黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第95話 分けられた戦場

 消えた反応を追っていた先行サラミスの前方で、暗礁の一角が光った。残骸の間を抜けたビームが艦首付近をかすめ、その直後には別方向からも火線が伸びる。

 

『敵襲! コロニー外周、方位三四――』

 

 報告が終わるより先に、岩塊とコロニー残骸の陰から複数のジオン艦が姿を現した。その前方では、リック・ドムが散開しながら加速している。

 

 待ち伏せだ。

 

『総員、戦闘配置!』

 

 ブライトさんの声が艦内へ響き、格納庫の固定具が外された。一号機の足元から発進デッキまで誘導灯が点灯する。

 

『MS隊、出撃準備完了』

 

 共通回線へクリスさんの声が入った。

 

『アムロはコロニー側。レンは艦隊正面。カイとハヤトは左右に分かれてホワイトベースへの接近を止めてください。セイラは外周の索敵を。私は中央に出ます』

 

 短い返事が重なる。

 

『担当を越えて追いすぎないように。あとは各機の判断で』

 

「了解」

 

 一号機をカタパルトへ進める。正面モニターの先では、先に出た二号機が白い光を引いて暗礁へ向かっていた。

 

『レン・イズミ。一号機、出ます』

 

 カタパルトに押し出された瞬間、コロニー外周の戦場が広がった。敵艦は岩塊の陰から砲撃し、連邦の追跡部隊が反撃する前に船体を遮蔽物へ戻している。その隙間を、リック・ドムが高速で抜けてきた。

 

 狙われているのはホワイトベースだけじゃない。追跡部隊全体を狭い空域へ押し込み、白と黒のガンダムを艦隊から引き離そうとしている。

 

『敵MS、正面に四。コロニー側に三機』

 

 セイラさんの報告を聞きながら、一号機を正面の四機へ向ける。

 

 右舷側では、カイのガンキャノンが岩塊の端から砲撃を始めていた。狙っているのは艦そのものより、敵艦が砲撃に使っている空間だ。砲弾が周囲の残骸を砕き、広がった破片を避けるために艦が回頭する。露出した艦首砲塔の基部へビーム・ライフルが命中し、砲塔一基が沈黙した。

 

 敵艦の火力が消えたわけではない。それでも同じ位置、同じ角度から狙い続けることはできなくなった。その側面へ回ろうとしたリック・ドムを、ハヤト機の砲撃が押し戻す。

 

 俺の正面へ来た四機は、二機ずつ左右へ分かれた。一方が一号機を引きつけ、もう一方がホワイトベースへ回り込もうとしている。ビーム・ライフルを構え、外側へ抜けようとする一機へ撃つ。リック・ドムは噴射を切り替えて岩塊の陰へ滑り込んだ。その隙に、もう一機がバズーカを向けながら距離を詰めてくる。

 

 一号機を回転させて射線を外す。弾頭がシールドの縁をかすめ、背後の残骸へ突き刺さった。広がった破片に紛れ、リック・ドムがヒート・サーベルを抜いて接近する。対艦刀を背部支持具から外した。大きく振り回さず、相手の進行方向へ刃を置く。直前で軌道を変えようとしたリック・ドムの肩へ刀身が食い込み、装甲と腕をまとめて切り落とした。

 

 姿勢を崩した機体へ左手のビーム・ライフルを撃つ。胴体を貫いた光を確認し、爆発から離れながら残る三機を探した。一機はハヤトが抑えている。もう一機は、中央に出たクリスさんのジム・コマンドへ向かっていた。

 

「クリスさん、右から一機!」

 

『確認しています』

 

 クリスさんは後退せず、リック・ドムの進路へ斜めに入った。ジム・コマンドのビーム・ガンが二度光り、一発がバズーカの砲身を焼き、もう一発が肩の関節へ当たる。武器を失ったリック・ドムが進路を変えた先には、すでにハヤトのガンキャノンがいた。砲弾に逃げ道を塞がれ、岩塊から離れたところへビーム・ライフルが命中する。

 

『撃破しました!』

 

『そのまま左舷側を維持してください』

 

 クリスさんの指示はそれだけだった。

 

 俺も残る敵を追わず、ホワイトベースとの間へ一号機を戻す。ここから敵艦へ突っ込めば、目の前の砲撃は減らせるかもしれない。だが暗礁の奥まで入り込めば、空いた空域を敵MSに通される。

 

 コロニー側では、アムロが三機のリック・ドムを相手にしていた。二号機はビーム・ライフルを連射せず、敵が岩塊から出る瞬間だけを狙っている。

 

 一機が撃ち抜かれ、残る二機が左右へ散った。アムロは逃げる方を追わず、コロニー入口へ向かおうとした機体を優先する。ビームサーベルを抜き、リック・ドムのヒート・サーベルをシールドで外すと、すれ違いざまに胴体を斬った。

 

 最後の一機はコロニーの陰へ逃げた。二号機は追わず、入口の前で機体を止める。

 

