空を飛ぶというのは、きっと素敵なことなのだと思う。
風を切って、雲の近くまで昇って、地上の景色を見下ろして。
鳥のように自由に、どこへだって行ける。
普通なら、そんなふうに胸を躍らせる場面なのかもしれない。
けれど、空を飛ぶことが常識だとは思えないボクには、その素敵さを味わうことはできなかった。
なぜなら……。
「ひぃああぁぁぁあ!!!!」
「ほらナナシ、下見てみろよ。幻想郷がよく見えるぜ!」
「み、見ない! 絶対に見ないぞ! 今ボクの世界は魔理沙の背中だけで成立してるんだ!」
「視野が狭いな」
「物理的にも精神的にも狭くしてるの! 安全のために!」
ボクは魔理沙の背中にしがみつきながら、必死に目を閉じていた。
——箒に乗って空を飛んでいる……しかも、2人で。
冷静に考えれば、その時点でもう、いろいろおかしい。
箒は掃除道具であって、人を乗せて空を飛ぶものではないはずだ。
……少なくとも、ボクにかろうじて残る記憶の中の常識らしきものはそう主張している。
けれど、魔理沙は当然のように跨った箒の後ろにボクを座らせて。
そして実際に今、飛んでいる。
……飛べてしまっている。
だから、今、何で掃除用具で飛べるのかと疑問を魔理沙にぶつけたとしても、空中で命を握られている現状が改善するとは思えなかった。
むしろボクの悲鳴を聞いて楽しんでる様子のドS鬼畜なこいつなら、楽しそうに笑いながら「モップでも飛べるぜ」くらいは平然と言いそうだ。
「大丈夫だって。私の箒さばきは幻想郷でもなかなかのものなんだぜ?」
「その自信が怖いんだよ!? ボク、根拠のある安全保証がほしい!」
「根拠ならあるぜ。今まで落ちたことはほとんどない」
「ほとんど!? 待って! 今聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど!?」
しかし問い詰めるより早く、箒がぐんと上へ跳ねた。
「ひゃんっ!?」
お腹のあたりがふわりと浮く。
心臓とかもろもろ大事なものが置いていかれた気がした。
ボクはますます魔理沙の服を握りしめ、必死にしがみついた。
「お、今のはいい悲鳴だな」
「してやった感想を述べる前に高度を安定させてよ!」
「じゃあ次は旋回してみるか」
「安定させろって言ったつもりなんだけど!?」
魔理沙の箒が空を大きく曲がる。
右へ。
左へ。
少し上がって、すとんと落ちる。
視界を閉じていても、体が傾いたり浮いたりする感覚だけでめちゃくちゃ怖い。
目の奥がじわっと熱くなる。
けれど、ここで泣いちゃったらそれはそれで魔理沙に面白がられそうで……それも悔しい。
だからボクは、魔理沙の背中に震える声でせめてもの抵抗をした。
「ま、魔理沙の、ばかぁ……」
「ははっ、会って間もないのに言うようになったな」
「言わせた側が嬉しそうにしないでよぉ……」
◇
それからしばらくして、ボクが箒と空と魔理沙に一生分の警戒心を抱き始めたころ、ようやく箒は高度を下げた。
恐る恐る、片目だけ開け、魔理沙の背中越しに地上を見る。
すると小山、丘の上に赤い鳥居が見えた。
そしてそこへ続く石畳の参道。
古びているけれど、不思議と空気の澄んだ社殿。
妙に立派な木々に囲まれた厳かな境内。
……どうやら、あれが博麗神社らしい。
魔理沙が勝手知ったるように鳥居を飛び越え、社務所か神主の自宅のような家の前に降り立つ。
足が地面についた瞬間、ボクはその場にへなへなと座り込んだ。
……じ、地面だ。
ちゃんと立てる。
ふわっと落ちない。
……偉い。
