出頭当日の朝、アムロは俺が渡された書面をもう一度見ていた。
「やっぱりレンだけなんだ」
「みたいだな」
「どこに呼ばれたかは?」
「書いてあるのは司令部の区画と場所だけ。誰に会うかまでは書いてない」
ララァは向かいの椅子に座ったまま、俺とアムロを交互に見ている。別に危険な場所へ連れていかれるわけじゃない。正式な出頭命令で、迎えに来るのも連邦軍の人間だ。それでも、戦争が終わってから待機と検査以外の命令を受けたのは初めてだった。
「まあ、行けば分かるだろ」
「それで済ませるんだ」
「ここで考えても何も増えないし」
アムロが書面を返してくる。
「帰ってきたら教えてくれよ」
「話していい内容ならな」
「もう軍人みたいなこと言ってる」
「一応、軍人なんだけど」
ララァが笑ったところで迎えが来た。
施設を出る時も、特別な扱いはなかった。護衛という名目の士官が一人付き、用意された車両へ乗せられる。許可がなければ外へ出られなかったここ数日を考えると、それだけでも久しぶりに景色が変わった。行き先は連邦軍の上級司令部だった。受付で身分を確認され、何度か区画を移動する。最後に案内された部屋の前で護衛の士官が止まった。
「特務少尉レン・イズミ、到着しました」
中から短く返事があった。扉が開く。机の向こうに座っていた顔を見て、ようやく呼ばれた理由が少しだけ分かった。
「久しぶりだね、イズミ少尉」
「……ゴップ大将」
「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいだろう」
「いえ、そんなことは……」
「していたとも。まぁ座りたまえ」
言われた通り椅子へ座る。部屋には俺とゴップ大将しかいなかった。机の上には端末と何枚かの書類が置かれているが、何の資料なのかはこちらからは見えない。
「戦争が終わって、少しは休めたかね?」
「休む時間だけなら十分ありますので」
「不満そうだな」
「外に出るのにも許可がいるので」
ゴップ大将は笑った。
「軍からは保護と待機、それに追加検査と説明されているはずだが」
「そう聞いてます」
「間違ってはいない」
「便利な言い方ですね」
「軍というのは、そういう言葉を使う場所だよ」
否定しないらしい。ゴップ大将は端末を一度確認してから、背もたれへ身体を預けた。
「アムロ・レイとララァ・スンも同じ施設だったな」
「はい」
「三人とも、扱いについてはまだ結論が出ていない。君たちは有用だ。だからこそ、誰も簡単には手放したくない」
「それは何となく分かってます」
「研究部門は欲しがっている。実戦データを持つ部門もだ。君とレイはパイロットとして使いたい者も多い。ララァについても、ニュータイプという一点だけで十分に価値があるらしい」
聞いていて気分のいい話ではなかった。
「それで、三人まとめて置いてるんですか」
「今のところはね。分ければ分けたで、今度は各部門が勝手に囲い込む」
「大将が止めてると?」
「止めているというより、保留させている」
似たようなものに聞こえるけど、たぶん違うんだろう。ゴップ大将は机の上で指を組んだ。
「そこで君に聞きたい」
「はい」
「君たちを有効に扱う方法について、何か提案はあるかね?」
何を聞かれたのか、すぐには分からなかった。
「……私に聞くんですか?」
「君たちの処遇だからね」
「決めるのは軍でしょう」
「最終的にはそうなる。しかし、使われる側が何も考えていないのでは話にならん」
試されている。そう思った。
自由にしてほしいと言えばどうなるか。研究施設へ行きたくないと言えばどうなるか。たぶん、どちらもそのまま通る話じゃない。
俺とアムロはパイロットとして使える。ララァはニュータイプだから、それだけで研究対象になる。クスコも似たようなものだ。ただし、あっちは旧ジオン軍人で、今は捕虜として収監されている。
戦争が終わったからといって、ジオンの残党が全部消えるわけでもない。放棄された兵器も残る。連邦だってニュータイプやジオン系の技術を調べるだろうしいきなり戦いの全てが終わるわけがない。
バラバラにされるよりは。
「……一つにまとめるのは駄目なんですか?」
ゴップ大将の表情は変わらなかった。
「何をだね?」
「私たちみたいな普通の部隊に置きにくい人間です。ニュータイプとか、扱いの難しい人間。それを一つの部隊にまとめて、そこで試験もやる」
「続けたまえ」
「終戦したって残党はいるでしょうし、普通の部隊に回しにくい仕事もあると思います。そういうのをやらせる。試験機の実戦評価も一緒にすればNTのデータもとれるでしょう、研究だけで閉じ込めておく必要もなくなる」
