黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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何千番煎じかわからないガンダム二次創作ですよろしくお願いします

10話くらいまで投稿頻度をかなり早くします
7/31 改稿 1~9話を大幅改稿 圧縮し2話にまでまとめました。
当初設定を勘違いしていたため全面改稿


序章 よりによってサイド7かよ
第1話 よりによって宇宙世紀かよ


 前世の記憶が戻った朝に、特別なことは何も起きなかった。

 

 熱を出したわけでもない。頭を打ったわけでもない。神様も白い部屋も、人生を選び直すための便利な画面も出てこなかった。

 

 目が覚めて、天井を見た。知らない天井だと思った。

 

 同時に、ずっと見慣れていた天井だとも思った。

 

 その矛盾を理解するより先に、頭の中へ三十五年分の記憶が流れ込んできた。

 

 会社へ向かう朝。帰宅してから起動したゲーム。休日に見返したアニメ。積んだままになったプラモデル。ネットの書き込み。食事。仕事。失敗。眠気。どうでもいい会話。

 

 自分が一度、大人として生きていた記憶。

 

 それが今の記憶と混ざり、何がどちらの人生のものなのか分からなくなる。

 

「……う」

 

 声を出そうとして、うまく舌が回らなかった。

 

 体を起こそうとしたが、腕が短い。布団は重く、ベッドから見える床は妙に遠い。

 

 自分の手を見た。

 

 小さい。

 

 信じられないほど小さい。

 

 俺はしばらく、その手を開いたり閉じたりしていた。

 

 前世の記憶では三十五歳だった。少なくとも、最後に眠る前まではそうだったはずだ。会社員で、一人暮らしで、特別立派でもなければ、誰かに恨まれるような生活もしていない。

 

 それが今は、どう見ても幼児だった。

 

 しかも、今までの俺としての記憶も残っている。

 

 父さんと母さんの顔。自分の名前。家の中。よく触って叱られる端末。昨日食べたもの。転んで膝を擦ったこと。

 

 誰かの体を奪ったという感じではなかった。

 

 俺は最初から俺で、そこへ別の人生が急に増えた。理解できたからといって、納得できる話ではない。

 

「レン?」

 

 扉の外から母さんの声がした。返事をしようとしたが、何を言えばいいのか分からなかった。

 

 助けてほしい。

 

 でも、何から助けてほしいのか説明できない。

 

 前世の記憶が戻ったと言って通じるはずもない。そもそも、今の舌では長い説明などできそうになかった。

 

 扉が開き、制服姿の母さんが顔を出した。

 

「起きていたの。今日は早いのね」

 

 母さんは、ベッドの上で固まっている俺を見ると、少しだけ眉を寄せた。

 

「どうしたの?」

 

「……へいき」

 

 やっと出た言葉は、それだけだった。

 

 平気ではない。

 

 けれど、母さんの顔を見たら少しだけ呼吸が楽になった。

 

「本当に?」

 

「うん」

 

 母さんは俺の額へ手を当てた。

 

 熱がないことを確かめ、布団を直し、時計を見た。

 

「まだ少し早いわ。もう一度寝てもいいのよ」

 

「おきる」

 

「分かった。父さんを呼んでくるから、ベッドから一人で飛び降りないこと」

 

「しない」

 

 昨日までなら、たぶんしていた。

 

 今は床までの高さがよく分かる。三歳児の体で頭から落ちたら普通に危ない。

 

 母さんが部屋を出ると、俺はもう一度手を見た。

 

 小さいけれど、動く。

 

 息もできる。痛い場所もない。

 

 まずは、自分がどこにいるのか確かめる必要があった。

 

 その考えだけは、前世の俺らしかった。

 

 ◇

 

 居間の壁には家庭用端末があった。

 

 子どもでも触れるよう、普段は簡単な表示だけになっている。天気、時刻、家族の予定、住宅区からの連絡。

 

 父さんが朝食を準備している間、俺は椅子によじ登り、端末を見上げた。

 

「何を見ているんだ?」

 

「ひにち」

 

「今日は十月十三日だ」

 

 父さん――グレン・イズミが、食卓へ皿を置きながら答えた。

 

「ねんは?」

 

「年?」

 

 聞き方が悪かったらしい。俺は画面の隅を指さした。

 

 そこには数字が並んでいた。

 

 U.C.0070。

 

 最初は意味が分からなかった。

 

 だが、文字を読んだ瞬間、前世の記憶が勝手に答えを出した。

 

 U.C.