地面は本当に偉い。
「着いたぜ、ナナシ」
「……魔理沙」
「ん?」
「ボクは今、地面という存在に深く感謝してるよ?」
「そいつはよかったな」
「……ぐぬぬ。それと魔理沙には少しだけ恨みが募ったよ? 覚えといてね!」
じとっと見上げる。
魔理沙はまったく悪びれず、からからと笑っていた。
……くそう。
いつか泣かしてやるぅ
そう魔理沙への復讐を決意したところで、神社の方から足音がした。
その足音に顔を上げると、赤と白の服を着た女の人が縁側からこちらを見ていた。
黒い髪に、大きな赤いリボン。
袖の大きな巫女装束が、風もないのに少しだけ揺れている。
どこか眠たそうなのに、目だけは妙にはっきりしていた。
その人は、笑っている魔理沙と、地面に座り込んでいるボクを見比べる。
そして、とても当然の疑問を口にした。
「……何この状況」
「よう、霊夢」
「よう、じゃないわよ。あんた、今度は何を拾ってきたの」
「お、話が早いな。無縁塚で拾った」
「……本当に拾ったのね」
霊夢、と呼ばれたその人は、呆れたように額へ手を当てた。
魔理沙は箒を肩に担ぎ、簡単に事情を説明する。
無縁塚でボクを見つけたこと。
ボクに記憶がないこと。
名前も、どこから来たのかも分からないこと。
説明を聞く間、霊夢はずっと面倒くさそうな顔をしていた。
「で、あんたは?」
霊夢の視線が、ボクへ向いた。
立ち上がろうとして、腰が抜けていることに気づく。
仕方なく座ったまま、魔理沙を一度だけ恨めしそうに見てから答えた。
「えっと、ナナシ……かな? 魔理沙がそう呼んでくれた」
「ナナシ?」
「うん。名前が分からないから、ナナシ」
自分で言ってから、いまさら少し変な名前だと思った。
雑だ。
安直だ。
でも、不思議と嫌ではない。
呼ばれるたびに、空っぽだった場所へ小さな印がつくような気がする。
霊夢は魔理沙を見る。
「もうちょっと何かなかったの?」
「分かりやすいだろ?」
「分かりやすすぎるのよ」
「だよね、安直すぎるよね」
「お前までそう言うのかよ」
魔理沙が不満そうに口を尖らせる。
霊夢はそんな魔理沙に小さく息を吐くと、縁側から降り、ボクの前にしゃがんだ。
「本当に何も覚えてないの?」
「……うん。名前も、家族も、どこに住んでたかも分からない。ついでに外の世界っていうのも、正直よく分からない」
「……外来人っぽいのは間違いなさそうね」
霊夢は小さく息を吐いた。
「霊夢、外に返せそうか?」
魔理沙が聞いた。
その言葉に、ボクは少しだけ黙る。
外へ返す。
それはきっと、ボクが元いた場所へ戻るという意味なのだろう。
……でも、帰りたい場所が思い出せない。
だから帰るとしても、どこに帰ればいいのか見当もつかない。
「外に返すだけなら、できないわけじゃない」
霊夢はそう言った。
けれど、すぐに続ける。
「でも、今のこの子を返すのは無理ね」
霊夢は、淡々と説明を続ける。
「外の世界って言っても広いのよ。あんたがどこの誰か分からないんじゃ、帰す先を決めようがない。名前でも、家族でも、住んでいた場所でも、持ち物でもいい。何かしら“縁”になるものが要るわ」
「縁……」
「それに、幻想郷と外の世界の境界を正確に扱うなら、紫の協力もいる」
「……ゆかり?」
「境界を操る妖怪よ。面倒だけど、こういうことには詳しいわ」
「……妖怪って実在するんだ」
「……妖怪の中でも群を抜いて面倒な奴よ」
霊夢はきっぱり言った。
それから、ほんの少しだけ真面目な顔になる。
