【完結】黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第91話 射線の内側

 ビグ・ザムの巨体が進入口を抜けた。

 

 脚部が外壁を離れると、胴体後方から強い噴射が伸びる。周囲を漂っていた装甲片が押し流され、退避中のジムが姿勢を崩した。

 

『進入口から離れろ! 大型機の進路を空けるんだ!』

 

 友軍の通信が重なる。先に要塞へ入っていた部隊も、追撃を中断して外へ出始めた。ビグ・ザムは近くのジムには構わず、連邦艦隊の厚い方向へ機体を向ける。

 

 正面の大型砲口に光が集まった。

 

「散れ!」

 

 一号機を外壁側へ振る。直後、ビグ・ザムから太い光が伸びた。射線上にいたジム二機が回避へ入る。間に合わなかった一機が腰から消え、その後ろのボールも砲身ごと爆発した。

 

 さらに奥でサラミスが艦首を振ったが、完全には外れない。光が艦体後部を貫き、推進器の一帯が吹き飛ぶ。近くの友軍艦が速度を落とし、動けなくなったサラミスの前へ砲口を揃えた。

 

『第十二戦隊、目標を大型機へ集中!』

 

 複数の艦からビームが走る。光はビグ・ザムの装甲へ届く前に歪み、機体の外側へ滑った。別方向から撃たれたビームも、表面を避けるように曲がって宇宙へ散っていく。

 

 やっぱり通らない。

 

『ビームが逸らされた?』

 

 アムロがガンダムを横へ流しながら撃つ。その一射も胴体の手前で軌道を変えた。

 

『遠距離のビームは駄目だ』

 

「うん。近づくしかない」

 

 アムロはそれだけ言い、ビーム・ライフルを下げた。

 

 ビグ・ザムの側面が光る。今度は一方向ではない。周囲へ広がった光が、艦列と接近中のMS隊を同時に襲った。ジムが一機、胸部を撃ち抜かれて爆発する。別の一機は回避の途中で腕を失い、その脇にいたボールが直撃を受けて消えた。

 

 後方の小隊も散開したが、光の束がその間を薙いだ。二機のジムが続けて反応を失い、残った機体が損傷機を押し出しながら射線外へ逃れる。別のボール隊は仲間が消えた空間を避け、左右へ広がりながら砲撃を続けている。

 

 実体弾は逸れない。砲弾がビグ・ザムの装甲へ当たり、いくつもの火花が散った。しかし、表面を削るだけで進路は変わらなかった。

 

『カイ、ハヤト。大型機へ実体弾を集中。ただし同じ位置に留まるな』

 

『言われなくても、あれの正面にはいたくないね!』

 

『右側へ回ります。カイさんは上を』

 

 二機のガンキャノンが離れていく。カイが胴体上部へ砲撃し、ビグ・ザムの姿勢をわずかに変えさせた。その先へハヤトの砲弾が入り、脚部基部の装甲で爆発する。壊れてはいない。だが、ビグ・ザムの砲口が二機を追った。

 

『撃ったら離れろ!』

 

 カイとハヤトが別方向へ噴射する。二機がいた空間を光が通過し、その後方にいたボール二機をまとめて飲み込んだ。片方は光の中で消え、もう片方は推進器を焼かれたまま回転して外へ流れていく。

 

『右外周からミサイルを入れます』

 

 セイラさんのコアブースターが、ビグ・ザムの進路を横切った。発射されたミサイルが胴体側面へ集中する。迎撃の光が二発を消したが、残りが装甲へ当たった。爆煙が広がり、その中でビグ・ザムがわずかに向きを変える。

 

 すぐにセイラさんは射線から離れた。

 

『後方の損傷機、ホワイトベース左舷側へ。正面を横切らないでください』

 

 クリスさんが帰還するジムとボールを誘導している。ビグ・ザムから外れた射撃がホワイトベースへ流れた。

 

『右舷下方から来ます』

 

『ミライ、左へ十度。主推進は使いすぎるな』

 

「分かってるわ」

 

 ホワイトベースが艦首を下げる。光が右舷の上を抜け、後方へ流れた。ジム・コマンドが破片の間へ入り込み、近づいていたガトルをビーム・ガンで撃ち落とす。

 

 ホワイトベースの近くでは、カイとハヤトが射線を散らし、セイラさんが外周を回り、クリスさんが帰還経路を空けている。

 

 だからまだ保っている。少し離れた主力艦隊側では、そうはいかなかった。

 

 ビグ・ザムは進撃を止めない。

 

 第四進入口から離れるほど、背後ではジオンの艦艇や脱出艇がソロモンを離れていく。ビグ・ザムの砲火に押され、連邦艦隊は追撃よりも正面の大型機へ対応せざるを得なくなっていた。

 

『主力艦隊より全隊。隊形を広げろ。大型機の正面射線を重ねるな』

 

 命令に合わせ、マゼランとサラミスが左右へ散る。護衛のジム隊も艦の間隔に合わせて移動し、ボールが破損した艦の周囲へ集まった。

 

 艦砲射撃が再開された。

 

 何本ものビームがビグ・ザムへ集中し、装甲の手前で四方へ散らされる。その間に実体弾とミサイルが撃ち込まれた。ビグ・ザムの表面で爆発が続く。それでも、中央の砲口に再び光が集まった。

 

『射線上の艦艇、退避!』

 

 大型砲が発射される。

 

 先頭のサラミスが急旋回し、光の中心を外した。だが、隣の艦は艦首から中央部まで貫かれ、そのまま二つに割れた。護衛についていたジム小隊が爆発を避けて散る。そこへビグ・ザムの側面砲が追い打ちをかけ、三機のうち二機が立て続けに撃ち抜かれた。

 