『コロニー側、いったん抑えた』

 

『了解』

 

 クリスさんが返した直後、セイラさんの声が割り込んだ。

 

『外周側に新しい艦艇反応。ホワイトベースの左舷後方へ回り込んでいます』

 

 俺たちが正面の敵を押したことで、暗礁の奥に隠れていた艦が動き始めた。同時に、コロニー側からリック・ドムとは違うMS反応が現れる。

 

 細身の機体。白と青の装甲。左腕には丸いシールド、右手にはビームサーベル。

 

 ギャン。

 

『アムロ、新型機です』

 

『見えてる』

 

 ギャンのシールドから小型ミサイルが連続して放たれた。二号機はシールドで受けず、噴射を切り替えて射線から外れる。ミサイルは二号機を追わず、そのまま背後の岩塊へ突き刺さった。

 

「アムロ、離れろ!」

 

 叫んだ直後、岩塊が内側から爆発した。仕掛けられていた爆薬が連鎖し、破片がコロニー入口の周辺へ広がる。

 

 二号機は爆発より先に加速していた。破片の間を抜けながらギャンへビーム・ライフルを撃つ。ギャンはシールドで受けず、機体をひねって光を避け、そのままビームサーベルを振った。二号機のシールドと刃が接触し、白い火花が散る。ギャンは一撃を交わしただけで距離を取り、コロニー入口へ下がった。

 

 露骨な誘いだ。アムロも追わず、入口の外側でギャンを見ている。

 

『あの機体、僕を中へ入れたいんだ』

 

『そのようですね』

 

 クリスさんが答える。その間にも、外周へ回り込んだ敵艦がホワイトベースへ射線を作ろうとしていた。ミライさんが艦を回頭させ、岩塊と残骸の隙間へ船体を滑り込ませる。ビームが艦首をかすめ、右舷側の装甲が弾けた。

 

『被弾! 右舷第二装甲区画!』

 

『隔壁閉鎖、消火班を回せ!』

 

 ブライトさんの声が飛ぶ。

 

 敵艦とリック・ドム隊が同時に動き、ホワイトベースの正面と左舷後方を挟もうとしている。俺がコロニー側へ向かえば、外周の戦線が崩れる。

 

『レンは外周を維持してください』

 

「了解」

 

 一号機を回り込んでくる敵艦へ向ける。ビーム・ライフルで艦首砲塔の周辺を狙い、敵艦に回避と回頭を強いる。こちらを無視してホワイトベースだけを撃てなくなれば、それでいい。

 

 先頭艦が射線を変えようとしたところへ接近し、その前へ出ようとしたリック・ドムへ対艦刀を向ける。敵が距離を取った隙に艦尾側へ回り込み、姿勢制御用の噴射口へビーム・ライフルを撃ち込んだ。

 

 噴射の一部を失った敵艦は、暗礁内で回頭を続けられなくなった。修正噴射を繰り返す船体が後続艦の進路へ入り、艦隊の射線が重なる。

 

『敵艦隊、隊形が崩れます』

 

 セイラさんの報告に合わせ、カイが砲撃を加えた。先頭艦の後方へ砲弾が落ち、巻き込まれるのを避けた後続艦が左右へ散る。ハヤトはコロニー側から外周へ抜けようとしたリック・ドムを迎撃している。クリスさんも中央で接近してくる機体を抑え、空いた場所だけを短い指示で埋めていた。

 

 ギャンが、再びコロニー入口から姿を見せた。シールドから放たれたミサイルの一部が二号機を越え、ホワイトベース側へ向かう。アムロはその射線へ入り、ビーム・ライフルでミサイルを撃ち落とした。

 

 その間にギャンはまた入口へ退く。放置すれば、あの機体は何度でも外へ出てきて側面を狙う。かといって、白黒二機で追えば外周が崩れる。

 

『アムロはコロニーの敵機を追ってください』

 

 クリスさんが言った。

 

『いいんですか?』

 

『レンは外周から動かせません。カイとハヤトはホワイトベース前面を維持。セイラは二号機との通信を中継してください』

 

 戦場が分かれる局面で、初めて全体への指示が入った。

 

『了解』

 

「アムロ」

 

『外は頼む』

 

 二号機が加速する。ギャンがコロニーの港湾部へ入り、白い二号機も破壊されたゲートの隙間を通って内部へ消えた。センサー上の二つの反応がコロニー外壁へ重なり、急速に弱くなる。

 

『二号機、通信状態は?』

 

『まだ聞こえてる』

 

 ノイズの混じった声が返る。

 

 俺は一号機を反転させ、ホワイトベースとコロニー入口の間へ機体を入れた。対艦刀を右手に構え、左手のビーム・ライフルを外周の敵艦へ向ける。

 

 背後のコロニーから、アムロの通信が遠ざかっていく。

 

 正面では、隊形を崩されたジオン艦隊が新しい射線を作ろうと動き始めていた。

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