「それに下手に外へ返そうとすれば、どこへ飛ばされるか分からない。帰るどころか、もっと危ない場所に出る可能性もある」
それは、たしかに困る。
今のボクには、行きたい場所も、帰る場所もない。
けれど、どこでもいいから放り出されたいわけではない。
「……じゃあ、今は帰れないんだ」
「今すぐはね」
「そっか」
思ったより、声が小さくなった。
帰りたい場所を思い出せないのに、帰れないと言われると途端にずしんと胸が重くなる。
……変な話だ。
霊夢はしばらくボクを見ていた。
それから、面倒くさそうに言う。
「まあ、焦って変なところに飛ばされるよりはましでしょ」
「……まぁ、たしかにましだね」
「でしょ」
ボクは少し黙ってから、霊夢を見た。
「……じゃあ、今は帰れないっていうより、帰さない方が安全だから返さないということ?」
「そういうこと」
「分かった。安全上の理由なら納得するよ。納得はするけど、気持ちが追いつくかは別問題だけどね」
「……妙に言い方が大人びてるわね、この子」
霊夢が呆れたように言う。
魔理沙は面白そうに笑った。
「だろ? 拾ってみたら、なかなか喋るんだぜ」
「だから魔理沙は拾い物扱いを続けないでほしい」
魔理沙のからかうような声にジトっとした視線を向けてそう返したところで、魔理沙の背後にある箱が目に入った。
木でできた大きな箱。
前に垂れた太い縄。
古びているのに、そこだけ妙に目を引く。
「……あれは?」
「賽銭箱よ」
霊夢が説明してくれる。
「神社に来た人がお金を入れる箱。まあ、最近はほとんど空だけど」
賽銭箱。
その言葉を、頭の中で繰り返した。
木の箱。
垂れた縄。
神様の前に置かれた、空っぽの入れ物。
胸の奥が、ざわりと揺れた。
知らないはずなのに、知っている。
覚えていないはずなのに、体のどこかが勝手に反応する。
――神様の前では、空の手でいてはいけない。
そんな言葉が、頭の奥をかすめた。
「……ナナシ?」
魔理沙の声が聞こえる。
返事をしようとして、少し遅れた。
ボクは無意識に胸元の巾着袋へ手を入れていた。
すると指先に、冷たいものが触れた。
丸くて、硬い。
小さな金属。
取り出すと、それは何枚かの小銭だった。
「……あれ?」
思わず首を傾げる。
こんなもの、袋の中に入っていただろうか。
そして、まるで何度も繰り返してきた習慣のように手だけは迷わなかった。
小銭を握った手を、そっと箱の前に出して静かに手放した。
からん。
乾いた音が、境内に響いた。
「……もしかして今、賽銭入れた?」
そう言って霊夢が賽銭箱の中をすばやく確認する。
「……うん。入れた、と思う」
そう言うと、賽銭箱に小銭が入っていることを確認した霊夢は深く頷いた。
「……いい子じゃない」
声が、明らかに一段やわらかくなった。
魔理沙が横で笑う。
「おい霊夢、露骨に機嫌よくなったな」
「賽銭を入れる子に悪い子はいないわ」
「判断基準が神社に寄りすぎてないか?」
「神社の巫女なんだから当然でしょ」
霊夢は胸を張ってそう言った。
それはそれとして、魔理沙はボクの巾着袋をじっと見ていた。
「なあ、ナナシ。その金、最初から持ってたのか?」
「……分からない。少なくとも、ボクは知らなかったよ」
ボクは巾着袋を見る。
古びた袋。
今は何の変哲もない巾着袋のように見える。
でも、さっきの小銭は確かにここから出てきた。
自分の持ち物のはずなのに、自分でも分からない。
なかなか不安になる状況だ。
「まぁ、人に害を為すものでもなさそうだし、賽銭を入れた子を疑うほど、私は薄情じゃないわ」
「……賽銭がなかったら?」
