2018年10月31日 もう間もなく11月1日となる頃―
新幹線を降りた薫、三輪、真依、加茂、西宮、歌姫は走っていた。
脇目も振らず。目指すは渋谷。
「まさか・・・ここが渋谷なのか?」
ビル街を抜けてもビル街が続く。そのはずだった。
待っていたのは廃墟だった。東北の大地震の時ですら、こんな光景テレビで見たことがない。
血と闇を抜けた先にあったのは砂漠だった。コンクリートの砂、何が素だったのか分かるのに理解らない。
「皆、覚悟を決めなさい」
歌姫に言われずとも誰もが決心していた。
足を踏み入れたその先の地獄に、巨悪がいれば討つ。
歌姫が後方に控えフォロー。西宮が空から偵察。加茂の弓矢が牽制し、真依と薫が後方支援。三輪が近接で敵を斬る。
そうと示し合わさずとも、互いを知る6人の最善の必殺。
だが今回、そうは問屋が卸さなかった。
夏油は加茂の矢も容易く避け、真依の銃弾を手に取り、三輪の渾身の抜刀を素手で受け止め砕いたのだ。
「極ノ番 うずまき」
三輪の目の前で、夏油が放出した禍々しい呪力の塊が渦巻いた。
呪霊を練り固めた高密度の破壊。一目でわかるおぞましさが、三輪を包もうとした。
「バルゼー…ビィイーーーームゥッ‼‼」
自らの視界を塞いでも構わずに両腕を前に構え、その両腕を無防備に開くポーズを経て、身体の中央から放つビーム。
薫が最も信頼する一撃だった。
メカ丸に捧げる一撃が、夏油のうずまきを祓い飛ばした。
「ほぉ、キミが例の対呪霊の最終兵器か」
自らの技が打ち消されても、夏油は余裕の笑みを浮かべていた。
だがその一瞬の攻防の間に、布陣は整った。
先に戦っていた虎杖の元に東京校のパンダが、同じく東京校の教師で一級術師の日下部も駆け付けた。
代わりに夏油の元には、性別不詳の白髪オカッパ坊主が加わる。
「さて、この場で一番厄介なのは。キミだね」
夏油が指名したのは薫だった。
薫はゆっくりと前に出た。怪我をした虎杖が少しでも休んで回復できるよう。他の先輩たちの息が整うように、ワザと足を遅くした。
「アンタ夏油傑やな。応神町ってところに行ったことあるか?」
「言わずとも分かっているよ。キミのお目当ては“コレ”だろ?」
夏油は意地の悪い笑みを浮かべ、その背後から巨大な呪霊を出現させた。
しゃりん
その時、薫の懐から鈴の音が鳴り響いた。母から託された霊鶫の鈴が。
「やっぱり、ソコにおったんやね。ダラさん」
長い黒髪に六本の腕。巫女の半身を取り込んだ大蛇の呪霊。
獣のような瞳を赤く光らせ、吐く息は荒く冷たく。
「紹介しよう。屋跨斑と呼ばれる特級呪霊だ」
「お前がダラさんを語るな!」
薫の怒気に呼応するように、屋跨斑は飛び出した。
獣のように牙や爪を剥き出しにして薫に一直線に向かっていた。両腕を広げ掴み捻じろうとする害意がそこにはあった。
「ちょっと待った。何故襲おうとする?」
夏油は屋跨斑の行動に首を傾げた。
夏油は交流会襲撃後の呪詛師からの情報で、薫が屋跨斑と関りのある存在だと知っていた。
屋跨斑と交わした縛りにより薫には手を出せない。その薫が呪霊操術の天敵であることが厄介だった。
だからこそ屋跨斑を放ったのは、高専生たちを襲わせるため。薫にはその対処をさせる足止めの効果を狙ってのこと。
にも関わらず屋跨斑が薫を狙ったことは解せなかった。だが夏油からすれば都合は悪くない、嬉しい誤算というやつだ。
「先輩たち! 手出し無用です!」
薫は屋跨斑の前に躍り出ると、巫女服の懐から一枚の札を取り出した。
茶色と黒の渦巻きを背表紙に、その表に何やら呪文が描かれたカードを。
「魔法発動 光の護封剣!」
薫の宣告と共に、空から光の剣が3本舞い降りた。
剣は薫と屋跨斑を囲むように降り立ち、その周りに結界を発生させる。
「これでダラさんの呪いは外に漏れん」
薫の宣言と同時だろう。屋跨斑から瘴気が漂い、結界内を埋め尽くした。
「大丈夫か三十木谷!」
加茂の呼びかけに、薫は瘴気に包まれながら親指を立てた。
加茂は目を見張った。気のせいか、加茂には薫の体がその時、少し光ったように見えた。
「明鏡止水のハイパーモードってやつかい?」
夏油の問いに薫はチッチッと指を振った。
「漢たるもの誰もが通る、スーパーサイヤ人や」
薫は瘴気を打ち消すため、呪力をこめた光を体中に纏っていた。
とはいえ屋跨斑の力は瘴気だけではない。その膂力もまた脅威。
「ゴメンやダラさん」
だがその膂力も薫は呪力による身体能力でカバー。屋跨斑の尻尾の一薙ぎを掴むと、一本背負いのように投げ飛ばした。
「女性を手荒く扱うなんて、酷いじゃないか」
「煩い。ダラさんにブラも着せんとする奴に言われとぅない。垂れたらどうするんや!」
「それはそれで趣があるじゃないか」
「意見は合うが気分が悪い!」
戦いの中でも論戦を交わす薫と夏油。
そんな中、夏油の戦況もまた変化していた。
張相という、一瞬何故か加茂に殺意を向けたような怒号を放った虎杖のお兄ちゃんが乱入してきたのだ。
これで夏油は薫と屋跨斑との戦いに干渉する余裕を失った。
「だけど、置き土産だけは残させてもらうよ」
そう言って夏油は新たな呪霊を出した。小さい呪霊だったが、その口から刀を吐き出した。
薫の結界術は屋跨斑を閉じ込めるためだけのもの。外部からの物質の侵入を防ぐことはできない。
6本の剣だった。いずれも二級呪物ほどの力を持つ。
屋跨斑の6本の腕にそれぞれ握られた剣が薫に向けられた。
「ダラさん、わかるかなあ? この時点でウチがどんな絶望感じてるか」