 

 Universal Century。

 

 宇宙世紀。

 

 頭の中で何かが一気につながった。

 

 地球連邦

 

 スペースコロニー

 

 ジオン

 

 モビルスーツ

 

 一年戦争

 

 ガンダム

 

「レン?」

 

 父さんの声が遠く聞こえた。俺は端末を見たまま動けなかった。

 

 U.C.0070

 

 この表示だけではまだ決まったわけではないはずなのに。だけど、この体にある記憶と前世の記憶が混ざった今ならわかる。わかってしまった。

 

 古いアニメなのに動きがすごいとか、ガンダムが立つ場面は何度見てもいいとか、シャアは格好いいけれど近くにはいてほしくないとか、好き勝手に見ていた。

 

 ここでは違う。ニュースの向こうで起こる話では済まない。

 

 同じ世界にいる。

 

「おなか、いたい」

 

 気づけば、そう言っていた。

 

 嘘ではなかった。急に胃のあたりが重くなった。

 

 父さんが近づき、俺を椅子から下ろした。

 

「どの辺だ?」

 

「ここ」

 

「食べる前からか?」

 

「いま」

 

「熱はなかったわ」

 

 制服の上着を手にした母さんが戻ってくる。

 

 二人に心配されながら、俺はそれ以上何も言えなかった。

 

 宇宙世紀だ。

 

 よりによって。

 

 未来の世界でも、もっと平和な作品でもなく、人が宇宙へ進出したあとで盛大に殺し合う、あの宇宙世紀。

 

 前世の記憶が戻ったことより、そちらの方がよほど重大だった。

 

「レン、今日は休ませるか?」

 

「だいじょうぶ」

 

「さっきお腹が痛いと言ったでしょう」

 

「もう、へいき」

 

 今度は少しだけ本当だった。

 

 驚きが消えたわけではない。ただ、父さんと母さんが普段どおり話しているのを見ているうちに、目の前の朝食まで戦争に飲み込まれたわけではないと思えた。

 

 今はまだ、U.C.0070年だ。

 

 時間はある。

 

 何ができるかは分からないけれど、少なくとも今日すぐにザクが来るわけではない。

 

 そう考えた途端、急に眠くなった。

 

 前世三十五年分の記憶を整理しながら、三歳の体で考え続けるのは無理があったらしい。

 

「やっぱり顔色がよくないわね」

 

「ねむい」

 

「起きると言ったのはレンだろう」

 

「ねる」

 

「そうしなさい」

 

 父さんに抱き上げられた。子ども扱いされることに抵抗を覚えるより先に、意識が沈んでいく。

 

 最後に考えたのは、宇宙世紀に生まれたことへの不満だった。配置を決めた誰かがいるなら、もう少し安全な世界を選んでほしかった。

 

 ◇

 

 目を覚ましてすぐ、世界のすべてが理解できたわけではない。

 

 家庭用端末で見られる情報には限界があったし、三歳児が軍事や政治の記事を探していれば、両親に不審がられる以前に利用制限へ引っかかった。

 

 それでも、少しずつ確認した。

 

 俺がいるのは地球だった。

 

 窓の外には本物の空があり、天気が変わり、風が吹く。宇宙から落とされた人工的な景色ではない。

 

 住んでいるのは、地球連邦軍の施設に近い住宅区だった。周囲には軍人や技術者、その家族が多い。父さんは技術大尉、母さんは技術中尉。二人とも軍の施設に関係する仕事をしているらしい。

 

 軍人の家庭。

 

 それは少し気になった。

 

 ただし、地球連邦軍の技術士官など、前世で覚えている登場人物の中にはいくらでもいる。父さんと母さんの名前に聞き覚えはなかった。

 

 自分の名前もレン・イズミ。

 

 アムロでも、カイでも、ハヤトでもない。外伝やゲームにもいないはずだ。

 

 もちろんシャアでもなかった。

 

 そこは安心していいのか判断に困る。

 

 少なくとも、誰かの役割を最初から背負わされているわけではなさそうだった。

 

 問題は、俺がどこまで未来を覚えているかだった。

 

 一年戦争がU.C.0079年に始まる。

 

 ジオン軍がモビルスーツを使う。

 

 コロニー落としが起こる。

 

 サイド7が襲われ、アムロがガンダムに乗る。

 

 ホワイトベースが地球へ降り、戦いながら進み、最後はア・バオア・クーへ向かう。大筋は覚えている。だが、細かい日付になると怪しかった。

 

