女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!   作:人生変化論

9 / 9
第9話 ぽれはアイドル界のゴミです

 

玲二が異能者と接触した。

『愉快』との対峙によってその情報を入手したしずくと透は、慌てた様子でショッピングモールの入り口へと向かっていた。

 

「しずくちゃん!今玲二くんはどこにっ?!」

 

「建物を出て、およそ四百メートルの地点です!現状、危害を加えられてはいないようですが……相手も恐らく逸脱者たち(アノマリー)です!急ぎましょう!」

 

異形を生成した『愉快』の居場所は捉えている。

となれば、玲二と接触しているのは心臓を抜き取った異能者か、結界の異能の持ち主。後者であれば殺傷能力は低いだろうが、対する玲二はごく普通の一般人だ。早急に彼の元へ辿り着く必要があった。

 

「……でもさ。敵はなんで、玲二くんを狙ってるのかな?」

 

「なんで、とは」

 

「だって、玲二くんってただの一般アイドルだよ?ちょっと……いや滅茶苦茶言葉遣いは悪いか。こう言っちゃアレだけど、ただ殺すことが目的なら、ダンス会場で心臓抜き取っちゃえばいい話じゃん」

 

走りながらも、不思議そうに首を傾げる透。

逸脱者たち(アノマリー)の目的が、しずく等異能者の殺害であれば理解できる。超広範囲の探知能力は、日本支部の管理から逃げる彼らからすれば厄介であろうから。

 

異形での無差別殺人も、目的は不明であれど、この二十年で繰り返し行われてきた事象だ。にも関わらず、態々『愉快』が長刀玲二の殺害を強調した理由が、透には理解できなかった。

 

「……確かに、そうですね。敵はあえて兄さんだけを結界外に取り残した。異形と異能者で私たちを足止めしながら、確実に兄さんとだけ接触するために」

 

「明らかに、何かの目的があってやっているとは思うんだけど……なーんかすれ違ってるって言うか、よくわからない所が多すぎるんだよねぇ」

 

二人で意見を並べるも、答えは出てこない。

頭を悩ませながら、モールの入り口へと到着する。玲二と異能者は既に異能しており、開かれた扉だけが残されていた。

 

「玲二くんはどっちの方向に?」

 

「兄さんは今……ん、んん?」

 

「どしたのしずくちゃん」

 

異能で玲二の居場所を探知したしずくは、唸り声を上げてから黙ってしまう。

 

「……サイゼ○ヤです」

 

「は?」

 

「だから、サイゼ○ヤです。兄さんと異能者の反応はそこで止まっています」

 

スマホを取り出し、マップで場所を照らし合わせながら呟くしずく。

予想外すぎる結果に無言、無言。廃工場にでも連れ込まれて、今にも絶対絶命……的な状況を想像していたモノだから、誰もが知るチェーン店に居座っている現実が理解できなかった。

 

「と、とにかく行ってみよっか」

 

「……そうですね」

 

ほんの少しだけ遅くなった足取りのまま、二人は玲二の元へ向かった。

 

 

・・・

 

 

「兄さんッ!」

 

「玲二くんー!」

 

「おお、なんだなんだドタドタと」

 

店へ辿り着くと、呑気にコーラを啜っている玲二の姿。

先程までの緊迫した空気とは一変し、普段と変わらない玲二の様子に、しずくと透は思わずため息を吐いた。

 

「なんだ、じゃ無いよほんとーに……心配したんだからね、もう」

 

「悪い悪い。けど、お前らこそ人のこと言えないからな?逆ドッキリなんか仕掛けやがってよ」

 

「……逆ドッキリ?」

 

予想していなかった言葉に、しずくは首を傾げる。

ショッピングモールの中で結界外に一人取り残され、異能者とも遭遇しているのだ。確信的な部分には至らないにしろ、多少なりとも異能の世界を知られてしまったと危惧していたが。

 

「だーかーらー。覚醒ドッキリの最中に客全員消えてみた、的な逆ドッキリだったんだろ?折角気持ちよく踊ってたのによォ……どーせエリオの発案だな。まんまと騙されちまった。今どき覚醒ドッキリなんてパンチ弱いなぁとは思ったんだよなァ〜〜〜!」

 

目の前の異常者は、何やら都合よく勘違いしているらしい。

これを好機と見たしずくと透は、咄嗟に目配せし合う。その時間、僅か一秒。

 

「そ、そそそうなんだよぉ〜!エリオくんのバカがさ〜、玲二くんは叩けば良く鳴くオモチャだから、絶対に面白い動画になるって言い始めたんだよねッ」

 

「すみません、玲二さん。事務所の方も、よりバズを狙えるならと乗り気で……」

 

「よしエリオ殺すぞ」

 

マネージャーとアイドルによる、決死の責任転嫁。

因みにエリオは一切そんなことを言っていないので、完全に捏造である。

 

