クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
ある日のこと、お腹の大きくなっていた綾乃が俺と一緒に寝ていた大きなベッドから起き上がろうとした時に、うっ……と言ってうずくまった。
「大丈夫か綾乃?」
「隆史……なんかお腹の中が破けるというか、赤ちゃんが出る準備を始めたっぽい」
「何! 分かった……綾乃、一度捕獲状態に戻すけどいいか?」
「う、うん」
お腹を押さえてうずくまる綾乃を俺は捕獲状態にして、診療所へと運び込む。
「サイトウ様、どうかされましたか?」
「先生、綾乃が産気づいたのでベッドを借りても良いですか!」
「あ、ああ。彼女は今どこに? 家ですか?」
「連れてきている。とりあえずベッドを貸してくれ」
「わ、わかりました」
いつも妊娠の経過を見てくれていた先生なので信頼はしているが、異世界の出産の施術は大丈夫なのかという不安も無くはない。
「ベッドの用意ができました」
「よし、綾乃を出します」
綾乃を外に出すと、綾乃はベッドの上に寝っ転がりながら出てきてくれた。
綾乃の健康状態は妊娠(破水)になっていて、出産が始まっているのがわかる。
「収納していたのですね?」
「先生、俺は人も捕獲することができるんですよ。モンスターと同じように収納していました」
「なるほど……いえ、秘密を教えていただきありがとうございます。看護師の皆さんをサイトウ様は呼んできてもらっても良いですか、出産の施術を始めますので」
「先生、お願いします」
俺は近くの家に住む看護師達を呼びに行き、看護師の皆さんが出勤すると、俺は廊下で待つように言われ、1時間ほど経過する。
すると施術室の中から元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「サイトウ様、元気な女の子です!」
「よかった……綾乃は!」
「奥さんも元気ですし、内出血なども無く。今扉を空けますね」
俺は施術室の中に入ると看護師がお湯で赤ん坊を洗い、綾乃も全身から汗を噴き出していたが、にっこり笑って。
「隆史君……無事にパパになれたね!」
「綾乃……ありがとう! いやお疲れ様」
「ちょっと疲れちゃった……お腹に残った胎盤を取り出すから、終わったら隆史君の中で自動回復させてもらっていい?」
「勿論!」
「よかった……」
俺は赤ん坊をタオルで拭いてやる手伝いをしてから、再び廊下に出ると、綾乃の中にあった胎盤の排泄も終ったらしく、俺は綾乃と赤ん坊を捕獲状態にさせて、先生にお礼を言った。
「先生、看護師の皆さん。朝早くから対応してくださりありがとうございます」
「いえ、英雄様の赤ん坊を取り上げる事ができて、こちらとしても感無量です。第二子、第三子……気が早いかもしれませんが、その時も是非当診療所を頼ってくださると」
「はい、その時もよろしくお願いします」
俺は先生にお礼と料金を支払って、自宅に戻るのだった。
エリーゼに言って、今日の予定は全キャンセルさせてもらい、綾乃との時間にすることにした。
綾乃は捕獲状態になったことで、回復のタイマーが始まり、30分程度で全回復していた。
「はぁ……うん、下腹部の痛みとかももう無いね。あはは、やっぱり出産後だからお腹の皮がダルンダルンになっちゃった。恥ずかしいな」
「俺は気にしないけどな」
「でも恥ずかしいじゃん。産後のストレッチと回復魔法で治癒していくね」
「無理は絶対にするなよ」
「わかってる」
お腹は皮余りでダルダルになっているけど、胸に関しては出産による体の変化で母乳を作り始めたのか、張り始めていた。
あと胸の大きさも今までDカップくらいだったけど、妊娠によって胸にも脂肪が蓄えられたのか、Fカップくらい2サイズ大きくなっていたので、綾乃のお気に入りの下着のサイズを調整し直すことになったが……。
「赤ちゃんはどう?」