 開戦日は一月だったはずだ。一年戦争の由来でもある年始にはじまり年末に終わる。サイド7襲撃は九月。そこまでは覚えている。何日だったかも、考えれば出てきそうな気がする。

 

 けれど細かい流れを全てとか考えると自信がない。

 

 TV版と映画版と漫画とゲームの差異もあるだろう。

 

 同じ事件でも少しずつ違う。そもそもこの世界が本当になぞるかもわからない。

 

 前世の俺はガンダムが好きだったが、宇宙世紀年表を暗唱できるほどの専門家ではなかった。つまり、未来を知っているというより、ものすごく古くて書き込みだらけの地図を持っているようなものだった。

 

 道の先に崖があることは分かる。何歩先にあるかは分からない。あまり頼りたくない情報だった。

 

 とはいえ、三歳の俺が地球連邦政府へ連絡し、「九年後にジオンがモビルスーツで攻めてきます」と訴えても相手にされるはずがない。

 

 父さんに話すことも考えた。

 

 でも、未来のアニメを見た記憶があります、という説明から始めなければならない。

 

 自分で考えても、信じる方がおかしい。だから、その日は何もしなかった。次の日も、特別なことはしなかった。遊んで、食べて、眠った。

 

 前世の記憶が戻ったからといって、今の人生が消えたわけではなかった。

 

 ◇

 

 時間がたつと、三歳の体にも慣れた。

 

 初めの頃は、できると思った動きに体がついてこなかった。椅子へ登ろうとして落ちたし、走れば足がもつれた。長く考えている途中で眠り、目が覚めたら何を悩んでいたのか忘れていることもあった。

 

 子どもの体は不便だった。

 

 その代わり、前世では気にしなかったことが面白かった。

 

 住宅区を走る小型清掃機。施設へ向かう無人搬送車。家庭用端末の中身。壊れた玩具を父さんが開ける時に見える、小さな基板や駆動部。

 

 機械が動くところを見るのが好きになった。

 

 前世でも機械は嫌いではなかった。プラモデルも触ったし、ゲーム機やパソコンの構成を調べることもあった。ただ、今の世界の機械は、前世より少し先にいる。

 

 表示の仕方も、制御の細かさも違う。分からないから面白い。俺が玩具を分解して戻せなくなった時、父さんは呆れながらも一緒に直してくれた。

 

「開ける前に、元の形を見ておけ」

 

「覚えてたよ」

 

「覚えていたなら、この部品が余るのはおかしいだろう」

 

「予備じゃない?」

 

「違う」

 

 結局、余った部品は車輪を支える留め具だった。なくても少しは動いたが、曲がるたびに片方の車輪が外れた。

 

 前世の記憶があっても、知らないものは知らない。その事実は少し悔しく、同時に安心した。俺は何でもできる人間になったわけではなかった。学校へ通うようになってからも、生活は大きく変わらなかった。

 

 友達と走り、ボールを追い、工作の時間には他の子より少し長く部品を眺めた。勝つ時もあれば負ける時もある。転べば痛いし、悔しければ腹も立つ。

 

 前世が三十五歳だったからといって、今の俺まで三十五歳のままではなかった。

 

 先生に褒められればうれしい。友達と遊べば楽しい。帰りに買ってもらった菓子を落とせば普通に落ち込む。未来に戦争があることは忘れていない。

 

 けれど、九年間ずっと怖がって生きるには、子どもの毎日は忙しかった。宇宙移民を扱った授業では、スペースコロニーの映像が流れた。円筒形の巨大構造物。その内側に広がる街と緑。宇宙に浮かぶ人工の大地。

 

 教室の子どもたちは、宇宙へ行ってみたいとか、地球の方がいいとか、好き勝手に話した。

 

 俺も映像には見入った。前世では絵だったものが、この世界では現実に存在する危険を知っていても、見てみたいと思う気持ちはあった。

 

「レンは宇宙に住みたい?」

 

 隣の席の子に聞かれ、少し考えた。

 

「遊びには行きたい」

 

「住むのは?」

 

「空が本物じゃないの、ちょっと変な感じがしそう」

 

「でも雨が降らないところもあるんだって」

 

「雨がないと楽だけど、ずっとだと困るかも」

 

 そんなことを話して笑った。その授業でジオンの名前も出た。

 

 宇宙移民の自治。独立。地球連邦との対立。

 

