光の術式 ダラさんビーム!   作:三柱 努

10 / 10
薫に託されたダラさんの術の数々。
これで呪霊との戦いへの備えが十分かと言えば、それは希望的観測だった。
600年前、屋跨斑となる前のダラさんもまた呪術師として戦ってきた経験から断言できた。

たしかに薫はダラさんビームの射撃能力については折り紙付き。
呪力タンクが薫の何倍もある日向や、特級呪霊のダラさんを相手に実戦レベルのサバゲ―など日頃から撃ちまくっていた。
そのため当たれば一撃必殺のビームを以てすれば呪霊戦で十分に通用するレベルだった。

だが身体能力は一般人レベル。
そして呪術師にとって最も重要な“心の強さ”は未知数。
言ってしまえばこのままでは薫の力は甘く見積もっても三級に届くかどうかだろう。
屋跨斑の情報に届くためには、最低でも準一級術師となる必要がある。

生半可な鍛え方では届かない。それこそ文字通り必死にならなければ。

そのイバラの道を歌姫は用意することを約束した。高専で徹底的に薫をしごくと。
(シゴく? と薫と日向が浮かべた薄笑いをダラダラダラさんがひっぱたいた)

ダラダラダラさんも同意した。徹底的に、薫の心が折れるくらいに鍛えて欲しいと。
2人の思惑は共通していた。できれば薫にはダラさんのことは諦めて、普通の生き方をしてほしいのだ。

その後、歌姫にとっても辛い日々が続くことになる。
普段は生徒たちに好かれる彼女が、薫を鍛える時だけは心を鬼にした。
訓練や任務でボロボロになっても立ち上がり続ける薫の姿に、胃が痛くなる毎日。
それでも薫の天真爛漫な笑顔に、歌姫は救われた。



姉ちゃんだけに背負わせんから

呪霊を祓い一息ついた薫と加茂。

「・・・・? 戻らないぞ?」

呪霊を倒しても、見上げた空が帳のように暗いまま。呪霊の結界に閉じ込められたのであれば、その呪霊を倒せば結界から出られるのが常。その感触を知る加茂は、今回の異界というイレギュラーに冷汗を流した。

『まさかあの呪霊の言った通り、私たちはもう元の世界に戻れないというのか?』

嫌な予感が加茂の胃を障る。

 

そんな加茂の肩に薫がポンと手を置いた。

「先輩、とりあえずコレを腕に着けてください」

ケロッとした顔で薫が差し出したのは木製のミサンガだった。

「綱守いいます。これを肌に触れさせとけば、とりあえず瘴気から身を守れます」

薫の言う通り、綱守に触れた瞬間に加茂は体が少し軽くなったのを感じた。

 

加茂が綱守を腕に巻いている間に、薫は懐からナイフを取り出して自らの髪を切った。

「何をしているんだ?」

「ウチ用の綱守を作ってます。先輩に渡したんは昔ダラさんに作ってもらったもんなんで」

薫は髪を編み込んで、そこに唾液を垂らして含ませて、それを符で巻いたものを自らの腕に付けた。

「そっちにはダラさんとウチの唾液が含まれてますんで、そっちのご利益がこっちにも反映されます。たぶん」

「そうか」とスルーしながらも理解した加茂。だが他の者がいたら“呪霊と薫の唾液が入ったお守りとは?”等々と何回かツッコむだろう。

 

そんな加茂にかまうことなく薫は「ほな行きましょか」と異界の森の中へと歩き始めた。

どこに行くのか、と加茂は尋ねなかった。行く宛も考えつかない自分と違い、薫には何か考えがあるのだろうと。

加茂は薫の背を追いながら、ふと思いに行きあたった。

もしこのまま元の世界に戻れなかったとして、心残りを今のうちに晴らしたいと。

「三十木谷。今のうちに聞いておいてもいいか?」

「何ですん?」と振り返る薫。

 

「他の者たちに頼んだらしいな。お前が屋跨斑と戦う時には助けて欲しい、と」

「はい」

正確には薫がダラさんを祓うことになったら、その時には一緒に戦ってほしい。そう薫は西宮や東堂、三輪、真依、メカ丸、新田、そして歌姫に頼んでいた。

 

「どうして俺に声をかけなかった?」

加茂の問いに、薫は「仲間外れされて寂しかったとかですか?」とニヤっと返した。

「違う。等級を考えれば私を外す理由が不明だからだ」

少し違わなかった。この話を聞いた時、加茂はのけ者にされたことも少し根に持っていた。

 

