わたしのはなむこさん。   作:たけのこ教徒

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第7話

 部活の助っ人として入った練習試合も終わり、更衣室には疲れた空気が漂っていた。

 

「っはぁ……」

 

 タオルで汗を拭きながら、ロッカーを閉める。

 今日は人数合わせとはいえ、結構しっかり動かされた。

 

「今日はサンキューな」

 

 館花がスポーツドリンクを飲みながらこっちを見る。

 

「礼にラーメン奢るから行かないか?」

 

「おっ、サンキュー」

 

 一瞬惹かれた。

 運動後のラーメンは普通に魅力的だ。

 けど――

 

「って言いたいんだが、今日は早く帰りたいから次にしてくれ」

 

「ん?」

 

 館花が少し意外そうな顔をする。

 まあ、オレがこういう誘い断るの珍しいしな。

 

「わかった。また次な」

 

(わり)ぃな」

 

「いいって」

 

 館花は笑いながらバッグを肩にかけた。

 

「行くか」

 

「ああ」

 

 更衣室を出て、昇降口へ向かう。

 ローファーに履き替えながら、つま先を軽く床に打ちつけた。

 まだ少し脚に疲労が残ってる。

 しばらくは同じ方向だから、他愛もない話をしながら並んで歩いた。

 教師の愚痴。

 次のテスト。

 バスケ部の一年がやたら生意気だとか。

 そんな、どうでもいい話。

 

「じゃ、またな」

 

「おう」

 

 けれど住宅街の交差点で、館花は別方向へ曲がっていった。

 手を軽く上げて見送る。

 そこから先は、一人だった。

 夕方の空は、すでに薄暗い。

 

「……」

 

 しばらく歩いていて。

 ふと、違和感を覚えた。

 

「……ん?」

 

 静かすぎる。

 普段なら、帰宅中の学生や買い物帰りの人と何人かはすれ違う。

 けど――誰もいない。

 人の気配が、妙に薄かった。

 聞こえるのは、自分の足音だけ。

 

「……なんだ?」

 

 嫌な感じがした。

 理由は分からない。

 でも、本能みたいなものが警鐘を鳴らしている。

 ぞわり、と背筋が粟立つ。

 オレは無意識に足を速めた。

 そのとき。

 前方から、人影が現れる。

 

「……」

 

 長身の男だった。

 黒い外套をまとい、帽子を深く被っている。

 顔はよく見えない。

 この辺じゃ見かけない人だな、くらいにしか思わなかった。

 男はこちらへ歩いてくる。

 オレもそのまま進む。

 そして――すれ違った。

 その、直後。

 

「――ッ!?」

 

 背中に、激痛が走った。

 理解を超えた痛みだった。

 熱いとか冷たいとかじゃない。

 身体の内側を無理やり掴まれたみたいな、異常な感覚。

 

「……ッ、ぁ……!」

 

 声が出ない。

 息が止まる。

 足がふらつく。

 何が起きたのか分からないまま、視線を落として――

 見えた。

 腹から、何かが突き出ている。

 

「……は……?」

 

 腕。

 人間の、腕だった。

 オレの腹を、後ろから貫通している。

 意味が分からない。

 なのに――血が出ていない。

 肉を裂かれてるはずなのに、激痛だけが存在していた。

 現実感が壊れる。

 オレは震える首を無理やり動かして、後ろを見る。

 そこには。

 さっきすれ違った外套の男が立っていた。

 無表情。

 いや、帽子で顔は見えない。

 けど。

 その腕が、オレの身体を貫いていた。

 

「……っ」

 

 男が、腕を引き抜く。

 その瞬間、力が抜けた。

 膝が崩れる。

 そのまま地面へ倒れ込んだ。

 冷たいアスファルトの感触。

 視界が揺れる。

 

「お前が――、――を」

 

 男が何か言っている。

 けれど。

 もう、うまく聞こえない。

 音が遠い。

 意識が沈んでいく。

 

「……なん、だよ……」

 

 何が起きてる。

 何なんだ、お前。

 そう思ったのに。

 口から出たのは、掠れた空気だけだった。

 視界が暗くなる。

 そして――

 

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