女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ! 作:人生変化論
玲二が異能者と接触した。
『愉快』との対峙によってその情報を入手したしずくと透は、慌てた様子でショッピングモールの入り口へと向かっていた。
「しずくちゃん!今玲二くんはどこにっ?!」
「建物を出て、およそ四百メートルの地点です!現状、危害を加えられてはいないようですが……相手も恐らく
異形を生成した『愉快』の居場所は捉えている。
となれば、玲二と接触しているのは心臓を抜き取った異能者か、結界の異能の持ち主。後者であれば殺傷能力は低いだろうが、対する玲二はごく普通の一般人だ。早急に彼の元へ辿り着く必要があった。
「……でもさ。敵はなんで、玲二くんを狙ってるのかな?」
「なんで、とは」
「だって、玲二くんってただの一般アイドルだよ?ちょっと……いや滅茶苦茶言葉遣いは悪いか。こう言っちゃアレだけど、ただ殺すことが目的なら、ダンス会場で心臓抜き取っちゃえばいい話じゃん」
走りながらも、不思議そうに首を傾げる透。
異形での無差別殺人も、目的は不明であれど、この二十年で繰り返し行われてきた事象だ。にも関わらず、態々『愉快』が長刀玲二の殺害を強調した理由が、透には理解できなかった。
「……確かに、そうですね。敵はあえて兄さんだけを結界外に取り残した。異形と異能者で私たちを足止めしながら、確実に兄さんとだけ接触するために」
「明らかに、何かの目的があってやっているとは思うんだけど……なーんかすれ違ってるって言うか、よくわからない所が多すぎるんだよねぇ」
二人で意見を並べるも、答えは出てこない。
頭を悩ませながら、モールの入り口へと到着する。玲二と異能者は既に異能しており、開かれた扉だけが残されていた。
「玲二くんはどっちの方向に?」
「兄さんは今……ん、んん?」
「どしたのしずくちゃん」
異能で玲二の居場所を探知したしずくは、唸り声を上げてから黙ってしまう。
「……サイゼ○ヤです」
「は?」
「だから、サイゼ○ヤです。兄さんと異能者の反応はそこで止まっています」
スマホを取り出し、マップで場所を照らし合わせながら呟くしずく。
予想外すぎる結果に無言、無言。廃工場にでも連れ込まれて、今にも絶対絶命……的な状況を想像していたモノだから、誰もが知るチェーン店に居座っている現実が理解できなかった。
「と、とにかく行ってみよっか」
「……そうですね」
ほんの少しだけ遅くなった足取りのまま、二人は玲二の元へ向かった。
・・・
「兄さんッ!」
「玲二くんー!」
「おお、なんだなんだドタドタと」
店へ辿り着くと、呑気にコーラを啜っている玲二の姿。
先程までの緊迫した空気とは一変し、普段と変わらない玲二の様子に、しずくと透は思わずため息を吐いた。
「なんだ、じゃ無いよほんとーに……心配したんだからね、もう」
「悪い悪い。けど、お前らこそ人のこと言えないからな?逆ドッキリなんか仕掛けやがってよ」
「……逆ドッキリ?」
予想していなかった言葉に、しずくは首を傾げる。
ショッピングモールの中で結界外に一人取り残され、異能者とも遭遇しているのだ。確信的な部分には至らないにしろ、多少なりとも異能の世界を知られてしまったと危惧していたが。
「だーかーらー。覚醒ドッキリの最中に客全員消えてみた、的な逆ドッキリだったんだろ?折角気持ちよく踊ってたのによォ……どーせエリオの発案だな。まんまと騙されちまった。今どき覚醒ドッキリなんてパンチ弱いなぁとは思ったんだよなァ〜〜〜!」
目の前の異常者は、何やら都合よく勘違いしているらしい。
これを好機と見たしずくと透は、咄嗟に目配せし合う。その時間、僅か一秒。
「そ、そそそうなんだよぉ〜!エリオくんのバカがさ〜、玲二くんは叩けば良く鳴くオモチャだから、絶対に面白い動画になるって言い始めたんだよねッ」
「すみません、玲二さん。事務所の方も、よりバズを狙えるならと乗り気で……」
「よしエリオ殺すぞ」
マネージャーとアイドルによる、決死の責任転嫁。
因みにエリオは一切そんなことを言っていないので、完全に捏造である。
「ったく……にしても、動画撮影なんかでよくショッピングモール貸し切ったな。相当掛かっただろ、あれ」
「あ、あはは……」
「事務所が全て払ってくれます、事務所が」
しずくは芸能事務所に全てを被せることに決めた。
「一本目から気合い入ってんな、ウチの事務所……なぁ、せっかく来たんだし、お前らもなんか食べてけよ。久々に食ったけど美味いぞ、ドリア」
「今は食欲ないから、ジュースだけ飲もうかな」
ここに来るまで、大量の死体を目にしてきた。
透はすぐに何かを食べる気分にはならず、ドリンクバーだけを頼み玲二の向かいへと座る。
一方でしずくは、通路に立ちテーブルの上をじっと眺めていた。
「……この食器。玲二さん、ここには誰と一緒に来たのですか?」
「ん、ああ。女の子だよ、中学生くらいの。お前らがショッピングモール貸し切ってるせいで、入れなくて暇そうにしてたからな。飯でも奢って時間を潰そうかと思ったんだよ。その方がお前らもビビるだろうしな」
