だが祓われた可能性を否定する材料は山守の一族、薫とその姉・日向が証言した。
根拠の1つは薫の小学校時代の恩師の飼い猫・アラレが健在であること。
飼い主も知らないが、この猫の正体は屋跨斑に妖力を分けられた半妖。(ただし人に害を及ぼすレベルは四級呪霊と蠅頭の間くらいしかなく、放置しても問題ない存在)
屋跨斑の眷属でもあるため、主が消滅したのであれば影響が出るはずである。
つまり屋跨斑は山の封印から外れ、何処かへ行ってしまったと考えられた。
だが薫と日向は「ダラさんはウチらに何も言わずに消えるような薄情者やない」と断言した。
ならばダラさんの支配が解かれ、屋跨斑を大蛇の魂が支配してしまった可能性は?
だがこれも否定された。
何故なら大蛇の半身、ダラさんがかつて討伐した大蛇の頭部の封印が解かれていなかったからだ。
この証言から、歌姫は1つの推理を出した。
屋跨斑は呪術師に捕らえられているのではないか?
高専でも戦闘訓練等を目的に呪霊を捕縛している。この可能性は十分に考えられた。
薫と日向はこの誘拐説に(亀甲縛りされたダラさんの姿を妄想しながら)憤慨した。
この説を推す者がいた。
それはかつてダラさん自身が分け身として使用した抱き枕。
薫と日向が言いくるめてダラさんを散髪し、その髪を中身にして作り上げた抱き枕。
特級呪物『ダラダラダラさん』
その姿を見た瞬間、歌姫は「それは一体、何なの?」と心の声が漏れた。そしてダラダラダラさん自身も「ほんと・・・何なんやろうな」と同感した。
入学3日目。
「新田くん、おはよ~」
「おぉ三十木谷。おはようさん」
昨日、体力作りで久々に体をイジメ倒した新田は足取り重く食堂に現れた。
薫は先に席について大盛りご飯の朝食をハムスターの如く頬張っていた。
「お前、昨日の今日で元気やな。すごいやん」
「全身筋肉ブチブチ痛や」
元気よく体中の痛みを訴える薫の姿に、つい先ほどまで『これが呪術高専の洗礼か』と気が重くなっていた新田は励まされた。
「今日の授業も昼まで体力作り、午後から座学なんかな?」
食後のお茶で一息つく薫の問いに、新田は「まぁそんなとこやろ」とポケットから時間割の紙を取った。
「まぁ俺らは高専の生徒やからな。急な任務とかあると時間割通りにいかんようやけど」
「任務?」
「三十木谷の初日ん時みたく演習で呪霊を祓うんやなくて、町で発生した呪霊を祓ったり、呪霊が関わってそうな事件の調査に行かされるみたいやで」
呪術や呪霊に関することには全くの素人の薫を相手なら先輩風に近いものを吹かせられるからか、新田は少し嬉しそうに話していった。
新田はある程度の高専についての情報を姉から聞かされている。それは任務についてだけでなく呪術師についても。教師について。そして数名の生徒についても。
「おい。お前ら今年入った一年だな」
その時、藪から棒に2人の食卓の間に大男が割って入った。
筋肉質のちょんまげ男。それだけで誰なのか特定するのに新田には十分だった。
東堂葵。呪術高専京都校三年生にして一級術師。
昨年末に起きた百鬼夜行において一人で特級呪霊1体と1級呪霊5体を祓ったという逸話を持つ学生屈指の実力者。
ただし性格に難あり。
「はい! お、俺は一年の新田新です。よろしくお願いします!」
新田は元ヤン姉に仕込まれた脊髄反射で立ち上がり、指の先までピンと伸ばして姿勢を正し挨拶した。
薫はその勢いに乗っかり一緒に立ちあがり「一年の三十木谷薫です!」と元気よく挨拶した。
緊張する新田に対して、東堂は全く雰囲気に飲まれることなく落ち着いた様子でドンと構えた。
「そう構えなくていいぞ一年。俺はただ挨拶に来ただけだ」
そう言って東堂は近くの椅子に座り込んだ。
新田は立ったまま肩幅に足を開いて手を後ろで握り“休め”の姿勢のまま対峙し、薫もつられて同じ姿勢をとった。
「さて一年ども。最初に聞いておくことがある」
口を開いた東堂の言葉に新田は一気に緊張した。
姉から聞いた情報では、東堂は独特な問答をしてくることが多く、その返答次第では今後の関係がかなり崩れるとのこと。その問答のせいで他の学生との折り合いも悪いという。
そこで問題となるのは、何を聞いてくるのかだが・・・肝心のその部分をちゃんと聞いておかなかった自分を新田は恨んだ。
「どんな女が好みだ?」
予想外すぎた。勿体ぶっておいて聞いてくることがそれ?
だがなるほど性格に難あり。そしてその返答の正答がわからない。姉に聞いておけばよかったと後悔する新田だが、聞いておいたところで、だ。
返答に困り固まる新田。そんな彼に構わず東堂は自分語りを続ける。
「因みに俺はタッパとケツがデカイ女がタイプです」
知らんわ。先輩じゃなかったらそう言ってツッコんでいただろう。
だが余計に新田は困った。ますます返答に困る。
そんな中、新田を差し置いてまさかの薫が口を開いた。
「はいはい! ウチも同じです!」
新田は直感した。その答えはマズい。
好みの内容について、オウム返しで相手と同じ内容で答える。それは気軽な内容であれば定石だが、こういう未知の性質・内容に対しては悪手。
ただでさえこの手の性癖、薫の答えが背とお尻が大きな女性なわけがない(新田の偏見)。
そんな新田の心配をよそに薫の返答や如何に・・・
「お尻が大きくて」
手で撫で上げるようにフォルムを生々しく表現する薫。新田は「おい」と思わずつぶやいた。
「背と髪が長くて」
“背”に“長くて”は使わないぞ普通。
「おっぱいがデッカくて」
巨乳派だったのか。薫はてっきり歌姫みたいなのがタイプだと思ったが違ったらしい、と新田は失礼な事を心の中で呟いた。
「でもって腕が6本で、下半身が蛇な、モン娘が大好きです!」
うん、化け物が出来上がった。新田はドン引きした。これには東堂もドン引きだった。
ちなみにだが「あの東堂をもドン引きさせた薫の性癖」という噂が後に広まった、というのはまた別のお話。
そして皆が薫の携帯の待ち受けが『近所のおっぱいでかい姉ちゃんっぽい人に下半身蛇なコスプレさせたツーショット写真』なことに気付いた時、その噂が裏付けされたなぁと思ったという。