前方艦隊の反応が動き始める。
ビグ・ザムの残骸を避け、まだ主推進を使えるサラミスとマゼランが撤退中のジオン艦隊へ艦首を向けていた。護衛のジムとボールも、損傷機を後方へ残して隊形を組み直している。
『追撃可能な艦は前進。損傷艦は救難部隊へ合流せよ。隊形を急ぐな』
ワッケイン司令からの命令が流れた。指揮系統はまだ完全には戻っていない。複数の艦から応答が重なり、その間にも救難信号が途切れずに入ってくる。
『ホワイトベースは周辺の損傷機を収容しながら前進する。アムロは前方警戒。レンは艦の近くに残れ』
「了解」
一号機の右腕に対艦刀の重さが残っている。冷却値も下がりきっていない。長距離を追うより、この場に集まった損傷機を守る方がいい。
アムロの二号機がホワイトベースから離れ、追撃部隊の後方へ向かった。手元にビーム・ライフルはない。シールドを前へ出し、もう片方の手はビームサーベルへ伸ばせる位置に置いている。
『左舷前方に損傷サラミス。進路が安定していません』
クリスさんの指示で、二機のジムがサラミスの左右へ付く。
『一番機は艦首側、二番機は推進部を確認してください。回転が始まったら無理に押さえないで』
『了解』
ジム・コマンドは少し後ろへ下がり、二機と損傷艦をまとめて見られる位置を取った。カイとハヤトのガンキャノンは、救難機が集まる空域の左右へ分かれている。セイラさんのコアブースターはさらに外側へ回り、撤退する敵艦と追撃部隊の間を監視していた。
『敵護衛部隊、後退を継続。ムサイ三、輸送艦二。MS反応多数』
撤退するジオン艦隊は、まとまって逃げているわけではない。損傷した艦を中央に置き、残ったムサイとリック・ドムがその周囲を守っていた。先行するサラミスが主砲を撃つ。ジオン側の護衛機が散り、ムサイが艦首を下げて射線を外した。
連邦の追撃隊が速度を上げる。その進行方向に、一機のMS反応が戻ってきた。撤退艦隊から離れ、こちらへ向かってくる。
「一機だけ?」
『反応は一機のみ。ドム型です』
セイラさんの報告に合わせ、望遠表示を切り替える。
通常の黒紫色ではない。青を基調としたリック・ドムが、大型の砲身を抱えていた。
青いリック・ドム。大型ビーム・バズーカ。
青いリック・ドム……アナベル・ガトー!?
「前方艦隊、射線を開けて! 大型ビーム兵器を持ってる!」
俺の通信と、青い機体の射撃はほとんど同時だった。
ビーム・バズーカから太い光が伸びる。
追撃先頭のサラミスが補助噴射を使い、艦首を振った。直撃は外したが、光は艦体後部を貫き、主推進器の半分を焼き飛ばす。
推力の偏ったサラミスが回転を始めた。
『後続艦、進路変更!』
すぐ後ろにいた別のサラミスが艦首を上げる。だが、回転する損傷艦と飛び散った装甲片が進路を塞ぎ、速度を落とさざるを得ない。
青いリック・ドムは、最初の射撃位置には残っていなかった。噴射を切って残骸の流れへ入り、艦砲の射線が集まる前に側面へ移っている。
『ジム隊、左右から挟め!』
四機のジムが二手に分かれた。中央からボール隊が砲撃を加え、逃げ道を狭める。青い機体がビーム・バズーカを左側のジム隊へ向けた。
二機が散開する。しかし狙いはジムではなかった。
光はその奥のサラミス艦首を貫き、主砲塔と艦橋周辺をまとめて吹き飛ばした。指揮を失った艦が推力を落とし、護衛のジムが救助へ向きを変える。そこへ青い機体が加速した。ジム一機の射撃を機体の下へ流し、すれ違いざまに砲身を振る。短いビームがジムの胸部を貫いた。もう一機が背後からビームを撃つ。
青いリック・ドムは姿勢を反転させ、機体を後方へ滑らせながら射線を外した。大型砲身が再び光る。ボール二機が左右へ避ける。光は二機の間を通り、その後ろで追撃隊形を整えようとしていたボール小隊へ入った。先頭の一機が消え、隣の機体も砲身と右側推進器を失う。残ったボールが損傷機を引きながら下がった。
追ってこない。その間に位置を変え、次の追撃艦へ砲口を向けている。撃破する相手を選んでいる。先頭を止め、後続に救助を強制し、艦列を広げさせない。
『追撃隊、無理に前へ出るな! 射線を重ねろ!』
連邦側も対応を変えた。二隻のサラミスが距離を開き、青い機体を左右から挟む。残ったジム隊は艦の正面へ出ず、ビーム・バズーカを撃った後の移動先へ射撃を置く。ボールの砲弾が青いリック・ドムの周囲で弾けた。
一発が肩装甲をかすめる。それでも機体は止まらない。ガトーは艦砲射線の隙間を抜け、右側のサラミスへ向きを変えた。
『また撃つ!』
セイラさんの声。砲口の先には、推進部を損傷したサラミスと、その周囲で救難を行うジムがいた。
「ミライさん、艦首を下へ! 射線がこっちまで伸びる!」
「了解。右舷下方へ移るわ」
ホワイトベースが姿勢を変える。
俺は損傷サラミスの前へ出ようとしているジムへ通信を飛ばした。
「正面へ入るな! 艦を上へ逃がして!」
『しかし、推進器が――』
『一番機は艦首を押してください。二番機は右舷側へ。回転させて射線から外します』