「ったく……にしても、動画撮影なんかでよくショッピングモール貸し切ったな。相当掛かっただろ、あれ」

 

「あ、あはは……」

 

「事務所が全て払ってくれます、事務所が」

 

しずくは芸能事務所に全てを被せることに決めた。

 

「一本目から気合い入ってんな、ウチの事務所……なぁ、せっかく来たんだし、お前らもなんか食べてけよ。久々に食ったけど美味いぞ、ドリア」

 

「今は食欲ないから、ジュースだけ飲もうかな」

 

ここに来るまで、大量の死体を目にしてきた。

透はすぐに何かを食べる気分にはならず、ドリンクバーだけを頼み玲二の向かいへと座る。

 

一方でしずくは、通路に立ちテーブルの上をじっと眺めていた。

 

「……この食器。玲二さん、ここには誰と一緒に来たのですか?」

 

「ん、ああ。女の子だよ、中学生くらいの。お前らがショッピングモール貸し切ってるせいで、入れなくて暇そうにしてたからな。飯でも奢って時間を潰そうかと思ったんだよ。その方がお前らもビビるだろうしな」

 

いや別の意味でビビりはしたけども、主に異能者的な意味で。

そうツッコミたくなる気持ちを、透はグッと抑えた。

 

「兄さんから、誘ったんですか」

 

「おいおい、呼び方が昔に戻って……うぐぇ」

 

鬼気迫る表情で玲二の肩を握り締めるしずく。

あ、これやばいやつですやん。普段マネージャーを振り回す側のアイドル二人は、即座にこの世の終わりを悟った。

 

「まず大前提、初対面の女性をホイホイホイホイ連れ回している行動、あまりにもプロ意識に欠けています。普段から言っていますよね?身バレに繋がる行動は慎めと。兄さんは何故自ら茨の道へ進むのか、全くもって理解できません。それになんですか、中学生?中学生女児?兄さんは幼女趣味でもあるんですか?下手したら誘拐ですよほんとに、大体兄さんはもう……」

 

つらつら、つらつら。

一度防波堤が決壊してしまえば、普段から溜めていた玲二への愚痴が滝のように流れ出す。言葉の節々に棘がある上、そう間違った発言でもないため、それはもう玲二の心に刺さっていた。

 

 

「スミマセン……ぽれはゴミです……アイドル界どころか社会のゴミです……」

 

結果、社会のゴミが完成。

自責の念を垂れ流す玲二とは対照的に、全てを吐き出しスッキリとした様子のしずく。透は長すぎた説教に飽きて、早々にドリアをつついていた。

 

「透さん。私は外で連絡を取ります。兄さんの監視は任せました」

 

「監視て」

 

「おっけー!」

 

玲二と共にいた異能者は、既にしずくの探知範囲内にはいない。一方で、ショッピングモールでの奇襲を経験したばかりだ。決して警戒を怠るつもりはなかった。

 

しずくは透にその場を任せ、飲食店の外に出る。

 

 

「今回はしてやられたのぉ、しずく」

 

「管理官」

 

外で待っていたのは、スーツに身を包んだ朱色の少女。

可愛らしい容姿に合わない古風な口調。執行部のトップ、雀朱音管理官だった。

 

「迂闊でした。少なくとも結界が張られる前に異能を使えていれば、もっと早く逸脱者たち(アノマリー)の位置を特定できた......常時異能を展開していなかった、私の責任です」

 

「馬鹿なことを言うでないわ。おぬしの脳が情報量に耐えきれず、まともに異能が機能しなくなるに決まってるじゃろ」

 

背丈はしずくの肩ほどにも満たない。しかし、彼女を叱り諭す朱音の姿は、体躯より遥かに頼もしく感じられた。

 

「......おぬしらは、誰と対峙した?」

 

「彼女は、逸脱者たち(アノマリー)が第七席『愉快』と名乗っていました。異能の特徴からして、異形を造った犯人でしょう」

 

「悪趣味な女じゃのう。ここ最近、B級以上の発生率が高いのはこやつの仕業か」

 

しずく達が遭遇した金髪の女。

自らを『愉快』と名乗った彼女の異能は、確かに強力だった。

 

異形を造り出す能力。

死体を操作し、会話まで可能とする能力。

______そして、異能者を見下していたその思考。

 

「エリオからも、逸脱者たち(アノマリー)と遭遇したとの報告を受けたぞ。長刀玲二と会っていた結界の異能者を含め三人。そやつらが今回は、ある特定の目的を持って行動を共にしていた」

 

「兄さんの殺害。しかし、何故兄さんを狙って……?」

 

「あやつらは、長刀玲二を異能者であると勘違いしていたそうじゃ。それも、執行部で最強の」

 

「どこからの虚偽情報ですかそれは」

 