話しながら、自分でも形が見えてきた。
「監視したいなら、部隊ごと監視すればいい。連邦からすれば一か所にまとめておけるし、俺たちは外で動ける。……今みたいに施設に置いておくより、使い道はあると思います」
「なるほど」
ゴップ大将はそれだけ言って、机の上に置かれていた書類を一枚こちらへ滑らせた。嫌な予感がした。
「……これ、最初から考えてました?」
「似た案はね」
「じゃあ、私に聞いた意味ないじゃないですか」
「大いにあるとも。君が自由だけを要求するのか、それとも責任まで引き受ける気があるのかは、聞いてみなければ分からない」
やっぱり試されていた。書類には、まだ空欄の多い部隊案が表示されている。通常の方面軍や艦隊とは別系統。試験兵器運用、特殊任務、残党対応。今俺が話した内容とかなり近い。
「大将直属?」
「その方が余計なところから命令を受けずに済む。研究部門へ君たちを一人ずつ持っていかれるのも防ぎやすい。代わりに、私への報告は必要になる」
「それ、監視する人が大将に変わるだけじゃ」
「そうとも言えるね」
やっぱり否定しない。
「ただ、部屋に置かれて検査だけ受けるよりはましだろう?」
「……それはそうですけど」
「君も利用すればいい。私も君たちを利用する。それで双方に利益があるなら、軍としては十分だ」
分かりやすい。善意で助けてもらうより、こっちの方が信用できる気がした。
「人員はどうなるんです?」
「必要な者は君が選べばいい。もちろん軍籍、所属、機密区分の調整はこちらでする。誰でも無条件というわけにはいかんがね」
そこまで聞いて、一つだけ確認したかった。
「捕虜も候補にできますか?」
ゴップ大将がこちらを見る。
「クスコ・アルか」
「……知ってるんですね」
「君が移送前に面会したことまで報告にあるよ」
監視されているとは思っていたけど、そこまでか。
「約束したんです。迎えに行くって」
「現在は捕虜だ。君の一存で釈放はできん」
「分かってます」
「個別審査は必要になる。軍歴、戦闘記録、本人の意思も確認する。それを通るなら、最初から候補から外す理由もない」
それで十分だった。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは早い。審査を通すのは君ではない」
「道があるだけでいいです」
ゴップ大将は少しだけ笑った。
「そういう答えなら、話は早い」
机の端末が切り替わる。今度は艦艇の資料が表示された。見覚えのある船体だった。
「ホワイトベース?」
「回収後の調査では、船体中核は使用できる。ただし、そのまま直して再就役させるような状態ではない」
「でしょうね」
「全面改修ということにして、実質的には再建造する。新部隊の母艦に回す予定だ」
ア・バオア・クーで最後に見た、半壊した白い船を思い出す。
「艦長は?」
「ブライト・ノアが適任だろう。本人への通達はこれからだがね」
「ブライトさんなら、俺は賛成です」
「君一人に艦まで自由にさせるつもりはない。航行や艦内指揮、戦闘継続や撤退は艦長の仕事だ。君が無茶をし始めた時に止める人間も必要だろう」
「そこまで無茶してないと思うんですけど」
「報告書を読み直してみるかね?」
「……やめときます」
次に出てきたのはアレックスだった。
「これは修理と再調整を行い、試験機として残す。せっかくここまで完成させた高性能機を、戦争が終わったから倉庫へ入れる理由もない」
「乗る人は?」
「それもこれからだ」
さらに別の計画番号が表示される。RX-81。
「君にはこちらの試験枠を回す案がある。まだ機体仕様まで決まったわけではない。今の段階では計画だけだと思っておきたまえ」
「了解しました」
同じものをもう一度作ってもらいたいとは思わなかった。あれはもう役目を終えた。ゴップ大将が画面を閉じる。
「さて。部隊の骨格はこれでいいだろう」
「まだ名前がないですけど」
「ある」
「あるんですか?」
最後に一枚の書類が表示された。
上部に記されている。
BLACK RAVEN。
「ブラックレイブン……」
「現場では黒鴉隊とでも呼ばれるかもしれんな」
「鴉?」
「戦争が終わったあとには、誰も拾いたがらないものが山ほど残る。残党、試験兵器、扱いに困る人間。そういうものまで拾って回る部隊なら、悪くない名前だろう」
「俺たちも拾われる側じゃないですか」
「最初はね」
ゴップ大将は平然と言った。
「そのうち拾う側になるよ」
なんとなく納得したくないけど、否定もできない。書類の下へ視線を移す。部隊長の欄に、まだ名前はなかった。
「隊長は誰にするんです?」
「君だよ」
「……私ですか?」