「今レベルアップ処理をして、能力をオールBにしたし、レアリティも★3まで上げておいたよ。あとは病気予防のシンボルも建ててあるから風邪を引いてころっと亡くなるとかはないんじゃないかな?」
「それはよかった。赤ん坊はHPとラック次第で元気に育つか変わるってミンナが言っていたから、離乳するようになったら、ステータスの種を食べさせてあげてもいいかもね」
「気が早いな」
「ふふ、そうかもね……じゃぁ名前を決めないとね」
「斎藤の名跡は継ぐとして……どんな名前が良いとかある?」
俺は幾つか名前候補を出すが、綾乃に渋い顔をされてしまった。
「キラキラネームじゃ無いけど、異世界の名前と少し被せてあげた方が良いんじゃないかな?」
「エリーゼとかミンナとかソフィーとか……ヨーロッパ系の名前をか?」
「いや、カタカタにした時の名前の語感で考えようよ」
とりあえず候補を紙に書き出してみて、綾乃がこれが一番いいんじゃないかなって指さした先にはミカという名前だった。
漢字で書く美香……異世界の名前でもミカはおかしくないネーミングである。
「サイトウ・ミカうん、いい名前だ」
「可愛い女の子に育ってくれると良いな」
「きっと綾乃に似て大和撫子みたいな感じに育つんじゃないか?」
「ふふ、それは楽しみかも」
俺は捕獲状態にしていた赤ん坊をベッドの上に出してあげると、名付けるの技を使って、赤ん坊にサイトウ・ミカという名前を付けてあげるのであった。
ミカって呼ぶと、まだ目もしっかり開けることができないのに、嬉しそうに俺と綾乃の指を握って、微笑んでいるようだった。
しかしすぐに泣き始めて、お腹が空いたのかなって綾乃は胸を出して、ミカに初乳を飲ませ始めると、ミカはゴキュゴキュと勢いよく飲んでいき、絶対将来大食いになりそうって片鱗を見せる。
綾乃も母乳を多く出す方だったから良かったけど、錬金術師が増血剤の応用で母乳量を増やすポーションをジパングでお世話になっている錬金術師が売っていたので、購入して綾乃にプレゼントしたり、日本で売っている粉ミルクを買ってきて、ミカに飲ませてあげるのだった。
経過観察で診療所の先生が、ミカを調べたところ、普通の子よりも数倍発育が良いと太鼓判を押して、スクスクと成長を続けるのだった。
ミカが産まれてから、俺も父親としての自覚が芽生えて、ミカが大人になる頃には、八の島をもっと発展させて、過ごしやすい場所にしないとと気合いを入れる。
とはいえ、八の島も短い冬の季節に入り、農作業もストップ。
農業をしていた島民達は難民になっていてロクに休めていなかったし、八の島に戻ってきても農作業で凄まじく忙しかったため、久しぶりに長期の休みで英気を養っている。
冬と言っても暖かい島なので、雪が降るとかも無い。
平均気温は15度前後。
夏場も過ごしてみて、最高気温は30度ちょっとだったので、遥かに日本より過ごしやすいし、エアコンが無くても何とかなる。
とはいえ、肌寒くなっているのは確かなので、島民分の冬服を作ったり、コットンスライムから取れる毛糸玉を使って毛布を作ったりと島民が寒さで困らないようにしていく。
というか農家の一部はお金を稼いで、早く農地を自分の物にしたいからと町にあるコットンスライムの毛糸玉を布に織り直す工房のアルバイトをしに来たり、漁港で魚の塩漬けを作るアルバイトをしたりしていた。
こういう時にダンジョンがあれば冬場の農民達が稼ぎに来ることができそうだな……なんて考えたり。
それには冒険者ギルドを誘致しなければならないが、一の島がダンジョンバブルに沸いていて、冒険者ギルドの職員が足りてなかったり、各島の復興でも新設された冒険者ギルドに職員が取られて、うちの島は人口が少ないのと、復興が順調に進んでいるが故に冒険者ギルドの新設許可が降りていなかった。
