光の術式 ダラさんビーム!   作:三柱 努

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古よりその名を

薫の呪力総量はそう多くはない。

結界術。

全身を覆う守りの光。

呪力による身体能力向上。

いずれもそれ1つだけで薫の呪力はカツカツになる代物。

 

それを同時発動し維持できているのにはカラクリがあった。

 

遠舐め。

元来はダラさんの舌の肉を切り取りお守りとして、遠隔から供物を供給する外法である。

 

それを薫は応用した。

自らの舌の肉を切り取り、応神町にいる姉・日向に託していた。

日向は遠舐めに新たな術を加え、遠隔で薫に呪力を届ける術へと昇華していた。

 

今、東京で戦う薫の元には、故郷・応神町から呪力が送り届けられていた。

夜中の薫からの通知。ダラさんと戦うと知らされた日向が呼びかけ、応じてくれた町の人々が三十木谷に集まっている。

両親、クラスメイト、近所の人たち、町の霊能力者たち。

かつてダラさんに救われたり、薫や日向と親交があったりする人たちだ。

彼らにダラさんの存在を公開し、その縁が結んだ呪力タンク。

 

送った呪力が尽きる度に一人また一人と倒れていくが、それでも祈りが薫の元に届いていた。

「三十木谷」

「薫くん」

「屋跨斑様を」

「どうか」

「救って」

 

 

 

東京で薫と対峙する屋跨斑。六本剣を振りかざし、薫に向かっていた。

「来いや、ダラさん!」

薫は懐から札を取り出した。覚玄紋という、複雑な呪文が刻まれた符である。

「借りるで、マグナム!」

薫が覚玄紋の符を掲げると、その背後に2体の式神が召喚された。

屋跨斑を祀る神社の二十尋。彼が使役する前鬼と後鬼である。

 

前鬼・後鬼は屋跨斑を見るや臨戦態勢に入った。

「もう、神様として見てもらえんのか・・・ダラさん」

薫は一瞬だけ悲しげな表情を浮かべながらも、しっかりと屋跨斑を見据えた。

ここが決め所なのだ。

 

前鬼・後鬼は手にした棍棒を振り屋跨斑に迫った。

屋跨斑も剣で応じる。だがこれこそ薫の狙いだった。

 

仮に屋跨斑の6本腕、3対の腕をそれぞれA組、B組、C組としよう。

メイン攻撃を任意で担当するA組、B組はカバー、C組は半オートで防御に動く。

だがA組、B組が攻撃を受け止めに入った時に限り。

C組はメイン攻撃に切り替わる。

ここで初めて、屋跨斑の防御に隙ができるのだ。

これは夏油が知る由もない屋跨斑の特性。知るのは薫と日向のみ。

 

前鬼・後鬼は屋跨斑に殴りかかり、4本の剣を受け止めるも残る2本に両断された。

だがその一瞬に、薫は両手を額の先に合わせ、両掌から光の手裏剣を生み出した。

「ウルトラ ギロチン!」

手裏剣は分裂し、6本の剣を避け、屋跨斑の6本の腕を切り落とした。

 

「ギャアアアア」

屋跨斑は叫んだ。痛み、苦しみが宿っているのか分からない。

だがその叫びが薫の胸を裂くには十分。

「すまん。だけどこれで戻ってきてくれ」

そう呟くと薫は息を肺いっぱいに吸い込んで叫んだ。

 

 

「戻ってこい木春!」

 

 

 

それは屋跨斑、ダラさんの真名。

ダラダラダラさんと日向が導き出した、屋跨斑の支配を奪い返す手段。

まず屋跨斑を弱らせる。少なくとも怨嗟のこもった腕6本を切り落とす。

そして真の名前で呼びかけることで、屋跨斑を調伏するという道だ。

だがこの手順が正しいかどうかは半信半疑。

そもそもこの半年をかけて日向とダラダラダラさんが導き出した答えはこの1つにしか辿り着けなかったのだ。

 

かすかな望みへの賭けでしかない。

 

 

 

そして この蜘蛛の糸は 千切れた。

 

 

 

 

ずるずる

 

 