「君が提案した。君が人を選ぶ。なら責任者も君がやるのが筋だろう」
「いや、私では階級が低すぎるのでは、ブライト中尉ではないんですか?」
「そこは問題ない」
ゴップ大将は端末を操作した。
「隊長は君にしてもらう。おめでとう、特務大尉だ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「大尉?」
「特務大尉だ。BLACK RAVEN運用時に限って有効な指揮権を持つこの部隊の運用に限り大佐相当でもある。所属者と、任務中に一時的に編入された人員への指揮権だ。他部隊の士官へ好き勝手に命令できると思わないことだね」
「思いませんよ」
「なら安心した」
「十三歳をいきなり大尉にする方がおかしくないですか?」
「普通の大尉にはしないと言っただろう」
確かに言った。階級が上がったというより、首に掛かっていた札が大きくなった感じがする。
「これ、責任も増えますよね、自由の代わりということですか」
「当然だ、限定的な自由だよ」
「やっぱり首輪じゃないですか」
「少し紐を長くした首輪だと思えばいい」
そこまで言われると、もう笑うしかなかった。
でも、悪くはない。今のまま待っていれば、誰かが俺たちの処遇を決める。アムロもララァも、クスコも、それぞれ別の場所へ持っていかれる可能性がある。この部隊なら、少なくとも俺から手を伸ばせる。何でもできるわけじゃないし、好きなように動けるわけでもないが。
それでも、待っているだけではなくなる。手が届く範囲も広がる気がした。
「分かりました、やります。BLACK RAVENの隊長」
ゴップ大将は頷いた。
「では決まりだ。正式な命令書は後で回す。人員については、必要だと思う者へ声をかけたまえ。結果は私へ報告すること。できるだけ融通はするが動かせないこともあるがね」
「断られたら?」
「別の人間を探せばいい」
「捕虜は審査」
「そうだとも」
「ブライトさんも、本人が断ったら?」
「申し訳ないが彼は軍令で強制だから安心していい」
少しかわいそう。ゴップ大将が書類を閉じた。
「以上だ、特務大尉」
「……慣れないですね、それ」
「そのうち嫌でも慣れる」
席を立ち、敬礼して部屋を出た。来た時と同じ廊下なのに、戻る時は少しだけ違って見えた。施設へ帰れば、アムロとララァがいる。状況そのものが急に変わったわけじゃない。正式な命令書もこれからだし、艦も機体もまだない。人だって一人も集めていない。それでも、もう決定待ちではなかった。
手元の書類には、新しい所属先の名前が記されている。
BLACK RAVEN
俺はそれをもう一度だけ確認して、廊下の先へ歩き出した。
次回作へ続きます
これからお休みをいただいてまた新作品として投稿したいと思います。
ここからは本当にあとがきなので読まなくても大丈夫です。
本作を最後まで読んでいただいた方ありがとうございます。
ずっと読専でしたが設定とかを妄想するのは好きでした。文章を書く力があまりにもないので、妄想設定をAIを利用して執筆してもらったのが最初になります。
せっかくだしこれ投稿しちゃおうってなってから投稿に踏み切りました。最初50話くらい進めてから投稿スタートしましたがこの回が終わったのは投稿の前日だったりしますw
設定がばがばだったり無駄に冗長になったりと最初の評価はさんざんでした、正直評価の低さにエタりかけました。それでもここまでこれたのは少し入った高評価と感想を書いてくれたみなさんのおかげです。本当に本当にありがとうございます。他作品の一杯の評価数あれどういう原理なんですかね?w
これからですが迷った末に続きをすすめることにしました。迷った理由はここから自由度と改変による影響でものすごい大変になっていくからです。ある程度構想はできていますがもう二転三転してます…
ここはこうなりそう、ここはどう頑張っても手を出せなさそう、こいつは…ほっといてええか。みたいな妄想しながら組み立てています。
介入時期で立ち位置が違うキャラもいますしそこに介入すると陣営が変わるキャラもでてきます。賛否が怖いですがそういうもんだと思ってあきらめてください。地球の戦国時代も昨日の敵が今日の友はよくありますからね。逆も
とりあえずこの辺りで終わりたいと思います本当にありがとうございました。
余談
Seed系もやってみたくてアニメ見直してるんですがマジでコズミックイラくそ過ぎてイライラするんですよね。もし書くとしたら キャラ性別変えたやつ書くと思います キラ 初期赤服 カガリ 反転 お友達組とラクスは据え置き オリ主 までは妄想はしましたw(オリ主×ラクスはありません)