カタパルトを離れた直後、一号機のレーダーから遠距離の反応がいくつも消えた。
消えたというより、撹乱幕の中へ沈んだと言った方が近い。敵も味方も完全に見えなくなったわけではないが、表示される位置が揺れ、通信には細かな雑音が混じっている。遠距離から撃たれたビームが淡い膜の中で散り、照準を外れた光だけが視界の端を流れていった。
『レン、左へ広がって』
「分かってる」
アムロの二号機が右前方へ出る。俺は一号機を左へ振り、ホワイトベースから発進した友軍機の進路を空けた。その間をジムの小隊が抜けていく。三機が互いの距離を保ち、その後ろにはボールが二機。俺たちを待たず、それぞれ決められた進路へ向かっていた。
『前方、敵機動部隊。数は安定しません』
セイラさんの報告と同時に、正面の撹乱幕からリック・ドムが現れた。見えた時には、もうバズーカを構えている。
「散開!」
俺が叫ぶより早く、先頭のジムが下へ沈んだ。砲弾がその頭上を抜け、後方のボールが砲身を振る。撃ち返された実体弾がリック・ドムの進路へ入り、敵機が横へ逃げた。
そこへ二号機のビーム・ライフルが通った。遠距離では撹乱される。なら、外れない距離まで近づけばいい。アムロは射撃の直後にはもう機体を反転させていた。
『右から二機来る!』
「こっちで落とす」
一号機を加速させる。撹乱幕の切れ目からザクが二機、ジム小隊の側面へ回り込もうとしていた。先頭へビーム・ライフルを撃つ。ザクは噴射してかわしたが、その回避方向は読めている。
銃口を少しだけ横へ流し、二射目。ビームがザクの胸部を貫いた。爆発した機体の横から、もう一機がマシンガンを撃ってくる。弾列をシールドで短く受け、射線を外へ流しながら接近する。敵がマシンガンを振り直すより先に腰のビームガンを抜いた。
一射目が右腕を飛ばす。姿勢を崩したザクの胴体へ、二射目を撃ち込んだ。
二機目も爆発する。
『こちら第三小隊。援護に感謝する』
「そのまま前へ。左側は俺が見ます」
『了解』
ジム小隊は止まらなかった。後ろのボールも砲身を前へ戻し、再びソロモンへ向かった。味方の進路を開け、そのまま敵の数も減らす。それができるなら両方やればいい。
『カイ、ハヤト。前方の一号機と二号機から距離を取りすぎるな』
『こっちは鈍足なんだよ。あんまり先まで行かれると、後ろから怒鳴るしかなくなるぜ』
『カイさん、右上から来ます』
『見えてる!』
二機のガンキャノンが時間をずらして砲撃する。先にカイの砲弾が敵の正面を塞ぎ、回避したリック・ドムの先へハヤトの射撃が入った。砲弾が胴体を捉え、敵機が爆発する。
その隙に艦砲が通った。
ホワイトベースの主砲が撹乱幕の薄い場所を抜け、敵部隊の後方で光る。敵艦へ命中したかまでは見えない。それでも、こちらへ向いていた砲撃が一度止まった。
『左舷前方、空きます』
ミライさんの声が通信へ入る。
『ブライト、今なら二十秒は前へ出られるわ』
『主砲射撃後、前進。カイ、ハヤトは艦の前を空けろ』
『了解っと』
『分かりました』
ホワイトベースが艦首をわずかに下げ、友軍艦との間を抜けていく。右側ではサラミスが一隻、損傷した艦を庇うように位置を変えていた。
砲撃を受けた艦の側面から破片が飛ぶ。
後部の推進器が一つ消え、それでも艦は前進を止めなかった。隣のサラミスが速度を落とし、空いた射線へ主砲を向ける。艦列全体が少しずつ形を変えながら進んでいる。
『レン、下!』
アムロの声で機体を捻る。
下方から上がってきたリック・ドムの砲弾が、一号機の脇を通り過ぎた。敵は俺ではなく、その後ろのジムを狙っている。一号機を反転させ、敵との間へ入る。ビーム・ライフルを構えるより早く、リック・ドムが向きを変えた。
