異世界転生したら魔法がAPIだった件   作:nelldrip

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健一が核兵器で山を消し飛ばし、神様はポテチを落としたその後。

そして今回——ついに、魔王が登場する。

といっても、登場してすぐ消えるわけだが。

魔王の無敵の結界をまえに健一が撃つ「最強の槍」に、こう言わざるを得ない。

「ホワイトリスト方式にしとけばよかったのに」

——作者


第4話 ―神の光槍、そして魔王―

それから数か月。

 

神様は、観念していた。

 

毎回止めるのも疲れたらしく、最近は方針を変えてきた。

 

「……健一。もう止めねえ。止めても無駄だってわかった。ただし条件がある。人の住んでるとこにやみくもに撃つんじゃねぇ。実験は無人地帯でやれ。あと、後始末はしろ。そして報連相。黙ってやるな」

 

「お、急にまともな上司みたいなこと言うじゃないすか。了解っす。今日の夕飯もホウレンソウにしときますわ」

 

神様は、深いため息をついた。

 

「……こいつのこういうとこ、嫌いじゃないんだよなあ……」

 

そんな調子で、俺はスキルを、村の暮らしにも使い始めた。

 

ある朝、親父が浮かない顔で言った。裏山に熊が出た、と。畑を荒らし、村の猟師が二人やられたらしい。

 

「あー、熊っすか。じゃ、俺がやっときます。報告でーす、神様。熊出たんで、狩ってきます」

 

「お、いいぞ。それくらいなら止めねえ。今度は何だ、罠か? 弓か? ようやく普通の狩りを――」

 

「いや、近づくの面倒なんで」

 

裏山で、熊を見つけた。デカい。立ち上がれば俺の倍はある。振りまくったポイントのおかげで負ける気はしないが、普通なら命がけだろう。

 

俺はスキルを起動し、熊の胸――肺の内側に、座標を合わせた。物質生成関数と、位置制御関数。やることは、水を作るのと一文字も変わらない。作る物質と、置く場所が違うだけだ。

 

「えーと、一酸化炭素、生成。配置先は……肺の内側、全域。今ある空気と、まるっと置換」

 

パチン、と指を鳴らした。合図なんていらないけど、なんとなく。

 

熊が、きょとん、とした。

 

それだけだった。痛みもない。傷もない。血の一滴も流れない。熊は、何が起きたのかわからないまま、一拍おいて、ゆっくりと前のめりに崩れ、そのまま動かなくなった。

 

「……おい。今、お前、何もしてないように見えたぞ。指鳴らしただけだろ。なんで熊が死んでんだ」

 

「肺の空気、全部COに入れ替えたんすよ。一酸化炭素。血の中で酸素を運ぶやつ――ヘモグロビンに、酸素の二百倍くっつきやすいんで。一回吸い込んだら、もう酸素は乗れない。内側から、静かに窒息する。急激過ぎて苦しいとか感じるまもなく、ふっと意識が落ちるだけ」

 

「……お前、それ……」

 

「むしろ優しい方っすよ?槍で刺したり、罠で挟んだりするより、ずっと。痛くないし、怖くもない。気づいたら終わってるんで。俺超人道的。」

 

「……『優しい』の使い方が、根本から壊れてるんだよなあ……」

 

肉は無傷。毛皮も、穴ひとつ空いていない。村に持ち帰ると、親父が「お前、どうやって仕留めた」と目を丸くした。

 

「えーと……窒息、っすかね」

 

嘘はついていない。というか、これ以上なく正しい。

 

そんな調子で、俺は実験も続けた。次は、爆発系から離れてみることにした。

 

「報告でーす、神様。今日は光学兵器作ります」

 

「いや、報告のワードが物騒すぎんだよ。普通もっと和やかな報告だろ」

 

「材料費ゼロっすよ。お日さま使うんで。エコっす」

 

専用の発光ノードなんて要らない。デス・スター級みたいに、複雑な変換ノードを抱えて高い魔力を払う必要もない。太陽は、もう勝手に光ってる。タダで降ってきてるエネルギーを、安いレイヤーだけで束ねればいい。物質生成最強、の結論をそのまま延長しただけだ。

 

俺は、軌道上に反射板を撒いた。六千基。ぐるりと惑星を囲むように。理屈そのものは、虫眼鏡で太陽光を集めるのと変わらない。

 

「ソーラ・レイってやつか。デカい虫眼鏡だろ。あれは派手なだけで、結局は焦がして燃やすだけだ。たいした威力は――」

 

「神様、それ、半分正解で半分外れっす。ただ集めるだけならそのとおり。ただの焚き火っす。でも――」

 

俺は、反射板の手前に、シンチレータとプリズム群を仕込んだ。

 

「太陽光って、波長がバラバラの光の寄せ集めなんすよ。バラバラのままじゃ、山と山がぶつかって打ち消し合う。それに、大抵はオゾン層で吸収されちまいますからね。だから、まず波長を揃える。短い側はシンチレータで叩き直して、全部きっちり同じ波長に変換する。可視光より長波長は0.1ナノメートル単位で取れるだけ分離して、軌道上の量子ドットフォトニック結晶ファイバで、位相をぴったり同期させる」

 

「……待て。波長を、揃える……? お前、それ……」

 

