決して近づいてはならない
2018年10月31日 早朝
この日、京都校は朝から大忙しだった。珍しく全員出動。
「へぇ、ウチは歌姫先生とかぁ。新田くんは?」
「うへぇ、俺は東堂先輩や。でもって初の東京。姉貴と鉢合わせませんように」
各々の任務が通知され、新田は苦々しい顔で項垂れた。
「ええやん。帰りに東京校行ってパンダと握手してもらい」
「東京校、上野遠いやろ。そもそも俺アドベンチャーワールド行ったことあるし」
薫の軽いノリに少しは気分が救われる新田。
最近は京都校の空気が重たかった。
交流会襲撃がメカ丸の裏切りによるものだと知ってからだ。
特に二年生の落ち込みが酷かった。三輪の笑顔が消えた。元々少なかった真依の笑顔が消えたことよりも衝撃的に映った。
薫もまたメカ丸と仲が良かったが故に落ち込みはしたが、いつものノリを貫いていた。
それが強がり、やせ我慢、から元気なのは誰の目に見ても明らか。
だからこそ薫の踏ん張りに皆が奮起され、日々の任務もどうにかこなしていた。
だがその余裕は消えることとなる。
同日19時 東京渋谷にて半径400mほどの帳が降ろされ、多数の一般人が閉じ込められる事案が発生。東京にいた新田と東堂も派遣される。
同21時15分
薫に一報が入った。
不穏な気配を感じた。まさか新田や東堂の身に何か起きたのかと、薫は最初思ったがそうではなかった。
メカ丸が残した傀儡が現れ、全てを語ったらしい。
渋谷で五条悟が封印された。
呪術界だけでなく、日本で人間の時代が終わるかもしれない大災厄が起きる。
すぐさま薫に緊急招集がかかった。
歌姫、真依、加茂、西宮、三輪と合流し、新幹線で一路東京へ向かうことに。
「何がどうなってるんですか」
東京まで2時間はかかる車内で薫は叫んだ。
歌姫は頭を抱えながら「どうもこうもッ」と声を絞り出した。
「俺が説明すル」
「手乗りロボ先輩・・・」
薫の手の平の上で、メカ丸の傀儡が全てを語った。
天与呪縛の呪われた体を脱して、京都校の皆と会いたい。
ただそれだけのために、メカ丸は呪霊に情報を流していた。
だが呪霊との約束は破られた。
京都校の人間に危害を加えないという縛りを呪霊が反故にしたのだ。
メカ丸はその呪霊に殺された。今いるメカ丸の傀儡は呪力の残りで動いているだけ。
その元凶呪霊が今、渋谷にいる。
「先輩、まさかウチとダラさんみたく、呪霊と友達になれるかもって?」
「いいヤ。お前とダラさんの絆は本物ダ。俺が間違えタ、愚かだっただけダ」
メカ丸の言葉に薫は黙って首を横に振った。
メカ丸は残りの可動時間を、メカ丸は三輪と共に話して過ごしたいと望んだ。
薫たちは三輪から離れ、話し合った。
渋谷で何が待っていようと。
メカ丸を殺し、五条悟すら封印し、薫や歌姫たちでは生き残れない地獄が待っていると言われても。
向かうしかない。
「三十木谷・・・聞いて・・・あぁ、もうっ、何でこんな・・・」
「先生?」
歌姫は言いにくそうに薫を名指しした。
「渋谷にいるのは呪霊だけじゃない。夏油傑っていう呪詛師が絡んでいるの」
「ロボ先輩が言うてましたね。誰なんです? 有名な呪詛師?」
歌姫の言葉に加茂と西宮が「まさか」と息を飲んだ。
「去年死んだって聞いたから、全然可能性を排除しちゃってたわ。ごめんなさい三十木谷」
言い淀む歌姫。ただならぬ気配に、薫は口を挟むことなく黙って耳を傾けた。
「夏油傑の術式は呪霊操術。呪霊を操る術式なの。屋跨斑は、ダラさんは、おそらく夏油傑が攫った。その可能性がかなり高いわ」
「・・・・あ゛?」
歌姫の言葉に薫は目を見開いた。
その瞬間、歌姫だけでなくその場にいた誰もが、薫から迸るどす黒い呪力に毛が逆立った。
刹那の出来事だっただろう。
「薫くん・・・」
西宮が最初に恐る恐る声をかけた時、薫を覆っていた呪力はまるで最初から発せられてもいなかったかのように消えていた。
「先生、ちょっと電話してもいいですか?」
薫の声は普段のものに戻っていた。いや、携帯を見る薫の目つきには怒りがこもっていた。
今まで幾度となく任務で見てきた薫の目に宿ったことのない怒りが。
「もしもし姉ちゃん。遅くにごめん。ついに来たよ、その時が」
薫と姉との電話は、加茂も見たことがある。だがあの時とは大きく違う、肌を刺す真剣さが声に乗って放出されていた。
「やっぱり間に合わんかったかぁ。うん、大丈夫や。ウチに任せとき。やれるから」
通話が終わった時、薫を覆う呪力が弱々しい物に変わっていた。
否、弱さではない。どこか儚げで、今すぐ抱きしめてやらなければ薫の姿形が解けて無くなってしまいそうな、そんなオーラを漂わせていた。
そして新幹線は東京に到着した