ダラダラダラさんは元より高専に頼むつもりだった。
だが残された薫や日向は、憤りが治まるわけがないだろう。
いっそ2人の手で事態を収拾できればよいが、それも酷な話。
事実、この話が出た直後に2人はダラダラダラさんと歌姫を置いて飛び出していってしまった。
ダラダラダラさんは後悔した。
出会った頃から胆力のある2人であっても。いくら高校生大学生になる年齢になったといえど。
落としどころのない理不尽に耐えられるかは別の話。
だが数分としないうちに、薫と日向は再び姿を現した。
その表情は決意に満ちていた。
日向が口を開いた。
「高専で強くなってダラさんを祓う任務。薫に任せることにした」
日向の言葉に薫は力強く頷いた。
歌姫は目を丸くしながら、ダラダラダラさんは目を細くしたまま、静かに頷いた。
「すまぬ。苦労をかける」
ダラダラダラさんの言葉に薫は「任せてな」とサムズアップした。
そして薫は話を続けた。
「ウチは高専で頑張って絶対に強くなる。
その間に、ウチより霊力の強い姉ちゃんがダラさんを助ける手段を探す。
でもって晴れてウチにダラさん情報が舞い込んできたら姉ちゃんに横流しして、2人でダラさんを助け出す。
これがウチらが話し合って決めた、ダラさん救出作戦や!」
洞窟の鎮圧はメカ丸から補助監督に伝えられ、十数分後には救助隊が駆けつけた。
行方不明になっていた若者たちは衰弱していたものの命に別状なく、一人ずつ担架に乗せられて運ばれていった。
洞窟までの案内人となった少年も、メカ丸と薫を労いに洞窟に入ってきた。
半壊したメカ丸の姿に、少年は一瞬ギョッとした。だが問題なく動けるメカ丸は平然と薫の方を指さした。
「俺は問題なイ。三十木谷ならあっちで手当てを受けていル」
救助の間、薫は背中の傷を手当てされていた。
背中の傷の手当て。つまり背中は丸出し。つまり上着は脱いで。つまり長い金髪は体の前に流して。つまり体の前側は見えないが、絶妙に横からチラリと見えそうな感じで。
そんな薫の姿に少年は一層ギョッとした。だがメカ丸に指名された以上はスルーするのも失礼。少年はドギマギしながら薫に近づいた。
「あっ! 来た来た。腸瓶様ん祠に居座ってた呪霊、ヤってやったぜ」
少年の姿を確認し手を振る薫。揺れる髪。チラリしそうな胸部。その無防備すぎる姿に少年は視線を逸らしながら、ゆっくりとしゃがんだ。
「えっとぉ。報告が2つあんねんけど。まずは5年前の旅の悪霊ハンターやけど、それウチの姉ちゃんやね」
少年にとってはなかなかに衝撃の事実。それをサラッと言ってのける薫。
「たぶんやけど、前ん時の呪霊のほうが今回のより強いで。でも姉ちゃん時は瞬殺やったんやない?」
少年としては今回の呪霊退治の現場に居合わせていない以上、その比較はできない。だが薫がやけに鼻高々に『5年前の姉の方が自分たちより強い』と語るのはどう解釈しても理解できなかった。
「そうなのか三十木谷。お前の姉も呪術師だったのカ」
そこに話を聞きつけたメカ丸が入ってきた。同時に薫の背の治療をしてくれていた救助隊員も離れていった。
「ならば帰ったら存分に叱られるだろうガ、俺からも言わせてもらウ。今回お前は運が良かったとはいエ、術式が人質に当たってもおかしくなかっタ。軽率な行動ダ」
メカ丸は今回、自身もまた人質を犠牲にして呪霊退治を優先しようとしていた。そのこともあり自責も込もっていたが、今は先輩としての責務から薫を叱った。
だが薫はケロッとして答えた。
「ウチの術式、呪霊にしか効かないですよ。人に当たっても、ほら」
そう言って薫は少年に向けて手を合わせて、ダラさんビームを放った。ビームは少年の体に当たり・・・特に何も起きなかった。少年もまた一瞬ビックリしながらも熱も痛みもないことに驚いた。
メカ丸は「・・・そうカ。すまン」としか言えなかった。薫の軽率な行動を戒めるどころか、早計に判断していたのはメカ丸の方だった。
「いえいえ、遮蔽物あったのに撃って失敗したんはウチが焦ってたのが悪いんで。先輩に助けてもらって面目なかったです」
薫も叱られた事実をしっかりと受け止める姿勢をすぐに見せた。