「そうっす。降ってくる太陽光を、まるごとレーザーにするんすよ」

 

「太陽を、レーザーに……?」

 

「全波長を、寸分の狂いもなく位相を揃えたまま、ただ一点へ。山と山が完璧に重なる。建設的干渉ってやつっす。ガンマ線から深赤外まで、あらゆる波が、たった一点で延々と足し算され続ける。総出力、理論値で毎秒テラジュール。照射点は、燃えるとか溶けるとかじゃなくて――分子の繋がりごと、なかったことになります」

 

「……お前の『エコ』の定義、根本からおかしいだろ……」

 

---

 

そしてまた、ある日、俺はふと思い出した。

 

「そういや神様。俺って、魔王倒すのが目的だったりします?転生モノって大体そうっしょ」

 

「……あ。そうだ。お前、元々それが使命だったわ。お前の実験が派手すぎて、本筋が完全に霞んでた」

 

「魔王城って、目で見えます?」

 

「見えるぞ。北の果て、絶氷の山脈の最奥に――」

 

「あ、あーあれね。見える、か…じゃ、前やった神の光槍でいきますわ」

 

「は?…いや、ちょっと待て。魔王城には強固な結界が張ってあるぞ。物理攻撃も魔法攻撃も弾く――」

 

「神様、今『見える』って言いましたよね」

 

「……言ったが?」

 

「見えるってことは、可視光が結界を透過してるってことっすよね。光が通る穴があるのに、光の槍だけ弾く結界って、それ仕様矛盾すよ」

 

「…………へ?」

 

「結界の設計、たぶん『敵の魔法』をリストで弾くようにできてるんすよ。ブラックリスト方式。でも俺が撃つのは、ただの『強い光』。リストに載ってない。だから素通りします。ホワイトリスト方式にしとかなかった魔王が悪いっすね」

 

「…………あ」

 

「よし、位相同期、完了。焦点調整、OK。あ、神様、魔王本人にコンタクト取れます?」

 

「コンタクト?アタイは取れるけど……なんで?」

 

「一言だけ伝えといてほしくて。『顔も見ずに秒殺してすまん』って。礼儀なんで」

 

「いや、お前、変なところで律儀だな。わかったわかった、伝えといてやるよ」

 

天界から、魔王へ向けて、最後の通告が送られた。

 

**『あ、魔王おひさ。ごめん、今度送ったのあんまりにも規格外っぽい。すまんけど、あんた、もうすぐ死ぬっぽいんで…一応、本人は「顔も見ずに悪い」と言ってたんで勘弁ね』**

 

魔王が「は? 何のことだ?転生者ならいつも通りぶっころ――」と訝しんだ、まさにその直後――

 

「照射」

 

天空を貫く、一条の白銀の閃光。波長ごとに分かれていたはずの無数の光が、一点で結ばれた、ただ一筋の神の光槍。

 

可視光が通るなら、これも通る。理屈はそれだけだ。

 

魔王城の玉座が、結界ごと――何の抵抗もなく、音もなく、なかったことにされた。

爆発ですらない。ただ、そこにいた魔王とそこにあった玉座が、分子の繋がりごと、世界から差し引かれた。

 

「……終わった、な」

 

モニターには、綺麗に消え去った魔王城の玉座。

 

「いやー、世界は平和になったなぁ」

 

主人公はそう言って、畑へ戻っていく。穏やかな笑顔で、のんびりと鍬を振り始めた。

 

「…………おい」

 

「ん?」

 

「お前さ。周りを何回か更地に規模の代物を、その辺の納屋にいくつか転がしたまま、今、何て言った?」

 

「世界は平和になったなぁ、と」

 

「お前の納屋が一番平和から遠いんだよ!! 軌道上にレーザー衛星六千基、納屋に水爆数発、これで平和を名乗ってんじゃねぇ!」

 

「大丈夫っす。バリデーションかけときました。俺以外が触ったら、全部ただの水になるようにしといたんで」

 

「……対策の方向性が、いちいち技術者なんだよなあ……」

 

神様は机に突っ伏して、しばらく動かなかった。やがて、天を仰いで叫んだ。

 

「…………規格外すぎんだろぉぉぉ! スキルじゃねえ、思考がチートなんだよ思考がよぉぉぉ! こっちは強度を揃えたんだ、スキルの強度は確かに揃えたんだ……揃えたのに……っ!」

 

天界に、神様の叫びがこだまする。

 

だが、その声には――どこか楽しげな響きが、確かに混じっていた。

 

---




この話、書きながらずっと「これ、魔王がかわいそうだな」と思ってました。

だって魔王、最後まで何が起きたか理解できないまま、分子の繋がりごと消え去るんだもの。しかも「顔も見ずにすまん」という伝言つきで。

異世界転生ものの「魔王討伐」が、ここまであっさりしている作品は珍しいと思う。
だが、これこそが健一という男のスタイルってことで。
「出力で勝つ」のではなく「仕組みで解決する」。魔王すらも、彼にとっては「通過点」に過ぎないのでした。

ちなみに神の光槍とかは、別で書いてる「私、火力は平均値でって言ったよね!?」、の設定まんま流用です。作者的にはあれ、かなり気に入ってる、物理整合ならOK兵器、だったりします。

——作者
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