ビグ・ザムの装甲が視界いっぱいに迫る。
右脚基部の発生器まで、もう機体数機分もない。ビグ・ザムが姿勢を変え、巨大な脚部が一号機の進路へ振られた。回避すれば離される。俺は噴射を切り、装甲面へ沿うように一号機を沈めた。脚部が頭上を通り過ぎる。機体が押し出したガスと細かな破片がシールドへ当たり、乾いた警告音が重なった。
発生器はまだ正面にある。
『レン、右から来る!』
アムロの声と同時に、ビグ・ザムの側面砲口がこちらを向いた。正面から受けられる火力じゃない。一号機を装甲へ近づける。発射された光がすぐ横を通り、シールドの外縁を削った。熱警告が上がるが、腕は動く。
距離が詰まる。
対艦刀を両手で支え、一号機の機首を発生器へ向けた。ビグ・ザムがもう一度姿勢を変える。脚部基部が横へ逃げ、発生器も照準から外れかけた。
「逃がすかよ」
右側の姿勢制御を強く噴かす。一号機の機体が回り、対艦刀の先が張り出した装置へ重なった。肩と腰を固定し、残った速度をそのまま刀身へ乗せる。
対艦刀が発生器の外装へ突き刺さった。
衝撃が両腕から機体全体へ抜ける。右手首、肘、肩の負荷表示が一気に跳ね上がった。刀身は外装を割ったところで止まり、一号機がビグ・ザムの動きに引かれる。
離せば、もう一度入る隙はない。
主推進を短く噴かした。対艦刀がさらに奥へ食い込み、内部の配線と機器を押し潰す。装置の隙間から白い放電が走り、緑色の装甲を照らした。
ビグ・ザムが大きく向きを変える。
一号機が外側へ振り回される。腕だけで耐えず、腰と脚部の噴射を合わせて刀身を横へ引いた。発生器の外装が裂けた。内部から破片と冷却材が噴き出し、装置の半分が基部から剥がれる。対艦刀を通して、もう一度強い衝撃が返ってきた。
警告音が増える。
それでも刀は動いた。
「壊れろ!」
機体を逆へ噴かす。対艦刀が発生器の内部を裂きながら抜ける。直後、開いた装置の奥で爆発が起きた。一号機を外壁側へ逃がす。爆発した機器の破片がシールドへ当たり、機体が横へ回された。姿勢制御を入れ直しながら、ビグ・ザムとの距離を取る。
その向こうで、友軍艦から撃たれたビームが走った。今度は逸れなかった。光がビグ・ザムの胴体上部へ当たり、装甲表面を焼く。続けて別のビームも機体側面へ着弾した。
『通った!』
アムロはもう動いていた。
ビーム・ライフルを捨てるように手放し、ビームサーベルを抜いてビグ・ザムの下方へ入る。大型機の砲口が二号機を追おうとしたが、その側面へガンキャノンの砲弾が当たった。
『今なら近づけるぞ!』
カイの砲撃に続いて、別方向からハヤトの砲弾が脚部基部へ入る。
『接近中の二機から射線を外します。次は上部の砲口を狙います』
ハヤトが攻撃位置を変え、ビグ・ザムの視線を上へ向ける。セイラさんのコアブースターが反対側からミサイルを放った。爆発が側面を覆い、迎撃火器がそちらへ振られる。
二号機は煙と光の間を抜けた。ビグ・ザムの脚部がアムロを挟もうと動く。
だが、二号機は脚の間を真っすぐ進まない。片側の装甲へ沿って上昇し、胴体下面の継ぎ目へ回り込んだ。
ビームサーベルが緑色の装甲へ突き刺さる。
最初は刀身の半分ほどで止まった。
『まだだ!』
二号機が両腕でサーベルを押し込む。装甲が赤く焼け、継ぎ目が開く。アムロはサーベルを抜かず、そのまま機体を横へ振った。光の刃が装甲を切り裂き、内部へ入る。ビグ・ザムの砲撃が一瞬止まった。直後、機体内部で複数の熱源が跳ね上がる。
『アムロ、離れろ!』
二号機がビームサーベルを抜き、一号機とは反対側へ噴射した。ビグ・ザムの姿勢が崩れる。主推進の噴射が左右で揃わず、巨体がゆっくりと回り始めた。
止まった砲口の一つが再び光る。
狙いは二号機だった。
発射される直前、別方向から飛んできた砲弾が砲口へ命中した。光が内部で弾け、砲口の周囲が爆発する。
『最後まで撃つ気かよ!』
カイの声が荒い。
ビグ・ザムの内部では、爆発が続いている。それでも残った砲口が動き、連邦艦隊へ向こうとしていた。
『レン、左後方へ離れてください。そちらへ大型破片が流れます』
クリスさんの声が入る。指示された方向を見ると、ビグ・ザムの装甲板が基部から外れ、一号機の進路へ回り込もうとしていた。
「確認しました」
一号機を下へ逃がす。
大型装甲板がすぐ上を通過し、その後ろからリック・ドムが現れた。ビグ・ザムへ集中しているホワイトベースの側面へ回り込もうとしている。
『周辺のジム二機、私の左右へ。敵機を艦へ近づけないでください』
