薫の呪力出力の低さである。
日頃からダラさんビームを撃ちまくることで(呪力を無駄に消耗して)鍛えられたとはいえ、呪術界隈では並といったところ。
元よりダラさんビームは低出力であるが、そこに呪力を安定的に付与するとなれば、それなりに高い呪力出力が求められる。
だが歌姫がその懸念をすることはなかった。
というよりも、いざ歌姫が薫の実力を目の当たりにした時には、薫は高い呪力出力を得ていたのだ。
それは薫が人知れず自らに課した縛りによるもの。
【ダラさんを救えた時、薫は呪力を全て失う】
この縛りの問題点は1つ。
ダラさんを救えたとしても、呪力を失ったことで薫は呪霊を認識できなくなる。
つまり、自力でダラさんを見ることができなくなるのだ。
とはいえ、ダラさんサイドから人間に姿を視認させることができるから問題はない。
縛りはもう1つあった。
【ダラさんを救えなかった時、薫は二度と応神町には帰らない】
これこそ薫が一級術師として通用するほどに、呪力を底上げする縛りとなっていた。
そしてこの縛りには薫すら気付かなかったもう一つのデメリットがあった。
呪術高専に入学したその日、薫は既にダラさんを祓う覚悟をしていた。
そのことで薫は応神町の人間ではなくなっていた。
つまり、ダラさんが羂索と交わした庇護対象から、薫は外れてしまうことになる。
姉妹校交流会の団体戦は薫が想像していた以上に悲惨な状態となっていた。
薫を襲った呪詛師以外にも襲撃者がいたのだ。
襲撃者は五条悟らの活躍により撃退されたものの、多くの死傷者を出していた。
生徒は加茂が一番重傷だったが、家入によって治療を受け人前に出られる程度に回復。
薫を含む怪我人も一日休めば復帰可能な程度に治療を受けた。
驚きなのが、この一日休みを挟んで交流会が続行となったことだ。推したのは東堂と五条。
とはいえ一日休み。その間に薫は東京校の一年生の元に向かった。
「お邪魔しますぅ」
まず薫が行ったのは伏黒恵の見舞い。というよりも、ちょうどそこに他の一年生の虎杖と釘崎がいると聞いていたから、ついでの用事だった。
「あ゛? 何の用?」
入室早々にガンをつけてくる釘崎。ヤンキーが逃げ出しそうな睨み方をしてくる伏黒(元から目つきが悪いだけと思いたいが)。そして「おっ、たしか京都のビームの子?」と飄々とした顔を見せる虎杖が出迎える。
薫は平身低頭で3人の元に歩み寄り、フルーツ盛り合わせを差し出した。
「この度は虎杖くん抹殺に加担し申し訳ありませんでした」
頭を深々と下げる薫に対して、釘崎はフルーツを受け取りながらも嗜虐的な目線をぶつけた。
「イイ度胸してんじゃん。虎杖にフクロにされても仕方ない立場のくせに」
当の虎杖は「俺そんなことしないぞ」と釘崎に反論した。
「どうした釘崎。謝罪に来ている相手に意地悪なことを」
「良い子ちゃんアピールってムカつかね? 殺そうとしといて、謝って済むかっての」
ため息交じりに指摘する伏黒に、釘崎はイラっとしながら答えた。
釘崎の言葉に虎杖はムッとしながら「俺が許しゃ済む話だろ」と告げた。
場が険悪なムードに入る中、薫は静かに口を開いた。
「言い訳になるんやけど、実はウチと虎杖くんは立場似とるんです」
「どういうこと?」
薫の言葉に釘崎の吊り上がった眉が下がった。
「ウチには大切な呪霊がおったんです。特級呪霊の屋跨斑、ダラさんっていいます」
高専でわざわざ“呪霊と繋がりがある”という宣言。この大胆な発言にギョッとする釘崎と虎杖。ただ1人、伏黒は心当たりがあるようで口を挟んだ。
「聞いたことがある。何百年も土地神として安定していたが。最近、棲み処から行方知れずになって討伐対象になった特級呪霊がいると」
「ダラさんは子供の頃からよく遊んでくれたり、助けてくれた優しいヒトなんや。そりゃ大昔はヤンチャやったけど。正直言うと、ダラさんがどんなヒトか知らん人に祓ってもらいたくない。ダラさんに人を殺させんために、ウチは呪術師になったんです」
薫はその瞳に涙を浮かべながら伝えた。
その切実な言葉の重さに、釘崎ですら口を挟めなかった。
「ダラさんの抹殺命令に赴けた時、ウチは絶対に迷ったらあかん。だから虎杖くんの抹殺命令にも逆らうんは違うって思ったです」
「仕方ないって。立場ってあるもんな」
そう気さくに伝えた虎杖の言葉に薫は救われた。
「俺も同じ立場なら虎杖を殺そうとしていただろう。それを覆せる我が儘は、それこそ五条先生の強さが無いと無理な話だ」
伏黒のフォローに、釘崎も「まぁたしかに、我を通せる限界ってのはあるけど」と口を濁しながらも薫に手を振って贖罪の意を示した。
「そうそう。それでこそ虎杖(ブラザー)の友達たちだ」
東堂がいた。
虎杖は脱兎の如く逃げていき、東堂はそれを追いかけて消えてしまった。
「東堂先輩? いつの間に不義遊戯したん?」
東堂の乱入にそこまで驚いた様子を見せない薫に、伏黒と釘崎は『アレと毎日顔合わせる京都校、入らなくて正解だったな』と同じことを思ったという。
「そういや、そのダラさんの手掛かりって掴めてんの?」
釘崎の指摘に薫も伏黒も首を横に振った。
「手配書とか人相書きとか」と続ける釘崎に、伏黒は「そんなものあるわけないだろ」と指摘したが、薫は「写真ならあるよ」と呟いた。
「は?」と不審がる伏黒をスルーして、携帯画面を見せる薫。
そこに映る、まぁ下乳がまる見えなセクシーサンタな姿のお姉さんの姿に伏黒は「ブッ」と咽せ、釘崎は「うわぁ」と引いた。
一瞬の間を置いて、伏黒は絞るようにと聞いた。
「・・・なんで呪霊が写真に映るんだよ」
「伏黒くん、ムッツリすけべを隠したいのは分かるけど、話を逸らすの下手だね」
釘崎の指摘に伏黒はムカッとしたが『写っているのが呪霊じゃなかったら、近所のお姉さんのエッチな写真をがっつり見ただけと認めることになる』と、下手にこれ以上指摘して追い込まれるほうがキツいと思い黙ってしまった。
「写ろうと思えば写れるんよ。ダラさん言っとった」
薫のフォローに、釘崎は「そういうことにしといてあげる」とフォローにならないフォローで答えた。
こうして薫は東京校一年にもダラさん捜索の協力を約束してもらい。
翌日に個人戦の代わりに野球に参加。
2番セカンド・三十木谷薫【面談前に五十子美和原画展に行ってました】は犠牲フライにて沈み、結果として30年度交流会は勝者:東京校で幕を閉じた。
そして10月19日。
交流会の襲撃を手引きした者として、メカ丸が内通者であると判明した。
京都校の生徒たちに激しい衝撃が走った。
薫はショックを隠せなかった。
失意のまま時は流れ
2018年10月31日