【完結】黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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ジオン側で改変された幅が広かった人たちの最終話付近です


断章 それぞれの終戦 ―― 運命を違えたジオンの者たち

 通信端末が病室へ運び込まれたのは、夜もかなり遅くなってからだった。

 

 ガルマはベッドの背を起こした状態で、軍服ではなく療養着のまま画面を見ていた。北米で負った傷はもう命に関わる段階ではないが、長く立っていれば痛みが戻る。軍医から前線復帰を認められる状態でもなかった。

 

 それでも、その夜に限っては病室から外れることを許されなかった。画面の向こうから届く報告が、一つ増えるたびに状況が悪くなっていく。

 

『ア・バオア・クー方面の統一指揮は、事実上失われました。各部隊が個別に戦闘、撤退を続けています』

 

「キシリア姉上は?」

 

『座乗艦の喪失を確認。生存は確認できておりません』

 

 ガルマは返事をしなかった。父デギンの死はすでに知らされていた。ドズルもソロモンで戦死している。ギレンも死んだ。そして今度はキシリアまで失われた。

 

 短期間に並べられた名前を、家族として受け止める時間はなかった。

 

「ミネバは?」

 

『保護されています。現在のところ危険はありません』

 

「そうか」

 

 そこで初めて息を吐いた。別の回線につながっていた政府側の人間が、少し間を置いて話し始める。

 

『ガルマ大佐。現在、軍と政府の双方で継戦について意見が割れています。サイド3と一部拠点には、まだ戦闘可能な戦力が残っています。しかし、中央の指揮系統はほぼ機能していません』

 

「連邦軍は?」

 

『ア・バオア・クーを制圧しつつあります。損害は大きいようですが、戦力差が覆る見込みはありません』

 

 言葉を選んでいるのが分かった。まだ戦える。だから戦うのか。

 

 少し前までのガルマなら、自分が前線に立てるならと考えたかもしれない。北米でもそうだった。戦果を挙げ、自分がザビ家の一員として認められることを望んでいた。結果は、病室の壁に立て掛けられた歩行補助具を見れば十分だった。

 

『現在、国家の判断を下せる方は、ガルマ様しかおられません』

 

「……私が?」

 

『はい』

 

 父もいない。兄も姉もいない。ミネバに背負わせられる話ではない。

 

 階級から様呼びに変わったのはそういうことなのだろう。自分がこの役目を担う日が来るとは考えたこともなかった。まして、こんな形で来るとは思っていない。

 

 ガルマはしばらく画面の中の戦況図を見ていた。まだ戦闘中を示す表示がいくつも残っている。命令が届かず戦っている部隊もあれば、撤退先すら決められない部隊もあるという。ここで継戦を命じれば、彼らは戦うだろう。そして死ぬ。

 

「全軍へ、攻撃停止の命令を出してくれ」

 

 画面の向こうで何人かが動いた。

 

「こちらから連邦へ停戦を申し入れる。政府は終戦のための交渉を始めてほしい。残っている部隊には、こちらから戦闘を再開しないよう徹底する」

 

『ガルマ様、それは――』

 

「まだ戦える部隊があることは分かっている!」

 

 ガルマはそこで一度言葉を切った。

 

「だが、戦えることと、戦争を続けることは同じではない。これ以上続けても、死ぬ者が増えるだけだ」

 

 降伏なのか、共和国へ戻るのか、連邦がどこまで条件を求めてくるのか。そこまでガルマには分からない。今決めなければならないのは、その先ではなかった。

 

「終わらせよう」

 

 誰もすぐには返事をしなかった。やがて政府側から了解の声が返り、軍の回線でも同じ命令が復唱された。各方面へ送るための通信が次々に開かれていく。ガルマはそれを聞きながら、背中をベッドへ預けた。傷が少し痛んだ。戦争を始めたのは自分ではない。

 

 それでも、終わらせる判断だけが最後に自分のところへ回ってきた。

 

     ◇

 

 サイド3の試験施設では、終戦の日まで作業予定が消えることはなかった。

 

