ワケアリばかりのインクリング   作:冴月冴月

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ハイカラな朝活

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《━━━〜〜♪♪〜━━━!!》

 

 

 

 

 

「……ん゙……朝…?」

 

 

 耳元で鳴り響く、胸の底まで震わされるような重低音と、『友人』たちの歌声。

 手探りで己の枕元を手繰り、音の発生源であるスマホを見つけてアラームを止める。ぴたりと彼女らの代表曲も止まった。

 

 画面を見ると時刻は午前7時。まだ友人や仕事仲間は寝ている時間。

 

 

 ベッドから跳ね起き、電気を点ける。カーテンを雑に開き、そのまま洗面所へ。

 

 顔を洗い、髪型を整え、寝巻代わりのTシャツから愛用のパーカーとデニムパンツに着替える。

 冷蔵庫からゼリーのパウチを一本取り出し、枕元に放り出されていたヘッドホンとスマホを取り上げて、そのまま玄関に直行する。

 

 こんな風に身一つも同然な状態でふらりと外出することも、『前』にはほとんど無かったな、なんて、今更考えるようなものでは無いことを思い、感傷に浸るような真似をしながら外に出た。

 

 朝の少し冷えた風が頬を、『ゲソ』を撫でる。外廊下にヒトは居らず、静まり返っていた。

 

 手にぶら下げてたヘッドホンを装着し、ワタシはマンションの螺旋階段を降りていく。こんな時間に利用する『イカ』は居ないだろうからと、今の時間帯はエレベーターが止められているのだ。それでいいのか運営。何のためのエレベーターだ。ワタシみたいなイレギュラーのことも少しは考えて欲しい。

 

 おかげでこのマンションに移住して2年間、毎日10階から1階まで階段を降りることになった。普段『バトル』をやらないワタシの足が、今でも細く引き締まっているのはそのお陰だろう。そう思うと文句を言うのも何か違う気がしてくるのが困りものだ。

 

 

 

 

 ゼリーを一息で吸い上げながら少し歩くと、開けた街の広場が見えてくる。横断歩道の白いラインが交差するように塗られた中央、その正面には黄緑色のそびえ立つ建造物。

 

 『イカスツリー』と呼ばれる施設兼シンボル。1階がロビーになっており、バトルの申し込みができるがワタシはほとんど入ったことが無い。

 昼間になれば入口近くで屯すイカや、バトルをやりに連れ立って入っていくイカを見かけるようになるが、今はひとりも居ない。

 

 大型モニターは『ギア』のCMを延々と流しており、スピーカーは停止中。音が少なく、ヒトの動きもない朝のハイカラシティは、時間が止まっているかのようだった。

 

 

「━━━━━行くか」

 

 まだ店も開いていない。我らがアイドルたちのニュースはもう少し先。

 

 やる事が限られる今のワタシが行く場所は1つだ。

 

 イカスツリーに向かって右手側。並んだゴミ箱の手前にぽつねんと空いている金網の張られた穴。

 あまりに自然に街並みに溶け込んでいるから、普通のイカはこんなマンホールの事など気にも留めていないだろう。

 そこにワタシは、迷いなく飛び込む。

 しゃがみながら、身体をぎゅっと縮めるようなイメージをすれば、思い通りにその身が小さくなり、1匹の青みがかったイカの姿になっていた。

 

 

 小さな姿で通り抜ける通路は、少し急勾配なウォータースライダーのようにも感じる。しかし真っ暗で気を抜けば上下も分からなくなる上に、イカの姿では体勢を整えるのも一苦労だ。一体今日までに何度、ひっくり返った不格好な姿で飛び出ることになったか。

 

 ……しかしまぁ、今日はそんなことにはならなかったようだ。向かう先に光が見えたので、ワタシは滑りやすい姿勢を止めてヒトの姿に戻る準備をする。

 

 

 

 

 ━━━━━スタンと簡素なデザインのクツで着地したワタシの目の前に広がるは、先ほどの街とはガラリと雰囲気の違う場所だった。

 

 所々に赤紫色の『インク』がぶちまけられており、ヒトの気配は無い。その先に目を凝らしても何も見えないが、ワタシはそこに点在しているものがあると知っている。

 

