隊形を崩されたジオン艦隊は、そのまま後退する気はなかった。先頭のムサイが修正噴射を繰り返し、その船体を盾にしていた後続艦が左右へ開こうとしている。リック・ドムも残骸の陰を移動し、ホワイトベースへ新しい進入路を作り始めていた。
俺はコロニー入口を背にしたまま、ビーム・ライフルを先頭艦へ向けた。艦首砲塔の周囲へ二射。直撃を避けたムサイが船体を傾け、その動きに後続艦も引きずられる。そこへ連邦側のサラミスが砲撃を加え、一度作り直されかけた射線をまた崩した。右からリック・ドムが二機接近してくる。一機がバズーカを撃ちながら距離を詰め、その後ろでもう一機がホワイトベースの左舷側へ回り込もうとしていた。俺を敵艦の前から引き離し、空いたところを後ろの機体が抜けるつもりらしい。
一号機を最初の砲弾から外し、対艦刀を構えた。前へ出たリック・ドムは近接戦へ入る直前で噴射を切り替え、後方の機体がバズーカを向ける。俺は前の機体を後ろの射線へ重ねるように、一号機を横へ滑らせた。後方のリック・ドムが射撃を止め、バズーカを外側へ振る。その一瞬に間合いを詰め、対艦刀を横へ滑らせた。前の機体は上体を引いて刃を避けたが、背部推進器が刀身に触れ、片側の噴射を失って姿勢を崩す。
入れ替わるように、後ろの機体が横から飛び込んできた。俺はシールドでバズーカの砲身を押し上げ、至近距離からビーム・ライフルを撃つ。光が胸部を貫き、リック・ドムが爆発した。推進器を切られたもう一機は、ハヤトのガンキャノンが作った火線を避けながら暗礁の奥へ下がっていく。追う必要はない。俺がコロニー入口とホワイトベースの間を離れるのを待っている敵は、あの二機だけではなかった。
右舷側では、カイが敵艦の前方へ砲弾を送り続けていた。回避した艦が別の艦の進路へ入り、空いた射線へ連邦艦のビームが通る。
クリスさんのジム・コマンドは、その間を抜けようとするリック・ドムを中央で止めていた。敵がホワイトベースへ機首を向けるまで撃たず、ビーム・ガンの射程へ入ったところで武装部と関節を狙う。戦線へ押し戻す動きだった。
『左舷側、敵MSが増えます』
セイラさんのコアブースターが暗礁の外縁を回り、隠れていた敵の位置を拾っていた。
『ハヤトは左舷側へ。カイは今の位置を維持してください』
『了解』
『こっちはそのままか。楽でいいねえ』
カイさんが答えた直後、ホワイトベースの主砲が発射された。ミライさんが岩塊の隙間へ艦首を合わせ、メガ粒子砲が敵艦の進路を横切る。直撃を避けた二隻が外側へ開き、包囲しようとしていた艦隊の間隔が広がった。
俺はその空いた場所へ一号機を入れた。敵艦の前へ出すぎれば集中砲火を受け、離れれば艦隊がまた射線を作る。その境目を移動しながら、こちらを向いた砲塔と回頭に使う噴射口へビーム・ライフルを撃ち込んでいく。対艦刀を握る右腕がさっきより少し重い。それでも操作に遅れはなかった。俺達が動けている間は、敵艦隊もコロニーへ近づけない。
届くアムロの通信は、次第にノイズへ埋もれ始めていた。
◇
テキサスコロニー内部へ入った二号機は、港湾区画を抜けて内壁側へ降りていた。人工重力の残る区域へ近づくにつれ、機体が地表側へ引かれていく。アムロは姿勢を直し、崩れた道路と建物跡の間へ着地した。
かつて観光と牧畜に使われていた場所らしい照明の半分は消え、遠くに並ぶ建物も窓を暗くしている。乾いた地面には放置された車両と瓦礫が散らばり、その先の岩場へ敵機の反応が消えていた。
『二号機、聞こえますか』