攻撃が来る前からアムロは動いていた。二号機のビームが敵のバズーカを撃ち抜く。爆発で姿勢を崩した機体へ俺が接近し、対艦刀で肩口から斬り込んだ。
リック・ドムの胴体が二つに分かれる。
その時には、二号機は次の敵へ向いていた。旋回の途中から敵の移動先へ照準を寄せていた。ビームが走り、こちらへ突っ込んできたザクの胴体を貫いた。
『セイラより各機。外側を回っていた敵部隊が、ホワイトベース方向へ進路変更。リック・ドム四、ザク二』
『レン、アムロ。前へ出すぎるな。艦の周辺へ引きつけろ』
ブライトさんの命令が入る。
「了解」
追える距離だった。けれど、ここでソロモン側へ深く入れば、ホワイトベースとの間が空く。敵もそれを狙っている。俺は加速を止め、機首を母艦側へ戻した。
アムロも敵を追わず、二号機を俺の右へ並べる。敵部隊は左右へ分かれた。一方が俺たちを引き離し、もう一方がホワイトベースへ近づこうとしている。
『カイさん、三機そちらへ行きます』
『三機くらいなら歓迎してやるよ! ハヤト、右を頼む!』
『はい!』
二機のガンキャノンが背中合わせに近い位置を取り、ホワイトベースの進路を挟む。敵は正面から入らず、撹乱幕に紛れて横へ回った。ハヤトが先に砲身を向ける。敵が見えてからではない。セイラさんの報告と、自分のレーダーに残った短い反応から進路を読んでいる。
撃ち出された砲弾が一機の前を塞いだ。
回避したリック・ドムへカイが追撃し、胴体へ砲弾を叩き込む。敵機が爆発し、残る二機が上下へ分かれた。一機は俺たちの方へ。もう一機はホワイトベースの下へ潜ろうとする。
『クリス中尉、下方へ一機!』
『確認しています』
ジム・コマンドが艦の陰から出た。クリスさんは敵へ正面から向かわず、ホワイトベースの艦底と敵の間へ入る。ビーム・ガンの短い射撃でリック・ドムの進路をずらし、艦砲の射線から追い出した。
そこへセイラさんのコアブースターが外側から入る。機首の火器が光り、リック・ドムの胸部を貫いた。敵機が艦底へ届く前に爆発する。
『損傷機を確認。友軍ジム、右脚部と背部推進器に損傷。回転が止まっていません』
クリスさんがすぐに進路を変えた。少し離れた場所で、ジムがゆっくりと回転している。右脚は膝から下がなく、背中から推進剤が白く漏れていた。
『こちらクリスチーナ・マッケンジー中尉。聞こえますか』
『……聞こえる。姿勢制御が利かない』
『追加入力を止めてください。こちらで回転を合わせます』
ジム・コマンドが損傷機の回転方向へ機体を傾け、少しずつ相対速度を合わせていく。敵のザクが一機、救助中の二機へ向いた。
「クリスさん、後ろ!」
『分かってるわ』
ジム・コマンドが損傷機へ近づく直前、左腕だけを動かした。ビーム・ガンの射撃がザクの正面へ走る。
敵が回避した先へ、一号機の照準を置く。ビーム・ライフルを一射。ザクの胴体を撃ち抜いた。爆発を横へ流し、そのまま救助中の二機の前へ出る。
『こちら第五小隊。救助を継続してください。周辺は我々が守ります』
『助かります。曳航索を接続します』
クリスさんは損傷機の回転を止め、腰部の固定点へ索を繋いだ。友軍ジム二機が左右へつき、救助中の二機を守りながら後方へ下がっていく。その向こうでは、パブリクが一隻、片側の推進器から火を噴いていた。
機体は帰ろうとしていない。
残ったミサイルを進行方向へ撃ち出す。弾頭が開き、薄くなっていた撹乱幕へ新しい粒子が広がった。直後、敵の砲撃がパブリクを貫いた。
小さな船体が光に包まれ、何も残らない。その場所に新しい撹乱幕だけが残った。止まる暇はなかった。
