女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!   作:人生変化論

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第7話 イかれ系お嬢様は才能ある

 

二体の異形を撃破したしずくと透は、次の目的地へ向けて駆け出していた。

異形が暴れたことで電気回路に異常が生まれたのだろう、店内のライトは消えてしまい薄暗い。結界内特有の空気感も相まって、どこか不気味な空気が漂っていた。

 

「でもいいの?エリオくんの支援じゃなくて、生存者の救護に向かって」

 

「問題ありません。既にB級を撃破しているのは確認済みです。今は残るC級と交戦中のようですが、時間の問題でしょう」

 

「うへぇ……やっぱチートだよねぇ、あの『言霊』って」

 

移動しながら異能を行使し、エリオと結界外の玲二の無事を絶えず把握しながら、二人は生存者が集まっている映画館へと向かう。

 

「決して私たちも安全とは言えません。透さん、警戒を解かないでください。異能行使の予備動作が見えたら、直ぐに牽制。その場の判断で殺害してしまっても構いません。今は、情報よりも安全の確保です」

 

「敵の異能者が、生存者の中に紛れてる……だったよね」

 

多数の人間から、心臓を抜き取って殺害した異能者。

死体を材料にして、異形を生成した異能者。

外部と断絶させるよう、ショッピングモール全体に結界を張った異能者。

 

少なくとも三人。無差別での殺害を起こし、異形を造ることで被害を拡大させたものが、建物内に紛れている。

 

「ええ。孤立している人物がいれば、異能者の可能性が高かったですが……生存者は全員、十名程度の集団で固まっています。中に紛れているか、もしくは」

 

「十人全員が、異能者か」

 

逸脱者たち(アノマリー)

規模、構成、理念。全てが謎でありながら、異能者の集団として歴史の影に存在してきた組織。

 

異能者は本来、異能を発現した時点で内閣府異能事象対策室の管理下に置かれる。

異能という人地を超えた力を秘匿し、同時に異形による被害を防止するため。そして、化学兵器を凌駕する程の力を持つ異能を、国家権力から遠ざけるためでもある。

 

しかし同時に、全ての異能者を管理できていないこともまた事実。

社会に適応できない者。異能を全能であると信じる者。異能を管理する秩序を、忌み嫌う者。

そうした異能者たちが、対策室の管理下から逃れ形成した組織。それが、逸脱者たち(アノマリー)

 

「警戒を怠らず行きましょう。特にあの、心臓を抜き取った異能。広範囲かつ異能者の姿が見えない場所からの行使が可能、と想定するとかなり厄介です」

 

「ん〜……何かおかしくない?心臓だけをピンポイントに抜き取る異能、そんなの聞いたことないし……それに、心臓を潰してるんじゃなくて、抜き取ってるんだよ?」

 

事実、ダンスステージで見た心臓と、フードコートにて放置されていた死体の心臓は、傷ひとつなく抜き取られていた。

単純に考えれば、態々体内の臓器を抜き取るよりも、広範囲の衝撃や破壊の方が、圧倒的に楽である筈だ。あえて心臓を抜き取る方法を取ったという事実が、透には疑問だった。

 

「異形を造る異能すらあるんです。想定外の何かを握っている可能性は高い……さあ、着きますよ」

 

 

目的地である映画館。

ショッピングモールの一角に位置するこの場所には、十数名の生存者がいた。

彼らは、売店のカウンターをバリケードとしながら、恐る恐るこちらを伺っていた。

 

「安心してください。我々は公的組織の人間です。皆様を助けに来ました」

 

「……ほ、本当か?外を出歩けるってことは、あの化け物はいないんだよな、な?」

 

震える声で身を乗り出したのは、店員と思わしき制服を着た男性。

しずくたちがたった二人、それも女性と背丈の低い男性であることに安心したのだろう。他の生存者たちも、怯えつつ姿勢を起こした。

 

「化け物、ですか。皆様はあの化け物から逃げ切れたのですか?」

 

「逃げ切れた、ってか……化け物がフードコートの人間に夢中になってる間に、こっそり。な、なんなんだよアイツらッ!」

 

「落ち着いてください」

 

「落ち着けるかよ?!あんだけの人間が目の前で死んでんだぞ、冷静な方がどうかして……お、お前らこそ、本当に人間だよな?」

 

「落ち着いてください、と言っています」

 

「そうだ、こんなとこまで来れるのが人間なワケない!お前らも化け物なんだろ?!化け物、化け物、バケモノ、バヶ、バ、ババババババ」

 

 

「透さんッ!左から二番目、女に投擲ッ!」

 

しずくが会話していた男の瞳が、ぐるりと回転する。

糸の切れた人間のように倒れ込む男。同時に透が結界を発動、ナイフを最速で投げつける。

 

「ッ!駄目だ、しずくちゃん!」

 

反応速度は上々、しかし瞬間的に失敗を悟った透は、直ぐにしずくの元へ戻った。

女に投げたナイフ。喉を抉る筈だった凶器は、多数の肉壁によって阻まれる。

 

そう。女を守るように立ち塞がった、生存者全員によって。

______否。既に生存者ではない。

 

 

「レディに対して、なんて乱暴な行為ですわ」

 

「人間を肉壁にするような奴に配慮が必要かなぁ?」

 