いや別の意味でビビりはしたけども、主に異能者的な意味で。
そうツッコミたくなる気持ちを、透はグッと抑えた。
「兄さんから、誘ったんですか」
「おいおい、呼び方が昔に戻って……うぐぇ」
鬼気迫る表情で玲二の肩を握り締めるしずく。
あ、これやばいやつですやん。普段マネージャーを振り回す側のアイドル二人は、即座にこの世の終わりを悟った。
「まず大前提、初対面の女性をホイホイホイホイ連れ回している行動、あまりにもプロ意識に欠けています。普段から言っていますよね?身バレに繋がる行動は慎めと。兄さんは何故自ら茨の道へ進むのか、全くもって理解できません。それになんですか、中学生?中学生女児?兄さんは幼女趣味でもあるんですか?下手したら誘拐ですよほんとに、大体兄さんはもう……」
つらつら、つらつら。
一度防波堤が決壊してしまえば、普段から溜めていた玲二への愚痴が滝のように流れ出す。言葉の節々に棘がある上、そう間違った発言でもないため、それはもう玲二の心に刺さっていた。
「スミマセン……ぽれはゴミです……アイドル界どころか社会のゴミです……」
結果、社会のゴミが完成。
自責の念を垂れ流す玲二とは対照的に、全てを吐き出しスッキリとした様子のしずく。透は長すぎた説教に飽きて、早々にドリアをつついていた。
「透さん。私は外で連絡を取ります。兄さんの監視は任せました」
「監視て」
「おっけー!」
玲二と共にいた異能者は、既にしずくの探知範囲内にはいない。一方で、ショッピングモールでの奇襲を経験したばかりだ。決して警戒を怠るつもりはなかった。
しずくは透にその場を任せ、飲食店の外に出る。
「今回はしてやられたのぉ、しずく」
「管理官」
外で待っていたのは、スーツに身を包んだ朱色の少女。
可愛らしい容姿に合わない古風な口調。執行部のトップ、雀朱音管理官だった。
「迂闊でした。少なくとも結界が張られる前に異能を使えていれば、もっと早く
「馬鹿なことを言うでないわ。おぬしの脳が情報量に耐えきれず、まともに異能が機能しなくなるに決まってるじゃろ」
背丈はしずくの肩ほどにも満たない。しかし、彼女を叱り諭す朱音の姿は、体躯より遥かに頼もしく感じられた。
「......おぬしらは、誰と対峙した?」
「彼女は、
「悪趣味な女じゃのう。ここ最近、B級以上の発生率が高いのはこやつの仕業か」
しずく達が遭遇した金髪の女。
自らを『愉快』と名乗った彼女の異能は、確かに強力だった。
異形を造り出す能力。
死体を操作し、会話まで可能とする能力。
______そして、異能者を見下していたその思考。
「エリオからも、
「兄さんの殺害。しかし、何故兄さんを狙って……?」
「あやつらは、長刀玲二を異能者であると勘違いしていたそうじゃ。それも、執行部で最強の」
「どこからの虚偽情報ですかそれは」
玲二が異能を持たない事は、周囲の人間の誰もが知るところである。
第一、結界外であれば異能者を見分けられるしずくが身近にいるのだ。敵の情報に間違いがあることは、しずくが誰よりも理解していた。
「さあの。ただ、本気で信じておったのは間違いないそうじゃ」
「ネットリテラシーとか大丈夫ですか?情報教育受けてないんですかね学校で」
「そもそも義務教育受けておるんか……?」
傍迷惑な話である。
勘違い一つでショッピングモールを襲撃し、多数の犠牲者を出した。誤情報だったと、そう単純に片付けていい事案ではない。
「しかし、長刀玲二が一度狙われた、という事実は本当じゃ。しばらく間は彼に護衛を付けよう。当然、玲二本人にはバレないようにじゃが」
「助かります。私も、常に傍にいるわけではありませんから」
しずくは、自身が多忙である自覚があった。
普段のマネージャー業務に加え、執行部の異能者としての救援活動。特に広範囲での指揮系統を維持できるしずくの異能は、現場で重宝される能力である。
「うむ。『idol trigger』のライブの際は、わらわ直々に玲二の護衛を務めるとしようぞ」
(……このメスガキッ!)
職権濫用してライブ見る挙句、ワンチャンス兄さんとお近づきになりてーだけじゃねーですかこのメスガキ、とは言わなかった。一応は上司なので、一応は。
「ここからは執行部で引き継ごう。現場対応、ご苦労じゃった。玲二を連れて帰るといい」
「……ありがとうございます。失礼します」
情報交換を終え、しずくは朱音と別れる。
玲二の命は守れた。
しかし、それでも被害は甚大。ショッピングモールの破壊に、客として訪れていただけの一般人が、殆ど全員殺害された。これからしばらくは、日本支部は情報の隠蔽と操作に奔走される日々が続くだろう。
決して勝利とは言えない結末に、しずくは拳を強く握り締めた。
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次話で原作のルート分岐のお話をして、第一章は終わりになります。
第二章は「恋愛リアリティーショー/実写バトル映画撮影編です、本当です。