クリスさんがすぐに引き継いだ。二機のジムが損傷艦の前後へ分かれ、無理に停止させず艦首の向きだけを変える。ジム・コマンドはビーム・ガンを構え、近づいてきたザク二機を迎撃した。
一機目を正面から撃ち抜き、二機目には右側のジムが射撃する。
『艦の回頭を継続。射撃後は左へ離れてください』
損傷サラミスがゆっくりと向きを変える。
ビーム・バズーカが発射された。光が艦尾をかすめ、残っていた主推進器の外側を焼いた。完全な直撃は避けたが、サラミスは追撃どころか自力航行も難しくなる。
その射撃で、青いリック・ドムの位置が止まった。
アムロが動く。
二号機は追撃艦の残骸を挟み、ガトーの正面へ出ない角度から近づいていた。青い機体の砲口がそちらへ向く前に噴射を切り、慣性だけで距離を詰める。
『あの青い機体、僕が止める』
『アムロ、無理に追うな。艦への攻撃を止めればいい』
『分かっています』
ブライトさんの命令に、アムロは短く答えた。
青いリック・ドムが二号機を捉える。大型砲身が動いた瞬間、アムロはシールドを前に出すのではなく、機体を下へ落とした。太い光が二号機の頭上を通過する。すぐにガトーが砲口を振る。次の射線へ入る前に、アムロは残骸の陰へ滑り込んだ。
青い機体は追わず、別の追撃艦へ向き直ろうとする。二号機が残骸の下から飛び出した。頭部バルカンがビーム・バズーカの砲身周辺へ集中する。装甲を破れる火力ではないが、ガトーは照準を外し、機体を後方へ流した。
アムロがビームサーベルを抜く。ガトーは砲身を下げ、背部からヒート・サーベルを取り出した。
二機が接近する。
青いリック・ドムが先に刃を振った。二号機はシールドで受け止めず、機体を横へ回して熱刃の外側へ抜ける。アムロのビームサーベルが青い肩装甲をかすめた。
装甲表面が赤く焼け、細い破片が飛ぶ。離れながらヒート・サーベルを返した。刃が二号機のシールド外縁を削り、欠けた部分が回転しながら離れていく。
二機が距離を取る。
青いリック・ドムは大型の機体とは思えない速さで姿勢を戻した。ビーム・バズーカを片手で支え、アムロの接近方向へ向ける。
『撃たせない!』
二号機が再加速する。アムロへ一射するように見せ、砲口をわずかに外へ振った。
光が二号機の横を抜ける。その先で、アムロを援護しようと近づいていたジムの脚部が消えた。機体は爆発せず、推進を失ったまま回転する。
『救助に回る!』
近くのボールが損傷ジムへ向かう。その隙に距離を開いた。
アムロは追う。
だが、青い機体は撤退艦隊へ一直線には戻らない。連邦追撃部隊の進行方向を横切り、二号機を艦列から外側へ引き離していく。
アムロもそれに気づいた。
『逃げてるんじゃない。僕を艦隊から離してる』
相手の目的は、ガンダムを倒すことじゃない。追撃する艦艇から、一番危険な機体を遠ざけることだ。撤退中のムサイと輸送艦は、すでに大きく距離を開いている。
『第二撤退群、航路へ入りました! ガトー大尉、後退してください!』
傍受したジオンの通信が入る。
ガトー大尉。
やっぱりアナベル・ガトー。
青いリック・ドムが二号機へ向き直り、最後の一射を放つ。
アムロは光の中心から機体を外した。ビームは近くを漂っていた大型残骸へ当たり、装甲板と内部材が四方へ散る。二号機が破片を避けた一瞬に、ガトーは主推進を全開にした。
『待て!』
アムロが追おうとする。
『二号機、追撃を中止しろ。前方部隊は救難と再編を優先する』
ブライトからの命令が飛んだ。
追撃先頭にいた艦艇は、一隻が主推進を失い、一隻が艦橋周辺を破壊され、もう一隻も追撃不能になっている。ジムとボールも救難へ回り、最初の隊形は残っていなかった。
アムロはしばらく青い機体を追う姿勢を崩さなかった。それでも、やがて二号機の噴射が弱まる。
『……了解』
青いリック・ドムは、撤退するジオン艦隊の方向へ消えていった。
『一号機、前方の損傷ジムを回収経路へ誘導してくれ』
「了解」
一号機を回転するジムへ向ける。右腕の負荷表示を確認し、対艦刀は振らずにビームライフルを構えた。
損傷機へ近づこうとしていたリック・ドムへ二射する。一発目がバズーカを持つ腕を飛ばし、二発目が胴体へ入った。敵機が爆発する前に、一号機を損傷ジムの側へ滑らせる。
「そっち、動けるか」
『脚だけです。姿勢制御は残っています』
「ホワイトベースの左舷側へ。クリス中尉の誘導に入って」
『了解』
『こちらで引き継ぎます。一号機は右側を警戒してください』
クリスさんのジム・コマンドが損傷機へ向かう。周囲のジム二機も救難経路の左右へ広がり、残った敵機を警戒していた。アムロの二号機が戻ってくる。シールドの外縁が削れ、肩装甲にも細かな傷が増えている。それでも機体は動いていた。
ガトーが止めた追撃航路には、撃沈艦の残骸と、救難を待つ機体が残っている。
連邦軍はソロモンを落とした。
だが、その勝利の後ろで、青い一機が撤退する艦隊の時間を奪い返していた。
アムロがビグザム戦でビームライフル投げ捨てるから・・・