「聞こえてます。中は人工重力が残ってる」
『無理に深く入らないでください』
「分かってます」
通信には外からのノイズが混じっている。それでも、あの機体を放置することはできなかった。コロニーの出口から外周へ戻られれば、ホワイトベースは再び側面を取られる。
岩場へ近づいた瞬間、地面の一部が光った。ガンダムは横へ跳び、直後に埋められていた爆弾が起爆する。岩と土砂が吹き上がり、着地しようとした先にも別の反応が現れた。
アムロは機体を止めず、ビーム・ライフルを地面へ撃った。隠されていた爆弾が先に爆発し、二号機はその外側を通り抜ける。正面の岩陰からミサイルが飛び、シールドで受けた直後には左側の斜面が崩れ始めた。
岩塊が進路を塞ぎ、その右側からギャンが現れる。振り下ろされたビームサーベルを二号機がシールドで受けると、ギャンは押し切ろうとせず、接触した瞬間に刃を引いて側面へ回った。丸いシールドから小型ミサイルが放たれ肩と脚を狙う。
アムロは地面を蹴って後方へ跳んだ。ミサイルが足元で爆発し、砂と破片がモニターを覆う。
『罠と分かっていながら、よく入ってきたものだな。ガンダム』
「外へ出すわけにはいかない」
『自ら不利な場所へ入ることを勇気とは言わん。このギャンで仕留めてくれよう』
砂煙の中からギャンが突進してきた。ビーム・ライフルを撃つが、ギャンはシールドを傾けながら射線を外れ、距離を詰める。サーベルの切っ先がガンダムの肩装甲をかすめた。
ビームサーベルを抜き、二本の刃が連続してぶつかる。ギャンは細身の機体を生かし、ガンダムの正面から外れながら突きを繰り返した。シールドも防御だけではなく、距離が開くたびにミサイルを撃ち出してくる。
アムロが一歩踏み込むと、ギャンは岩場の奥へ下がった。追った先の建物から複数の爆発反応が立ち上がり、左右の壁が崩れ始める。ガンダムは後退せず、ビームサーベルで正面の柱を斬り、倒れかけた構造物を押し抜けた。
背後で建物が崩壊し、戻る道を塞いだ。その先にはギャンが待っている。ミサイル・シールドが開き、残っていた弾が一斉に放たれた。アムロはシールドを投げ、飛来したミサイルをまとめて受けさせる。爆発が両機の間を覆い、ガンダムは爆煙の左側へ回った。
だが、ギャンも動きを読んでいた。ギャンのビームサーベルが煙を裂き胸部へ突き出される。アムロは機体をひねったが、切っ先が脇腹の装甲を削った。
アムロの反撃は届かない。ギャンは一撃を取ると、すぐに距離を外した。
『このギャンを、ただの罠の道具と思ったか』
「違う」
罠だけではない。こちらが危険を察知して動く方向まで考えている。爆発で進路を作り、そこへギャンの攻撃を合わせていた。ガンダムがビーム・ライフルを構え直した時、コロニー上方から別のビームが走った。アムロは直感で機体を退かせる。光は正面を横切り、背後の岩壁へ突き刺さった。
斜面の上に、赤いMSが立っていた。丸みを持った装甲に、ビーム・ライフルと長い柄の武装。機体の形は違っても、その動きには見覚えがある。
「シャア……!」
『ガンダム。ここで会ったのも縁というものだな』
赤いMSが斜面を蹴り、ビーム・ライフルを連射しながら降りてきた。アムロも撃ち返す。互いのビームが岩場と廃墟を走り、ガンダムとゲルググは障害物の間を縫いながら距離を詰めた。ゲルググが長い柄を振ると、両端から光の刃が伸びる。二号機のサーベルとビーム・ナギナタがぶつかり、衝撃で両機が離れた。シャアはそのまま踏み込み、二撃目を肩口へ振り下ろす。