「失礼な。彼ら彼女らの方から、壁に使って欲しいとの熱烈な要望を受けたものですから」

 

途端、床に崩れていく人々。

力なく落ちるその様子は、誰が見ても命が既に散っていることは明白で。

 

 

最後に立っていたのは、ひとりの女。

くすんだ金髪に、深く刻まれた隈。青いドレスの如きワンピースに、丁寧な口調を操る姿は、どこかアンバランスで不気味だった。

 

「フードコートの時と、手口は同じですね。私たちが到着した頃には既に、お仲間が全員を殺害していたのでしょう?心臓を抜き取って」

 

「手口って、なんだかわたくしが悪い行為をしているみたいじゃないですの」

 

「自覚ないんだぁ……イカれてるよ、きみ」

 

「お褒めいただき光栄ですわ」

 

ズレている。

噛み合わない会話に、殺人を少しも厭わない態度。自分が死者を冒涜しているという事実を、一切受け入れようとしていない。

 

「こいつが、わるーい異能者ってことでいいんだよね、しずくちゃん」

 

「はい。それも、私たちは当たりを引いたようです。異形を造る異能者、それが貴女ですね?」

 

しずくは女をじっと見つめ、その様子を観察する。

自らの異能を看破されても、彼女が動揺する様子はない。寧ろ、こちらの考察を楽しんでいるかのように体を揺らしていた。

 

「……いえ。厳密には違うのでしょう。貴女は死体を動かし壁にするだけでなく、死体を通して会話までして見せた。偽装は完璧でした。私の異能でも、ここまで近づかなければ生存者を見分けられなかった」

 

「ええ、ええ。それでそれで?」

 

「異形を造る能力と、死体を動かす能力。一見すると全くの別枠であり、複数人による仕業を疑うところです。……ですが、ひとつだけ。これらが両立できる異能がひとつだけあります。貴女の異能は______」

 

「待ちなさいですわ!すとっぷ、すとーっぷ!」

 

何が可笑しいのか。

ケラケラと笑みを溢しながら、女は手でバツ印を作った。

 

「答え合わせはいつかのお楽しみ、ですわっ。レディは秘密が多い方が美しいのですわよ?それに、皆様方とは長い付き合いになりそうですし」

 

「何言ってるのかな〜?僕としずくちゃんが逃すと思う?」

 

「貴女が握る情報と、命が釣り合うとは思わないことです。逃すくらいなら、ここで殺します」

 

「あらまぁ、物騒ですわ」

 

透は懐から予備のナイフを取り出す。

結界の準備は万全。女が逃げ出す素振りを見せれば、直ぐにでも自らを結界で覆い隠し、女の喉元を掻き切るつもりだった。

 

「けどね、権力のお犬さん。わたくしが逃げるのではなく、あなた達が逃げていくのですわ」

 

「……?他の異能者が近くにいないことは確認済みです。貴女ひとりならば、異能を使う動作を見せた時点で殺せる」

 

「その通りですわ。わたくしも誰かさんと同じく、戦闘能力はからっきしですから」

 

 

「______でもそれは、長刀玲二も同じではなくて?」

 

「貴様ァ!」

 

玲二の名を聞いた瞬間、透は弾かれたようにナイフを打ち出す。

しかし咄嗟の行動だったため、結界を纏わせるまでは至らない。女は軌道の見えたナイフを、僅かに体を逸らして避ける。致命傷を与える筈だったナイフは、女の皮膚を僅かに削るに留まった。

 

「ふひっ、ふひひっ。愉快、愉快ですわ。人間とは、異能者とはこうも脆い!たかが異能(・・・・・)を得ただけの人間が、特別であるとッ!優れているのだと思い上がっているッ!嗚呼、これを愉快と呼ばずしてなんと呼びましょうか!」

 

不快な声色を吐き出す女を、直ぐにでも黙らせようと透が駆け出す。

その動作を、しずくは大声を上げて止めた。

 

「待ってください、透さん!」

 

「しずくちゃんッ!なんで止めるのさ、アイツが逃げる前に殺さないと……!」

 

「……兄さんが、知らない異能者と接触しています」

 

「は?」

 

しずくの異能は万能である。

故に、結界の外にいる玲二の居場所は常に捉えることができていた。動き回っているとはいえ、ショッピングモール内にいた全ての人物は、結界の内部にいることを確認済み。玲二が異能者や異形と接触する可能性は低いだろうと、割り切っていたが故の失念。

 

「執行部の到着より先に、敵の増援と接触するとは……ッ!いや寧ろ、これは増援ではなく」

 

最初から計画されていたとしたら?

ショッピングモール襲撃の目的が、一般人の殺害でも、異形を用いたテロでも、しずく達異能者を狙ったモノでもなく。

 

最初から、長刀玲二を狙った犯行だとしたら。

 

「急ぎましょう!兄さんが危険ですッ!」

 

「……くそっ」

 

笑みを深める女を睨みながら、今は優先すべきものがあると割り切る。

あの女は危険だ。異能もその効果も、そして歪んだ思想も。いつか必ず、殺さなければならない。

 

 

「ふひひひっ!わたくしは、逸脱者たち(アノマリー)が第七席、『愉快』!以後お見知りおきを、ですわ」

 

心臓を抜かれた死体の山の上で、『愉快』は笑い続ける。

 

 

 

 

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