機動戦士だけど宇宙世紀との関わりはなさそうですがどうなんでしょう
三機のドムが、白いガンダムの正面で縦に重なった。
モニター越しだと、距離感が妙に狂う。先頭の一機だけが見えているようで、その影に二機目と三機目が隠れている。足で地面を蹴っているはずなのに、動きは歩行じゃない。砂を巻き上げながら、一定の速度で流れ込んでくる。
ジェットストリームアタック
モニターの向こうから迫ってくる黒い三機は、知識で片づけられる圧じゃなかった。
『来る』
アムロの声が硬くなる。
「無理に正面で受けるなよ。後ろが隠れてる」
『分かってる。でも、速い』
俺は黒いガンダムを右へ振った。横から入れれば、三機の列を崩せるかもしれない。けれどドムの間隔は思った以上に詰まっていて、こちらが回り込むより先に隊列が流れていく。無理に突っ込めば、俺がアムロの進路を塞ぐ。
正面はアムロが見るしかない。
そう判断した瞬間、先頭のドムがガンダムの間合いへ滑り込んだ。
◇
アムロは、先頭のドムだけを見ないようにしていた。
そうしなければならないと分かっている。だが、実際には難しい。黒い機体が真正面へ迫る。バズーカの砲口。重い肩。地面を滑る脚。視界の中心を、先頭のドムが強引に奪ってくる。
ガンダムがビームライフルを構えた瞬間、ドムの機体が横へずれた。
狙いが遅れる。
「くそっ」
アムロは撃つのをやめ、機体を半歩引いた。砂地が足裏を噛み、反応が少し重い。そのわずかな遅れに、二機目のドムが先頭の影から出てくる。
先頭だけを追えば、二機目にやられる。二機目を見れば、三機目が来る。
けれど、三機とも飛んでいるわけじゃない。地面の上を滑っている。なら、流れはある。順番もある。
アムロは息を詰めた。
先頭のドムがガンダムへ接近し、バズーカの砲身を押しつけるように向ける。その瞬間、アムロはガンダムを前ではなく上へ跳ばした。
ガンダムの足が、先頭のドムの機体上部を踏む。
『俺を踏み台にした!?』
声が通信の向こうで弾ける。
白いガンダムは、黒いドムを踏み台にして跳び越えた。先頭の動きを使って一瞬だけ高度を作る。ジェットストリームアタックの線が、そこで崩れた。
二機目のドムが反応する。
だが、遅い。
上から落ちるガンダムのビームサーベルが、ドムの装甲を切り裂いた。黒い機体がよろめき、内部から光が漏れる。次の瞬間、爆発が砂塵を押し広げた。
『マッシュ!』
アムロは着地の衝撃を殺しながら、ガンダムを立て直した。完全に余裕があったわけじゃない。腕も脚も重い。けれど、三機の流れは確かに崩れていた。
俺は黒いガンダムを動かしながら、爆炎の向こうを見た。アムロがやった。ジェットストリームアタックを、アムロが自分で破った。
だからこそ、俺は別の場所を見なければならない。
連携を崩された戦場では、何がどこへ飛ぶか分からない。ガイアはアムロを見ている。残ったもう一機、オルテガは――。
視界の端で、ミデアが動いた。
◇
マチルダ隊のミデアは、ホワイトベースの進路を塞がないように低く離脱しようとしていた。
補給コンテナを降ろした後でも、機体は万全ではない。外装は焼け、姿勢制御も重い。それでも飛べる。なら、ホワイトベースの作業を邪魔しない位置まで退く必要があった。
「速度を上げすぎないで。損傷部に負荷がかかります」
「了解。ですが、中尉、前方でMS戦です」
「こちらはまだ飛べます。落ちるわけにはいきません」
マチルダは落ち着いていた。だが、戦場の流れは彼女の都合だけでは動かない。
マッシュ機の爆発で砂塵が広がり、ガンダムとドムの位置が一瞬乱れる。ホワイトベース側の進路を空けようとしたミデアは、その乱れの中でオルテガ機の前方へ入った。
オルテガは爆炎の向こうで、マッシュ機が消えた場所を見ていた。
「マッシュを……!」
怒りが判断を荒らす。視界に入ったのは、ガンダムではなくミデアだった。さっきまで補給を届け、今も戦場に残っている連邦の輸送機。ドムの巨大な腕が上がる。
ホバーの勢いを乗せたまま、オルテガ機がミデアのコックピットへ向かった。
◇
気にはしていた。ミデアがこちらに向かってくる感じも無かったはずなのにドムが向かっている。
