正確に言えば、ポテチを落とすのはこれで1回目だが、物語の外側で作者も「書いてて笑った」という意味でポテチを落とした。
核兵器を「アクア・クリエイトと同じ関数を別の引数で呼んだだけ」と説明する健一の図太さ。そして「ルールを守ったまま世界を消すやつ、どう説教すりゃいいんだ」と悩む神様。
この二人の関係性が、この物語の根幹である。
——作者
数日後。神様は、口にポテチを放り込もうとして、固まった。
「…………おい」
モニターには、村の外れで何かをこねくり回す10歳児が映っていた。さっきから手元に生成されている光の粒の“色”が、明らかに水じゃない。軽くて、重くて、禍々しい。
「待て待て待て。お前さっきから引数に何渡してんだ。陽子数と中性子数のとこ! なんで中性子三桁いってんの!?? そこ、村人が水出すために開けといた口だぞ。重い元素を純度100で出すために開けたんじゃねえんだが!?」
モニターの中の少年が、のんびりと顔を上げた。
「あれ、神様マジ久しぶりっす! いやぁ、物質生成マジ安いっすね。気づいたら一瞬っすわこれ」
「は? 当たり前だろ、じゃなきゃアクア・クリエイトみたいな初級魔法、全部使えなくなるわ! 村の子供が水汲むのに毎回大金払うことになる!」
「あ、それそれそれっすwww」
「お前、今、すげえ顔して『俺だけの発見』みたいな顔してたよな。それただの初級魔法のコストだよ。お前が見つけたのは、その先の使い方の方だよ!!」
神様は、慌てて立ち上がった。コーラが倒れる。
「ストーップ!!! 健一、いったん手を止めろ。たのむからそれ以上その引数いじるな! お前が今こねてるの、この世界の常識だと『存在しちゃいけない側』の物質だぞ!!」
「……へぇ、これ作ってほしくないやつすねぇ?」
「あったりまえだろぉぉ! さすがにそれは――」
「じゃあ、人のいない山に向けて、一回だけ試してから消しますね。せっかくレンズできたっぽいんで。ちゃんとデータ取ってからの方が消すのも安心っしょ」
「そういう話じゃねえんだよ!!!」
だが、神の制止が間に合ったのは、ここまでだった。
こねくり回していた物体が、北の無人の山へ無造作に向けられた。何やら呟いている。標準模型がどうの、二段がどうの、爆縮がどうの。神様には半分も理解できない。理解できたのは、最後の一言だけだった。
「――爆縮」
その瞬間。
真昼の空に、もうひとつ太陽が灯った。
光が、先に来た。視界が真っ白に焼ける。一拍おいて、空気そのものを殴りつけるような閃光の余韻。さらに遅れて、地を裂く轟音。最後に、熱を孕んだ衝撃波が山肌を駆け下り、村の方角の木々を一斉に同じ向きへなぎ倒していく。
そして、北の山があった場所に――山がなかった。
上半分が消えた、のではない。山という存在が、内側へ一気に押し込まれ、根元から世界の記録ごと削除されていた。中央に、つるりと滑らかなクレーター。その縁が、白熱したガラスのように光っている。
爆心の上空へ、ゆっくりと、見上げるほどのきのこ雲がせり上がっていく。雲の根元が、衝撃で白い輪を吐いた。
神様は、しばらく動かなかった。やがて、震える声で呟く。
「……あいつ、物理法則を、ぶっこわした……?」
すると、モニター越しに、けろっとした声が返ってきた。
「いや、なんもしてねぇっすよ」
「は?」
「アクア・クリエイトと同じ関数を、別の引数で呼んだだけです。神様が『誰でも呼んでいい』って開けといた口を、仕様書どおりに使ってるだけすw むしろ法則には超忠実っすよ。忠実だからこそ、ちゃんと消えたわけで」
「……今お前、最後に何を組んだ。あれ、ただの一段じゃなかっただろ。光が二度焼けたぞ」
「ああ、テラー・ウラム型っす。二段構成のやつ。一段目で点火して、その圧力で二段目を燃やす。ウィキに書いてあるやつすよ。圧縮自体は魔力でやると高いんで、爆ぜる原素を安く呼んで、圧縮そのものは物理に外注っす。上手く作っときゃあとは物理法則が勝手にやってくれるんでw」
「……バリデーションが、何も無かった、と」
「無かったっす。あれ入れといた方がいいんじゃないすか。今のところ、村人が手を滑らせて水を作るつもりで世界を消せる仕様っすよ。……あ、でも普通は魔法の組み直しが出来ないのか…あ、ところで神様」
「……お、おう?! なんだよ?」
「この世界の魔法、効率めちゃくちゃ悪いっすね」
「は?」
「物質生成、チートみたいにコスト安いんすよ。元素を組むのがほぼタダ。なのに、熱とか圧力を直接出す関数は、バカ高い。価格設定が完全に逆立ちしてます。アインシュタイン先生が聞いたらブチ切れますよ」
「いや、誰だよそれ。お前の世界の神っつったってここ50年くらいしか担当してねーよ」
「マジすか…まぁいいや。だってそうでしょ。火が欲しいとき、馬鹿正直に高い『発熱』を買う必要、ないじゃないすか。安い物質生成で『燃えるもの』を作って、あとは物理にタダ働きさせればいい。エネルギーを出すのは物理の仕事で、物理はノーギャラっす」
神様は、黙った。
「核兵器って、要は『物理に全力でタダ働きさせる装置』なんすよ。俺が払ったのは、材料を出す魔力ぶんだけ。あの山一個ぶんのエネルギーは、一円も払ってないっす。物理が勝手に働いてくれたんで」
「……お前、今、世界の根本を、すげえ嫌な角度で突いたな……」
神様の指から、最後の一枚のポテチが、ぽろりと落ちた。
「……今のあれ、規模で言うと、どんなもんなんだ」
「あー、出力は控えめに振ったんで、1キロトンくらいっすよ。山ひとつなら、これで十分かなって」
「……抑えましたでこれかよ……」
そして、机に突っ伏したまま、絞り出すように呟いた。
「……一番タチが悪いやつだ、これ。ルール破ってくれた方が、まだ叱れるんだよ……ルール守ったまま世界を消すやつ、どう説教すりゃいいんだ……」
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山が消えたシーン、実は最初の草案では「村ごと消える」も考えた。
しかしそれでは物語が終わってしまうわけで
なもんで「無人の山」に変更した。
結果的に「誰も死なないのに、めちゃくちゃヤバい」という、よりコメディ向きの展開になったわけですね。
神様が「ルール破ってくれた方が、まだ叱れるんだよ」と言うセリフは、この物語のテーマを最もよく表していると思います。
仕様通りに動くことの恐ろしさ。バリデーションの大切さ。そして設計者の責任。
ちなみにこの時点で、健一はまだ「最悪のアレ」という最終兵器に敢えて触れていない。七年後、彼はそれを使うことになる。その時のために、今は笑っておこう。
——作者