ここで突然だが、ワタシの職業について。
この世界において、大体のイカはバトルで日銭を稼いでいることが多い。イカは基本楽しいことしかしていたくないので、仕事なんて以ての外である。
しかしワタシは、
だから他の稼ぎが欲しいわけだが。なんとそんなワタシには天職があった。
「いい感じですよナツメさん! じゃあ次はそこの壁にもたれる感じで……」
パシャパシャと連続で鳴るシャッター音、同時に焚かれる真っ白なフラッシュに目が焼けそうになる。そして目の前では流暢にイカ語を話すクラゲが、次々と被写体……であるワタシに指示を飛ばしている。
そう。ワタシの『天職』というのは、『ファッションモデル』。
色々な格好で写真を撮られる仕事である。
というのも、今世のワタシは中々容姿が整っている。いや自惚れとかでは断じてない。本当に。
肌は日焼けを知らないような真っ白、ゲソは青みがかった白、先は淡い青色のグラデーションになっており、それだけじゃなく先の部分がゼリーみたいに少し透けている。何故かは知らないが生まれつきらしい。
目は灰…というより銀。光が当たると中々に綺麗な色に見える。
スタイルもそれなりに良いので、何を着ても大体似合う。写真映えの擬人化みたいな存在なのだ。ちなみにもう一度言うが自惚れてない。
ワタシは未だ、前世の大した特徴もない人間の姿が自分として定着している。だからなのか、今世のイカの身体を自分のものとイマイチ認識できてない。鏡を見る度に「うわこいつかわよ」なんてナルシストMAXなセリフを言いそうになる*1し、出来上がった自分のモデル写真を見て「誰この美少女」とかほざいたりもするが、それは全て自分ではなくこの身体を褒めてるだけに過ぎない。
…まぁそう説明した所で、偶々ワタシのナルシ発言を聞いてしまった2人の友人は納得せず終いだったが。
『……いやまぁ、ねぇ。確かにナツメちゃん可愛いけど』
『アタシ知ってる! ナツメちゃんみたいな子のこと『おもしれー女』って言うんだよね? あと残念系美少女とか?』
と、いうのが友人たちに言われた言葉である。
おい後ろの方。どこで覚えたそんな言葉。
…それはともかく、容赦なく言われてる割に可愛いってことは認められている。やっぱこの身体凄い。
まぁその友人たちは、ワタシなんかよりもっと可愛いのだが。所謂国民的美少女というアレだ。アイドルをやっているだけあってか、ワタシみたいな態度には可愛げの欠片もないヤツと比べたら仕草まで可愛い。無敵か?
折角なので今日会いに行く時は最近流行りの喫茶店のカフェオレと、有名ファストフード店の新作ポテトを献上しようと思う。
始めた時は無名もいい所だったモデル業も今ではだいぶ板に付き、トップモデルの名まで賜っている。
同じタイミングでメキメキと名を伸ばし始めた関係か、彼女ら『シオカラーズ』とは並べられがちである。「モデルといえば『ナツメ』、アイドルといえば『シオカラーズ』」といった感じで。
いや勝手にあんな巨星と並べないで頂きたいのだが。力不足でこっちが燃え尽きるから。
……とまぁ、そこまでの知名度を獲得しただけあって、仕事には困らないし、そこそこ余裕もって暮らせるお金もある。
今世の生活は中々安定していた。
「今日の撮影は以上でーす! お疲れ様でした!」
「…お疲れ様です」
様々な服に着替え、言われるがままにポーズを取ってはカメラに撮られ続けること数時間後、撮影終了の声が掛かった。
『前世』におけるモデル業もこんな感じだったのかは定かじゃないが、少なくともこの世界でのモデルはかなり楽な仕事である。何せ色々とユルいから。
撮影開始は遅起きなイカに合わせてか、かなり遅い時刻に決められており、その上多少遅刻しても怒られない。ワタシが遅刻したことは無いが、前に他のモデルのガールが遅れてきた時は特にお咎めなしだった。あまりにユルい。
仕事で主にワタシが着て撮られるのは、最新作の『ギア』であり、ハイカラシティの流行はワタシから始まってると言っても今なら過言にならないかもしれない。