アムロは刃を受け流し、至近距離からビーム・ライフルを撃った。ゲルググは機体を沈めて光をかわし、ナギナタを跳ね上げ切り払う。避けた勢いでガンダムのライフルが腕から外れ地面を転がった。
『シャア! 引けーーい!!』
声が割り込んだ。
『マ・クベ大佐。私が来なければ今のでやられていたかもしれんぞ』
『私なりの戦い方があるからこそ、ガンダムを引き込んだのだ!』
短い沈黙の後、ゲルググがナギナタを引いた。
『そこまで言うのなら、任せよう』
シャアは完全には去らず、岩場の高い位置へ機体を移した。赤いゲルググが距離を取るのを見て、ギャンが再び前へ出る。
アムロは転がったビーム・ライフルを拾おうとした。だが、銃身は落ちた衝撃で折れ曲がっていた、残された武器はビームサーベルだけだった。
『これで射撃武器は使えまい。ここからがギャンの戦いだ』
マ・クベが距離を詰める。ギャンの突きは速く、ガンダムがかわした先へシールドが回り込む。残った小型弾が至近距離で爆発し、左腕装甲が弾けた。
アムロは後退しながら攻撃を受け流す。マ・クベは罠を使った後、必ず自分が攻めやすい側から入ってくる。こちらの逃げ道を決められる代わりに、ギャン自身が来る方向も限られていた。
二号機は地面に残っていた爆弾の位置へ目を向けた。ギャンが左側から回り込もうとした瞬間、腰部のビーム・サーベルを投げる。光の刃が爆弾へ突き刺さり、予定されていなかった方向から爆風と土砂が吹き上がった。
ギャンの姿勢がわずかに崩れる。ガンダムはその中へ踏み込み、左腕でミサイル・シールドを押さえた。内部に残っていた弾が爆発し、二号機の装甲とギャンのシールドをまとめて吹き飛ばす。
アムロは離れなかった。右手のビームサーベルが、ギャンのシールドを基部から斬り落とす。マ・クベは機体を後退させながら、残ったサーベルを振った。二号機の右肩を狙った一撃を、アムロは自分の刃で外側へ受け流す。二本の光が離れ、互いの機体が数歩分の距離を取った。
ギャンが最後の突進に入った。細身の機体が正面から迫り、ビームサーベルの切っ先がガンダムのコックピットへ伸びる。アムロには、その軌道が見えていた。二号機をわずかに沈めて突きを頭上へ通し、すれ違う直前にビームサーベルを振り抜く。白と青の装甲を、光の刃が横に走った。
ギャンは数歩進んだところで止まった。
『おお……ウラガン、あの壺をキシリア様に届けてくれよ……あれは、いい物だ……!』
途切れた声の後、機体の胴体から光が漏れた。アムロは二号機を後退させる。次の瞬間、ギャンが爆発し、岩場と廃墟を白い光が照らした。炎が収まっても、アムロはすぐには動かなかった。ギャンの反応は完全に消えている。
『それ見たことか! 付け焼刃に何ができると言うか!』
少し離れた岩場には、赤いゲルググが立っていた。
◇
敵艦隊の動きが乱れ始める。後退する艦と砲撃を続ける艦が混ざり、リック・ドム隊も混乱しているのが伝わる。
『戦線を維持してください。敵艦をコロニー側へ戻さなければ十分です』
クリスさんは追撃を命じなかった。俺は先頭のムサイへビーム・ライフルを向けたまま、後退する艦隊との距離を保つ。カイさんとハヤトも前へ出ず、セイラさんは敵艦の位置を追い、クリスさんは中央に残ったリック・ドムをホワイトベースから遠ざけていた。
火線が減り、敵艦は護衛機を回収しながら暗礁の外側へ進路を変えていく。
それでも、コロニー内部からアムロはまだ出てこなかった。