薫は油断していた。

その隙にどこからか現れた蛇が薫の腕に絡みついた。

蛇の尾は、屋跨斑の切り落とされた腕から伸びていた。

 

ボキッ

「うぎゃぁああ」

薫の両腕は、その手の重蔦紋の部分を巻き込んで折りたたまれた。

 

「うぐ・・・潜影蛇手とは・・・やるやないかダラさん・・・」

薫の体は砕かれた腕を引っ張り上げられ、屋跨斑の眼前へと連れていかれた。

屋跨斑の口が開き、蛇のように細かな牙が薫の体を迎える。

 

「どうやらアチラは終わりのようだ」

遠目で見ていた夏油がほくそ笑む。

対峙していた加茂や西宮はフォローに入ることができない。この時、ほとんどの者が凍らされていたのだ。

 

 

薫の体は愛する者の牙に引き裂かれる。その現実を受け入れるしかない。

 

 

その絶望を最後まで受け入れず、足掻く者がいた。

 

「アニメ通じとるなら、ちゃんと履修せなあかんよ。キン肉マンを」

 

薫は苦悶のままニヤリと笑い、両足を十字に交差させた。

「飛び散れ キン肉ビーム」

薫の足から放たれた光線が屋跨斑の下半身と大蛇の部分を引き裂いた。

次の瞬間、薫を捕えていた蛇は消滅し。切り離された腕は石となり。屋跨斑は地面へと倒れ込んだ。

 

薫は足にも重蔦紋を施していた。手だけでなく足でもビームを放てるのだ。

念には念を。最後まで食い下がるための奥の手だった。

 

「はぁっはぁっ」

薫は立ち上がり、屋跨斑を見下ろした。

 

屋跨斑は息も絶え絶えだった。

大の字に倒れた形で、腕と脚を根本から失い、瀕死の体となっていた。

奇しくも、それはかつて生前のダラさん・木春の死の間際の姿と重なった。

 

「戻ってきてくれ・・・ダラさん・・・木春・・・頼むから・・・」

薫のか細い望みにも、屋跨斑は何も変わらなかった。

 

 

「もう・・・ダラさんを・・・殺すしかないんか・・・」

「そうだよ。屋跨斑を救ってあげなよ」

薫の絶望は夏油の望むところだった。

 

特別な存在を救うことを縛りとして呪力を底上げする。

薫の考えを夏油は見抜いていた。

ダラさんを想うがあまり『ダラさんを救えなかった』と『ダラさんを救えた』が両立する隙を作ってしまっているだろうと。まさに夏油の思い通りになっていた。

そこに悪魔のささやき。死は救いである。

それ一つで薫はダラさんを救ったことで、呪力を全て失う。

 

 

 

 

その頃、応神町にも動きがあった。

水鏡で遠く東京の薫を見守る日向たち。

絶望の中で項垂れる日向の元に、呼びかけから遅刻した一人の少女が駆けつけたのだ。

「おそくなりました。日向さん!」

トイレに行っていて電話に出れず、日本中のLINEやTwitterやインスタやディスコードが混線していたことで時間差で通知が鳴り響いたからこそ招集に気付いた少女、初瀬川周。

屋跨斑の半身である大蛇『谷跨斑』に憑依された少女である。

 

「周ちゃん」

「日向さん、私の呪力を」

周は日向の手に手を添えて叫んだ。無論、遠舐めの発動条件はコレではない。周も知っている。

 

だがこの周の呪力、想いと共にソレは送られた。

 

 

 

 

 

屋跨斑の命を奪う最後の呪力操作。その時に薫は周の呪力を受け取った。

「!」

薫の脳裏によぎった一つの名。それを薫は迷わず叫んだ。

 

 

 

「助けてくれ、ヤサカ!」

 

 

 

それは周が記憶を共有していた谷跨斑の真名。

そして呪力と共に届けられたヤサカ自身の意識だった。

 

『その言葉、待っておったぞ!』

 

その瞬間、斬り分けられた屋跨斑の蛇の半身が這いずり、巫女の胴体と合わさった。

屋跨斑の。ダラさんの瞳が優しく開くのを薫はたしかに目にした。

 

 

 

 

 

「よく戦ったな。薫」

 

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