一時期には『ナツメホワイト』とか言ってゲソの色を青みがかった白にするのが流行ったりした。町中が白に染まることになったが、その時は変装しないで出かけても素性がバレなくなっていたのでラッキーだった。それとは別で絵面に少しの恐怖を覚えたが。流行りって怖い。
ただまぁ、そろそろひたすら撮られるだけの仕事は終了しそうである。最近はテレビ番組への出演を打診されており、ついにワタシも静止画以外で人目(イカ目?)を浴びることになるだろうからだ。
今までより確実に忙しさが増すだろうが構わない。元々結構ヒマだから、寧ろもっと幅広く色々やってみたいまである。
………まあ『裏の仕事』との兼ね合いはしっかり考えておかなければならないとは思うが。
撮影用の服から私服に戻り、スタジオを出てから暫く。
ハイカラシティの一番栄えている所まで戻ってきたワタシは、途中で寄り道して自分用のバーガーセットと友人用の山盛りポテト、別の店でホットカフェオレを購入した。
そして更に少し歩いた所で、ワタシのスマホが例のメロディを奏で始めた。
『聞けば天国、歌えば極楽』…イカ社会で知らない者は居ない。
画面を点ければそこに表示されているのは、我らがアイドル様のクールな方の名前。
即座にボタンを押す。するとスマホの向こうから、ゆるりとした口調の声が聞こえてきた。
《…もしもしナツメちゃん? 今大丈夫そ?》
声と共に流れ込んでくるのは向こう側に広がっているであろう雑踏の音。どうやら彼女も今、街中のどこかに居るらしい。
「おぉ、やっほホタル。ワタシはもう仕事終わってタコツボバレー向かってるけどそっちは?」
《あっホント? 丁度ウチらも終わって、おじいちゃんとこ行こうとしてたんよ。合流する?》
「するする。マンホール前でどうよ」
《オッケ〜》
『ケンサキ・ホタル』、先程話題にした2人組の国民的アイドルユニット『シオカラーズ』のクール担当。ワタシの最推し。
少し訛り気味のユルい話口調がなんか癖になるので、いつかASMRでも出して欲しいなんて我欲丸出しなことを密かに思っていたりする。
まさかまさか、前世には画面の手前側で熱狂した推したちと顔見知りに、更に今では友人関係にまで発展するとは。今でも少し信じられていない。今世一番の予想外と言っても過言じゃない。
彼女らとの出会いは2年前、司令に腕の良さを買われてヒーローの仲間入りをした時だった。
ちょうどモデル業を始めたことで、ハイカラシティへの出入りが増えていた頃、偶々マンホールの近くを通り過ぎようとした際、司令に声を掛けられたことが始まり。
丁度人員を増やしたいと思っていた、とからから笑う司令に面食らったのを今でも覚えている。ワタシは前世の記憶のお陰で司令を知っていたから平気だったが、街中で知らない老人に『おヌシ、イイ目をしておるな! チョイと頼みを聞いてくれんか?』なんていきなり話しかけられれば通報案件だと思う。次からはもっと勧誘の仕方を考えてほしいと、司令にはしっかり苦言を呈しておいた。
そうしてマンホールの向こうに招かれ、オハギ片手に色々話を聞いていた時、MV撮影を終わらせたシオカラーズがタコツボバレーにやって来た。
『わぁ! キミが新しいメンバー?! 可愛いー! アタシ『アオリ』! よろしくねナツメちゃん!!』
『ちょっ、アオリちゃんグイグイ行き過ぎ。その子引いちゃってんよ……あぁめんごね、アタシは『ホタル』。これから一緒にガンバろ〜ね、ナツメちゃん』
『……こちらこそ。これから色々お世話になるから…よろしく』
……今でも懐かしい。あの時は恐れ多いあまり、死ぬほど無口だった気がする。
それが今じゃすっかり変な女扱いになってしまったものだから、時間の流れってのは恐ろしい。
「ホタルの好きなカフェオレ買ったから、後で一緒に飲も」
《えっマジで? 嬉しいわ〜、ナツメちゃんホント大好き、大親友、流石ズッ友やね》
……嬉しいのは分かるがそんなに
「……お、いたいた」
慣れた足取りで向かったマンホールの場所には、既に待ち合わせ相手の姿。
地味な服に深々被ったキャップ、顔を覆い隠すマスク。
素性がバレないように変装した『オフモード』のホタルが立っていた。
しかし1人だけの様子。ワタシは手を振り近寄りながら声を掛ける。
「お待たせ。アオリが居ないみたいだけどなんかあった?」