エリーゼはこのままだと数年は冒険者ギルドが誘致できないって危惧し、そこそこ学力がある八の島出身者を一の島の冒険者ギルドに派遣して、臨時職員で経験を積んでもらって、ダンジョンバブルが落ち着いたら、八の島に戻ってきてもらって冒険者ギルドを開設する準備をしていた。
俺の方でも動いていて、ジパングの冒険者ギルドで働いているスズナリに実は……と話を持ちかけていた。
「サイトウの今の拠点はヤシマ王国にあるだと?」
「そうなんだよ……最近こっちのダンジョンに潜る回数が減ったのはヤシマ王国で島の復興に尽力していたからで……」
「でも1ヶ月に1回はジパングのダンジョンで稼いでいるよな? 距離的や時間的におかしくないか?」
「俺が転移者でそういう能力を持っているとしたら?」
「収納の能力以外にも持っているのか?」
「他言無用にしてくれよ」
「ああ、わかってる」
現在スズナリとは冒険者ギルドのある階から更に上の高級レストランとかが入っている場所で、俺の奢りとスズナリを誘って食事をしながら現在の俺の状態を説明した。
「ヤシマ王国って魔王軍を撃退できた数少ない国だよな。まだ前線ではあるって聞くが……」
「実は俺ジパングの100階層突破していて、ダンジョンを作る能力を手に入れたんだよ」
「……まじ?」
「マジマジ、スズナリだから話しているけど、ヤシマ王国では現在空前のダンジョンバブルに湧いてるんだよ。俺が生み出した新設のダンジョンはジパングの仕組みをアップグレードした改善版。しかもヤシマ王国は世界中から冒険者を呼んでいたから、それがダンジョンに潜るようになった……ダンジョン利権で潤っていたジパングは競争相手ができたらどうなるかなー」
「サイトウ、この国が嫌いなのか?」
「好きではないな。役人連中は腐っているし……まぁ勇者パーティーが来たことと、ゲルマ王国が介入して、腐敗した部分の処分が行われたってのは聞いているけど」
「ダンジョンを作ってどれぐらい経過してる?」
「約3ヶ月ってところか」
「なるほど」
スズナリも馬鹿じゃないから、情報のラグを考慮して今後ダンジョン産業でライバルができた都市国家であるジパングが海洋国家でダンジョンの素材を他国に速やかに輸出することができるヤシマ王国との競争はジパングが圧倒的に不利であるとわかるだろう。
「泥舟から救いに来たのか?」
「俺が拠点にしているヤシマ王国の八の島に新しく冒険者ギルドを立ち上げることになったんだが、職員が足りてない。スズナリの権限の範囲内でいいんだが、ジパングの冒険者ギルドで能力はあるけど閑職に回されているとか出世見込みが少い連中を引き抜けないか? 俺の権限でスズナリをギルド長にする手筈は整えておくから」
「そんな空手形発行していいのか?」
「空手形じゃない」
俺は書類を見せる。
そこにはヤシマ王国の正式書類であること、八の島の代表であるエリーゼのサイン、代表選定全権者の欄に俺の名前が書かれており、更にその下にギルド長へ就任予定者がサインを書く欄があった。
スズナリは震えながらその書類を受け取る。
「まじかよ」
「マジだ。俺も忙しくなるから半月後にもう一度ジパングに来るから、その時に移動できる職員を集めておいてくれ」
「ああ、これは俺だけじゃなく、ギルド長にも話していいか?」
「問題ない。ただ八の島の新設されるギルドの長はスズナリ、お前を俺は指名するぞ」
「……一生ギルドの中堅で終わると思っていた俺が、自分の城を持てるんなら喜んで! 閑職に回されている奴も幹部に成れるんなら飛びつくだろう」
「給料に関してはヤシマ王国の冒険者ギルドに準じる。これが平均的なヤシマ王国の冒険者ギルドの給料形態だ」
「……ジパングに比べると低めだが、幹部に成れば十分に高いし、その島にも将来ダンジョンを作るんだろ?」
「勿論」
「なら給料は時間経過で上がると見て良い。ギルドの内装も自由だから酒場を併設して利益を上げられるな……税金に関しても聞かないと」
スズナリも食いつき、俺はスズナリと新しくできる冒険者ギルドについて語り合うのだった。