部活の助っ人として入った練習試合も終わり、更衣室には疲れた空気が漂っていた。
「っはぁ……」
タオルで汗を拭きながら、ロッカーを閉める。
今日は人数合わせとはいえ、結構しっかり動かされた。
「今日はサンキューな」
館花がスポーツドリンクを飲みながらこっちを見る。
「礼にラーメン奢るから行かないか?」
「おっ、サンキュー」
一瞬惹かれた。
運動後のラーメンは普通に魅力的だ。
けど――
「って言いたいんだが、今日は早く帰りたいから次にしてくれ」
「ん?」
館花が少し意外そうな顔をする。
まあ、オレがこういう誘い断るの珍しいしな。
「わかった。また次な」
「
「いいって」
館花は笑いながらバッグを肩にかけた。
「行くか」
「ああ」
更衣室を出て、昇降口へ向かう。
ローファーに履き替えながら、つま先を軽く床に打ちつけた。
まだ少し脚に疲労が残ってる。
しばらくは同じ方向だから、他愛もない話をしながら並んで歩いた。
教師の愚痴。
次のテスト。
バスケ部の一年がやたら生意気だとか。
そんな、どうでもいい話。
「じゃ、またな」
「おう」
けれど住宅街の交差点で、館花は別方向へ曲がっていった。
手を軽く上げて見送る。
そこから先は、一人だった。
夕方の空は、すでに薄暗い。
「……」
しばらく歩いていて。
ふと、違和感を覚えた。
「……ん?」
静かすぎる。
普段なら、帰宅中の学生や買い物帰りの人と何人かはすれ違う。
けど――誰もいない。
人の気配が、妙に薄かった。
聞こえるのは、自分の足音だけ。
「……なんだ?」
嫌な感じがした。
理由は分からない。
でも、本能みたいなものが警鐘を鳴らしている。
ぞわり、と背筋が粟立つ。
オレは無意識に足を速めた。
そのとき。
前方から、人影が現れる。
「……」
長身の男だった。
黒い外套をまとい、帽子を深く被っている。
顔はよく見えない。
この辺じゃ見かけない人だな、くらいにしか思わなかった。
男はこちらへ歩いてくる。
オレもそのまま進む。
そして――すれ違った。
その、直後。
「――ッ!?」
背中に、激痛が走った。
理解を超えた痛みだった。
熱いとか冷たいとかじゃない。
身体の内側を無理やり掴まれたみたいな、異常な感覚。
「……ッ、ぁ……!」
声が出ない。
息が止まる。
足がふらつく。
何が起きたのか分からないまま、視線を落として――
見えた。
腹から、何かが突き出ている。
「……は……?」
腕。
人間の、腕だった。
オレの腹を、後ろから貫通している。
意味が分からない。
なのに――血が出ていない。
肉を裂かれてるはずなのに、激痛だけが存在していた。
現実感が壊れる。
オレは震える首を無理やり動かして、後ろを見る。
そこには。
さっきすれ違った外套の男が立っていた。
無表情。
いや、帽子で顔は見えない。
けど。
その腕が、オレの身体を貫いていた。
「……っ」
男が、腕を引き抜く。
その瞬間、力が抜けた。
膝が崩れる。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
冷たいアスファルトの感触。
視界が揺れる。
「お前が――、――を」
男が何か言っている。
けれど。
もう、うまく聞こえない。
音が遠い。
意識が沈んでいく。
「……なん、だよ……」
何が起きてる。
何なんだ、お前。
そう思ったのに。
口から出たのは、掠れた空気だけだった。
視界が暗くなる。
そして――