「……もう少し疑ってたかも」
「正直すぎるよ、霊夢さん」
霊夢の現金な言葉に思わずそう言うと、霊夢は少しだけ口元を緩めた。
「霊夢でいいわよ」
「じゃあ、霊夢」
「順応早いわね」
「呼び方は大事だと思うから」
名前を呼ぶ。
名前で呼ばれる。
それはたぶん、ボクが思っているよりずっと大事なことなのだと思う。
そう言ったボクに満足そうな笑みを向けた霊夢は袖の中から、小さなお札を1枚取り出した。
指先でさらさらと何かを書き足すと、それをボクの巾着袋にぺたりと貼る。
「……これは?」
「おまじない」
「おまじない?」
「妖怪避けよ。絶対じゃないけど、少しは妖怪を退ける」
「……妖怪避け」
当たり前のようにみんな言ってるけど、ここでは妖怪が実在するらしい。
新しい常識として覚えておこう。
「小物相手ならそれなりに効くわ。けど、これで安全ってわけじゃない。力の強い妖怪や、最初から狙いをつけてくるようなのには通じないこともある」
「なるほど。お守りだけど、これだけで安心しきっちゃだめだよってことだね」
「そういうこと」
お札は小さいけれど、貼られたところがほんの少し温かく感じた。
なんか守られてるって感じがする。
「賽銭のお礼?」
「そう。賽銭のお礼」
「それなら、入れてよかったよ。ありがとう」
「……そういう素直なところは大事にしなさい」
霊夢はそう言って、ボクを見る。
「ただし、それは木っ端妖怪にしか効かないわ。天狗や吸血鬼みたいな力が強いやつらには、ほとんど効果がないから」
「天狗……吸血鬼……そんなのもいるんだ」
「いるわよ」
霊夢はあっさりと言った。
あっさり言われても困る。
けれど、ここで困った顔をしても、天狗や吸血鬼がいなくなるわけではなさそうだった。
「とにかく危ないと思ったら、お守りを過信せずちゃんと逃げなさい」
「分かった、逃げる」
「そう。戦えないなら逃げる。誰かを呼ぶ。無理して立ち向かわない」
霊夢の声は淡々としていた。
でも、たぶんこれは大事な忠告だ。
少なくとも、ここ幻想郷にいる間はボクが覚えておくべきことだと思う。
「分かった」
「よろしい」
そう言うと霊夢が頭を優しく撫でてくれた。
なんだか身長差もあるのかもしれないけれど、霊夢にものすごく姉みを感じる……。
そんな様子を見ていた魔理沙が横で笑った。
「霊夢、ずいぶん面倒見がいいじゃないか」
「……賽銭分の仕事をしただけよ」
霊夢がそう言って機嫌よさそうに鼻歌交じりに賽銭箱をまた覗いた。
そんな霊夢を見て魔理沙が微笑ましそうに笑う。
——さっきまで知らない場所で、知らない人たちに囲まれていたはずなのに。
名前を呼ばれて、賽銭を入れて、おまじないをもらって。
ほんの少しだけ、ここにいてもいいよ、と言われたような気がした。
帰る場所はまだ分からない。
自分が誰なのかも分からない。
けれど、今すぐひとりで放り出されたわけではない。
少なくとも今は、霊夢と魔理沙の会話の中にいられる。
名前を呼ばれて、返事をすることができる。
「……ナナシ」
小さく、自分でもその名前を呼んでみた。
まだ少し、借り物みたいな響きだった。
でも、不思議と嫌ではなかった。
その瞬間、胸の奥で何かがふっと緩んだ。
張りつめていた糸が、少しだけほどけるような感覚だった。
……たしかに無縁塚で目を覚ましてから、ずっと体のどこかに力が入っていた気がする。
知らない場所。
知らない名前。
知らない自分。
そんな疎外感に押し潰されないように、必死だった。
でも今だけは、少しだけ肩の力を抜いてもいいような気がした。
