黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第90話 残る者

 光が弱まり始めても、ソロモン側の表示はすぐには戻らなかった。

 

 白く潰れていたメインモニターに、赤黒く焼けた外壁と漂う破片が少しずつ映り込む。要塞表面に並んでいた砲台の多くは形を失い、港の周囲では係留されていた艦艇が炎を噴いていた。

 

 完全に消えたわけではない。照射を外れた砲台が向きを変え、進み始めた連邦艦隊へ砲撃を再開する。焼けた外壁の陰からザクが飛び出し、隊形を整えようとしていたジム小隊へ向かった。

 

『全艦、照射区域を避けて前進。第四進入口を確保せよ』

 

 ワッケイン艦隊からの命令が入る。

 

『一号機、二号機は友軍MSと進め。残存砲台と迎撃機を排除しろ。カイ、ハヤトは進入口周辺へ火力支援。追い越すなよ』

 

「了解」

 

『分かった』

 

 俺とアムロは、前へ出たジム部隊の左右へ分かれた。

 

 破片が多い。外壁から剥がれた装甲、砲台の残骸、折れた作業用アーム。その間をボールが抜け、残っている砲座へ砲撃を集中させている。砲弾が装甲へ当たり、内部から光が漏れた。

 

 その上をザクが二機越えてきた。一機目がボールへマシンガンを向ける。一号機を間へ入れ、ビーム・ライフルを撃つ。ビームがザクの胸部を貫き、機体が破片の中で爆発した。もう一機が俺へ銃口を振る前に、右側から二号機の射撃が入る。

 

『左の砲台、まだ生きてる!』

 

 アムロが機体を上へ振った。外壁に半分埋まった砲身が、進んでくるサラミスへ向きを変えている。二号機が射線を外へ引きつけ、その間にジム三機が砲台へ接近した。

 

 一機が撃たれ、左肩を失う。残る二機は止まらない。砲台の基部へバズーカを撃ち込み、装甲が浮いたところへボールの砲撃が重なった。

 

 砲身が折れ、外壁から離れていく。

 

『こちら第六小隊。砲台停止。進入口へ向かう』

 

「損傷機は?」

 

『自力航行可能だ。後送する』

 

 肩を失ったジムが後方へ下がり、その脇を新しい小隊が進んだ。

 

 俺も進路を戻す。前方には、照射で大きく裂けた宇宙港が見えていた。外壁の一部が内側へ崩れ、開いた隙間から要塞内部の灯りが漏れている。そこへリック・ドムが四機、横に広がって出てきた。

 

『迎撃来るぞ!』

 

 カイの声と同時に、後方から砲弾が飛ぶ。

 

 一発目が敵編隊の中央へ入り、二機が上下に分かれた。続けてハヤトの砲撃が下へ逃げた一機を捉える。リック・ドムの胴体が爆発し、残る三機がこちらへバズーカを向けた。

 

 俺は一号機を右へ滑らせる。砲弾を避けながら一機へ接近し、ビーム・ライフルを胴体へ撃ち込む。爆発を抜け、次の敵へ機体を向けた。リック・ドムがヒート・サーベルを抜く。

 

一号機の背部から対艦刀を外した。長い刀身を振り下ろす。敵はヒート・サーベルで受けようとしたが、ぶつかった瞬間に腕ごと外へ押し流された。崩れた姿勢へ刀を返し、胸部を横から斬り抜く。

 

 残った一機は二号機へ向かっていた。

 

 アムロは正面から撃ち合わず、敵の上へ回り込む。リック・ドムが追って機首を上げたところへビームを撃ち込み、そのまま外壁側へ抜けた。

 

『進入口正面、敵影減少』

 

 セイラさんのコアブースターが外側を横切る。

 

『右外周からガトル編隊。後続のボールを狙っています』

 

『セイラはそのまま迎撃。クリス中尉、ホワイトベース右舷へ』

 

『了解しました』

 

『こちらも向かいます』

 

 後ろを振り返る余裕はなかったが、外周で複数の光が交差した。コアブースターがガトル編隊の進路を切り、ホワイトベース近くのジム・コマンドが後方へ抜けようとした一機を撃ち落とす。

 

 ホワイトベースは外壁から距離を保ち、左右の艦砲で進入口周辺を撃っていた。ミライさんが破片と友軍艦の間を縫うように艦を動かし、その前をガンキャノン二機が守っている。

 

『第四進入口へ先行部隊が到達。各小隊、順次取りつけ』

 

 焼けた外壁へジムが集まり始める。ボールが入口の両側へつき、内部へ砲身を向けた。まだ奥から銃撃が返ってくる。先頭のジムが装甲板の陰へ入り、後続が交互に射撃しながら距離を詰めていた。

 

「アムロ、右側から入る」

 

『僕は上を見る』

 

 二号機が外壁に沿って上昇する。俺は入口右側へ回り、崩れた隔壁の奥を確認した。熱源が三つ。ザクが二機と、固定砲座が一基。こちらを待ち構えている。固定砲座が撃つより早く、ビーム・ライフルを二射した。一射目が砲身を潰し、二射目が基部へ入る。内部で爆発が起き、近くにいたザクが外へ飛び出した。

 

 一機を正面から撃ち抜く。

 

 もう一機は左へ逃げ、友軍ジムの前へ出た。ジムがシールドでマシンガンを受け、その横から別の機体がバズーカを撃つ。

 