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 

『ナツメ』、来とったんか。早いのゥ」

 

 何するでもなくその風景を見ていたワタシの背後で、布が擦れるような微かな音がしたかと思うと声がかかった。

 

 『呼ばれた』ワタシが振り返ると、そこには今まさに小さな小屋から出てきた様子で、古くから存在する竹製の『ブキ』を杖代わりにして立つ、一見して気の抜けたような空気を纏ったご老人がいた。

 

「あ、おはようございます。『司令』だってお早いじゃないですか」

 

 『アタリメ司令』、ワタシは略して『司令』と呼んでしまっている。

 今はゆるりとしたご老人に見えるが、歴史に残るようなもの凄い功績を残したヒトだ。その証拠に頭には年季の入った軍帽を被り、胸元にいくつも勲章を下げていた。

 

「歳を重ねると寝付きが悪くなってかなわんからのゥ…そうじゃ、オハギあるが食うかの?」

 

「あ、じゃあ頂きます」

 

 しかし彼も、今となっては身体のガタに悩まされる近所のおじいちゃんである。招かれた小さな屋台のような建物の縁側に腰掛け、手製のオハギをつまんでいるこのヒトを、一目見てあの伝説の司令だと見抜く者ははたして何人いるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ᔦꙬᔨ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ᔦꙬᔨ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オハギを堪能しながらで大変恐れ入るが、自己紹介のようなことをしてみようと思う。

 

 ワタシは『ホシノ・ナツメ』。今年18歳になったばかりのイカ…インクリングだ。

 経歴はその辺のイカとはかけ離れるほど濃いのだが…それだけじゃない。

 

 ワタシには『前世』というものの記憶があった。それもその種族は、この世界では太古の昔に滅びたとされる、『人間』。

 今のイカ社会と同じくらい発展していて、この世界は前世では━━━━━ひとつのゲームとして愛されていた。

 

 『Splatoon(スプラトゥーン)』、ヒトの姿をしたイカがカラフルなインクを塗り合う陣取り合戦のようなゲームだ。あの天下のゲーム会社が作り上げ、世界で爆発的人気を誇った。

 ワタシも例外なくそのゲームに脳を焼かれた。プレイ自体はそこまで上手くなくて、万年B帯止まり程度の実力だったが、ゲーム性よりもワタシが惹かれていたのは『世界観』の方だった。

 キャラクターひとりひとりの過去だとか、大ナワバリバトルだとか、ジャッジくんとコジャッジくんの話だとか。

 作り込まれた世界は没入感に溢れていて、深堀りや考察を深めることが楽しかった。

 

 何よりも、享楽的で気の抜けているイカたちの暮らしが、当時少し精神的に疲れていたワタシには羨ましかったのを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けばワタシは死んでいて、気付けばワタシはイカの姿になっていた。

 死因はよく思い出せない。事故か、事件か、それとも病気か……。

 

 ひとつ確かなのは、この世界に生を受けたと自覚した時……全く未練も後悔も感じなかったということ。

 

 今はゆるりと流れる時間と一緒に、マイペースな生活を送れている。前世では考えられなかったことだ。

 前世の生活は………学校通いながら、バイト掛け持ちして、深夜に帰ってきて、明日の朝ごはん作り置きして、泥みたいに眠る………こうしてみると頭おかしいスケジュールだな……。

 唯一スプラがプレイできたのは、比較的空き時間が多く取れる日曜日だった。1週間分を埋める勢いで遊んでいたハズだ。プレイ時間自体は3時間とかそこらだったが。

 

 今は前世の癖と今世の実家(・・)の影響で早起きは相変わらずだが、精神的余裕はかなり多く持てている。今のようにフラッと散歩し、景色を見て、優しいおじいちゃんの元で甘味を楽しむ……いや、その優しいおじいちゃんは歴史人物なのだが。

 

 いつもこうしてオハギをご馳走されているからか、ほとんど忘れかけてしまっているワタシが居る。

 

 

 

「そうじゃナツメ…いや、『副司令』」

 

 そのおじいちゃん…いや『司令』から、突然真面目な声色で話しかけられた。

 それも先程までの名前呼びではなく、『役職名』を使って。

 

