ミズタかわいいよね。私の最推し。
オクタリアンの中の異端児、無気力なタコゾネスこと『ミズタ=アハト』の黄色い瞳が、驚いたように見開かれた。
「“…それになんか、凄い大所帯だし……みんなボクに用があるの?”」
そしてワタシの後ろへ視線を向け、怪訝そうに目を細めた。彼女の視線の先には、胡散臭くニコニコと笑うムラキ先輩と、紙袋を抱えたイイダが立っている。
「“イイダ曰くもう少しで交代らしいから、丁度いいなって思ってさ。ワタシは久々に帰ってきたから顔見たいなと思って来ただけ。先輩はなんかくっついてきた。イイダは…キミに返却物があるらしいよ?”」
端的に目的を述べると、ミズタは納得したように息を吐いた。
「“返却物……あぁなるほど、アレか”」
イイダが頷き、1歩前に出た。ミズタに持っていた紙袋を手渡す。
「“はいコレ、前に貸してくれたレコード。全部聞き終わったから、返すね”」
「“……それで、どうだった?”」
「“初めて聴くような音源ばっかりだったよ! 電流が奔ったかと思った! 今後の創作活動にも活かせそう!”」
「“…うん、そっか”」
目をキラキラと輝かせるイイダと、一見分かりにくいけど満足そうに笑っているミズタ。コレもまた、この数年間で見慣れた光景だった。
まさか、イイダのオクタリアン時代にこんなに気の合う親友が居たとは。ワタシはその目で初めて見るまでは
それは確か、ワタシがタコゾネス養成所の中等科に昇級したばかり位の頃だった気がする。
既にイイダとは飛び級競走に発展し始めており*1、日々単位を取る為の学習に追われていて。
そんな忙しい間の休み時間に、校舎内でばったりイイダと出会した。
その時イイダの隣には、兵服を着崩し、大量のピアスを開けたたタコガール━━ミズタが居た。
イイダに笑顔で紹介されたミズタは、友人と反して居心地悪そうにしていたっけか。
この時のワタシは、特に何も思わず「オクタリアン時代のイイダにも仲良い友達が居たのか…」などと思っていたのだが。
ふと、紹介されたミズタの名前に引っ掛かりを覚えた。『ミズタ=アハト』…初めて聞いた気がしない、と。
しかしゲーム内でミズタのようなタコのキャラクターを見かけた覚えは無かった。こんなにも特徴的な姿と口調をしていれば、一目見ただけで覚えられる自信があるにも関わらず。
ワタシはイイダと話しているミズタの横顔を凝視しながら熟考した。イイダと比べて薄く平たいタコ足で顔の半分が隠れており、インナーがずり落ちて肩周りの肌が大きく露出している。
片目隠れで、着こなしが緩いオクタリアン。纏めてみてもやはり心当たりは無く。
仕方なく一度考えるのを止め、2人の会話に耳を傾けていた時だった。
「“━━ミズタ、今日も業後にあのクラブに行くの?”」
「“あー、うん。他にやることも無いし、今行けば良い感じの曲が浮かびそうなんだよね”」
「“そっか〜…ミズタ、前にも凄い良い曲作ってたものね。あの曲を聴かせてもらった時は、思わずシビれちゃったな〜”」
「“大げさだな……まぁけど、確かにクラブの店員にも言われたよ。『将来有望なDJだ』ってね”」
……DJ。タコで、DJ。
スプラトゥーンの作品内で、タコのDJと呼ばれるキャラクターはそう多くない。
挙げるなら、DJタコワサ将軍、イイダ、バンドグループ『sashimori』の『
━━そして『深海メトロ』のBGM担当。
DJ『
点と点が線で繋がった、というのはこんな感触か。
その名が頭に挙がってからはもう早い。前世夢中で読み漁った設定資料集の記憶が、鮮明に蘇ってきた。
将来を有望視されたDJ。音楽に没頭するがあまり深海メトロに足を踏み入れ消毒された結果、ただ機械のようにBGMを演奏するだけの存在に成り果ててしまったタコガール。本名を『ミズタ=アハト』。
ジャケットイラストでしか姿が分からなかった彼女は、消毒によって青く染められた髪で顔の半分を隠し、黒いオーバーサイズのシャツを着ていたために肩が一方だけ露出していた。
……もう一度ミズタを見る。肌は色白で、髪は上位種特有の黒茶色。イラストでは見ることの叶わなかった目元は、本人のクールな振る舞いに反し、おっとりと目尻が垂れていてどこか可愛らしい。
消毒タコ特有の色合いではないこととサングラスをしていないことを除けば、Dedf1shと完全に一致していた。
━━なるほど。消毒される前のDedf1shは、タコゾネス時代のイイダと仲良しだったのか。
前世では知りもしなかったことなのに、何ともしっくり来るような気持ちだった。
オクタリアンの世界に居ると、前世では知り得なかった発見ばかりだ。
実際にイイダと『飛び級競走*2』をして、イイダの化け物じみた才能を再確認したり。
イイダとDedf1shが親友だったことを初めて知ったり。
裏設定などは多く明かされているオクタリアンだが、こうして学んだり息抜きしたりという生活の描写はそれほど多くなかったと思う。
だからこそこうして、目の前でタコたちの暮らしを見られることは、転生したことによる最大のメリットだろう。
……まぁ未だに、ワタシが何故オクタリアンで育ったのかは詳しく知らないのだが。
先輩に訊けば「気づいたら居た」と言われ、将軍に訊けば「入口付近で拾った」とだけ言われ………。
……イカ世界でも捨て子って存在するのだろうか。まあ、やりたいことばかりやっているような種族だ、そういう親もいてしまうのかもしれないし、ワタシもその中のひとりだっただけなのかもしれないが。
めちゃくちゃ間が空いてしまった。
あんまりズルズルやっても進まないので次回から原作突入しようと思います。
私がやりたいこと、書きたい展開があるのはずっと先なのでね、雑にとは言わないけれどサクサク進んでいきたい所存であります。