 残った一機は破片に機体をぶつけながらも離脱する。別のサラミスが損傷艦を庇う位置へ入り、主砲を撃ち続けた。ビームは届かず、その艦にも複数の光が向く。艦橋付近が焼かれ、艦は大きく傾いたまま戦列から外れていった。

 

 その後方に、ひときわ大きな反応があった。

 

 ティアンム提督の艦隊だ。周囲の護衛艦が砲撃を続け、旗艦も艦首を変えようとしている。直衛のジム隊がビグ・ザムへ接近し、ビームとバズーカを一斉に撃った。

 

 ビームは逸れた。

 

 バズーカの弾頭は装甲へ届いたが、次の瞬間、ビグ・ザムの周囲から広がった光が直衛部隊を切り裂いた。

 

 先頭のジムが胴体から消える。二機目は脚部を失い、三機目はシールドごと胸を撃ち抜かれた。

 

 旗艦が回頭する。

 

 その進路を予測したように、ビグ・ザムの大型砲口が動いた。

 

「まずい……!」

 

 距離がありすぎる。

 

 一号機を加速させても間に合わない。旗艦の前方へ護衛艦が二隻入り、砲撃を続ける。

 

 一隻目が光に貫かれて爆発する。二隻目も艦体側面を焼かれ、旗艦の進路から弾き出された。

 

 さらに奥へ、ビグ・ザムの射撃が伸びる。

 

 ティアンム提督の旗艦が光に包まれた。中央部で爆発が起こり、艦体の反応が大きく乱れた。後部が遅れて爆発し、レーダー上の識別信号が消える。

 

『旗艦、応答せよ!』

 

『司令部との通信途絶!』

 

『旗艦、反応消失!』

 

 艦隊通信が一気に混乱した。命令を求める声、損傷艦の報告、引き継ぎを宣言する艦長の声が重なる。その間にもビグ・ザムの側面から光が走り、退避しようとしていたボール隊を薙ぐ。四つ並んでいた反応のうち、三つが一度に消えた。

 

 近くのジムが残った一機を引きながら下がる。別の小隊はその前へ出て、実体弾を撃ちながら退路を守った。ビグ・ザムは撃沈した旗艦を見届けるように姿勢を変え、次の艦列へ砲口を向けた。

 

『各艦、勝手に隊形を崩すな! 現位置で指揮系統の回復を待て!』

 

 ブライトさんの声がホワイトベース隊へ飛ぶ。

 

『レン、アムロ。あの大型機を止めろ。カイとハヤトは二機を支援。セイラは外周から射線を散らせ。クリス中尉は損傷機を艦の正面から退避させろ』

 

「了解」

 

『行くよ、レン』

 

「うん」

 

 ビグ・ザムの前面には近づけない。

 

 大型砲が撃たれるたび、その延長上から艦艇もMSも消される。側面も安全ではなく、複数の砲口が接近する機体を追っている。けれど、全部の方向を同時には狙っていない。カイの砲撃が胴体上部へ当たる。ビグ・ザムが射線を上へ振ったところへ、ハヤトが脚部基部を狙った。砲弾が外部装甲を叩き、薄い破片が飛ぶ。

 

 アムロの二号機が逆側へ回った。

 

『こっちを向かせる』

 

「無理に近づきすぎるなよ」

 

『レンもね』

 

 二号機がビグ・ザムの正面寄りへ出て、ビーム・ライフルを撃つ。通らない攻撃でも、無視はされない。ビグ・ザムの砲口がアムロを追った。二号機は射撃の直前に軌道を変え、光の束を外へ流す。

 

 俺はビグ・ザムの胴体下面へ視線を移した。右脚の付け根近く。装甲から張り出した装置がある。

 

 たぶんあれがIフィールド発生器だ。

 

 友軍艦から放たれたビームが歪むたび、その周囲で淡い光が揺れている。位置は分かっている。あとは、そこまでどう入るかだ。

 

「アムロ、胴体の下。右脚の付け根にIフィールドの発生器がある」

 

『あれを壊せば、ビームが通る?』

 

「通るはずだ。俺が叩く。通ったら任せる」

 

『分かった。撃てる位置を取る』

 

 それ以上は必要なかった。

 

『カイさん、次の砲撃で上を向かせます』

 

『よし。俺は左を叩く。セイラ、右側から来られるか?』

 

『回り込みます』

 

 三方向から攻撃が重なる。

 

 ガンキャノンの砲弾が上部装甲へ当たり、コアブースターのミサイルが右側で爆発する。ビグ・ザムが迎撃火器を外へ振り、その隙にアムロが正面からさらに近づいた。

 

 大型砲口へ光が集まり始める。

 

『一号機、主砲の射線へ近づいています』

 

 クリスさんの警告が入った。

 

「見えてます」

 

『退避経路は左後方。残骸が増えています』

 

「了解」

 

 一号機を要塞外壁側へ滑らせる。砲撃で剥がれた大きな装甲板が、ビグ・ザムとの間を流れていた。噴射を止め、残骸と相対速度を合わせる。

 

 黒い機体を装甲板の陰へ隠したまま、慣性で進む。

 

 ビグ・ザムの主砲が発射された。太い光がアムロのいた場所を通過する。二号機は上方へ抜け、ビグ・ザムの砲口がその動きを追った。

 

 俺は装甲板の陰から一号機を離した。正面ではなく、胴体下側。

 

 迎撃の光が横を走る。細い一射をシールドの端で受け、すぐに機体を捻った。シールド表面が焼けるが、腕は動く。

 

 対艦刀の切っ先を、右脚基部のIフィールド発生器へ合わせる。

 

 巨大な緑色の装甲がモニターを埋めた。

 

 黒い一号機が、ビグ・ザムの射線の内側へ入った。

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