「んぐっ……なんでしょう司令」

 

 詰まらせない程度に急いでオハギを飲み込む。

 これは雰囲気からして『仕事』の話だ。ワタシも真面目に聞く姿勢を取った。

 

「…最近になってのゥ、『オクタリアン』の動きが活発になっておるんじゃ。きゃつら、近い内に何かするつもりなのかもしれん」

 

 そう司令は言った。

 

 『オクタリアン』…ワタシたちイカとは別の、所謂『タコ』族の軍勢である。

 『スプラトゥーン2』ではタコガールの『イイダ』がアーティストとして現れたり、後からタコを操作キャラに選べるようになったりと味方化が進むのだが、今の時点ではまだ敵同士だ。

 

 彼らは現在電力不足に悩まされており…新たなエネルギー源として、ハイカラシティの電気を担っている『オオデンチナマズ』を攫うつもりでいる。

 

 その計画の為の準備に動き始めたのを、司令が察知したと。年老いても感覚は健在なんだな。

 

「ありゃ、最近大人しかったんですけどねー。どうします? 見張り強化しましょうか?」

 

「そうじゃのゥ。前にも増してよく監視する必要がありそうじゃ。この事は『1号』たちにも伝えておくつもりじゃが、オヌシもくれぐれも警戒を怠らんようにの」

 

 ワタシの提案に司令は頷き、よっこらと腰を上げた。

 

「さてと、ワシはこれから日干しをしに行こうと思うんじゃが……オヌシはどうするかの?」

 

 司令にそう言われて、そういえばとスマホを取り出す。そして画面に表示されている時刻を見て、ワタシも席を立つことにした。

 

「まったりしてたからもう時間ですね。丁度いいんでワタシも仕事行ってこようと思います」

 

 そろそろ『本職』の時間が迫っていたからだ。

 ……あ、いや別に、ヒーロー活動が本職の片手間だとか、副業だとか言うつもりはないが。

 

「おぉそうかィ。また何時でも来るんじゃぞ」

 

「ありがとうございます。またオハギご馳走してくださいね?」

 

「オハギ目的で来られるのは困るかものゥ……」

 

「やですね、冗談ですよジョーダン」

 

 軽口のような言葉を交わしつつ、会釈してマンホールに向かう。我ながらかつての勇者に対して不敬もいい所だと思うが、普段からあのゆるゆるのおじいちゃんな姿を見ているとこちらも気が抜けてきてしまうのだ。

 

 それに司令も『もっと肩の力ぬいて良いんじゃぞ?』って初対面の時言ってたし。ワタシはその言葉に従ったまでだ。何ら問題ない。流石に敬語は外さないが。

 

 

 ……さて、再びイカ形態になってマンホールに飛び込めば、景色は馴染み深い街中へ早変わり。

 先程見た時よりもヒトが増えている。丁度他のイカたちも活動を始めた頃のようだ。

 

「……さーて、仕事頑張るかー」

 

 気合を入れるにしては気の抜けた宣言を誰にともなくしながら、ワタシは仕事場に足を向けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

【人物紹介】

 

ホシノ・ナツメ

 

・年齢:18歳

 

・身長:168cm

 

・種族:インクリング

 

・所属:NEW!カラストンビ部隊 兼 [???]

 

 

 転生者で『元・人間』。スプラトゥーンの世界観に魅了されていた。前世では中々過酷な生活を送っていたらしい。

 ヒーローとして人知れず活動しており、NEW!カラストンビ部隊の『副司令』を担当している。仕事は無線越しでの指揮やアタリメ司令の補佐など。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めまして、もしくはまたお会いできましたね。

冴月冴月です。

 

他小説もある中でですが、尊敬しているとある方に後押しされ遂に執筆に乗り出したスプラトゥーンの小説です。ネタ自体はかなり昔から温めていたもので、設定もかなり凝っていると思います。

 

スプラが好きな方々を楽しませられる小説を目指して頑張りますので、是非読んで行かれて下さい。

 

 

…ちなみに皆さん誰推しですか? 私はイイダ推しです。全部が好き。

 

 

 

 

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