 格納庫では組み上がったばかりの試験機が固定台へ載せられ、整備兵たちが測定器をつないでいる。実戦投入を急がせる命令が何度も変更され、そのたびに試験項目が増えていた。

 

 ラルは少し離れた場所から作業を見ていた。

 

「また予定変更だそうよ」

 

 ハモンが端末を片手に近づいてくる。

 

「今度はどこへ回せと言われた?」

 

「どこにも。試験中止」

 

 ラルが振り向いた。

 

「中止だと?」

 

「ガルマ様の名で停戦命令が出たわ。連邦とも終戦交渉に入るそうよ」

 

 周囲ではまだ作業が続いていた。命令が施設全体へ回るまで、少し時間が掛かっているらしい。ラルはしばらく試験機を見上げた。

 

「そうか」

 

「驚かないのね」

 

「ア・バオア・クーが落ちれば長くは続かんと思っていた。だが……まさか、ここで終わりを聞くことになるとはな」

 

 地球から戻され、前線から外され、ようやく与えられたのがこの試験部隊だった。軍籍は残った。仕事もあった。だが、誰が見ても前線へ戻すための配置ではなかった。

 

「左遷されている間に戦争まで終わってしまったわね」

 

 ハモンが言うと、ラルは小さく笑った。

 

「言ってくれる」

 

「違う?」

 

「違わん」

 

 その時、格納庫の放送が切り替わった。作業中止。全試験機の稼働停止。武装系統への通電禁止。整備兵たちが一斉に手を止める。実戦へ送り出すために調整していた機体から、次々に電源が落とされていった。

 

「ガルマ様が決められたのなら、従うしかあるまい」

 

「その後は?」

 

 ハモンの問いに、ラルはすぐには答えなかった。

 

「さてな」

 

 国が負けた。戦争も終わった。その先まで決めるには、まだ早かった。

 

     ◇

 

 バーナード・ワイズマンが終戦を知ったのは、ア・バオア・クーから離れた退避先だった。収容された兵たちの点呼が続いている。所属を聞かれ、サイクロプス隊と答えた。確認する兵が名簿を見たあと、他の隊員について尋ねてきた。

 

「……俺だけです」

 

 それで話は終わった。ソロモンからここまで来る間に、人数は減っていった。最後には、自分しか残らなかった。

 

 しばらくして艦内放送が流れた。戦闘停止。終戦交渉開始。もう出撃命令は出ない。周囲では安堵する声も聞こえたが、バーニィは壁際に座ったまま動かなかった。

 

 戦争は終わったらしい。

 

 サイクロプス隊がなくなったあとで、自分だけがそれを聞いていた。

 

     ◇

 

 キシリアの座乗艦が爆発したのを確認すると、シャアはその場を離れた。

 

 ア・バオア・クー内部では、すでに誰がどの区画を支配しているのかも分からなくなっていた。連邦兵が入り込んだ通路もあれば、まだジオン兵が抵抗を続けている場所もある。避難誘導と戦闘命令が同じ回線で流れ、途中で通信そのものが途切れることもあった。

 

 シャアは人の少ない通路を選びながら外縁部へ向かった。今ここでジオン軍人として残る理由はない。連邦に捕まるつもりもなかった。退避後、母艦に戻り離れている途中にそれは流れてきた。

 

『全軍へ通達。現在の戦線を維持し、積極的な攻撃行動を停止せよ。繰り返す――』

 

 聞き慣れない命令だった。続いて、ガルマ・ザビの名が流れた。彼が最後に残ったザビ家の人間として継戦停止を命じた。それだけ理解すれば十分だった。

 

 ア・バオア・クーから離れる頃には、戦闘停止の命令が各所へ届き始めていた。連邦軍も追撃を弱め、ジオン側でも武器を下ろす部隊が増えている。その混乱の中で、シャア・アズナブルは更に遠くへと離れていった。




それぞれのこのような感じで終戦を迎えました。
あと1話あります
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