「そういえば」
クッキーをかじりながら、ふとオレが口を開く。
レイチェルとミィルがこちらを見る。
「どうしたの?」
「ガルシアってさ」
「?」
「今どこで何してるんだ?」
「「あ……」」
二人の声が重なった。
顔を見合わせる。
「ゲート壊れて帰れないんだろ?」
オレは続ける。
「だったらアイツも帰れないよな」
「……そうだった」
レイチェルが小さく呟く。
「ショーゴさんが襲われてから色んな事がありすぎて……そこまで頭が回らなかった」
ミィルも苦笑する。
「私もよ。能力の事、ゲートの事、あの影の事……考える事が多すぎたわ」
「だよな」
オレは苦笑する。
「任務で追ってきたら帰れなくなった上に、追ってた相手には忘れられてるって……ちょっと気の毒だな」
「うっ……」
レイチェルが申し訳なさそうに肩をすくめる。
するとミィルが尻尾をぶわっと逆立てた。
「し、仕方ないでしょ! 本当に色々あったんだから!」
言い切ったあと、少しだけ咳払いをして落ち着きを取り戻す。
「……でも、一度は接触した方がいいかもしれないわね」
「情報共有か?」
「ええ」
ミィルは真剣な表情になる。
「私たちが知らない事を、ガルシアが知っている可能性もあるわ」
「でも……」
レイチェルが困ったように笑う。
「ミィル、会いたくないんでしょ?」
「……できれば遠慮したいわ」
即答だった。
オレは思わず吹き出す。
「そんな苦手なのか?」
「昔、お菓子をつまみ食いしただけでね」
ミィルは遠い目をした。
「反省文を書かされたわ」
「反省文?」
「原稿用紙十枚」
「多いな!」
「しかも、誤字脱字があれば最初から書き直し……あの時は三回目で解放されたわ」
「厳しすぎるだろ……」
思っていた以上の堅物具合にちょっと引くぞ。
「だから苦手なの」
腕を組みながら、ミィルは心底うんざりしたようにため息をつく。
「でも」
オレは顎に手を当てた。
「どこにいるんだ?」
「そこなのよ」
ミィルも腕を組む。
「ずっとあの外套姿ってわけにもいかないでしょうし」
「ここは地方だからな」
オレも考える。
「外国人が近所で暮らし始めたら多少は噂になると思うんだけど、そんな話は聞かないな」
「確かに……」
レイチェルも頷く。
「そういう話は聞かないかも」
レイチェルたちが家へ来た時は、近所でもちょっとした話題になった。
海外の女の子がホームステイしている。
それだけでも珍しいからだ。
でも、見慣れない外国人が町に現れた。
そんな話は学校でも近所でも聞いたことがない。
それ以前に、戸籍もない。身元を証明するものもない。
働いて金を稼ぐことも簡単じゃない。
「……なあ」
オレはふと思う。
「ガルシアって頭いいんだろ?」
「ええ」
ミィルは頷く。
「だったら、人目につくような場所にはいない気がする」
「そうね」
ミィルも納得したように頷く。
「ガルシアなら、まず目立たない事を優先するはずよ」
「じゃあ今の情報だけじゃ探しようがないな」
三人とも自然と黙り込んだ。
沈黙を破ったのはミィルだった。
「……まあ、大丈夫じゃないかしら」
「ん?」
「ガルシアは伊達にレイチェルのお祖父様の腹心を務めてるわけじゃないもの」
その表情から冗談は消えていた。
「心配するなら、自分たちの方よ」
「オレたち?」
「次に会ったら戦いになるのは確実」
静かな口調だった。
「帰れなくなっても、任務を途中で放棄するような人じゃないわ」
「つまり?」
「レイチェルを連れて帰るまで諦めないでしょうし、その時まで手元に置いておきたいはずよ」
レイチェルも静かに頷く。
「……うん」
「そうなったら」
ミィルはオレを見る。
「今の私たちに勝ち目はないわ」
「戦わずに何とか、は?」
「難しいでしょうね」
首を横に振る。
「話を聞いてくれるかどうかも怪しいわ」
「オレらだけでどうにかできる相手なのか?」
「……うん、まず無理だと思う」
レイチェルとミィルが即答だった。
「それに、戦闘経験も技量も桁違いよ」
「そんなに強いのか?」
「ええ」
ミィルは頷く。
「生半可な手段が通じる相手じゃない」
少し間を置いてから続ける。
「でも、ショーゴ」
「ん?」
「あなたの銃なら、魔法より速い攻撃ができるかもしれない」
「……うん。わたしもそう思う」
レイチェルも頷いた。
「ガルシアは剣も魔法も、わたしやミィルよりずっと強い」
「だから、ショーゴさんの能力なら、可能性があると思う」
「能力に目覚めたばかりのオレに、すごい期待だな」
思わずげんなりする。
まだ拳銃はまともに形にもできない。
そんなオレが切り札らしい。
プレッシャーが半端じゃない。
でも、腹を貫かれた借りは返したい。
能力に目覚めるきっかけを作った礼も返したい。
どっちもまとめて、次に会った時に返してやる。
「……ショーゴさん」
「ん?」
レイチェルが少し不安そうな顔をしていた。
「無理だけは、しないでね」
その言葉に、思わず笑う。
「分かってる」
そう返すと、レイチェルも少しだけ安心したように笑った。