だが薫は即答した。

「そのお願い、逆にウチがダラさんを助けている間は手を出さんでくださいってことなんです。そうなると先輩は御三家やないですか。呪霊を助けるんを見て見ぬフリするって、立場的にマズいかなって。だから声かけんかったんです」

加茂は「そうか」と小さく唸った。隠れていた薫なりの配慮を見つけだせなかった自分を恥じた。

「改めて認めよう。キミは立派な呪術師だ」

しみじみと感じた加茂。

そんな彼の横を一体の呪霊が横切った。

 

「なっ!」

「あ、先輩。それ大丈夫なやつです」

そう薫が言った時にようやく加茂は呪霊の全体像を確認できた。まるでバッタかコオロギのような異形、大きさは人間を一回り大きくしたような怪物だった。

「齧骨っていうらしいです。屍肉にしか興味ないんで別に危なくないですよ。ウチもクリスマスん時にトナカイ代わりに乗ったくらいですから」

加茂が正確に呪霊の恐ろしさを分析しようとする傍から届けられる薫の余計な情報。

とりあえず薫の言う通り、こちらに興味すら無いようだと判断できた頃には齧骨の姿は通り過ぎた後だった。

 

「・・・三十木谷、お前は異界を知るだけでなく来た事もあるのでは?」

そう加茂が問いかけたのと同時に薫が「あった!」と大声をあげた。

薫が興奮気味に指さした先、そこには一軒の古めの家があった。廃村から消えたという家だろうか。

しかもほんのりとだが、家の中から灯火のような明かりが見える。

「何かいるのか?」「いるんやと思います、誰かが」

加茂は警戒した。異界に潜む呪霊の全容が分からない以上、そこに害意があるのかも不明。

 

だがそんな警戒する加茂を差し置いて、薫は家の玄関に行き「おっじゃましまーす!」と元気な声で戸を開けたのだ。

「み、三十木谷!」

大きな声を出すことで何か脅威を呼び寄せてしまう恐れから、加茂は声を殺しながら叫んだ。薫の元気な声が響いた時点で手遅れなのだが。

 

だが異界に似つかわしくない薫の元気な声に救われた者がいた。

異界の家の中には2人の男たちがいた。廃村に行き行方不明になったという元村民である。

「に、人間?」「た、助けに来てくれたのか?」

村民は携帯の明かりに照らし出された人間・薫の姿に安堵しつつも、薫の素っ頓狂なテンションに幻か現実かを判断できずにいた。

「生きていたのか」

後から家に入ってきた加茂も、村民の姿に驚きを隠せなかった。ここでようやくマトモな人が入ってきたことで村民も本当の意味で安堵を覚えた。

 

村民たちは弱ってはいたものの、大きな怪我をしていなかった。

加茂は2人を手当てし、薫は綱守を新たに作って2人に渡した。

「三十木谷。キミは行方不明の人が生きていると信じて探していたのか」

「あのドデカ呪霊、祓っても人の骨とか残らなかったやないですか。だから食べられておらんと思って。齧骨も無関心モードやったし、ワンチャンまだ生きとるなって思って」

加茂は薫の冷静で的確な判断に感心せずにはいられなかった。

「しかし、よく無事でいたものだ」

「この家、まだ人が住まんようになって十何年も経ってないんやないかなと思います。だから結界としての働きが生きとったんが救いでした。でも早く見つけれんかったら、瘴気に呑まれて身体が死んだもんやと勘違いして危なかったですよ」

テキパキと村民たちに手当てを施す加茂に対して、薫はまだまだ手間取りながらの手当てだった。

それでも村民からすれば神か仏か。ありがたさから涙を流して薫と加茂を拝んだ。

 

だが問題はここから。加茂は冷汗を流した。元の世界に戻る方法について、薫が何も言っていなかったことが気になった。

おそらく薫が過去に異界に行ったのは、ダラさん・屋跨斑が手引きしたことで成したのだろう。ならば薫自身はその術を持ち合わせていないのではないか?