——だから、油断していたのかもしれない。
最初に消えたのは、今まで不通に聞こえていた鳥の声だった。
それが鳴き止んだ、というより……途中で切られたみたいに、ぷつりと途絶えた。
「……?」
顔を上げる。
次に、木々のざわめきが遠くなる。
風は吹いているはずなのに、葉の擦れる音だけが聞こえない。
霊夢と魔理沙の声も、すぐ近くにいるはずなのに、少しずつ薄くなっていく。
水の中で聞く音みたいに、だんだんぼやけていく。
——変だ。
そう思った瞬間、足元が冷えた。
地面が冷たいわけじゃない。
冷たい何かが、ボクの足首へ触れる感覚だ。
「――っ」
最初に反応したのは、霊夢だった。
さっきまで緩んでいた表情が、一瞬で鋭くなる。
「魔理沙、下がって!」
「どうした!?」
「この子、攫われる!」
——攫われる。
その言葉を理解するより早く、霊夢がボクの腕を掴んだ。
熱い。
さっきまで冷えきっていた体に、霊夢の手の熱だけがはっきり伝わる。
その熱にすがるように、ボクは手を伸ばそうとした。
けれど、うまく体が動かない。
見えない手。
見えない縄。
それが足首を、膝を、胸を通り抜けて、全身にまとわりついてくる感覚だ。
——赤い札が宙に舞う。
赤い札は風もないのに鋭く飛び回り、ボクの周囲を囲んだ。
赤い光が輪になって、足元から伸びる冷たい気配を押し返す。
そこでようやく、魔理沙の声がはっきり戻ってきた。
「ナナシ!」
名前を呼ばれて、ぼやけた視界の輪郭が少しだけ戻る。
でも、足元の黒は消えない。
黒い水みたいに広がりながら、霊夢が放つ赤い光の隙間を探しているようだ。
魔理沙もすぐに前へ出た。
手に持った道具へ光を集め、こちらを庇うように構える。
さっきまで空で意地悪く笑っていた人とは、まるで別人みたいに頼もしそうだった。
「ナナシ、動くな!」
「う、動きたくても、身動きひとつとれないんだけど!?」
気の抜けた返事になった。
けれど、笑えない。
体が引っ張られている。
どこかへ連れていかれる。
……怖い。
霊夢の札が今度はさらに強く光る。
赤い光が、もう一度足元の黒いものを押し潰すように広がった。
けれど、赤に押しつぶされてもなお黒は消えない。
むしろ、赤い光の隙間を探すように先ほどよりも細く長くボクの身体に伸びてくる。
蛇みたいに。
糸みたいに。
「何よこれ。ただの神隠しじゃない……紫の隙間でもない? でも、境界をこじ開けてる……?」
「術の効果は切れないのか!?」
魔理沙が叫ぶ。
「無理に切ったら、この子の方が壊れる!」
壊れる。
その言葉を聞いた瞬間、背筋が冷たくなった。
赤い光が、黒い影ともう一度激しくぶつかり合った。
視界に映る空間がぐにゃりと歪む。
耳の奥で、聞いたことのない音が鳴る。
ガラスが割れる音にも似ている。
縄が張り詰める音にも似ている。
「ナナシ!」
魔理沙の声が聞こえる。
「っ、行き先をずらす……!」
「霊夢!」
「完全には止められない! でも、連れて行かせはしない!」
そう言うと霊夢が袖からさらに大量の赤い札を取り出して放ち、その赤い札が一斉に弾けた。
境内に、まばゆい光が広がる。
足元の黒が今度は明確にひしゃげる。
……けれど、消えない。
消えないまま、ボクの足元の地面がまるでなくなってしまったかのようにふっと消えた。
「あ……」
指先から力が抜け……霊夢の手が離れる。
「ナナシ!」
「魔理沙……!」
声が遠ざかっていく。
そして霊夢の伸ばした手も、魔理沙の顔も、ぐるりと反転して見えなくなった。