玲二が異能を持たない事は、周囲の人間の誰もが知るところである。

第一、結界外であれば異能者を見分けられるしずくが身近にいるのだ。敵の情報に間違いがあることは、しずくが誰よりも理解していた。

 

「さあの。ただ、本気で信じておったのは間違いないそうじゃ」

 

「ネットリテラシーとか大丈夫ですか?情報教育受けてないんですかね学校で」

 

「そもそも義務教育受けておるんか……?」

 

傍迷惑な話である。

勘違い一つでショッピングモールを襲撃し、多数の犠牲者を出した。誤情報だったと、そう単純に片付けていい事案ではない。

 

「しかし、長刀玲二が一度狙われた、という事実は本当じゃ。しばらく間は彼に護衛を付けよう。当然、玲二本人にはバレないようにじゃが」

 

「助かります。私も、常に傍にいるわけではありませんから」

 

しずくは、自身が多忙である自覚があった。

普段のマネージャー業務に加え、執行部の異能者としての救援活動。特に広範囲での指揮系統を維持できるしずくの異能は、現場で重宝される能力である。

 

「うむ。『idol trigger』のライブの際は、わらわ直々に玲二の護衛を務めるとしようぞ」

 

(……このメスガキッ!)

 

職権濫用してライブ見る挙句、ワンチャンス兄さんとお近づきになりてーだけじゃねーですかこのメスガキ、とは言わなかった。一応は上司なので、一応は。

 

 

「ここからは執行部で引き継ごう。現場対応、ご苦労じゃった。玲二を連れて帰るといい」

 

「……ありがとうございます。失礼します」

 

情報交換を終え、しずくは朱音と別れる。

 

玲二の命は守れた。逸脱者たち(アノマリー)の思惑は潰したし、情報も幾つか手に入れた。

しかし、それでも被害は甚大。ショッピングモールの破壊に、客として訪れていただけの一般人が、殆ど全員殺害された。これからしばらくは、日本支部は情報の隠蔽と操作に奔走される日々が続くだろう。

 

決して勝利とは言えない結末に、しずくは拳を強く握り締めた。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
想像以上の評価や感想を頂きまして、本当に励みになっております!

次話で原作のルート分岐のお話をして、第一章は終わりになります。
第二章は「恋愛リアリティーショー/実写バトル映画撮影編です、本当です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)(作者:池崎)(オリジナルファンタジー/戦記)

突如として前世の記憶を思い出し、自身が病弱貴族になってしまったことを悟った主人公は、とある出来事をきっかけに──「治癒魔法をかけ続けたら戦えるのでは??」と気づき、おっさん治癒術師を巻き込んで修練に励む。▼その結果──確率で血反吐を吐きながら拳で戦うHENTAIスタイルになってしまう。▼「だ、大丈夫! すごく痛いけどすぐ治るから!!」▼


総合評価:2654/評価:8.31/連載:14話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:39 小説情報

魔法少女の敵役、命欲しさにドノツラフレンズになる。(作者:ドノツラフレンズ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

魔法少女の敵役俺「(死にたくねぇなあ……せや!何食わぬ顔で味方面してやろ)ハッハッハ!!しょうがないから仲間になってやる!」▼魔法少女「えっ!?貴方って最初から味方じゃなかったんですか!?」▼俺「えっ?」▼魔法少女「えっ?」▼だいたいこんな感じのお話。


総合評価:4754/評価:8.46/連載:6話/更新日時:2026年08月15日(土) 21:41 小説情報

女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる(作者:maki@)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼【 ――いいから黙って変身しろ! 俺の考えた最高のヒーローを見せてやる! ―― 】▼若い女性だけがその生命を燃やして戦う世界。▼『魔障対策局』の雑用係・神代蓮は、戦う力を持たない無力な男として、非日常を虚構に貶める日陰の仕事を淡々とこなしていた。▼だが、彼には誰にも言えない秘密があった。▼その脳内に人類の敵、【魔障】を飼っているということ。▼『戦う力』が欲…


総合評価:3288/評価:8.92/連載:12話/更新日時:2026年08月17日(月) 20:00 小説情報

男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ?(作者:飲酒村)(オリジナル現代/ホラー)

転生した先は男女比1:20の因習村。▼ハーレム展開かと思いきや、なんと今の俺の立場は生贄らしい。▼貴重な男の子は神様への捧げものになるそうだ。▼クソが、こんな村に居られるか!▼俺は絶対、この因習村から脱出してやる!


総合評価:3254/評価:8.55/連載:7話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:00 小説情報

上位存在ヤンデレもの(作者:ヤンデレスキー)(オリジナル現代/恋愛)

怪しげなバイトに応募した大学生が施設先の上位存在に依存される話


総合評価:4402/評価:8.96/連載:4話/更新日時:2026年08月17日(月) 19:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>