クリスさんがジム・コマンドを前へ出した。友軍ジムが左右へ広がり、リック・ドムの退路を塞ぐ。敵は中央のジム・コマンドへバズーカを向けた。クリスさんは発射前に機体を沈める。砲弾が頭上を通り、左側のジムがバズーカを撃った。リック・ドムが回避した先へ、ジム・コマンドのビーム・ガンが二射入る。
一射目がバズーカを持つ腕を飛ばし、二射目が胸部を貫いた。
敵機が爆発する。
『二機とも元の位置へ。破片が来ます』
クリスさんは撃破に留まらず、友軍機をホワイトベースの左右へ戻した。三機が広がり、近づいてくる破片へ射撃を始める。
ビグ・ザムから大きな装甲片が離れた。ジム二機が小さな破片を撃ち落とし、クリスさんは中央の大型片へ射撃を集中する。完全には砕けなかったが、進路がずれ、ホワイトベースの下方へ流れていった。
『右舷下方、通過します』
「見えているわ。艦首を上げる」
ミライさんがホワイトベースの姿勢を変える。艦体が破片の上を抜け、その間も主砲は残存するジオン機へ向けられていた。
俺は一号機の回転を止め、ビグ・ザムへ向き直る。二号機は巨体から距離を取っていた。
ビグ・ザムの中央部で、また爆発が起きる。内部の光が切り裂かれた装甲の隙間から漏れ、周囲の砲口が一つずつ沈黙していく。
これで終わる。そう思った時、機体上部のハッチが開いた。
小さな人影が外へ出る。ノーマルスーツ姿のドズルだった。ビグ・ザムと比べれば点にしか見えない。それでも携行火器を構え、近くにいた二号機へ撃ち続けている。
『まだ……戦うのか』
アムロの声が低くなる。ドズルの銃弾が二号機の装甲へ当たる。ガンダムを壊せるような火力ではない。だが、アムロはすぐには動かなかった。
『なんだ、この感じ……』
通信へ雑音が混じる。俺にも、短い圧迫感が届いた。
言葉じゃない。目の前の人間から、押し返されるような重さだけが伝わってくる。ビグ・ザムの巨体よりも、撃ち続ける一人の方が大きく見えるような感覚。
ドズルは退こうとしない。
「ジオンの栄光。この俺のプライド。やらせはせん、やらせはせんぞ!」
アムロは二号機を後ろへ下げる。ドズルを撃つためではない。ビグ・ザム内部の反応が限界まで上がっている。
「アムロ、離れろ!」
『分かってる!』
二号機が全力で噴射する。ドズルは最後まで銃を下ろさなかった。ビグ・ザムの内部で光が広がり、その姿を飲み込む。
最初に胴体側面が裂けた。圧力を失った推進剤と爆発ガスが噴き出し、巨体の回転が速くなる。続いて中央部が膨れ上がるように変形し、複数の装甲板が外へ弾けた。
『全機、大型MAから離れろ!』
ブライトさんの命令が飛ぶ。一号機の主推進を噴かす。
右腕から肩、腰まで負荷表示が残っている。冷却警告も消えない。それでも加速はできる。対艦刀の重さで機体が外へ流れようとする。姿勢制御を細かく入れ、左後方の退避経路へ向けた。
『レン、上方にも破片!』
セイラさんの声に反応し、一号機を横へ滑らせる。ビグ・ザムの脚部装甲が回転しながら通過した。シールドを前へ出し、その後ろから飛んできた細かな破片を受ける。
衝撃が続く。
シールド表面の焼けた部分がさらに削られたが、進路は維持できた。
アムロの二号機が右側から抜けてくる。
『レン、そっちは?』
「動ける。そっちは」
『大丈夫』
二機がビグ・ザムから離れる。後方で巨体の中央部が破裂した。
強い光がモニターを白く染める。機体が放出したガスと破片が周囲へ広がり、近くにいたジムとボールが姿勢を変えて退避する。ビグ・ザムの上部が脚部から離れ、回転しながら燃えていた。残っていた熱源が次々と消える。最後に中央部でもう一度爆発が起き、大型反応がレーダーから消えた。
『大型機の反応消失』
『撃破を確認!』
友軍通信に声が重なる。
歓声も聞こえた。
けれど、すぐに損傷艦からの救難信号が割り込む。行方の分からない小隊を呼ぶ声、推進器を失ったボールからの位置報告、指揮系統を確認する艦艇の通信が続いた。
『アムロ、レン、応答しろ』
ブライトさんの声が入る。
「一号機、戦闘継続可能です」
『二号機も大丈夫です』
『二機ともホワイトベース側へ戻れ。カイ、ハヤトは周辺警戒。セイラは損傷機の位置を確認。クリス中尉は帰還経路を維持してくれ』
『了解』
ビグ・ザムが消えた場所には、燃える破片だけが残っている。その向こうでは、ソロモンを離れる敵艦の反応がまだ動いていた。
『前方艦隊より入電。敵残存艦、後退を継続中。追撃部隊は再編後に前進せよ』
遠方で新しい光が生まれる。ビグ・ザムとの戦いは終わった。
だが、ソロモンから離れていく敵は、まだ止まっていなかった。
漢、散る。