 ザクが炎に包まれた。

 

『入口右側、確保!』

 

『第一、第二小隊は内部へ。第三小隊は外壁を押さえろ!』

 

 友軍の通信が続く。連邦軍の機体が、開いた進入口へ次々に入っていく。要塞の奥からも銃撃は止まらない。ザクや作業用機が隔壁の陰へ下がり、後方の扉が閉じ始める。その手前では、武装していない小型艇が別の通路へ急いでいた。

 

『脱出艇を確認』

 

 セイラさんが報告する。

 

『武装反応なし。進路は戦域外です』

 

『追うな。武装機と砲台を優先しろ』

 

 ブライトさんの命令が入った。小型艇は、破片を避けながらソロモンを離れていく。その周囲を数機のザクが守り、連邦部隊へ射撃を続けていた。

 

 アムロが護衛機の一機を撃ち抜く。俺も外側へ回ろうとしたリック・ドムへ照準を合わせた。ビームが胴体に入り、敵機が脱出艇から離れた場所で爆発する。

 

 小型艇そのものは、そのまま暗い宇宙へ向かっていった。

 

 ◇

 

 ソロモン司令部では、照明が何度も明滅していた。壁面の一部は停電し、戦況表示には通信途絶を示す赤い区画が増え続けている。

 

「第六宇宙港、応答ありません」

 

「第四進入口へ連邦のモビルスーツ部隊が侵入。外壁砲台の半数以上が沈黙しています」

 

「西側艦隊、再編不能。残存艦は独自に後退中」

 

 報告を聞きながら、ドズルは正面の表示を見ていた。防衛線は切られた。残っている兵を一か所へ集めても、連邦軍を押し返せる状態ではない。戦闘を続ければ、艦も兵も要塞の中で失われるだけだった。

 

「ソロモンを放棄する」

 

 司令部の空気が止まった。

 

「残存艦艇は脱出する兵を収容し、ア・バオア・クー方面へ後退。動けぬ艦は、周囲の兵を別の艦へ移せ。防衛部隊は退路を確保しろ」

 

「閣下は?」

 

「命令を伝えろ」

 

 ドズルはそれ以上答えず、司令部を出た。

 

 通路では、負傷兵と脱出要員が行き交っている。担架を運ぶ兵が壁際へ寄り、ドズルへ道を空けた。家族用区画には、すでに脱出の準備を終えたゼナがいた。腕には幼いミネバを抱いている。

 

「あなたも一緒に」

 

「俺が先に逃げれば、兵は持ち場を離れる」

 

 ゼナは何も言わず、ドズルを見た。

 

 遠くで爆発が起き、床が揺れる。ミネバが驚いて声を上げた。ドズルは大きな手を伸ばし、小さな頭へ触れた。

 

「この子を頼む」

 

「……分かりました」

 

 ゼナの返事は短かった。ドズルは警護兵へ向き直る。

 

「脱出艇まで送れ。何があっても守り抜け」

 

「はっ」

 

 ゼナは一度だけ振り返り、それからミネバを抱いたまま通路の先へ消えた。

 

 ドズルは反対方向へ歩き出した。向かう先は、格納区画だった。

 

 巨大な隔壁の向こうで、ビグ・ザムの起動準備が進んでいる。整備兵が足元を走り、管制員が最後の接続を外していた。

 

「出せるか」

 

「主機関、武装系ともに起動可能です」

 

「わかった」

 

 昇降機がドズルを上へ運ぶ。緑色の巨大な装甲が、格納庫の照明を遮っていた。

 

「残る者は、俺と来い。生きて帰りたい者は、今すぐ脱出しろ」

 

 誰も持ち場を離れなかった。ドズルはコックピットへ入り、正面の座席へ身体を収めた。

 

「ビグ・ザムを出す」

 

 主機関の音が、格納区画全体を震わせた。

 

 ◇

 

 第四進入口の奥で、隔壁が閉じた。

 

 先に入っていたジム部隊が足を止め、左右の通路へ展開する。俺とアムロは入口外側に残り、後続部隊の進入を守っていた。

 

『内部から大きな振動が来ています』

 

 セイラさんの声が入る。

 

『なんだこれ』

 

 カイの通信に、短い雑音が混じった。一号機のセンサーにも、新しい反応が出た。要塞内部。さっきまで点だった熱源が、急激に大きくなっている。モビルスーツ数機をまとめても届かない。

 

『全機警戒。要塞内部に大型熱源』

 

 ブライトさんの声が飛ぶ。

 

『突入部隊は進撃を停止。外部部隊は入口から距離を取れ』

 

 前方のジムが後退を始めた。閉じていた隔壁のさらに奥で、何かが動く。外壁を通して低い振動が一号機へ伝わった。

 

「来るぞ」

 

『何が?』

 

 アムロが聞く。

 

 答える前に、進入口の周囲へ亀裂が走った。

 

 内側から押し開かれるように装甲が歪み、巨大な隔壁が左右へ動き始める。内部の照明が漏れ、その奥に二本の太い脚が見えた。

 

 ジムよりも、ガンダムよりも遥かに大きい。上部の装甲が暗闇から現れ、複数の発光部が順番に灯っていく。

 

『大型機、進行を確認!』

 

 友軍の警告が重なった。俺は対艦刀を握り直した。

 

 ビグ・ザムが、ソロモンの奥から動き出した。

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