「いや。俺もまだ未熟。半壊なく任務をこなせなければナ」
そう言ってメカ丸は自虐的に自らの壊れかけた顔面パーツを突いた。
だが薫は直後に力説した。
「でも・・・主人公ロボが半壊しても助けてくれる展開からしか摂取できない栄養、ってありますよね。ターミネーター2のT-800的な。超絶カッコいいです」
薫の言葉に少年もウンウンと頷いた。
その言葉にメカ丸はハッとなった。
呪霊との戦いは激しい負傷も珍しくない。高専の仲間、同級生たちが深手を負う姿を何度も見てきている。
だが傀儡であるメカ丸は半壊しようが全壊しようが本体にダメージは無い。
たしかに不便な体に生まれた不運と差し引きできるものではないが、こと戦いの損傷に関しては怪我に苦しむ仲間に対する負い目があった。負傷を気にせず戦えることを羨んで見られていないかと。
だが今日、薫の言葉がメカ丸の胸に刺さった。壊れた傀儡の姿がカッコよく映る。そんな価値観もあるのかと。
「そうか・・・」
と呟き、言葉を続けようとしたメカ丸。
だがその時、薫は手をパンと叩いて少年に向き合った。
「それより2個目の報告! 腸瓶様、おったで」
話を遮られ、ほぼ流れを戻せなくなったメカ丸の呆然を差し置いて両手でダブルピースする薫。
少年は腕の動きで薫の髪がフワッとなびいたのをしっかり見てしまったことに赤面した。もはやメカ丸の話なんて置いてけぼりだ。
「生存者が5人おったのも腸瓶様が教えてくれたんや。ちなみに腸瓶様、セクシー系でも清楚系でもなくて、ロリ少女系やったで。でもってスク水を奉納せよ、ってゆうとった。」
グフフと笑みを浮かべる薫。
その着眼点に、少年は『あっ、この人ほんとに日向の姉ちゃんの妹さんなんや』と実感した。
そしてメカ丸をはじめとするその場にいた呪力を探知できる者たちは、薫の言葉にわずかな呪力の揺らぎを感じ、『腸瓶様、たぶんそんなこと言ってないんだろうな』と思った。
その後、薫が「へぶしっ」とくしゃみしたことで、「そろそろ上を着ろ」とメカ丸が指摘。
上着を着るなら確実に“見えてしまう”と察した少年が離れていった。
その時、メカ丸は気付いた。薫の背中の手当ての跡は大きめのガーゼが貼られ、その下に血がにじむ程度で、メカ丸が想像していたほど重傷ではなかった。
「背中、大丈夫なのカ?」
「バリクソ痛いです。入学した頃の筋肉痛とどっこいどっこい」
笑顔で応える薫だったが、同じ呪霊の攻撃を受けたメカ丸のダメージを考えれば、薫の背中は肉が抉られていても不思議ではない。その程度で済むわけがないのだ。
「いや、皮膚の下はグチャですよ」
「だが皮膚も無事で済むわけが無いだろウ」
「ダラさん製の擦り傷防止の呪印使ってるんで大丈夫です!」
そう言って薫は巫女服に貼られた甲笠印という巫札を見せた。
「ダラさん? ビームの時にも言っていたガ、人名なのカ?」
静かに頷いた薫。急にいつものテンションが消えたことにメカ丸はますます首をかしげた。
薫はウーンと悩み、メカ丸に耳打ちするように顔を近づけた。
「先輩になら話してもええかな? 先輩、口が堅いほうですか?」
メカ丸は「そうだナ。ロボットだからナ」と小さい声で答えた。
薫は語り始めた。屋跨斑、ダラさんと自分たち家族の縁を。
高専に入学したのも屋跨斑の情報を得るため。
だが当然、呪霊討伐が大前提の高専で、表立って呪霊救出に動くことはできない。
「なるほど俺に協力者になって欲しいト」
メカ丸の問いに薫は「先輩なら信頼できると思って」と答えた。
「可愛い後輩の頼みダ。それにこういう話なら俺だけでなく三輪や真依にもしておいたほうがいいだろウ」
そう言ってメカ丸は薫の肩に手を置いた。
「代わりにお前の力も頼りにさせてもらうがナ」
「はい! これからウチはもっと強くなります」
数週間後、薫の傷は癒え訓練と任務の日々に身を投じ。
メカ丸の伝手もあり三輪や西宮たちから協力確約を得るに至り。
6月頃には組手で新田にも5割以上勝てるようになり。
7月の終わり頃、東堂と真依が『長身アイドル高田ちゃん』のCDを買ってくれた。