 

 

そんな加茂の心配をよそに、薫は携帯を取り出した。

「あっ、もしもし姉ちゃん。ウチ今、神隠し現在進行形。鳥居ポータル一丁おなしゃーす」

「・・・なんで電話が通じるんだ?」

加茂よ、もっと先にツッコむべきところはあるのではないか。

 

だが薫に導かれるまま村民と加茂は共に家の外に出ていき・・・

なにか分からないゲートのような物に入るように誘導され・・・

抜けた先は晴れた空だった。

「えっ? 加茂!?」

加茂たちが抜け出た先は集落の駐車場だった。突如として姿を現した加茂に驚きの声をあげたのは歌姫だった。

 

「あっ、歌姫先生も来てたんですか?」

村民、そして最後に姿を現した薫のいつも通りの姿。その様子に歌姫は驚きながらも薫を思わず抱きしめていた。

「まったく、アンタたちは。アンタたちはぁ!」

 

加茂と薫が行方不明になったと聞き、任務で近くにいた歌姫が調査に来ていたのだ。

その二人の元気な姿、そして無事に村民を助け出したことで歌姫の涙腺は崩壊していた。

もうこれ以上、薫に厳しく指導なんてできない。そう歌姫は思えて仕方がなかった。

 

 

 

その後、村民は救助の礼にと、特産のマンゴーを加茂と薫に贈った。

食べごろになるまでもう少し熟成させたほうがいいとアドバイスも添えられ。

だが薫は「舌噛んだのが浸みて痛いんで」と、それを三輪に譲った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 (作者:鳳飛鳥)(原作:呪術廻戦)

癌で人生を終えた男が、若い頃の過ちが原因で畜生道へと堕ちる▼しかし生前に積んだ徳のお陰でただの畜生道では無く、特別な畜生道へと至る事となった▼その上、生まれ変わったのは生前好きだった漫画の一つ呪術廻戦の世界だった▼好きな作品ではあったが死亡フラグ満載のヤベー世界で畜生道に堕ちた自分がどうやれば生き抜けるのか?▼そんな感じの物語


総合評価:2184/評価:7.33/連載:52話/更新日時:2026年09月27日(日) 13:04 小説情報

TS成り代わり殴りヒーラー家入硝子さん~幽遊白書好きが呪術廻戦の世界に転生して仙水忍の『霊光裂蹴拳』を極めたら~(作者:MMOだと殴りヒーラーが好き)(原作:呪術廻戦)

 総合格闘技のリングで死んだ格闘バカが目を覚ますと、呪術廻戦の『家入硝子』に成り代わりTS転生していた。▼ しかし、本人は呪術廻戦の原作知識ゼロ&幽白オタクだったため、呪力を霊力、術式をテリトリーだと盛大に勘違いしてしまう。▼ その勘違いのまま独学で修行を続け1級呪霊すら楽に祓えるようになったTS成り代わり主人公。だが1級呪霊との戦闘を『窓』に見られ、呪術高…


総合評価:8132/評価:7.94/連載:32話/更新日時:2026年09月26日(土) 14:30 小説情報

アスハ家のハラキリ令嬢(作者:アキ山)(原作:ガンダムSEED)

これはIFの世界のお話。▼ウズミ・ナラ・アスハに実子がおり、その娘がカガリの妹として健やかに生きていた世界。▼オーブは連合に敗北し父は自爆、姉は宇宙に脱出したという絶体絶命の状況。▼国に残された末娘は自らの出自と時代の波に翻弄されることになる。▼しかし娘は一つだけ普通の子供と違うところがあった。▼母親の薫陶によって、民と家の名誉の為なら死ぬ事も厭わない武家幼…


総合評価:1854/評価:8.18/連載:6話/更新日時:2026年08月28日(金) 21:01 小説情報

TS転生特級術師 伏黒幸(作者:莠給)(原作:呪術廻戦)

呪い呪われカスばかりの世界で、才能だけは与えられたカスがそれなりに『適応』して生き残るお話。▼TS転生主人公ちゃんが馬鹿の術式を馬鹿の解釈して特級術師になり、しかし特に何かを為すつもりも無くダラダラと生きるお話です。スパイダーマンとか観てないタイプというよりは観た上で責任放棄するタイプ。▼小説投稿サイトとかで「低評価入れるのに感想も書けなくてなっさけなぁい♡…


総合評価:8149/評価:7.78/連載:20話/更新日時:2026年08月27日(木) 20:00 小説情報

『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』(作者:トート)(原作:トリコ)

平凡な現代日本人だった主人公は、死の間際に「神」を名乗る存在から転生特典として『劇場版ブロリーの肉体と才能』を授かる。▼そして、全ての価値基準が「食」で決まる漫画『トリコ』の世界の危険区域・バロン諸島へと転生してしまう。


総合評価:406/評価:5/連載:27話/更新日時:2026年05月28日(木) 22:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>