「あ、ナツメちゃんやっほ〜。アオリちゃんね、どうやらまたサングラスどっかやっちゃったみたいで。今楽屋とか探しまくってるんよ」
「まぁアオリらしいわ」
ドジっ子やらかして外していただけだった。あまりにもアオリちゃんである。そういう所が可愛い。*3
「んじゃ先ワタシたちだけで入っとくか。アオリも探し物見つかり次第来るんでしょ?」
「そだね、入ろ入ろ。カフェオレがアタシを待ってんだかんね」
「どんだけ飲みたいんだカフェオレ」
頭がカフェオレに支配されているホタルに呆れつつも、そうしてワタシは本日二度目のマンホールダイブを決めた。
「おゥ、ホタルにナツメ、よく来たのゥ」
「やっほ〜おじいちゃん、変わりなさそ?」
「バッチグーじゃ」
ワタシたちが芸能活動中の間も見張りを続けていたらしい司令に迎えられ、仕事後のまったりティータイムが始まった。
つまむのはポテト、ハンバーガー、オハギ、そしてカフェオレと、面白いぐらい統一性ゼロ。しかし一仕事終わらせてきた直後のワタシたちはとにかくのんびりしたいだけなので、そこを気にする事はない。細かいことを気にしなくなったのは今世からなので、思考が段々イカ寄りになっているのかもしれない。
「ごめーん遅くなった!!」
しばらくゆったりした時間が流れていたが、人影がマンホールから飛び出してきたことで一度その時間は終了することとなった。
走ってきたのかほんの少しだけ息を乱した様子で現れたのは。
「おかえりアオリちゃん、サングラスあった?」
「あったあった! もう失くさないようにしないと…!」
ピンク色のニット帽から覗く黒いゲソ、サングラス越しでもパッと咲くような笑顔。
『アタリメ・アオリ』、シオカラーズの元気担当。天真爛漫の擬人化。元気の権化。スタミナ系。ワタシの最推し*4。
「なら良かった。あ、ほら、ナツメちゃんがポテト買ってきてくれたんよ? しかも新作の」
「えっ、あの新作ポテトっ?!?!」
ホタルの一言でアオリの目がギランと光った。それもそのはず、ワタシが買ってきたのはアオリが発売前から食べたいと言っていたポテトだったのだから。
「やったーっ!!! ありがとナツメちゃん! 大大大好き!!!」
「ポテト買ってきただけで大袈裟だな……」
飛び跳ねて無邪気に喜ぶアオリに癒しを感じる。なんだこの可愛い生き物は。
それはそれとして
無自覚兵器が過ぎる。流石は『3』になっても人気健在どころかうなぎ登りする天下のアイドル様だ。
2人共々反応が可愛かったのでまたいつか2人には食べ物を献上しようと思う。
「ほらアオリちゃん、あんまほっとくと冷めちゃうよ」
「あっ確かに! 食べよ食べよ!」
「…すご、このポテトめっちゃ塩加減良い」
「おいしー! いくらでも食べれちゃうよ!」
「……帰ったら体重計乗らないと………」
………この光景だけで満腹になれそうだ。
というかアオリ、なぜワタシを挟んでホタルの反対側に座る。挟むなワタシを。シオカラーズに挟まるのは重罪って前世あれほど言われ……
「……(にぱーっ)」
ダメだ太陽級のスマイルされたら退くに退けない…!
…仕方ないからそのまま挟まってるとするか。…いや全然喜んでないけど。ラッキーとか微塵も思ってないけど。
空気が美味いとか欠片も思ってないけど……!!
うん無理、煩悩しか浮かばない。
……ワタシこの後過激なアオホタ勢に消されたりしないだろうか…? 前世なら誰かしらから刺されるタイプの構図になってしまってるが……。
頼むから全世界のシオカラーズファンよ、許してくれ。
挟まってるのはあくまで美少女のガワだから…景観は損なってないから……。それに不可抗力だったし2人とも嬉しそうだからこれは完全にセーフなんだ……!
そうして頭の中で思いつく限りの言い訳を並べながら、ワタシはしばらくアオホタに挟まれる羽目になった。死ぬかと思った。*5
*ナツメ
容姿端麗でスタイルも良く背も高い。色素薄めの肌に銀色の瞳、淡い青色のグラデーションが掛かった雪のような白銀色のゲソをもつが、何故かゲソの先が少し
表の顔としてはモデル業をしており、あのシオカラーズと並ぶ知名度を誇っている。