いた。

ショッピングモールの二階にあるフードコート。家族連れや恋人で賑わうはずの憩いの場は、見るも無惨な姿に変貌していた。

 

「これは、酷いですね……」

 

異能者であれば、特に執行部の人間であれば、残酷な現場など何度も目にしてきた。

人間の範疇を遥かに超えた存在と対峙する。当然、全てが無事で済むはずもない。一般人の死亡、部隊の壊滅、心身ともに残る後遺症。異能の世界とはそういうモノで、心のどこかでは仕方がないと片付けていて。

 

それでも。目の前に広がる光景は、到底受け入れられはしない。

 

「いた。ツギハギの手足のヤツと頭部の寄せ集めの二体。合ってる?」

 

「はい。……お願いします、透さん」

 

「任せて」

 

テーブルの下、椅子の上。

辺り一面、乱雑に広がる死体の数々。年齢も性別も、原型が分からないモノだってある。むせ返るような鉄の匂いが鼻を刺激し、思わず顔を背けそうになる。

 

______嗚呼。

なんて、醜い。異能も異形も、なんて醜いのだろう。

 

「……ごめんね、みんな」

 

広がる死体に目を伏せながら、透は異形へと駆け出す。

流れるように異能を行使。その小柄な姿が、一瞬で掻き消えた。

 

透の異能。

執行部では「最も単独行動に向いた異能」であると称されている。正に神出鬼没、混乱を極める異形発生時の現場では重宝される彼の異能は。

 

『結界』である。

 

最も発現しやすいとされ、内閣府異能事象対策室において、最も使い手が多い異能だ。

 

 

「さっさと死ねよ、クソ異形共」

 

瞬間、透の姿は異形の背後へ現れる。

人の手足をツギハギにし、人間のカタチを真似ているような異形。一般人の死体を材料としたのだろう、体の所々から体液が溢れ出し、動く度に気味の悪い音を立てていた。

 

B級自体の感知能力や瞬発力はそう高くない。背後の透に気付き振り向く頃には、小さなナイフによって頭部の位置にある手足を切り取られていた。

 

一瞬で体勢を崩す異形。

ふらつき、一丁前に苦しんでいるふりをする。そう、苦しんでいるふりに過ぎない。

必死に人間を模倣するだけの化物に、痛覚などあるハズがないから。

 

素早く四肢を切り落としてしまえば、異形は直ぐに動きを止めた。

 

 

「……結界。隔離された世界を創り出す異能」

 

流れるような一連の動作を眺めていたしずくは、B級の異形に標的を定め、再び姿を消した透を目で追いながら呟いた。

 

「人払い、認識阻害の効果は副産物。その本質は、外側から観測できない世界を創り出すこと。で、あるのなら」

 

 

「______結界の範囲が狭いほど、より強力になる」

 

 

B級の異形は、人間の頭部によって構成されていた。

自身が殺されたことすら気付かぬ内に材料とされたのだろう。どの顔も笑顔であり、柔らかな表情を浮かべていたのに。

 

異形の頭部に置かれた少女の表情だけが、恐怖に歪んでいて。

 

「趣味が悪いなぁ、もう」

 

再び異形の背後に現れた透。

異形の頭部がぐるりと回転する。繊維がプチプチと切れる音。ヤツらに痛覚などない。感情などない。ただ、事切れる瞬間に浮かべていた彼や彼女の表情が、べったりとこびりついているだけ。

 

透のことを獲物と捉えたのか、大きな音を立てながら駆け出してくる。先程の異形級とは桁違いの素早さだ。異形にも個体差があるとはいえ、流石に速い。十数メートルはあった透との距離が一瞬で詰まった。

 

「ごめんね。君たちのことは、ちゃんと弔うから」

 

けれど。駆け出した時には既に、戦いは終わっていた。

突如として、異形の目の前にナイフが現れる。事前の動作は見せていないハズなのに、投擲の如きスピードで迫ったナイフは、いとも容易く異形の頭部を貫通した。

 

人間で言う所の脳を撃ち抜かれた異形は、制御を失ったように地面へと倒れる。

繋がっていた人間の頭部が分離し、コロコロと転がった。

 

 

「お疲れ様です、透さん」

 

「うん、ありがと。こういうグロいの、あんまり得意じゃないんだけどな〜」

 

二体の異形に対して圧倒して見せた透。

彼の異能は『結界』。発現自体珍しくもなく、戦闘用に用いられることも少ない。

 

しかし透の結界は、その範囲と制御の才能が、飛び抜けて優れていたのだ。

 

「また結界の範囲を狭めましたね?以前は、短剣程度が限界だと記憶していましたが」

 

「えっへん!こっそり練習していたのだ〜……ダンスレッスンサボって」

 

「透さん?」

 

一般的に、結界は範囲が広いほど発動が簡単だとされている。

結界が狭ければ相応の制御力や練度が求められ、殆どの場合不発に終わってしまう。透は結界を狭め、戦闘に転用するセンスが抜群に優れており、その制御力だけで他の追随を許さない異能者へと成長していた。

 

「やはり、結界は異形にも効きますか」

 

「B級だとちょっと怪しいけどね。A級は交戦経験少ないからわかんないけど、ナイフ作戦は効かなそうだなぁ」

 

結界は、隔離された世界を創り出す異能。

透はその範囲を狭め、自分自身やナイフだけに適用させることで、外部から知覚されない隠密行動や攻撃を実現させていた。

 

「……しずくちゃん。生存者は、いる?」

 

「いいえ。少なくともこのフロアには」

 

「そっか」

 

透は、ナイフで貫いた異形の頭部をそっと抱き上げる。

中学生くらいの少女だ。亜麻色の髪に、可愛らしいピンクのリボン。きっと幸せな人生を送っていただろう少女の顔は、悲しいほどの恐怖に歪んでいて。

呆然と開かれた瞼を、そっと閉じてあげる。

 

「やはり、変です」

 

「変?」

 

死体の海を調べていたしずくが、何かに気づいた様子で言った。

 

「ここにある死体。死因が二種類あります」

 

「二種類……」

 

「ひとつは、打撃による死亡。圧死と言い換えてもいいでしょう。これは異形発生後のモノです。先程の異形によって殴打され、嬲り殺された」

 

原型がないモノ。骨が粉々になっているモノ。

これらは異形の仕業だ。同様の事例を、異形が関わる事案で何度も見た。

 

「そしてもうひとつ。心臓を抜き取られての死亡です」

 

「それって、僕らが見たのと同じだよね」

 

思い出すのは、全ての始まりの光景。

ダンス会場が一瞬にして死体の海に変わった、あの一瞬。

 

「順番を思い出してください。私たちは心臓を抜き取られた光景を見て、その後に異形が現れた」

 

「……最初に、誰かがみんなの心臓を抜き取って殺した。その死体を材料にして異形を造り、その異形が更に人を殺した……?」

 

「います。このショッピングモールの中に、悪趣味な異能者が」

 

異形の半分は殺した。

にも関わらず、不穏な気配は収まるどころか、より濃厚さを増していた。

 

 

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