 教科書に書かれている内容は簡単だったが、前世の記憶がある俺には、その先が見えていた。教室ではただの社会問題だったものが、数年後には戦争になる。

 

 俺は端末に映るジオン公国の紋章を見た。

 

 何かできるだろうかと考えた。すぐに答えは出た。何もできない。

 

 少なくとも今は。

 

 子どもの俺が、地球連邦とジオンの対立を止める方法などない。父さんと母さんも技術士官であって、国家を動かす立場ではない。

 

 なら、できないことを毎日考えるより、できることを増やす方がよかった。

 

 勉強する。機械に触る。体を鍛える。

 

 それで戦争を止められるわけではない。

 

 けれど、何もしないで怯えているよりはいい。本当に戦争になるなら鍛えておくに越したことはない。

 

 そうしているうちに、七年が過ぎた。

 

 ◇

 

 U.C.0077年の秋。

 

 学校から帰ると、居間の机に見慣れない書類が並んでいた。

 

 父さんと母さんがそろって家にいる。二人とも勤務日だったはずなので、それだけで少し珍しかった。

 

「何かあったの?」

 

 鞄を置きながら聞くと、父さんが椅子を示した。

 

「先に座りなさい」

 

「これって怒られるやつ?」

 

「今のところは違うわ」

 

 母さんの答えに、少しだけ安心する。俺は二人の向かいへ座った。

 

 机の上には人事通知らしい表示が出ている。父さんの名前の横には技術少佐、母さんの横には技術大尉とあった。

 

「昇進したの?」

 

「ああ」

 

「二人とも?」

 

「そうよ」

 

「すごい、おめでとう」

 

 素直に言うと、父さんは少しだけ笑った。

 

「ありがとう。ただ、今はそういう話ではない」

 

 父さんは端末の別の場所を指さした。

 

 新設施設への赴任。長期任務。

 

 読める単語を追ううちに、胸が少し高鳴った。

 

「宇宙?」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「本当にだ」

 

 思わず身を乗り出した。宇宙へ行く。

 

 前世でも行ったことはない。当たり前だ。この世界に生まれてからも、地球を離れたことはなかった。

 

 スペースコロニーを実際に見られる。低重力区画や宇宙港もあるかもしれない。

 

 未来の戦争への不安より先に、子どもの俺が反応した。

 

「いつ行くの?」

 

「十二月の予定だ」

 

「そんな急に、学校は?」

 

「向こうにも順次開設されるわ。最初は生徒が少ないでしょうけど」

 

「友達に言っていい?」

 

「正式な手続きが終わってからにしなさい」

 

「どれくらい人がいるの?」

 

「まだ建設途中だ」

 

 建設途中?新規コロニーかと思ってると父さんが説明する。

 

「一般の移民を受け入れる前に、居住区や生活設備を実際に動かす必要がある。父さんは軍の施設管理者として、電力や空調、搬送設備をまとめて見ることになる」

 

「母さんは?」

 

「搬入管制と港湾区画。建設資材も生活物資も、しばらくは外から運ばないといけないから仕事は多いでしょうね」

 

「じゃあ、僕たちが先に住んで確かめるの?」

 

「簡単に言えば、そうだ」

 

 面白そうだと思った。まだ人の少ない新しいコロニー。これから街ができ、学校ができ、人が増えていく。

 

 施設管理者の家族だから、一般移民より早く入る。少し特別な感じがした。

 

「どこにいくの?」

 

 俺は何気なく聞いた。父さんが端末へ触れ、赴任先を表示する。

 

「サイド7だ」

 

 は?その名前を聞いた瞬間、さっきまで浮かんでいた質問が全部消えた。

 

「……えっと……どこ?」

 

 分かっているのに、聞き返した。

 

「サイド7。L3宙域に建設中の新しいコロニー群だ」

 

 父さんにとっては、ただの赴任先だった。

 

 新設施設。昇進。責任者。家族で暮らす、新しい場所。

 

 俺にとっては違う。

 

 サイド7。

 

 ジオンのザクが侵入する場所。アムロ・レイがガンダムへ乗る場所。ホワイトベースの旅が始まる場所。

 

 原作で一年戦争が始まるまで一年ちょっと。

 

 サイド7が襲われるのは、さらにその後。

 

 時間は多くない。

 

 宇宙世紀に生まれた時点で、十分ひどいと思っていた。

 

 まさか

 

 よりによって、サイド7かよ。

 

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