間に合うかどうかじゃない。間に合わせるしかない。
オルテガ機の腕が、ミデアのコックピットを狙っている。あれが入れば終わる。マチルダさんは死ぬ。そういう言葉が頭に浮かぶ前に、俺はスロットルを押し込んだ。
黒いガンダムの機体を、ミデアとドムの間へねじ込む。腕を上げる。シールドを前に出す。間に合え、と声に出したのか、頭の中だけだったのか分からない。
ドムの打撃が、シールドに入った。
音が消えたように感じた直後、衝撃が腕から肩へ突き抜ける。シールドの表面が歪み、固定部が悲鳴を上げた。警告表示が一気に赤く染まる。黒いガンダムの姿勢が後ろへ押し込まれ、足裏が砂を削った。
それでも、ミデアのコックピットには届かせなかった。
「っ、止まれ……!」
シールドが裂けた。上半分がひしゃげ、装甲板が剥がれる。左腕の負荷表示が跳ね上がる。肩のフレームまでは死んでいない。けれど、盾はもう盾としては使えない。
ミデアがすぐ後ろで揺れた。
オルテガ機は次の動作に入ろうとしていた。打撃を盾で受けられたことで、ドムの姿勢も崩れている。こちらも完全じゃない。左腕は重い。シールドは半壊どころか大破。だが、距離は近い。
俺は壊れたシールドを半ば投げ捨てるように外し、ビームサーベルを抜いた。
「二発目はない」
黒いガンダムが踏み込む。オルテガ機がバズーカを向けようとしたがもう俺の距離だった。サーベルの光が黒い装甲へ入り、胴を斜めに裂く。
ドムのモノアイが揺れた。
次の瞬間、オルテガ機が爆発した。黒いガンダムは爆風に押され、姿勢を崩しながらも踏みとどまる。シールドの表示は完全に沈黙していた。
俺は息を吐く。
「……シールドは駄目だな」
勝った、とは思えなかった。
マチルダさんを守れた。オルテガを止めた。それでも、手の中には壊れた感触だけが残っていた。
◇
ガイアは、爆炎の向こうで二つの反応が消えるのを見た。
マッシュが白いMSに撃破された。オルテガも黒いMSにやられた。黒い三連星の隊列は、もう組めない。
「マッシュ……オルテガ……」
怒りはあった。今すぐ白いMSへ突っ込みたい衝動も、黒いMSを叩き潰したい衝動もある。だが、三機で崩された連携を一機で取り戻すことはできない。こちらのドムはまだ動く。だが、相手には白いMSと黒いMSが残り、後方にも支援機がいる。
ガイアは歯を食いしばった。
「撤退だ」
その判断は、逃げではなく次に殺すためのものだった。白いMSも、黒いMSも、このままでは済ませない。
ガイア機は砂塵を巻き上げ、戦場から離れていった。
◇
『敵一機、離脱していきます。追撃は危険です』
セイラさんの声が通信に入る。
『深追いするな。各機、ホワイトベース前方を維持。ミデアの退避を優先する』
ブライトさんの命令で、俺はようやく周囲を確認した。
アムロのガンダムはまだ動いている。カイさんのガンキャノンも、ハヤトのガンタンクも支援位置を保っている。マチルダさんのミデアは損傷しながらも、ゆっくりと退避コースへ入っていた。
『こちらマチルダ隊。助かりました。機体損傷はありますが飛行は可能です』
『よかった……』
アムロの声が、本当に小さく漏れた。
俺も同じ気持ちだった。けれど、すぐに左腕の警告音が現実へ引き戻してくる。盾は完全に死んでいる。左腕も無理をさせすぎた。
『レン、一号機の状態は』
「本体は動きます。ただ、シールドは完全に駄目です。左腕と肩にも負荷が出てます」
『戦闘継続は可能か』
「短時間なら。でも盾は使えません」
少しの間があった。
『分かった。各機帰投しろ。レン、戻ったら機体状態を報告しろ。処分の話はその後だ』
「了解。戻ります」
分かっている。戦闘任務限定で出されて、戦闘が終われば話はまた戻る。それでも、今は一つだけ確かなことがあった。
マチルダさんは生きている。
アムロも、それを聞いている。
黒いガンダムは盾を失った。次の戦いを考えると、かなり痛い。
それでも、失うはずだった命がそこに残っているなら、この盾が壊れた意味はあった。
俺は黒いガンダムをホワイトベースへ向けた。
砂塵の向こうで、ガイアのドムはもう見えなくなっていた。