才覚に秀でた巫女が大蛇の呪霊に取り憑かれた結果、凄まじい呪力を得た呪霊となった。
半身が巫女、半身が大蛇、3対の腕を持つ。
人々は屋跨斑を山神として祀ることで土地に縛り、現代に至るまで呪霊の被害を防いでいた。
だが山守の末裔である薫は、巫女の悲惨な最期をこう語った。
件の巫女は双子の姉妹。姉巫女によって謀殺されたことで、妹巫女・ダラさんは怨霊となったのだ。
その最期は耳を塞ぎたくなるほど凄惨なもの。
姉巫女は村人を扇動してダラさんを袋叩きにして四肢を砕き、抵抗できないように彼女の手足を切り落とした。
惨たらしく殺すことでダラさんの魂を呪物と化し、強力な式神にしようとしていたのだ。
だが死の間際、キレ散らかしている大蛇にキレ散らかしたダラさんが切り落とされた足を餌にして、屋跨斑が合体召喚された(原文ママ)。
呪霊『屋跨斑』と化したダラさんは憤怒のまま、悪徒の姉巫女や村人を呪い殺した。
だが恨みを晴らした後、ダラさんは罪なき者にまで害が及ぶことを恐れた。
そこで自らをこの地に封印した。
いつしか土地神として祀られ、500年かけて大蛇の怨念を抑え込むことに成功。
100年前に自我を取り戻し、現在はエチエチ祟り神・ダラゴッドとして奉られている。
以上。歌姫が薫から聞かされた屋跨斑の真相であり、途中『ここはツッコんでもイイ所なの?』と眉をひそめた物語である。
体力作りの授業。やることは至ってシンプルだった。
薫、新田、三輪、真依の4人が一対一の組み手を行い、負けた方は校庭1周、勝てば半周走らされる。
走り終えた者が次に走り終えた者と戦う。これをエンドレス。
負け続ければ消耗し続け、地獄が続く。そんな力業の特訓だ。
薫の戦闘能力は散々なものだった。
2年生として日々の鍛錬が光る三輪と真依。元ヤンの姉の影響もありそこそこ戦える新田。
この3人が贔屓目に見ても薫は体力、戦闘勘、技能が一般人レベル。戦いに関してはてんでド素人だった。
連戦連敗。
さすがに男子ということもあり膂力こそあるが、それを全く活かせていなかった。
「せっかくの呪霊絶対殺す術式が勿体ないやん」
無駄口を叩く余裕すらある新田は、薫をヒョイと転がしてつぶやいた。
「そんなので呪術師としてやっていけると思ってるの?」
真依は容赦なく薫を組み伏せながら、辛辣に事実を告げた。
「まぁまぁ、まだこれからだよ」
負けて多く走らされるのが嫌な三輪は申し訳なさそうに薫の体に寸止めしていった。
負ける。校庭1周。負ける。校庭1周。負ける。校庭1周・・・・・・
疲労が溜まれば溜まるほど、薫の拙い格闘は精度を欠いていった。
それは傍からみても哀れなほど。
脚は震え、息も絶え絶え。
新田が『女やと思ってド緊張しとった俺の昨夜を返せ!』と初戦に容赦なく投げ飛ばしたことを後悔するほど。
薫はボロボロになりながら走り、そして戦い続けた。
だが薫の目は死んでいなかった。
出せる全ての力を振り絞って毎周走りきり、そのまま全力で対戦相手にぶつかっていく。
敗戦しても「また負けたぁ」と去っていく薫に、初めのうちは「負けてヘラヘラできるの? 見た目通りね」と嫌味を言っていた真依ですらも、その異様な雰囲気に冷汗を流した。
三輪も戦慄していた。もう限界なのは明らか、それでも止まらない薫もそうだが・・・
このままでは薫が死んでしまう。そう思いわざと負けようとした矢先に歌姫が「三十木谷、また負けよ。もう1周」と冷徹に告げたことに驚いたからだ。
普段の優しい歌姫からは想像できない、薫への当たりの強さ。
「ちょっと歌姫。いい加減にしないと、この子本当に・・・」
真依が思わず庇うほど、薫は疲弊しきっていた。
だがそれでも歌姫は止めず、薫は泣きごと一つ言わなかった。
執念。そう言わざるを得ない。
新田も、三輪も、真依も考えた。自分が薫だったらどうする? 絶対に今ごろ安息を求めて倒れているだろう。周りに憐れんでもらうために倒れているだろう。
なのに何故、薫はそこまで頑張れるのか。
その得体のしれない正体がつかめないまま、その時が来た。
「一本! 三十木谷の勝ち」
薫がようやく、新田の拳を躱してボディに肘打ちを入れた。困惑しながらも新田は手加減していない。ちゃんとした薫の初勝利だ。1勝9敗である。
勝利の余韻も無く、薫はその場にバタンと倒れ込んだ。
「三十木谷、立てる? さすがに無理か。今日の体力作りはここまでね」
倒れた薫の顔を覗き込む歌姫。薫は「まだまだ、ウチは・・・」と言いながら気絶した。
「新田。悪いけど三十木谷連れてってシャワーお願いしていい?」
歌姫の命を受け、新田は薫を背負ってシャワー室へ向かった。
「三十木谷。まったくお前、大した奴だよ」
“倒れるほど頑張る”と“倒れるまで頑張る”は違う。
薫にどんな事情があるか分からないが、彼の呪術師になるための覚悟を見せられた。
新田はそう感じた。
そして新田は思い知った。
シャワー室についても起きない薫の、服を脱がせてやってシャワーを浴びせてやらなければならない。
目のやり場に困る。
「なのに・・・なんで俺のよりデッカいねん!」