幕の向こうから砲撃が続き、友軍艦も撃ち返している。サラミスの一隻が艦首を失い、後続艦が空いた位置へ入る。ボール部隊は艦列の近くへ集まり、接近するザクへ砲撃を集中させた。
白い閃光が何度も生まれる。敵も味方も、簡単には退かなかった。
ソーラ・システム
もう来てもおかしくない気がする。それとも、まだ早いのか。
この戦場が俺の知る流れと同じ速度で動いている保証はない。スレッガーはこの艦にいないし、ホワイトベースの戦力も変わっている。
『レン、また来る』
アムロの声で意識を戻す。
撹乱幕の奥からリック・ドムが三機、縦に重なって接近してきた。後ろにはザクもいる。
「正面は任せる。俺は下へ回る」
『分かった』
二号機が真っすぐ前へ出る。
砲弾の間を白い機体が抜ける。
一発目のビームで先頭のリック・ドムを撃ち抜き、射撃の反動を残したまま機体を横へ流す。俺は下方から敵編隊の側面へ入った。こちらへ向き直ろうとした二機目より、こちらの照準の方が早い。
ビーム・ライフルがリック・ドムの胴体を貫いた。
三機目がバズーカを下へ向ける。発射される前に一号機を懐へ入れ、対艦刀を抜く。
リック・ドムの胴体を一刀両断した。
後ろのザクがマシンガンを向ける。シールドを前へ出し、数発だけ受ける。弾列が途切れた瞬間に機体を沈め、敵の下へ回り込んだ。
ビームガンで複数回胴体を撃ち抜き、爆発を背にしてホワイトベース側へ向きを戻す。
敵はまだいる。推進剤も弾薬も残っている。
けれど、このまま続けば確実に減っていく。友軍の損害も増えている。
『ワッケイン艦隊より各艦。現戦域を維持せよ。敵戦力を正面へ拘束する』
命令が入った。照射のことは何も言わない。当然だ。陽動部隊へ作戦の全容を知らせれば、敵に通信を拾われる可能性もある。
『ブライト、右舷側の艦列が詰まり始めているわ』
『ホワイトベースを左へ寄せる。MS隊は進路を空けろ』
『聞こえたな。各機、左へ寄せろ。敵を追うな』
俺たちは命令に従って位置を変えた。ソロモンへ近づくのではなく、艦隊の前で横へ広がる。敵に突破されたくはない。でも、こちらから奥へ入り込む必要もない。今は時間をつなげばいい。
そう分かっていても、いつまでなのかが分からない。右前方でサラミスが敵弾を受けた。船体中央から爆発が広がり、艦が二つに折れる。後続艦が慌てて進路を変え、周囲のジムとボールも破片を避ける。隊形に大きな穴が開いた。
『レン、アムロ! 右舷前方を塞げ!』
「了解!」
二号機と一号機が同時に加速する。
穴へ入ろうとした敵部隊の前へ出る。
先頭のリック・ドムがバズーカを上げるより早く、俺のビーム・ライフルが胸部を撃ち抜いた。後続二機へアムロが連続して射撃を入れる。
カイとハヤトの砲弾がその間を通り、外へ逃げた敵を追い払う。
ジム小隊が空いた場所へ入り、ボール部隊が後方から砲撃を再開した。艦列がもう一度繋がる。
「まだかよ……」
自分でも聞こえないくらいの声が漏れた。その時、コックピットの光量警告が点灯した。敵の砲撃ではない。
画面の一部が急激に白くなり、光学センサーが自動的に保護状態へ切り替わる。メインモニターの明度が落ちても、視界の奥では光が増え続けていた。
『なに、この光……』
セイラさんの声に雑音が混じる。
『各機、光学保護! 姿勢を維持しろ!』
ブライトさんの命令が飛ぶ。一号機のメインカメラを光源から外し、周囲の友軍との距離を確認する。センサー表示が飽和し、ソロモン側の反応が一斉に崩れた。一本の光が撃ち込まれたんじゃない。
遠くから集まってきた無数の反射光が、一つの場所へ重なっている。撹乱幕も砲撃も、その明るさの中へ呑まれていく。
ソロモンの表面が白く染まり、次の瞬間には赤く焼け始めた。
来た
ソーラー・システムだ